アラフィー女性に読んで欲しい「2021夏の文芸エクラ大賞」

読書の魅力を発信し、本を手にとる機会を増やしたい」との思いから始まった文芸エクラ大賞も今年で4回目。新型コロナ感染症の流行が続いているが、本の世界ではその影響を受けたものがさまざまなかたちで登場。一方で、現実を離れて浸れる小説や旅の気分を味わえる本も人気で、「どこへでも連れていってくれる本の可能性を再発見!」との声が高まった。自分のペースでできる読書は、身近で奥の深い楽しみ。ぜひあなたの暮らしの一部にしてほしい。

 

文芸エクラ大賞とは?

私たちはさまざまなことを本から学んだ世代。読書離れが叫ばれて久しいとはいえ、本への信頼度が高いという実感がある。エクラではそんな皆さんにふさわしい本を選んで、改めて読書の喜びと力を感じていただきたいという思いから、この賞を創設。’19年6月~’20年5月の1年間に刊行された文芸作品から、エクラ書評班が厳選する「大賞」、ほかにも注目したい「特別賞」、そして本の現場にいる女性書店員がイチ押しする「書店員賞」の3賞を選定。選考基準は、エクラ読者に切実に響き、ぜひ今読んでほしいと本音でおすすめできる本。きっと、あなたの明日のヒントになる本が見つかるはず!

教えてくれた人…
斎藤美奈子さん

斎藤美奈子さん

さいとう みなこ●’56年、新潟県生まれ。本誌連載「オトナの文藝部」でも人気の文芸評論家。’94年に『妊娠小説』でデビュー。『文章読本さん江』『日本の同時代小説』など著書多数。8月末に『中古典のすすめ』を刊行予定。

【目次】

2021年夏の文芸エクラ大賞

①時代が見えてくる「旬の本」

②2021年「文芸エクラ大賞」大賞発表!

過去の夏の文芸エクラ大賞

③2020年

④2019年

⑤2018年

 
①時代が見えてくる「旬の本」

「コロナの流行が始まって約1年半ですが、去年の今ごろは“得体の知れない感染症が怖い、前例は?”という心理が働いて、カミュの『ペスト』がリバイバルヒット。でも最近は、終息は見えないもののワクチン接種が進んで、みんなの気持ちが少しずつ変化。売れる本も変わってきました」と斎藤さんは語る。

「この一年の特徴は子供に関する本が売れたこと。小説では傷ついたティーンや子供を描いたものが、ノンフィクションでは子供向け自己啓発書がランキング上位に。困難な現実に向き合っている大人たちが、次世代を担う子供たちを心配している気がします」

コロナ禍は医療や経済をはじめ、生活すべてに大きなダメージを与えたが、現実を見つめつつその先を探ろうとする本も目立った。

「コロナ禍で弱者にしわ寄せがいき、社会の矛盾点が浮き彫りになった。それがいろいろなかたちで本の世界に表れていますね」

【トピック1】ヒット小説に共通するのは「傷ついたティーン」

加藤シゲアキさんの『オルタネート』、宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』など、今年は10代を主人公にした小説がヒット。「芥川賞受賞作『推し、燃ゆ』の女子高生にとって“推し”は人生。その切実さは傷ついた心とつながっていて、大人が読むとたじろぎますよね。ただ女子学生の不安定さをデフォルメした小説は、太宰治の『女生徒』から脈々と書かれている。彼女たちはそこからなんとなく大人になるんです。本屋大賞を受賞した町田そのこさんの『52ヘルツのクジラたち』も、傷ついた女性が虐待されている子供を救おうとする話。こういう小説が支持されるのは、家族でも友人でも恋人でもない関係に絆を求める人が多いから?」と斎藤さんは考える。

中高の入試問題に多く使われて話題になったのが、寺地はるなさんの『水を縫う』。この物語の姉弟は女らしさや男らしさに違和感をもち、傷ついている。「ジェンダーを理解する助けになる本だと思います」。
オルタネート 推し、燃ゆ 52ヘルツのクジラたち  水を縫う

『オルタネート』

加藤シゲアキ 

新潮社 ¥1,815

『推し、燃ゆ』

宇佐見りん 

河出書房新社 ¥1,540

『52ヘルツのクジラたち』

町田そのこ 

中央公論新社 ¥1,760

『水を縫う』

寺地はるな

集英社 ¥1,760

【トピック2】政治経済への不安を反映?「マルクス」に再注目!

今年の新書大賞を受賞し、経済の啓蒙書としては異例の売れ行きを見せたのが斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』。「30代の研究者の主張は“地球の資源を枯渇させる資本主義をやめて次へ行こうよ”ということ。基本はマルクスの考え方ですが、環境問題に敏感な若い人たちの心をつかんだようです」と斎藤さん。『ブルシット・ジョブ』も根底にあるのは“現在の行き詰まったシステムから脱却するには?”という問い。「コロナ禍で生きにくさが顕在化。だからこれらの本が説得力をもつのでしょうね」。
人新世の「資本論」 ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論

『人新世の「資本論」』

斎藤幸平 

集英社新書 ¥1,122

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』

デヴィッド・グレーバー

酒井隆史、芳賀達彦、森田和樹/訳

岩波書店 ¥4,070

【トピック3】早くも登場! 現実を突きつけた「コロナ小説」

「『神様のカルテ』で知られる夏川草介さんの『臨床の砦』には、“現役医師として書かずにはいられない”という強い思いがこもっています」と斎藤さんは語る。「コロナ患者を受け入れた病院の今年1月の様子が克明に描かれていて、医療現場が戦場だったことがよくわかる。キャラクターに個性があって、小説として読み応えがあるだけでなく、パンデミックの記録としても貴重です。東野圭吾さんは『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』でコロナ禍が地方の町に与えた影響を書いていましたが、これもひとつの記録になるでしょうね」。

巡査長を主人公にした榎本憲男さんの『インフォデミック』には、芸能や飲食店などの側から見たコロナ禍が描かれている。「行動が制限されるコロナ禍で、自由や表現はどうあるべきか。改めて考えさせられます」。
ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人 インフォデミック 巡査長 真行寺弘道 臨床の砦

『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』

東野圭吾 

光文社 ¥1,980

『インフォデミック 巡査長 真行寺弘道』

榎本憲男 

中公文庫 ¥880

『臨床の砦』

夏川草介 

小学館 ¥1,650

【トピック4】大人が読んでもおもしろい!「子供向け自己啓発書」

「’20年のベスト10に入るほど売れたのが『こども六法』。法律の専門家ではない著者が、いじめられた経験をモチベーションに子供が加害者や被害者にならないための本をつくったという点が画期的でした」と斎藤さん。

子供に働く理由をていねいに説明した池上彰さん監修の『なぜ僕らは働くのか』、教養の力を楽しく説いた齋藤孝さん監修の『小学生なら知っておきたいもっと教養366』もヒット。「“のほほんと暮らせる時代は終わり。子供にも法律や仕事や教養の基礎を身につけさせなければ心配”と思った親たちが、ここからスタートだと考えたのでは。親が読んでもおもしろくて、知識を補充できそうです」。
『なぜ僕らは働くのか 君が幸せになるために考えてほしい大切なこと 1日1ページで身につく!小学生なら知っておきたいもっと教養366 こども六法

『なぜ僕らは働くのか 君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』

池上 彰/監修 学研プラス ¥1,650

『1日1ページで身につく! 小学生なら知っておきたいもっと教養366』

齋藤 孝 小学館 ¥1,980

『こども六法』

山崎聡一郎 

伊藤ハムスター/絵

弘文堂 ¥1,320

【トピック5】「親世代のリアル」はエクラ世代の近未来!?

実力派作家がエクラ世代の関心事“老後”を織り込んだ小説を書いたのも注目ポイント。「井上荒野さんの『百合中毒』は愛人に走った父親が老いて戻ってくる話。“自分ならどうする?”と考えさせられます」(斎藤さん)。

中島京子さんの『ムーンライト・イン』や山本文緒さんの『自転しながら公転する』には、介護や経済の縮小など老後の現実が具体的に描かれている。「最近はこういう小説が多彩に。地味なジャンルだけどアラフィーになると共感できて、深く受け止められると思います」。
百合中毒 自転しながら公転する ムーンライト・イン

『百合中毒』

井上荒野 

集英社 ¥1,650

『自転しながら公転する』

山本文緒 

新潮社 ¥1,980

『ムーンライト・イン』

中島京子 

KADOKAWA ¥1,870

 
②2021年「文芸エクラ大賞」大賞発表!

▼4人の選者

文芸評論家

斎藤美奈子

本や新聞、雑誌など多くの媒体で活躍。本や世の中への切れ味鋭い批評が、熱い支持を集めている。

書評ライター

山本圭子

出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。

書評ライター

細貝さやか

本誌書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。特に海外文学やノンフィクションに精通。

書評担当編集

K野

これまで担当したすべての女性誌で書評欄担当を経験。女性誌ならではの本の企画を常に模索中。

 大賞 

『にぎやかな落日』

朝倉かすみ 光文社 ¥1,760

北海道在住のおもちさん(83歳)はひとり暮らし。近くにいる息子の嫁や東京在住の娘が気にかけてくれるが、好きなものばかり食べたりして持病が悪化。生活のすべてを人に決められるようになるが、カラオケや文通など楽しみはいろいろあって……。老女の内面の揺れを、たくましく生きてきた記憶とともに描いた小説。

にぎやかな落日

老いの心境が身につまされる“新・玄冬小説”。エクラ読者なら“母親あるある”の嵐!
━━文芸評論家 斎藤美奈子

主人公の北海道弁がチャーミング! 今後の自分をリアルに考えるきっかけに

━━書評ライター 細貝さやか

ひとりでは生活できないせつなさと、それでも消えない希望が胸に迫ります

━━書評ライター 山本圭子

作家・朝倉かすみさんより、受賞コメントをいただきました!

この小説のヒロイン・おもちさんのモデルはわたしの母です。お手紙を書くのが大好きで、ごはんがおいしかったこと、お友だちが優しくしてくれたこと、そしてピンクのレースのブラウスや可愛いシール、赤い口紅を買ってください、と元気いっぱい書いてきます。わたしはそれを読むと安心し、同時に、かなしくて、かなしくて、たまらなくなります。ちっともうまく言えませんが、そんなきもちで書きました。ありがとうございます。

“今年おもしろかった本”を持ち寄った、選考会を実況!

K野 文芸エクラ大賞も今年で4回目になりましたが、今回は初のリモート選考会。コロナの流行が続いていますが、“ステイホーム”が影響したのか、家族をテーマにした秀作が目立ちましたね。

斎藤 なかでも高齢者を主人公にした小説がよかった。青春小説とは逆の意味の“玄冬小説”には、かつては悲惨な現実を書いたものが多かったけれど、最近は違いますね。

山本 私の推しは朝倉かすみさんが83歳のおもちさんの目線で書いた『にぎやかな落日』と、藤野千夜さんが89歳の新平を主人公にした『じい散歩』。タイプは違いますが、ふたりとも愛すべき人物で。

細貝 『にぎやかな落日』は、おもちさんの北海道弁や娘との会話が聞こえてくるようでした。

K野 老々介護を経て夫は特養へ行き、おもちさんもひとり暮らしが困難に。親を思い出すかたが多いと思いますが、登場人物が深刻になりすぎないところに救われました。

細貝 おもちさんの娘の気持ちがわかるだけでなく、これからの自分のこととしても読める。“あきらめたりごまかしたりしながら老後を生きる”というのもアリなんですね(笑)。


斎藤 『じい散歩』は新平の3人の息子が全員独身のダメ男で、妻は認知症?という感じ。でも彼らのことを新平は「いいや、これはこれで」と受け止めている。「家族や幸せのかたちも変わるんだな」と思いましたね。

山本 老々介護中の夫婦とその娘たちを描いた桜木紫乃さんの『家族じまい』も、家族のかたちが変わろうとする話。老人を描くと、その人の人生と背後にある歴史も振り返ることになるから、物語に厚みが出ますね。

細貝 宇佐美まことさんの『羊は安らかに草を食はみ』にも歴史が関係しています。仲よし老女3人組が主人公ですが、その中のひとりが戦後に体験した悲惨な出来事に決着をつけるべくみんなで旅に出る。ミステリータッチで一気に読まされました。


K野 林真理子さんや篠田節子さんといったベテランは、現代らしい問題を小説に生かしていましたね。


山本 林さんの『小説8050』は、いじめから引きこもりになった息子を父親が再生させようとする話。「他人事じゃない」と思わされます。

斎藤 10年ほど前の『下流の宴』もそうでしたが、林さんは社会問題をすくい上げるのがうまいですね。


細貝 篠田さんが地方の現実などを背景に、人生の悲喜こもごもを描いたのが『田舎のポルシェ』。軽妙な筆致はさすがです。

山本 一方で、今までにない個性の作家も活躍しましたね。河﨑秋子さんの『鳩護』は、人間と鳩をめぐる不思議な話。現実のような妄想のような味わいが新鮮でクセになりそう。

K野 お仕事小説としてもおもしろくて、主人公に仕事を押しつけてくる先輩女性がリアルでした(笑)。

細貝 新鮮さでいえば、人間そっくりの宇宙人を難民認定するパリュスあや子さんの『隣人X』もユニーク。


斎藤 格差という目に見えない分断について考えさせられましたね。


山本 松田青子さんのジェンダー感覚が生きた短編には毎回新鮮味を感じますが、そろそろ長編を希望!


K野 書店員アンケートでは、外国文学の『赤いモレスキンの女』、エッセイの『フランスの小さくて温かな暮らし365日』が人気でした。


細貝 外国文学では異色のSF『バグダードのフランケンシュタイン』、エッセイでは笑えて泣ける『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』もおすすめです。


斎藤 さて今年の文芸大賞ですが、「まるでウチの話!」とみんなで盛り上がった『にぎやかな落日』かな。


K野 満場一致で決定ですね。今年も充実した顔ぶれになりました!

 特別賞 

息子以上に「父・正樹はどう直るか」が読みどころ!斬新さがすごい

━━ 代官山 蔦屋書店 間室道子さん

小説8050

『小説8050』

林真理子 新潮社 ¥1,980

歯科医の正樹の悩みは21歳の息子の引きこもり。娘の結婚話を機に腹をくくった正樹は、引きこもりのきっかけになった息子の中学時代のいじめに真正面から向き合うが……。スリリングな展開に息をのむ社会派小説。

旅ができない今だからこそパリの情景を思い浮かべて味わって

━━ブックファースト阪急西宮ガーデンズ店 佐藤みどりさん

赤いモレスキンの女

『赤いモレスキンの女』

アントワーヌ・ローラン 

吉田洋之/訳

新潮社 ¥1,980

パリの書店主が偶然拾ったバッグに入っていたのは、赤いモレスキンの手帳。それと一冊の本を手がかりに、彼は持ち主を探そうとするが……。見知らぬ女性への恋の芽生えと意外な展開を描いた、大人のおとぎ話。

「ロケバスアリア」の主人公のコロナ禍の決意に勇気をもらった

━━書評ライター 細貝さやか

田舎のポルシェ

『田舎のポルシェ』

篠田節子 文藝春秋 ¥1,760

“今どきの人生”を感じさせるロードノベル3編を収録。「ロケバスアリア」の主人公は孫の運転で浜松のホールへ。彼女には秘めた決意があり、ホールで歌うことにしたのだった。生きる尊さを感じさせる中編。

読むのが苦しい描写も。でも自分の人生の結末に思いを馳せられた

━━ジュンク堂書店池袋本店 西山有紀さん

羊は安らかに草を食(は)み

『羊は安らかに草を食(は)み』

宇佐美まこと 祥伝社 ¥1,870

日常生活がおぼつかなくなった86歳の益恵を連れて、80歳のアイと77歳の富士子は益恵の思い出の地をめぐる旅へ。その理由は過去に苦しめられてきた益恵を助けたかったから。重厚だが救いも感じる小説。

親への接し方に悩んだときに読むと少しだけ心が軽くなるかも

━━書評ライター 山本圭子

家族じまい

『家族じまい』

桜木紫乃 集英社 ¥1,760

認知症の母と齢(よわい)を重ねても相変わらず横暴な父。そんな両親の老いがすすみ、とまどう姉妹だったが、一方でそれぞれの夫との関係にも微妙な変化が。老々介護や二世帯同居など現実とその先を見つめた小説。

 斎藤美奈子賞 

世間から見たら、息子たちに問題あり。でも“こういう老後ならいいか”と思える

━━文芸評論家 斎藤美奈子

じい散歩

『じい散歩』

藤野千夜

双葉社 ¥1,760

妻には浮気を疑われ息子たちは頼りにならないが、マイペースで暮らす新平。その心境は? 温かくておかしみのある家族小説。

 エッセイ賞 

ネットで話題のエッセイが一冊に。著者の“どん底”に驚き、笑い、のちに涙が

━━書評ライター 細貝さやか

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』

岸田奈美

小学館 ¥1,430

父親は急逝、弟は知的障害者、母親は車椅子ユーザー。シビアな状況でも物事をおもしろくとらえる著者に圧倒されるエッセイ集。

気まぐれに開くのもいい。暮らしのエッセンスがここに

━━有隣堂アトレ恵比寿店 酒井ふゆきさん

フランスの小さくて温かな暮らし365日

『フランスの小さくて温かな暮らし365日』

荻野雅代、桜井道子

自由国民社 ¥1,700

絵葉書のような写真とフランスの生活をテーマにした文章で、一日1ページを構成。住んでいる気分を味わえるフォトエッセイ。

 期待の作家賞 

ジェンダーを多彩に描き、才気を感じさせる。次回作が楽しみ!

━━文芸評論家 斎藤美奈子

男の子になりたかった女の子になりたかった女の子

『男の子になりたかった女の子になりたかった女の子』

松田青子

中央公論新社 ¥1,650

コロナ禍に家から逃げた母親の孤独と不安を描いた「誰のものでもない帽子」など11編を収録した短編集。

日常に潜む、目に見えない格差をこう描くんだ!と驚き

━━編集K野

隣人X

『隣人X』

パリュスあや子

講談社 ¥1,540

宇宙人が紛れ込んだ(?)世界を舞台に、女性3人の働き方などを通して“普通”を問うフランス在住の作家のデビュー作。

人間と動物を描いてきた作家の新作は謎めいた味わいが魅力!

━━書評ライター 山本圭子

鳩護

『鳩護』

河﨑秋子

徳間書店 ¥1,870

部屋に鳩が迷い込んできて以来、主人公の椿は奇妙な体験を重ねるように。人間と鳩の歴史を背景にした都会のファンタジー。

 外国文学賞 

国家の正義を皮肉に描いたエンタメ。中東の現実を知るにはうってつけ!

━━書評ライター 細貝さやか

バグダードのフランケンシュタイン

『バグダードのフランケンシュタイン』

アフマド・サアダーウィー

柳谷あゆみ/訳

集英社 ¥2,640

爆弾テロの犠牲者の遺体を集めてできた「名無しさん」がある理由で動きはじめた! 海外でも高い評価を得た“怪作”。

 ベスト・オブ・書きだし賞 

今年読んだ小説の中で、最高の書きだし。この作家は私の心を素手で触ってくる
(代官山 蔦屋書店 間室道子さん/文学を担当。自称、ジャンルに関係なく食いつく“本のピラニア”。)
血も涙もある

『血も涙もある』

山田詠美 新潮社 ¥1,650

有名料理家の妻(50歳)と年下の夫(40歳)、妻の助手兼夫の恋人(35歳)。3人の危険な関係の裏にはどんな心理が働き、それぞれが動いていたのか? ゾクゾクするような書きだしから始まる、詠美節たっぷりの大人の恋愛小説。

 人生のバイブル賞 

幸福も、不運も、出会いも、別れも、すべて自分の人生の一部。最後の章の最後の言葉が胸にしみた
(有隣堂アトレ恵比寿店 酒井ふゆきさん/実用書を担当。好きな作家はピエール・ルメートル、髙村薫など。)
ねこしき

『ねこしき』

猫沢エミ TAC出版 ¥1,650

著者は51歳のミュージシャンで文筆家。これまでの人生と現在をつづったエッセイも胸を打つが、章ごとに掲載された「生活料理人のレシピ」も秀逸! どこを読んでも生きるためのヒントがつまっている。

 中毒になるで賞 

人生をうまく生きられない人への愛があふれた、間違いなくコロナ時代を代表する一冊だッ!!
(紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さん/文庫や文学分野の売り場を統括。綾辻行人の本はほぼ読破。)
滅びの前のシャングリラ

『滅びの前のシャングリラ』

凪良ゆう 

中央公論新社 ¥1,705

一カ月後に地球が滅亡することが判明した世界で、いじめられていた男子高校生や人を殺したヤクザ、恋人から逃げ出した女性など「うまく生きられなかった」4人はどんな選択をするのか。先が読めない展開で一気読み必至の感動作。

 こんな旅してみたいで賞 

自由に旅行ができるようになったとしても、自分にはこんな旅はできない。だから、この本の中で思いきり体験!
(ブックファースト阪急西宮ガーデンズ店 佐藤みどりさん/児童書を担当。好きな作家は島田荘司、アイザック・アシモフなど。)
四分の一世界旅行記

『四分の一世界旅行記』

石川宗生

東京創元社 ¥1,980

’17年、SF作家・石川宗生は日本を発って中国、パキスタン、キルギスなどをめぐる旅へ。現実と虚構がないまぜになったその記録に描かれているのは、バックパッカー仲間との交流や驚きの現地事情など。旅という非日常の感触を味わえる一冊。

 おなかも心も満たされるで賞 

悪い人がいないこの物語、読後の心の温かさは格別です。ふだん本を読まない人にぜひおすすめしたいシリーズ(ジュンク堂書店池袋本店 西山有紀さん/文庫と新書を担当。よく読む作家は、北村薫、坂木司、加納朋子など。)
アンと愛情

『アンと愛情』

坂木 司 光文社 ¥1,870

デパ地下の和菓子店で働く杏子(アンちゃん)はもうすぐ成人式。自分の将来を考えるアンだったが、そんなときお客さまから「宇宙がモチーフの和菓子」を相談されて……。日常の謎を描いた人気の「和菓子のアン」シリーズ第3弾。

 
③2020年夏の文芸エクラ大賞

斎藤美奈子さんがコロナ禍の世と話題本を解説

文芸評論家・斎藤美奈子さんがコロナ禍の世と話題の本を徹底解説します。

コロナ禍の前と後で世の中が激変した今年。本の世界もダイレクトにその影響を受けた。

「最初はほとんどの人がコロナ禍を対岸の火事のように眺めていたけれど、その後急速に誰もが当事者になった。情報が少なかったので、多くの人の知りたい気持ちがパンデミック(感染爆発)系の名作文学に向かいましたね。アルベール・カミュの『ペスト』は160万部を突破したんですよ」と斎藤さん。

 

70年以上前に書かれた『ペスト』は、病の猛威に立ち向かう医師が主人公。「“ペストは不条理の象徴で、閉鎖空間で人はどう生きたかを描いた小説”と思われていました。でも今読むと臨場感いっぱい。小説内の非日常感や不安感を“ものすごくリアル”と思いながら読めるのは今年だけでしょうね」

 
世界史に出てくる『デカメロン』も、今年読み返された本のひとつ。

「ペストが蔓延した14世紀のフィレンツェが舞台。郊外に避難した10人が、退屈しのぎにお話をしていきます。内容はいわばバカ話ですが、背景にあるのは神の権威の失墜。だって神はペストを退治してくれなかったから(笑)。でもそれが人間中心のルネッサンスにつながったのだから、感染症が歴史を変えたことがよくわかります」

パンデミック系の名作を読むなら今しかない!

自粛中話題になった感染症の歴史の本も多数読んだという斎藤さん。

「そこで感じたのは、何度も痛い目にあってきたのに人は歴史から何も学んでいなかったということ。感染症は必ず終息するものだから、情報が次の代へと伝わっていかないのでしょうか」

一方で、コロナ禍だからこそ生まれた本も。イラスト集『みんなのアマビエ』は、SNSなどに発表されたクリエイターによる妖怪アマビエ(疫病よけに効くとされる)の競作をまとめたもの。「これは緊急出版的な本ですが、今後少しずつコロナの話を書く作家も出てくるでしょう。とはいえこの災いはまだ渦中だし、誰も逃れられない。病気自体解明されていない、自己責任論ではどうにもならない、経済への影響は計り知れないなど問題山積で全貌が見えにくいから、読み応えのある小説が生まれるには数年かかる気がします」

【夏の文芸エクラ大賞】斎藤美奈子さんがコロナ禍の世と話題本を解説!

懐かしいあの本も電子化。新たな読書の楽しみが

また電子書籍化される本は、巣ごもり需要でますます増加傾向にある。「紙の本にも電子書籍にも利点はありますが、手に入りにくい本が電子化で読みやすくなるのはうれしいですよね。去年亡くなった田辺聖子さんの本もそう。彼女のハイミスもの――恋も結婚も仕事もという女性は、かつては新しかったけれど、今読むとあたりまえ。エクラ世代が読み返すと感慨深いと思います」

今となってはひと昔前のような気さえするコロナ前だが、本の世界を含め世の中では大きな盛り上がりがあった。

「『おっさんずラブ』『きのう何食べた?』などのドラマが関連本や原作本とともに大ヒットしたことです。LGBTが一般の人たちに浸透してきたのを感じましたね」と斎藤さん。

「女性同士の恋愛を描いた綿矢りささんの『生(き)のみ生(き)のままで』、カルーセル麻紀さんをモデルにした桜木紫乃さんの『緋の河』など、小説にも力作が。ただ同性パートナーシップ制度は導入されはじめましたが、トランスジェンダーとして生きることはまだきびしい。

LGBT本で“現実”を学んでみんなが生きやすい社会に!

LGBTは7人にひとりといわれていますが、それは自分の周囲にそういう人がいることを表しています。だから今大事なのは、LGBTについて少しでも勉強して、知らないうちに人を傷つけることがないようにすること。『はじめて学ぶLGBT』や『総務部長はトランスジェンダー 父として、女として』など入門書や自らの経験を語った本が増えているので、ぜひ手にとってみて。1冊読むだけでも理解が進みます!」

 

エクラ書評班×第3回文芸エクラ大賞発表!

4人の選者】

文芸評論家 斎藤美奈子

本の執筆だけでなく、新聞や雑誌など多くの媒体に切れ味鋭い評を寄せ、幅広い層に支持されている。

書評ライター 山本圭子

出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。

書評ライター 細貝さやか

本誌書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。特に海外文学やノンフィクションに精通。

書評担当編集 K野

これまで在籍したすべての女性誌で書評欄担当を経験。女性誌ならではの本の企画を常に模索中。

 大賞 

少女の自我の目覚めを描いた長編小説が大賞に

『遠の眠りの』

遠の眠りの

『遠の眠りの』

谷崎由依 集英社 ¥1,800

福井の貧しい農村生まれで本好きの絵子は、父親に反抗して家を飛び出し、人絹工場の女工に。街の百貨店の支配人と知り合い、専属の少女歌劇団の「お話係」になるが、そこで出会ったのが看板女優の少年だった。昭和初期の少女の自我の目覚めと時代の変化を描いた長編小説。

経済格差が大きかった昭和初期、地方にも“新しい波”を浴びた女たちがいたと感動

━━ 文芸評論家 斎藤美奈子

主人公は自我の目覚めをつぶされかけても前を向く。心から応援したくなった!

━━ 書評ライター 細貝さやか

本好きの貧しい少女がやがて歌劇団の脚本係に。リアルで夢も感じるストーリーにうっとり

━━ 書評ライター 山本圭子

メッセージをいただきました!

作家・谷崎由依さん

戦前の福井に実在した百貨店の少女歌劇。そこに着想を得た小説を、書きたいと思いました。その時代について調べるうちに、華やかさの陰の暗い部分も見えてくるようになりました。女に教育は不要だといわれた農村を出て、人絹工場の女工を経験する主人公の周囲には、もがき、闘う女たちの姿が常にあります。現代を生きぬく女性の皆さんに、ぜひ読んでいただけたらうれしいです。

 

おもしろかった本を持ち寄った選考会。その内容は?

K野 大賞選考会も3回目になりましたが、この一年を振り返るとコロナ以外にもLGBTの認知の広がり、フェミニズムの新しい流れ――#KuToo(職場でのヒール靴義務への抗議)など時代の変化を感じる話題が多かったですね。そんな中、松田青子さんの『持続可能な魂の利用』は「おじさんのダメさがわかる」とマスコミでも取り上げられ、話題に。


斎藤 おもしろかったですね。この国から女を脅かす“おじさん”が消えれば、彼らから自由になる世界をつくれるという発想が(笑)。


細貝 作者の主張がストレートすぎてラストは唐突な感じもしましたが、逆にいえば予定調和じゃない強さ、必死さを感じましたね。

斎藤 エクラ世代が共感できるのは、もちろん、社会に出る前の娘にすすめたくなるかも。「セクハラやパワハラとはこういうこと」とわかるから。

山本 あまりのうまさに驚いたのが河﨑秋子さんの『土に贖う』。北海道で栄えた産業に携わっていた人たちの泥くさい生命力が伝わってきました。


斎藤 作者の河﨑さんは元羊飼い。毛皮用のミンクを飼育する男やハッカ油をつくる女性の労働がきちんと書かれていて、「これぞ正しいプロレタリア文学」ですね。


細貝 周囲にはいなくても、世界にはまだ彼らのような人たちがたくさんいる。現代人として読んでおくべき一冊かも。


山本 私は自粛中に時代小説をよく読みましたが、朝井まかてさんの『グッドバイ』が二重マル。主人公の色恋沙汰のない人生があっぱれでした。

斎藤 彼女は根っからの商売人。そこが気持ちいいんですよね。

K野 主人公のモデルは大河ドラマにも出てきた幕末の貿易商・大浦慶。借金苦からはい上がる後半はページをめくる手が止まらなかった!

細貝 当時こんなにぐいぐい進む女性がいたと思うと元気が出ますね。

山本 谷崎由依さんの『遠の眠りの』は、昭和初期の福井を背景にしたノンフィクションのようでどこかファンタジック。主人公の絵子が仲よくなる女装の少年が魅力的で、独特の世界に一気に引き込まれました。


斎藤 その少年は、絵子が脚本係をしていた百貨店専属の少女歌劇団の看板女優。当時は地方でもモダニズム文化が花開いていたから、東京以外にも華やかな文化がいろいろあった。あまり知られていない事実が描かれていて、新鮮でしたね。


細貝 私は絵子が女工だったころの同僚・朝子に好感をもちました。『青(せう)』(明治44年に平塚らいてうが創刊した女性文芸誌)創刊から何年もたってから影響を受け、先進的な女性たちのきらきらした世界を遠くからでも懸命に見ようとしていて。

斎藤 地方の普通の女性も『青鞜』が唱えた“新しい女”の波を浴びていた。彼女たちはいわば“夜明け前を生きた人たち”で、もがきながら前を向く姿が群像ドラマとして抜群におもしろかったですね。これほどのものを書ける谷崎さんは、これからも多彩な世界を見せてくれそう。『遠の眠りの』を今回の大賞にしませんか。そのほかに加えておきたい作品は……?

細貝 翻訳ものの『暇なんかないわ大切なことを考えるのに忙しくて』をぜひ。『ゲド戦記』の作者が80歳を過ぎて始めたブログをまとめたもので、発見や感動に満ちています。

山本 「こんなおじさん、いるいる!」と思ったのが絲山秋子さんの『御社のチャラ男』。先鋭的な『持続可能な魂の利用』とセットで読むと“おじさん”をより理解できるかも(笑)。


斎藤 書店員賞では山田詠美さんなど、ベテランが健在ですね。

細貝 山田さんの『ファースト クラッシュ』は私も好きな小説。複雑な女心の描写がさすがでした。

K野 今回も新鋭、実力派、ベテランの作品が並んで多彩なラインナップになったと思います!

 

 

 特別賞 

世の中の“おじさん”たちへのストレートパンチが痛快

━━ 文芸評論家 斎藤美奈子

『持続可能な魂の利用』

『持続可能な魂の利用』

松田青子

中央公論新社 ¥1,500

同じ職場の男から陰湿な圧力を受けた敬子は、意に反して“男”が演出する少女アイドルにハマっていくが……。敬子と周囲の女性の心理を描きつつ、“おじさん”がいない国が成立するまでをつづった小説。

 

洞察力&観察力が光る!翻訳ものイチ押しの名エッセイ

━━ 書評ライター 細貝さやか

『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』

『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』

アーシュラ・K・ル=グウィン

谷垣暁美/訳

河出書房新社 ¥2,400

「アメリカSFの女王」が人生の最後につづったブログをまとめたもの。自然や文学、芸術など幅広いジャンルにわたる内容には老いてもなおの好奇心が感じられ、彼女の小説を知らない人の心もとらえる。

 

愛すべき問題児?チャラ男部長がリアルすぎる!

━━ 書評ライター 山本圭子

『御社のチャラ男』

『御社のチャラ男』

絲山秋子

講談社 ¥1,800

地方都市の食品会社の三芳部長はひそかに「チャラ男」と呼ばれている。社内の人物の目で「チャラ男」を語ることで、日本の会社特有の体質や男女観を浮かび上がらせた、笑うに笑えない(!?)会社員小説。

 

目の前の壁を必死に乗り越えようとする主人公がかっこいい

━━ 書評担当編集 K野

『グッドバイ』

『グッドバイ』

朝井まかて

朝日新聞出版 ¥1,600

長崎の油商・お慶(けい)は世の中が黒船来航に揺れる中、外国との茶葉貿易に意欲を見せる。最も信頼される日本商人といわれ、幕末の志士とも交流をもつが、やがて思わぬ逆風が。商売に人生を捧げた女性の一代記。

 

労働を骨太に書ける実力派!今後に注目したい女性作家

━━ 文芸評論家 斎藤美奈子

『土に贖(あがな)う』

『土に贖(あがな)う』

河﨑秋子

集英社 ¥1,650

養蚕、羽毛採取、レンガ製造など、かつて北海道で行われていた労働の実態とその可能性に懸けた人々を描く。どれも過酷な仕事だが、一方では働く喜びも。人の営みの原点に思いを馳せたくなる。三島賞候補作。

女性書店員×現場のイチ押し本

 書店員賞 

この世はとかく生きづらい。そう感じたらこの本を読んでみて

━━ 紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さん

『どうしても生きてる』 朝井リョウ 幻冬舎 ¥1,600

『どうしても生きてる』

朝井リョウ 幻冬舎 ¥1,600

「何もかも投げ出したくなる日もあるけれど、そんな日はこの本を読めば、とりあえず生きてみようと思える」(小泉さん)。鮮烈なデビューから10年の作者が、普通の人々の鬱屈した思いを切り取り、その内側に迫った短編6編を収録。

小泉さんの「これもおすすめ!」

・『わたしの美しい庭』凪良ゆう ポプラ社

・『希望のゆくえ』寺地はるな 新潮社

 

「本屋大賞とは違う作品を」と思いながら、はずすことができませんでした

━━ ジュンク堂書店池袋本店 西山有紀さん

『流浪の月』 凪良ゆう 東京創元社 ¥1,500

『流浪の月』

凪良ゆう 東京創元社 ¥1,500

女児誘拐事件の被害者と犯人。でも更紗と文にはかけがえのない絆があった。本屋大賞受賞作。「自分の目で確かめたものしか信じない、信じてはいけないと自戒させられた。価値観を根底から覆されるほど、衝撃を感じた小説」(西山さん)。

西山さんの「これもおすすめ!」

・『ライオンのおやつ』小川 糸 ポプラ社
・『おちび』エドワード・ケアリー 古屋美登里/訳 東京創元社
 

“普通”は誰が決めるものでもないと思えました

━━ ブックファースト阪急西宮ガーデンズ店 佐藤みどりさん

『結婚の奴』 能町みね子  凡社 ¥1,500

『結婚の奴』

能町みね子 平凡社 ¥1,500

「さまざまな生き方が認められる世の中になってきたとはいえ、“ひとり暮らしに飽きたから”恋愛抜きの結婚をする作者には心底驚かされた」(佐藤さん)。人気エッセイストとゲイの男性がつくっていく、恋愛でも結婚でもない暮らしとは。

佐藤さんの「これもおすすめ!」

・『慟哭は聴こえない デフ・ヴォイス』丸山正樹 東京創元社

・『流人道中記』上・下 浅田次郎 中央公論新社

 

まるさんの感情を表現する言葉が抜群によいです

━━ 有隣堂アトレ恵比寿店 高橋由美さん

『さいはての家』 彩瀬まる 集英社 ¥1,500

『さいはての家』

彩瀬まる 集英社 ¥1,500

駆け落ちした人、雲隠れした人……彼らがたどりついた「家」について気鋭の作家が描く。「その家にはなぜだか何かから逃げてきた人たちが集まるけれど、この生活は続かないだろうなという予感がする。感情表現抜群の連作短編集」(高橋さん)。

高橋さんの「これもおすすめ!」

・『ファースト クラッシュ』山田詠美 文藝春秋

・『逆ソクラテス』伊坂幸太郎 集英社

 

物語もすばらしいのですが、詠美さんの変わらぬ鮮烈さはスゴイ!

━━ 代官山 蔦屋書店 間室道子さん

『ファースト クラッシュ』 山田詠美 文藝春秋 ¥1,500

『ファースト クラッシュ』

山田詠美 文藝春秋 ¥1,500

三姉妹がいる家庭に父親の愛人の子である少年が引き取られる。やがて彼女たちもその母親も彼のとりこになり、それぞれのやり方で愛するように。「避けようのない愛の反応。いつのまにかの立場の逆転。甘美さと残酷さに圧倒された」(間室さん)。

間室さんの「これもおすすめ!」

・『たおやかに輪をえがいて』窪 美澄 中央公論新社

・『去年の雪』江國香織 KADOKAWA

 

詩人・伊藤比呂美×女性に「生命力」を与えてくれる本

伊藤比呂美さん

伊藤比呂美さん

いとう ひろみ●’55年、東京都生まれ。詩人。早稲田大学客員教授。『良いおっぱい悪いおっぱい』から始まる女性の人生に寄り添うエッセイ、古典の現代語訳など多数執筆。
不安が多いコロナ禍だからこそ知っておきたいことをテーマに、おすすめの本を詩人・伊藤比呂美さんにリモート取材! 外出自粛中の読書エピソードも聞いてみた。

女性に「生命力」を与えてくれる本

女の人生の実感を詩やエッセイに書いてきた伊藤さんが選んでくれたのは、昨年の文芸エクラ大賞受賞作『たそがれてゆく子さん』に描かれていた子育て終了、パートナーとの死別、植物への思いなどが反映されたような本たち。アメリカから帰国し、大学で教えている伊藤さんの現在もかいま見えて。

『雑草のくらし』

『雑草のくらし』

甲斐信枝

福音館書店¥2,300

多種多彩な雑草がひとつの空き地で暮らした5年間を観察した絵本。雑草だけでなくそれに寄ってくる昆虫たちの姿も詳細に描かれていて目を見張る。「植物は動物よりずっと獰どう猛もうだった……」。

『石垣りん詩集』

『石垣りん詩集』

伊藤比呂美/編

岩波文庫 ¥740

「こういう先輩のあとに自分が続いたのだなと考えた」。複雑な家庭に育ち、14歳から定年まで銀行に勤務。ひとりで家族を支え続けた女性詩人による、生活に根ざした力強い詩。教科書への収録も多い。

『中原中也全詩集』

『中原中也全詩集』

中原中也

角川ソフィア文庫 ¥1,360

「(大学は)オンライン授業だから、わかりやすいものにしようと考えて中原中也から始めることにしました。改めて読み返し、改めて揺さぶられました」。夭折した天才詩人が描く喪失と孤独。

『樹木たちの知られざる生活』

『樹木たちの知られざる生活』

ペーター・ヴォールレーベン  長谷川圭/訳 

ハヤカワ・ノンフィクション文庫 ¥700

子供を教育する、コミュニケーションを交わすなど、樹木の驚くべき能力について森林管理官がつづった、ドイツ発のネイチャーノンフィクション。「植物は人間みたいに生きていた……」。

『新訂 梁塵秘抄』

『新訂 梁塵秘抄』

佐佐木信綱/校訂

ワイド版岩波文庫 ¥1,100

「昔の人の心のひだひだが伝わってくるんです」。平安末期の歌謡集で、遊女たちが口ずさんだ流行歌「今様」を後白河法皇が編んだもの。「遊びをせんとや生まれけむ……」の歌が有名。

伊藤さんに聞いてみました!

Q.外出自粛中に読んだ本は?

『夜と霧』。コロナの前に熊本の橙書店で新版をすすめられ、手にとって読みはじめたらやめられなくなり、買って読んだ(旧版は昔に読んでいた)。それは大学の研究室に置いて学生にすすめているうちにコロナで大学が立ち入り禁止になって、そのまま研究室にある。なんだかまた読みたくなって、橙書店に行ってまた買った。そのころ、橙書店は時短営業で、窓をすべて開け放って、私が行ったときは店主ひとりで、戦時中の闇屋とはこんな感じかと思った。店主は、取り置きしてもらっていた『夜と霧』をカウンターの下から出してきた。私はコーヒーを注文した。それも闇なのである。「特別に取り寄せているいい豆をふんだんに使って」(店主の言)ていねいにいれた一杯のコーヒーは、本当にうまかった。ずっと飲んでいなかった、こんなにうまいものを。

 

コロナの間、人も会わずに暮らした。ふだんから人に会わなくてすめば会いたくないという生活をしているから、別に苦じゃなかったが、そのとき、人(の中でも信頼する友人)から手渡された闇本一冊。人のいれてくれた熱い闇コーヒー。人と交わした闇会話。コロナごもりの五臓六腑に、それらが、なみなみと、そしていきいきとしみわたったのだった。

 

伊藤さんの最新刊!

『道行きや』

『道行きや』

伊藤比呂美

新潮社 ¥1,800

介護のためのアメリカと日本の行き来も、子育ても終了。夫を看取ったあと、去年約20年ぶりに帰国した伊藤さんが、新たな日常を書きつづった一冊。

社会学者・古市憲寿×日本社会の「ここがヘン!?」に気づく本

社会学者・古市憲寿さん

社会学者・古市憲寿さん

ふるいち のりとし●’85年、東京都生まれ。社会学者、作家。著書に『絶望の国の幸福な若者たち』『保育園義務教育化』、小説に『平成くん、さようなら』『百の夜は跳ねて』など。
おすすめの本を各スペシャリストにリモート取材!テレビ番組での切れ味鋭いコメントで知られる古市憲寿さんからは、社会学者だけに今の日本の特徴を浮き彫りにした本が。しかもエッセイ、ノンフィクション、漫画など多彩なジャンルの話題の本がずらり。手にとりやすく、興味津々のラインナップはあなたの心をくすぐりそう!

日本社会の「ここがヘン!?」に気づく本

『介護のうしろから「がん」が来た!』

『介護のうしろから「がん」が来た!』

篠田節子
集英社 ¥1,300

「介護は家族(特に女性)がするものと考えている人はまだまだ多い。チャーミングな書きぶりだが内容は深刻で、誰にとっても他人事とは思えないエッセイ」。人気作家による乳がん闘病記であり認知症の母の介護記。

『女帝 小池百合子』 石井妙子 文藝春秋 ¥1,500

『女帝 小池百合子』

石井妙子
文藝春秋 ¥1,500

女性初の都知事の半生を描いたノンフィクション。「小池さんに批判的なジャーナリストが書いた本だが、彼女が男性だった場合これほどまでのバッシングにあっただろうか。個人的な読後感は『島耕作』シリーズと似ていた」。

『サヨナラ、学校化社会』 上野千鶴子 ちくま文庫 ¥680

『サヨナラ、学校化社会』

上野千鶴子

ちくま文庫 ¥680

「国が新しい生活様式を提案したり自粛に従わない人が糾弾されたり。日本社会の仕組みは学校に似ていると看破した好著」。社会学者が学校の弊害を指摘。知恵がある人間の底力を説く。

『ミステリと言う勿れ』 1~6巻 田村由美 小学館 ¥429~454

『ミステリと言う勿れ』

1~6巻

田村由美

小学館 ¥429~454

一見ぼんやりしている男子大学生が冷静な観察眼で謎を解く漫画。「主人公の考え方がとにかくフラット。今の社会がいかに“おじさん”中心につくられてきたかをさりげなく指摘しています」。

『2020年6月30日に またここで会おう』 瀧本哲史 星海社 ¥980

『2020年6月30日にまたここで会おう』

瀧本哲史

星海社 ¥980

「一瞬だけの怒りは決して社会を変えない。必要なのは具体的な交渉と行動です。これからを生きるヒントにあふれた本」。去年夭折した投資家にして大学客員准教授の、伝説の講義が書籍に。

 

古市さんに聞いてみました!

Q.この時代の「読書」の意味って?

動画メディアが盛んな時代ですが、今でも読書の効率には負けると思うんです。2時間の動画を見ても、実際の情報量はさほど多くないばかりか、わかった気になるだけのことも多い。一方の本は、とにかくよくできた情報伝達媒体だと思います。神話や文学を伝えるために文字が使われるようになってから約3000年ですが、その間にたくさんの新しいメディアが発明されてきました。だけど本は生き残ってきたわけです。それはなにより効率性によるところが大きいと思います。

Q.外出自粛中に読んだ本は?

東京に春の雪が降った3月終わりの週末にマーセル・セローの『極北』を読み直していました。世界はどうなってしまうのかという不安に人々が包まれていたころです。「まわりのすべてが崩壊してしまったとき、人をまっすぐ立たせておいてくれるのは、決まった習慣だ」という一節があるのですが、非日常のときほど「習慣」が大事だという主人公の独白です。その意味で、この特集を読む人にとっては、読書こそが心の安定剤になるのかもしれません。ただし『極北』の主人公はその後、大変な事件に巻き込まれますが。

古市さんの最新刊!

『奈落』 古市憲寿 新潮社 ¥1,400

『奈落』
古市憲寿

新潮社 ¥1,400
人気絶頂のミュージシャン・香織がステージから転落。人生が激変するが…。家族とわかりあえず、孤独な魂を抱えた女性の人生を壮絶に描いた小説。

 

薬学博士・池谷裕二×科学で知る「危機を乗り越える」本

不安が多いコロナ禍の今だからこそ知っておきたいことをテーマに、各スペシャリストにリモート取材! 脳研究者でもある池谷裕二さんがおすすめしてくれた本は、冷静にコロナ禍と向き合うためのヒントになりそう。「脳がやりがちなクセ」「考えるとはどういうこと?」といったヒトの基礎がわかる本、今後の社会や時間の使い方を模索したくなる本など、どれも読めば刺激的で希望をもって現実に立ち向かいたくなる!
池谷裕二さん

池谷裕二さん

いけがや ゆうじ●’70年、静岡県生まれ。東京大学薬学部教授。脳研究者。著書に『進化しすぎた脳』『モヤモヤそうだんクリニック』(ヨシタケシンスケ氏との共著)など。
『FACTFULNESS』 ハンス・ロスリングほか  上杉周作 関 美和/訳 日経BP 社 ¥1,800

FACTFULNESS』(ファクトフルネス)

ハンス・ロスリングほか

上杉周作 関 美和/訳

日経BP社 ¥1,800

世界的ベストセラー。思い込みではなく事実を見る習慣を身につけるための本。「亡き著者が今後人類を脅かすリスクとしてあげたのが感染症の世界流行。真実を見ぬく目に戦慄を覚えます」。

『暇と退屈の倫理学』

國分功一郎

太田出版 ¥1,200

「あれほど足りなかった時間なのに自粛中なぜ持て余したのか?この本でそんなストレスの源流をたどってみましょう」。哲学者が考えた人間らしい生活、喜ばしい生き方とは。

『「自閉症」の時代』 竹中 均 講談社現代新書 ¥940

『「自閉症」の時代』

竹中 均

講談社現代新書 ¥940

伊藤若冲や新海誠のブームから21世紀の自閉的傾向を解説。「コミュニケーション能力は唯一絶対の社会的尺度ではない。次は自閉スペクトラム症が開放される時代。そんな予感のする本」。

『ホモ・デウス』上・下 ユヴァル・ノア・ハラリ  柴田裕之/訳 河出書房新社 上・下 各¥1,900

『ホモ・デウス』上・下

ユヴァル・ノア・ハラリ

柴田裕之/訳

河出書房新社 上・下 各¥1,900

「労働とは、幸せとは、進化とはという根源的な問いに思いを馳せたいとき絶好の本」。イスラエル人の歴史学者が、漠然とした不安を抱きがちなテクノロジーと人類の未来について考える。

『ファスト&スロー』上・下

ダニエル・カーネマン

村井章子/訳

ハヤカワ・ノンフィクション文庫

上・下 各¥840

「人は偏見に満ちている。判断ミスも犯すからこそ脳の性質を学んで自分の実態を冷静に知ることが、今大事だと思います」。認知心理学者が人間の意思の決まり方を解説した現代の名著。

 

池谷さんに聞いてみました!

Q.この時代の「読書」の意味って?

コロナ自粛では、入力重視の生活になります。読書は入力の最たる形態です。こんなにまとめて読書に打ち込める時間は平素はなかなか得がたい貴重なものです。しかし忘れてはならないのは、脳は入力よりも、出力を重視するように設計されているという厳とした事実です。入力した情報を生かすためには、出力する必要があります。脳は、行動や発言などの出力体験を通じて、その情報をモノにします。つまり、「読む(入力)」という行為で得た知識や情報は、「実践(出力)」することで意味を得ます。フリードリヒ・ニーチェも「本をめくることばかりしている学者は、ついにはものを考える能力をまったく喪失する。本をめくらないときには考えない」といっています。こんな時期だからこそ、妙な「唯読書論」者にならないように気をつけたいところです。

Q.外出自粛中に読んだ本は?

外出自粛という未経験の異質な「時間」を過ごすようになって、「そもそも時間とは何か」について考えるようになりました。『心にとって時間とは何か』(青山拓央)、『脳と時間』(ディーン・ブオノマーノ)、『時間は存在しない』(カルロ・ロヴェッリ)をまとめて読みました。時間は自然にある「あたりまえの存在」だと思っていましたが、これが一筋縄ではいかないのです。この3冊の著者は哲学者、脳研究者、物理学者で、それぞれの視点から、まったく異なる独自な「時間像」が浮かび上がります。その推論プロセスはどれもスリリングです。ところが、3冊ともが行きつく結論が「時間は虚構だ」なのです。どうして異なる登山口から入ったのに、そして道中の風景も異なるのに、三者が同じ山頂に到着するのでしょうか。ここでは書き控えたいと思います。

池谷さんの最新刊!

『パパは 脳研究者』 池谷裕二  扶桑社新書 ¥1,000

『パパは脳研究者』

池谷裕二

扶桑社新書 ¥1,000

結婚11年目で生まれた娘の成長記録には脳研究者ならではの観察眼と愛情深いまなざしが。「ウソをつけたらサルからヒトになる」などの言葉に大納得!

 

エッセイスト・小島慶子×「人との距離」のとり方がわかる本

不安が多いコロナ禍だからこそ知っておきたいことをテーマに、各スペシャリストにリモート取材!アラフィー世代の悩みを知る小島さんがセレクトしたのは、これまでとは違う人間関係を模索したくなる本ばかり。どれも最近出版され、コロナ禍を反映したものも2冊含まれている。世の中が変わりつつある今、必要なのは新しい見識。そんな気がしてきて意欲的に本に向かいたくなる!
小島慶子さん

小島慶子さん

こじま けいこ●’72年、オーストラリア生まれ。放送局勤務を経てエッセイスト、タレントに。著書に『解縛 母の苦しみ、女の痛み』、小説に『わたしの神様』『幸せな結婚』など。
『彼女たちの部屋』

『彼女たちの部屋』

レティシア・コロンバニ

齋藤可津子/訳

早川書房 ¥1,600

パリに実在する女性と子供の保護施設を題材に、時代を超えた女性たちの連帯を描いた長編小説。「先進国で最も男女格差が大きい日本で、これからのテーマはまさにシスターフッドだと思えました」。

『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』

『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』

西田亮介

朝日新聞出版 ¥1,500

「明晰な筆致ですが難解ではない。なるほどそうだったのか!と膝を打つことしきりです」。これまでのコロナにまつわる世の動きを時系列で整理しつつ、私たちの不安はいかにもたらされたかを分析した本。

『ぼそぼそ声のフェミニズム』

『ぼそぼそ声のフェミニズム』

栗田隆子

作品社 ¥1,800

「ひとりの勇者の叫び声より凡百の途切れることのないぼそぼそ声のほうが社会を変える。読むと勇気がわいてきます」。就活・婚活、非正規雇用などを考える“弱さ”とともにあるフェミニズム論。

『コロナの時代の僕ら』

『コロナの時代の僕ら』

パオロ・ジョルダーノ

飯田亮介/訳 早川書房 ¥1,300

最悪の事態を防げなかった自分や国、人類を振り返ったイタリアの科学者の記録。「みずみずしい言葉でつづられたエッセイは1編が短い。余白が多く目に優しい本なので、不安が強いときでも読めます」。

『愛について』

『愛について』

若松英輔

亜紀書房 ¥1,800

「いろんな愛の喜びも痛みも知ったエクラ世代に刺さる詩集。命と向き合い、大事な人は誰だろうかと真剣に考えることの多い今だからぜひ」。“いなくなった大切な人”への思いをつづった、話題の詩集。

小島さんに聞いてみました!

Q.この時代の「読書」の意味って?

避難所。ネットやテレビの情報から距離をおき、自分のペースを取り戻す場所。

Q.外出自粛中に読んだ本は?

『女帝 小池百合子』。この社会で女をやることの悲しみと痛みがつまっており、いわゆる名誉男性といわれるような女性たちが家父長制の鬼子であり犠牲者であることを実感させる本でした。この男尊女卑ジャパンをサバイブしてきた女性なら誰でも思わず自分と重ねてしまう面があると思います。

小島さんの最新刊!

『曼荼羅家族「もしかしてVERY失格!?」 完結編』

『曼荼羅家族「もしかしてVERY失格!?」 完結編』

小島慶子 

光文社 ¥1,500

一家の大黒柱として日豪を往復する著者が、世の女性たちの悩みや自身のエア離婚などについて語ったエッセイ集。作家・白岩玄さんとのロング対談も収録。

 

 
④2019年夏の文芸エクラ大賞

 大賞 

たそがれてゆく子さん

『たそがれてゆく子さん』

伊藤比呂美 中央公論新社 ¥1,400

閉経に向かう体、父の遠距離介護などをつづった『閉経記』から6年。父の死後、高齢の夫をカリフォルニアの自宅で看取った「あたし」に、さまざまな思いが押し寄せる。仕事ははかどるが料理をする気が起きないなど、リアルな心情にあふれたエッセイ集。

 特別賞 

永田町 小町バトル

『永田町 小町バトル』

西條奈加 実業之日本社 ¥1,650

キャバクラ嬢でシングルマザーの小町が、野党から衆議院に初当選。彼女が考えたのは、働く母親を助けるための破天荒な作戦だった。政治の仕組みがイチからわかる痛快な小説。読めば国会中継を見る目が変わる!?

たてがみを捨てたライオンたち

『たてがみを捨てたライオンたち』

白岩 玄 集英社 ¥1,600

専業主夫になるべきか悩む30歳、離婚してひとりを持て余す35歳、アイドルオタクの25歳。三者三様の公私におけるシビアな現実と、彼らが自分に向き合う姿を描いた小説。エクラ読者の子供世代の本音が見えてくるよう。

あちらにいる鬼

『あちらにいる鬼』

井上荒野 朝日新聞出版 ¥1,600

昭和を代表する男性作家と作家仲間の女性の恋は、彼の妻を巻き込んで奇妙なかたちで続いていく。長じて作家になった男性の娘が、父の元愛人・瀬戸内寂聴さんに何度も取材をして小説化。重ね重ね作家の“業”を感じる。

彼女は頭が悪いから

『彼女は頭が悪いから』

姫野カオルコ 文藝春秋 ¥1,750

東大生たちによる強制わいせつ事件でなぜ被害者の女子大生が非難されたのか。実際の事件をもとに格差、劣等感と優越感、世間の風潮などを巧みに描いた小説。自分にもある“無意識の先入観”に気づかされるかも。

 注目賞 

三つ編み
『三つ編み』
レティシア・コロンバニ 齋藤可津子/訳 早川書房 ¥1,600
インド、イタリア、カナダ。それぞれの地で理不尽な運命と戦っていた3人の女性たちが“髪”を通してつながっていく。32カ国で翻訳が決定したフランスのベストセラー。日本でも数々の賞を受賞した話題作。
家族終了

『家族終了』

酒井順子 集英社 ¥1,400

3歳上の兄が亡くなり、生育家族を失った酒井さん。恋人がいた母親、彼女を許した父親を振り返りつつ、同居人(男)との現在とこれからを考える。墓問題や皇室への考察などを交えてつづった家族エッセイ。

月まで三キロ

『月まで三キロ』

伊与原新 新潮社 ¥1,600

自殺志願の男が宇宙に詳しいタクシー運転手の思い出話を聞き、自分を見つめ直す表題作など、6編を収録した短編集。大学院で地球惑星科学を専攻していた作者の目線には、懐の深い優しさがにじんでいる。

夢見る帝国図書館

『夢見る帝国図書館』

中島京子 文藝春秋¥1,850

「図書館が主人公の小説を書くのはどう?」。上野で出会った喜和子さんにそういわれた作家の「わたし」を軸に、日本初の図書館の歴史と戦後を生きた女性の歴史を描く。本がある幸せを感じる長編小説。

平場の月

『平場の月』

朝倉かすみ 光文社 ¥1,600

印刷会社で働く青砥は、検査で訪れた病院の売店で中学の同級生・須藤と再会。昔ふられた彼女と付き合うようになるが、須藤の重病が発覚し……。つらい過去を背負った者同士だからこそ成立した純愛小説。

【4人の選者】
●文芸評論家 斎藤美奈子
本の執筆だけでなく、新聞や雑誌など多くの媒体に切れ味鋭い評を寄せ、幅広い層に支持されている。
●書評ライター 山本圭子
出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。
●書評ライター 細貝さやか
本誌書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。特に海外文学やノンフィクションに精通。
●書評担当編集 K野
これまで渡り歩いたすべての女性誌で書評欄担当を経験。女性誌ならではの本の企画を常に思案中。

 
⑤2018年夏の文芸エクラ大賞

 大賞 

淳子のてっぺん

『淳子のてっぺん』

唯川 恵 幻冬舎 ¥1,700

女性として世界初のエベレスト登頂に成功した登山家・田名部(田部井)淳子。実在の人物をモデルに、生い立ちから山との出会い、その魅力に没入する様、夫や家族との絆などを余すところなく描いた長編小説。作者の登山家へのリスペクトも感じられる。

'“圧倒的な取材力と筆力でノンフィクションを超えた文芸大作に”

━━ 文芸評論家 斎藤美奈子

“恋愛小説の名手と認識していた唯川さんの新境地”

━━ 書評ライター 細貝さやか

“当時の海外登山の想像を絶する困難さに絶句した”

━━ 書評ライター 山本圭子

受賞コメントをいただきました!
作家・唯川 恵さん
「第1回文芸エクラ大賞に選んでいただき、大変光栄に思っています。ありがとうございました。登山家・田部井淳子さんをモデルに小説を書いたのは、「女なんか」といわれたあの時代、夢を追い、かなえてゆく、そのたくましくもしなやかな生き方に感銘を受けたからです。現代にも通じるところがたくさんあります。書きながら、私自身、背中を押されることばかりでした。受賞は小説家としての励みにもなりました。これからも書くことで恩返しができたらと思っています。本当にありがとうございました。」

 大賞候補作品 

力作ぞろいの大賞候補作品

1 『六月の雪』

乃南アサ 文藝春秋 ¥1,850

32歳の未來は入院した祖母を元気づけようと、彼女の故郷・台湾を訪れてその人生をたどるが……。日本と台湾の知られざる歴史が見えてくる長編小説。

''刑事ものから歴史ものへ。最近の乃南さんは要注目!,,━━ 書評担当編集 K野

 

2 『さざなみのよる』

木皿 泉 河出書房新社 ¥1,400

43歳のナスミの亡くなる直前の思いから始まり、彼女の姉や夫などのその後をつづった連作短編集。生も死も平凡であり特別なものと感じさせる。

''人生が終わっても受け継がれるものがここに,,━━有隣堂横浜駅西口店 高橋由美さん

 

3 『真ん中の子どもたち』

温 又柔 集英社 ¥1,300

上海の語学学校を舞台に、日本、台湾、中国に縁をもつ若者たちが共感したり反発したりしながら中国語を学び、生き方を模索する。第157回芥川賞候補作。

''アイデンティティを求める若者たちに親近感が,,━━ 書評ライター 山本圭子

 

4 『炎の来歴』

小手鞠るい 新潮社 ¥1,700

貧しい労働者・北川は、アメリカの女性平和運動家と文通を始め、思慕を募らせるが、その結末は意外な方向へ。ベトナム戦争のルポがなまなましく、胸に迫る。

''作者は恋愛の書き手というイメージを変えつつあるよう,,━━ 文芸評論家 斎藤美奈子

 

5 『青空と逃げる』

辻村深月 中央公論新社 ¥1,600

夫と有名女優の不倫を疑わせる交通事故が起こり、早苗は息子と逃亡の旅へ。家族の意味とは、他人との絆とは?と考えさせられるロードノベル。

''逃げるとき、未払いの給料のことを考える母親がリアル!,,━━代官山 蔦屋書店 間室道子さん

●文芸評論家 斎藤美奈子
本の執筆だけでなく、新聞や雑誌など多くの媒体に切れ味鋭い評を寄せ、幅広い層に支持されている。
●書評ライター 山本圭子
出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。
●書評ライター 細貝さやか
本誌書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。特に海外文学やノンフィクションに精通。
●書評担当編集 K野
これまで渡り歩いたすべての女性誌で書評欄担当を経験。女性誌ならではの本の企画を常に思案中。
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