【大人のオーベルジュステイ〈前編〉】自然の恵みを味わう富山の『L’évo』&“食肉料理人集団”が開いた北海道の『ELEZO ESPRIT』

近年、宿泊施設を備えたレストランが各地に続々とできている。“豊かな余韻”を体に染み渡らせる「オーベルジュステイ」。今回は富山の『L’évo』と北海道の『ELEZO ESPRIT』を紹介。

L’évo(富山)

レヴぉ

辺境の地から世界に発信するローカルガストロノミー

50年近く前に無人地区となった富山県南砺(なんと)市利賀(とが)村の小さな集落は、『レヴォ』の開業で、世界の食通が目ざす旅の目的地に。地元でとれるジビエ、自家農園で育てる野菜をはじめとする食材はもちろん、家具やカトラリーまで地元で造られるアルチザンプロダクツ。食材を育む自然から着想を得た前衛的な料理で、富山の豊かさを表現する。

五感を刺激するみずみず しい料理の数々

五感を刺激するみずみずしい料理の数々。

ホタルイカのひと皿。富山湾の春の味覚。

ホタルイカのひと皿。富山湾の春の味覚。

3棟の客室はテラスつ き、畳の間つきなどそれぞれタ  イプが異なる。

3棟の客室はテラスつき、畳の間つきなどそれぞれタイプが異なる。地域の家具をアップサイクルして利用する試みも。

谷口シェフ。

谷口シェフ。’14年、富山市に開業した『レヴォ』を’20年現在の場所へ移転。「ミシュランガイド北陸」二ツ星、「ゴ・エ・ミヨ」では「今年のシェフ賞」に2度輝いている

DATA

富山県南砺市利賀村大勘場田島100

☎0763・68・2115
不定休
料金/¥48,400~(1室2名利用時、2食つきの1人料金)

客室/3棟
レストランのみの利用も可能、コース¥22,000~(昼夜共通、ドリンク別)。料理の提供は昼12:00~、夜18:00~

ELEZO ESPRIT(北海道)

自ら命を育み、食材を得る食肉料理人集団の新たな拠点

生産から加工、調理までを一貫して手がける食肉のプロ集団「ELEZO社」が、満を持して開いたオーベルジュ。全7皿のコースは、コンソメ、シャルキュトリの盛り合わせ、自社で飼育する軍鶏(しゃも)やジビエのローストなど、肉づくし。骨や筋はだしに、血や脂は加工品にと、「命を余すところなく」というメッセージがこめられている。

蝦夷鹿のロースト。

蝦夷鹿のロースト。潮風にさらされて育つ鹿の肉は、ミネラルが豊富。仕立ては王道のフレンチだが、重さのない味わい。ワインもオーストラリアのワイナリーと提携して醸すオリジナルが用意されている。

客室は各50㎡。

客室は各50㎡。しつらえは上質で、「非日常の静けさを体験してほしい」と、テレビ、時計はない。

農地や加工場のある広大な敷地 の一角、海を見下ろす丘の上に立つ。

農地や加工場のある広大な敷地の一角、海を見下ろす丘の上に立つ。海から昇る朝日は、早起きをして見る価値がある美しさだ

DATA

北海道中川郡豊頃町大津127

☎070・1580・1010
不定休 

料金/¥55,000~(1室2名利用時、2食つきの1人料金)

客室/3棟
レストランのみの利用も可能、コース¥28,000~(夜のみ、18:00 ~一斉スタート)

“リミット”が味を深める。厳しさに鍛えられた美味

文/佐々木ケイ

これまでローカルで数々のレストランを訪れてきた。近年、宿泊施設を備えたレストランが各地に続々とできていて、機会はさらに増えている。地産地消が当たり前の時代、「もう一度行きたい」と思えるのは、どんな店か考えたとき、まず頭に浮かんだのが、’20年に移転リニューアルした富山県・利賀村の『レヴォ』だ。

訪れたのは3月で、辺りはまだ雪に覆われていた。富山駅から車で山道を約2時間半。無事、到着したときには、高揚感より安堵を覚え、「こんな場所でなくても」と思ったほどだ。でも、料理がすべての疑問や懸念を吹き飛ばしてくれた。谷口英司シェフの料理はジビエを主役に、しなやかに強度を増していて、海や山の景色はもちろん、実りの秋から厳しい冬、春へという時間の流れまでが皿に載っていた。とりわけ海の香りをまとわせた鹿の一皿は強く心に残っている。


いうまでもなく大自然は、人が暮らす上ではときに厳しく、豊かな自然の恵みは、黙っていて店の前に届くわけではない。『レヴォ』を訪れて以来、さまざまなリミット(制約)がある日々をサヴァイブしながら食材を得て、作られる料理の力強さについて改めて考えるようになった。そんな折に、『エレゾ エスプリ』の開業を知る。食肉の生産、狩猟、枝肉熟成流通、食肉加工品製造からレストラン運営までを自社で手掛ける“食肉料理人集団”「エレゾ社」が、北海道豊頃町の広大な敷地の一角に開いたオーベルジュだ。厨房に立つ代表の佐々木章太シェフとともに、生産、加工の担当者がサービスにあたる。愛情を注いで育んだ命から食材を得て作る料理は、“味付け”だけでは完成しない何かがある。肉尽くしなのに体にしみいるように清らかな味が、そのことを物語っていた。

(後編に続く)

<教えてくれた人>
●佐々木ケイ…食の記者・編集者。食、酒、旅をテーマに飲食店、生産者、ホテル等について取材、執筆。本誌をはじめ『dancyu』『BRUTUS』ほか連載多数。イタリアでは、これまで13州40軒以上のワイナリーを訪問。JSA認定ワインエキスパート。

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