「オリジナルは、既に完成された名作として愛されている作品。僕も拝見させていただき、大変面白かったです。そして、シン・ハギュンさんが演じるドンシクという人物に魅せられました。あれが完成型ですと言われたら、完成型です。だからこそオファーを受けたとき、素直に嬉しかったのは勿論ですが、このポジションを与えられたことへの感謝や責任などに加えて、名作と言われる比較対象があるという意味でもすごく難しいなと思った。そういった部分で”与し難い”と感じました」
そもそも富樫は、「語らない」ことが多い人物だ。
「なぜそういう行動をするのかといった理由や動機、どういう心理状態なのかといったことがキム・スジンさんの脚本にも書かれてないんですね。だから富樫が見せる表情一つとっても、オリジナルの該当シーンを何度も何度も見て、読み込んで、何が表現として適しているのかを監督と相談しながら提案させていただきました。一番大事なのは、キャラクターの奥底に流れているものはなんなのかということ。それを自分なりにオリジナルを見ていく中で紐解いていくという作業が難しく、やり甲斐があると同時に楽しくもありました」
安田さんの語り口からは、被害者の兄であり、正義を求める刑事であり、同時に”怪物”にも見える瞬間がある複雑なキャラクターを、いかにしてオリジナルに最大限のリスペクトを払いつつ、自分なりに再解釈していったのかがわかる。それは、”怪物"が意味するものについての質問への答えにも強く感じられた。
「富樫は、自分の中の孤独というものを埋める作業をやっているんですよね。やってもやっても埋まらない、過酷な作業を一人で続けていく中で、自分自身に対する疑心暗鬼や強い復讐心、そうした思いが”怪物”という心の状態なんじゃないかと思ったんです。実はキム・スジンさんが自ら脚本を下さったのですが、そこにご自分の手でハングルの文字が書かれていて、Google翻訳したら『富樫の孤独を埋めてください、満たしてください』と。ああ、そういうことかと腑に落ちました。じゃあ孤独を満たすことができなかった男が、このドラマのどこで満たすことができたのか。僕なりに、これがその瞬間だと考えて演じたシーンがあるのですが、それは見た方がそれぞれに感じ取っていただけたら」