卓越した服やアクセサリー、そして小物を生み出す手仕事は、いわば生きた文化遺産。それを奨励し、職人技術伝達のイニシアティブをとるのが、シャネルによってパリに創立されたle 19Mだ。この秋ユニークな展覧会とともに日本にも紹介されるle 19Mの、全貌を紐解く。
サヴォアフェールの未来は、le 19Mで育まれる
le 19M(ル ディズヌフエム)。この名前は、シャネル傘下のメティエダール=芸術的な手仕事のアトリエである11のメゾンダールと、約700人の職人や専門家が集結した複合施設。つまり、どんなアイデアをも卓越したサヴォアフェールでかたちにする、クリエイションの現場である。そのネーミングの由来は意味深い。まず19は所在地のパリ19区、そしてガブリエル・シャネルの誕生日8月19日から。Mは複数の言葉の頭文字。Mode(ファッション)、Main(手)、Maison(メゾン)、Manufactures(手仕事)、そしてMétiers dʼart(芸術的な手仕事)。いずれも、le 19Mの真髄を表す言葉だ。
シャネルが、コレクション制作に携わるいくつかのアトリエとの結束を強めようとメゾンダールの保護に乗り出したのは、ʼ80年代半ば。金細工のゴッサンスやデリュをはじめ刺繡の老舗ルサージュやモンテックス、靴のマサロ、コサージュと羽根細工のルマリエ、帽子のメゾン ミッシェル……と、そのコミュニティは年々広がっている。各メゾンダールはシャネルのオートクチュールとプレタポルテの両方を支えるだけでなく、独立したアトリエとして他ブランドの仕事も請け負う。ゴッサンスやメゾン ミッシェルは、アトリエの名前を冠したコレクションをつくりブティックを構える、ブランドでもある。
また’02年にはカール・ラガーフェルド(1983年から2019年までシャネルのアーティスティック・ディレクター)のイニシアティブで、芸術的な手仕事をフィーチャーした“メティエダール”コレクションがスタート。それ以降毎年12月には世界各地から異なる都市を選んでショーを発表。3年近く前にダカールでのショーのあとには、この地でアフリカをはじめ、フランスや各地の職人やアーティストたちを招いての展覧会も開かれた。そして来る12月の同コレクションの目的地は、ニューヨーク。
サヴォアフェールを駆使した作品は、一点に複数のアトリエが携わることも多い。アトリエ間の連携を深め、効率とクオリティを上げるには? そして社会への貢献として伝統技術を守り、次世代に継承するには? こんな未来思考から生まれたのが、複数のアトリエをひとつ屋根の下に集め、地域コミュニティにも開かれたスペースも併設するという大胆な企画、le 19Mだった。
一からつくる建造物の設計には、建築家リュディ・リチオッティが起用された。生地の経たて糸を着想源とした、高さ24mにおよぶ231本の外骨格に適用されたのは、日射しの強さと方向によって濃度が変わる“ソーラー・マスク”システム。光は、毎日ここで数時間を過ごす約700人にとって、作業のうえでも環境としても、大切な要素だ。総面積2万5000㎡ものコンテンポラリー建築、le 19Mはフランスがコロナ禍収束の兆しを見せた’21 年春にドアを開けた。翌年のテープカットにはマクロン大統領も参加したという事実は、フランスの文化と社会におけるle 19Mの重要なポジションを物語っているだろう。
帽子のアトリエ、メゾン ミッシェルの代表作のひとつが、頭頂が平らなタイプの「キャノティエ」。ガブリエル・シャネル自身も愛用していたことから、シャネルではアイコニック・アイテムだ。写真はメゾンダール間のコラボレーションの一例。羽根細工や花細工のアトリエ、ルマリエによる花飾りを添えた
パリの北東19区「le 19M」を訪ねて̶
シャネル傘下の11のメゾンダールを一堂に集めた、le 19M。ここでは日々、熟練の職人が切磋琢磨して手仕事を極め、若い世代が貪欲に技術を学ぶ。また職人とクリエイターの間のインタラクティブな対話は、革新的なデザインを生み出す。
le 19Mにアトリエを構えるメゾンダールの一連。
©CHANEL
Maison Michel
帽子とヘッドアクセサリーのメゾン ミッシェル
©le19m x Gael Turpo
コンテンポラリーなle 19Mの外観
©CHANEL
Atelier Montex
刺繡の中でも構築的なデザインを得意とするアトリエモンテックス
©Anne Combaz
Lognon
ロニオンがボール紙で作った型紙から繊細で複雑なプリーツ加工を生み出す工程は、まるで魔法
©Alix Marnat
Paloma
フルー(柔らかい素材のドレス)での複雑な組み立て、新しいテクニックを探求する、パロマ
©Alix Marnat
Goossens
金細工のジュエリーとオブジェのアトリエ、自社ブランドのコレクションも手がけるゴッサンス
©Anne Combaz
Lemarié
羽根細工と花細工専門の、ルマリエ
©CHANEL
Desrues
ボタンとコスチュームジュエリーのデリュ
©CHANEL
Massaro
オーダーメイドの靴で知られる、マサロ
©CHANEL
リュネビル刺繡(写真)にも長たけた刺繡工房、ルサージュ。la Galerie du 19Mに刺繡学校も構える
Information
©CHANEL
『la Galerie du 19M Tokyo』展は六本木ヒルズ森タワー52階にて、9月30日〜10月20日まで開催。入場無料。会期中には刺繡とチャーム作りのワークショップ(事前予約制)、トーク、子供も参加できるミニアトリエなどイベントも開催。書籍やオブジェの売店も。プログラムと予約は公式サイトにて。
https://www.chanel.com/jp/fashion/event/opening-gallery-19m-tokyo-2025/