【作家・会社経営者 越川慎司さんインタビュー】「週休3日」の働き方を実現!がんばり方を変え、仕事も人生も50代からの進化を楽しもう
50代になると、立場的に仕事の負担も増える一方……。でも、考え方、向き合い方ひとつで、日常はもっと軽くなる。エキスパートたちの発想の転換術とは? 作家として、経営者として縦横無尽に活躍する越川慎司さんに、そのコツを教えてもらいました。
仕事の成果は「会社軸」。ムダなアクセルは踏まない
マイクロソフト勤務時はビジネスソフトの定番である「Excel」「PowerPoint」の事業責任者を
歴任。その後、企業を設立し、数百社の働き方改革を支援。さらに生き方、働き方についてつづった書籍を8年間で30冊以上出版するなど、縦横無尽に活躍する越川慎司さん。いったいいつ休んでいるのか?と心配になるが、自身も社員も「週休3日」を実践する、効率の人である。
「僕も読者の皆さんと同じく50代。いわゆる就職氷河期に社会に出た同世代は実直で、サボるどころかがんばりすぎている人が多い印象です。だからもう、これ以上がんばる必要はない。公私ともに忙しい50代の今の戦略は『がんばり方を変える』が正しいんじゃないかと思っています」
提案する方針は明確で、「成果につながらない努力はやめる」。日々の仕事における労力削減について聞くと、たちどころに具体案が(記事下部のコラム参照)。さらに越川さんは、日々の仕事時間を引き延ばす最も厄介なものとして「さし戻しの修正作業」を指摘した。
「さまざまな企業の50代の残業実績をわが社で調査したところ、時間外労働の原因のうち32%が上司からの“ダメ出し”の修正作業だったんです。ところが、社内で業績を上げているトップ5%の社員の仕事を調査してみたところ、例えば資料作りなら、彼・彼女らはだいたい20%くらい作ったところで上司に見せて、『この方向で合ってますか?』と確認をとっていました」
これなら、たとえ気が変わったとしても、上司は無下にやり直しをさせられない。効率よく働くには、この「巻き込み力」が必須だという。
「50代のかたでも、経営者でなければやはり上司という評価者がいる。よく『成果を出さねば』と考えるとき、つい成果を自分軸で測ってしまいますが、会社の仕事は会社軸。上司という第三者が判断するものなんです。
ですから、『他人による成果の定義』をしっかりと見極め、求められる成果を出して評価してもらう、そのことが日々の負担軽減にもつながる。50代ともなると、アクセルをベタ踏みすることはないんです。アクセルとブレーキの適切な踏み分けをする、そんな働き方を目ざしていくといいと思います」
会議よりも会話。部下と感情共有できる上司に
また、上司の立場にいる人にとっても、やはり巻き込み力は必須。現場に労働時間規制がかかる昨今、管理職の労働時間は逆に増加傾向にあり、疲弊して精神疾患を抱えてしまうケースも少なくない。そんな今、職場で求められているリーダー像は「ライオン型ではなく、カンガルー型」だと、越川さんは続ける。
「ガオーッ!とほえてみんなを従えるリーダーは、時代に合っていない。なぜなら、AIの登場など経験したことのないことが次々に起こっている世の中ですから、リーダー自身にも的確な解決策がないんです。今の時代の正解を知っているのは、現場のメンバー。だから、動物にたとえるなら、哺乳類の中でコミュニケーション力が非常に高いといわれ、フットワークも軽いカンガルー型のリーダーが求められています」
上司が指示しなくても、部下が率先して考え、課題解決をやり、上司はその支援役に回る。究極は「自走する組織」だと、越川さん。
「そのためには、リーダーは全部自分が抱えるのではなく、手放さなきゃいけない。性善説で部下を信じ、フラットな組織の中で問題の解決策を一緒になって見出し、つくっていく、『共感協創』を目ざすべきだと思っています。
だから、必要なのは会議じゃなくて会話と感情の共有。成果を出すトップ5%の上司は、そうでない上司より部下との会話時間が25%も多いという調査結果があります。日ごろから、コーヒーを飲みながらカジュアルな会話ができる関係をつくっておくといいでしょう」
50代の強みは「経験」。成長余白はまだまだある
会社員人生を考えると、そろそろゴールも見えてくるのが50代。しかし、今は人生100年時代である。
「幸か不幸か、60歳でリタイアして残り20年は悠々自適の年金生活という時代じゃなくなっている。そう考えると、70代くらいまではなにかしら社会に貢献して報酬をもらうかたちでないと、おそらく100歳まで続かないと思うんです。でも、僕は長生きをリスクとはとらえていないし、50代からでも成長余白は十分あると」
進化するAIを使いこなせるだろうか?など先々を考えると不安もわいてくるが、越川さんは今こそ積んできた「経験」が強みになるという。「20代、30代、そして精度8割程度といわれるAIが知らない正解や挫折や逆境の乗り越え方を、アナログ情報としてもっているのが50代。経験とテクノロジーを組み合わせた価値創造や問題解決ができる世代の市場価値は、実は高いんですよ」
そして、仕事を通して世の中とかかわり続けていくのなら、忘れてはならないのが「なんのために働くか」。
「身軽になって削った時間は、好きなことに再配置すればいい。教養の時間にする、趣味に費やす、それぞれですが、そうした楽しみをもつ人は、自分の幸せの軸がわかっている。たくさん遊んだあとは、仕事をしたくなるもの。好きなことに時間を費やすために仕事をがんばる、ワーク・ライフ・バランスの上をいくワーク・ライフ・ハーモニー、それが理想的な循環だと思います」
今日からすぐ使える「身軽に仕事をしていくテクニック」
ほとんど読まれていない7色使いの分厚い資料はもう作らない
上司やお客さまが読むんだから気合を入れて……と、ついがんばってしまう会議などの資料作り。多色使いでカラフル、枚数も多くなりがちだが、越川さんの社の分析によると「作りました、という自己満足にも浸れる“忖度資料”ですが、その8割程度がめくられてすらいないことがわかっています。ポイントを押さえたもので十分です」。
メールより確実に読まれるチャットを活用
同じく、調査によると「働く時間の12%くらいが、メールの送受信との結果が出ているんです」。読まれているかどうか、その確認をまたメールで……というムダも発生しがち。「可能ならTeams、Slackなどビジネスチャットに切り替えましょう。オンラインかオフラインかが一目瞭然で、90秒以内に75%から返答を得られます」
メールには「PRD」を必ず入れると、返信率が劇的にアップ!
また、メールを使う場合も、負担減・効率アップのコツが。「送った際に返答が早いメールを2万通分析したところ、要点(Point)・理由(Reason)・期限(Deadline)の“PRD”の3要素が冒頭に入っているものでした。意義、目的、いつまでにを明確に提示することで、相手の理解が納得につながり、次のアクションが早まります」。
重要な資料だけ残して重要「そうな」資料は処分してOK!
プロジェクトが終わるたびにたまる資料も悩みの種。「企業の引っ越しを調べたところ、重要資料と分類されたものの98%はその後の2年間に使われましたが、重要“そうな”資料の使用率はわずか4%でした」。ほかの誰かが持っているなど再現性のあるものは処分か画像のみ保存。自分で決められない場合は、上長など責任者の判断にゆだねて。
作家・会社経営者 越川慎司さん
こしかわ しんじ●’71年生まれ。大手通信会社、日米でのマイクロソフト社勤務などを経て、’17年に株式会社クロスリバーを設立。45歳で作家デビューし『世界の一流は「休日」に何をしているのか』(クロスメディア・パブリッシング)ほかベストセラー多数。
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