映画『娼年』のあのシーンを松坂桃李が語る

エクラ5月号に掲載のインタビューでは書けなかったお話を、もうちょっとだけ!
取材・文/岡本麻佑
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最初にお話をいただいた時点から、躊躇しませんでした

 映画『娼年』が話題を集めている。
 原作は石田衣良氏が2001年に発表した同題の小説。発表直後から話題を呼び、何度も映画化しようという試みはあったものの、なかなか実現しなかった。理由はシンプル。主人公リョウを演じることのできる俳優が、いなかったからだ。
 まずは、美しくなければならない。セックスシーンを演じきる役者魂も必要だ。リョウの微妙な変化を演じる演技力は不可欠。さらに、どんなに強烈な性描写をしてもなお観客に愛される清潔感と包容力、人としての魅力がなければならない。
 10数年を経て、『娼年』はようやく、松坂桃李という主演俳優と出会うことができた。2016年に松坂桃李主演で舞台化され、2年後の今年、映画化されたのだ。

「今この時点でこの作品と出会うことができて、僕はすごくラッキーだと思います。最初にこのお話をいただいた時点から、僕は躊躇しませんでした。20代半ばから僕は、いろんな役に挑戦しようと決めていたんです。30代、40代、その先も、しっかりと演じることのできる俳優でありたいし、そのためには今、いろんな方向性で仕事をしていくべきだと思っていましたから。2年前に舞台が終わった時点で映画化のお話をいただいたんですが、舞台では表現しきれなかった、より繊細な部分を表現できるだろうと、楽しみにしていたんです」
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ある種、フランス映画のような

 どこか醒めていて、誰にも心を開かないリョウ。女性もセックスも“つまらない”というリョウが、ふとしたきっかけから、女性専用コールクラブで働くようになる。娼夫リョウとして、彼を買った女性と次々と、関係を結んでいくのだ。

「僕も監督の三浦大輔さんも、作品としてのグレードは保ちたいと思っていました。セクシーな場面が続きますけれど、生々しさは極力排除しています。じゃないと、そういう場面ばかりですから、お腹いっぱいになってしまいますよね(笑)。照明や撮影の方たちもキレイに撮る努力をしてくださって、ある種フランス映画のような、そんな仕上がりになっていると思います」

 セクシーな設定ばかりが話題になっているけれど、本作はリョウという青年の成長物語でもある。このシーンは、リョウが成長のために扉を開ける、象徴的な場面だ。

「たぶん、リョウは心が大きな海みたいな青年なんです。でもその海の広さに気付かないまま、心を閉じて生きてきた。さまざまな女性と出会うことで、どんどんその海を泳ぐことで、自分の海の広さを知る。深く潜っていくんです」
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若い男性と大人の女性

 リョウを買う女たちの中には、年上の女性もいる。本作でそんな女性を演じているのは、江波杏子さん。年齢を重ねてなお美しく、その美しさの陰に情念を秘めている。リョウは引きこまれるように、女性の心の奥に踏み込んでいく。

「江波さん、本当におきれいです。仕草とかたたずまいが素敵だし、中身がきらきらしているから、見た目にもそれがあらわれるのだと思います。妖艶ですよね」

 若い男性と大人の女性。そこに、何かが生まれる可能性はあるのだろうか?

「あります! あると思います。世間は、男性が年上なら誰も何も言わないのに、女性が年上だと好奇の目で見ますよね、いまだに。だからあまりひと目につかないようにしているだけで、実はそういうカップル、たくさんいても不思議じゃないと思います」

 とはいえ、若い男性に向かって自分の女の部分を見せるのは、ちょっと勇気の要ること。

「そんなふうに考えるんですか? それはかえって可愛いですね(笑)。年齢を重ねているということは、経験を重ね、考え方とか知識とか、圧倒的に若い男性よりも優位にあるということですよね。なのに尻込みしたり、遠慮したりするということは、照れている? こういう人でも照れるんだ!って、ある意味、そのギャップが可愛らしいと思います」
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男の物差しでは、それは測れない

 娼夫のクライアントの中には、カップルもいる。このシーンは、ある夫婦がリョウを招き、間に挟むことで、刺激を求めるというシーン。そのありようは、少々滑稽でもある。

「めっちゃ笑いますよね(笑)。ここは笑えるシーンだと思います」

 次から次へ。いろいろな客と接し、ひとりひとりの心のひだに触れることで、リョウは自分自身もまた、解放されていく。幼い頃の母親の記憶、それによって閉じていた彼の心も、開かれていく。

「女性にはいろいろな面があるし、それを男の物差しで測ることはできない。この映画を撮り終えて強く実感したのは、そういうことでした。僕は姉と妹にはさまれて育ってきたので、女性のオンとオフというか、外の顔と内側の顔、両方を否応なく見てきたんです(笑)。ですから女性のミステリアスな面を見ても、特に驚くことはなく、受け止める自信はあるのですが、まだまだ知らないことも、いっぱいあるのかもしれません(笑)」

 20代を走り抜けて、間もなく30代に突入する。映画に舞台にTVドラマに、それまでのイメージを軽々と超えて新しい役に挑戦する、松坂桃李のチャレンジは止まらない。

「30代に入ったら、演じる役柄の幅が広がるかもしれないし、また違う何かと出逢えるのかもしれない。そこの興味のアンテナはしっかりと持って、やっていきたいと思います」
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『娼年』
出演/松坂桃李 真飛聖 西岡德馬 江波杏子ほか
脚本・監督/三浦大輔
原作/石田衣良「娼年」(集英社文庫)
4月6日(金)より全国ロードショー。
原作は石田衣良さんの『娼年』。集英社より発売中!
【新刊/4月5日発売】「娼年」シリーズ第3弾にして最終章となる「爽年」。
娼夫として7年の年月を過ごしたリョウが、自分の未来を見据えて、
下した決断とは……。
『娼年』の続編となる、シリーズ第2弾『逝年』。
リョウとオーナー・御堂静香のその後は……。こちらも集英社より発売中。
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