年齢を重ね、できないことが増えていくのは、親にも、そしていずれは自分にも起こること――それが、80代の父を見守り続けているコラムニストのジェーン・スーさんと、母の介護の経験からスマートホーム化に取り組んだテクニカルライターの和田亜希子さんの実感。お二人の体験を伝えた前編に続き、後編では、見守りにおいて大事な親との適切な距離のとり方とその考え方、そして、エクラ世代が今からできる介護未満の親のアシストについて、実践的なアドバイスをもらった。
じぇーん すー●コラムニスト、ラジオパーソナリティー。1973年東京生まれ。『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮文庫)、『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)、『ねえ、ろうそく多すぎて誕生日ケーキ燃えてるんだけど』(光文社)ほか著書多数。毎週月〜木曜11時からTBSラジオで放送中の『ジェーン・スー 生活は踊る』に加えて、ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』『となりの雑談』も好評。
わだ あきこ●テクニカルライター・見守りテックコーディネーター。1970年千葉県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、都市銀行、インターネット検索エンジン運営会社勤務を経て独立。ウェブサイトの企画・制作を手がける。2021年より実家のスマートホーム化に着手。その体験をもとにウェブサイト「見守りテック情報館」を主宰。オンラインセミナーなどの講師も務める。著書に『親が心配な人の見守りテック』(日経BP)など。
「帰ってきて」は、不安を感じ始めたサインと受け取る
――著書『介護未満の父に起こったこと』(新潮新書)から引き続き、父が87歳になった現在も別居のまま遠隔での見守りをしているジェーン・スーさん。和田亜希子さんも3年間、実家通いとスマートデバイスを駆使して母の見守りを続け、2023年に見送った。寄り添い方を巡っての葛藤は、お二人も経験したという。
和田亜希子(以降、和田) 母から「ひとりで暮らすのは嫌。帰ってきて」と泣きつかれたことがありました。父がいなくなって弱気になっていたのもあるし、もともとわがままなところもある人で(笑)。コロナの時期で仕事も減っていたし、一瞬、帰ろうかなとも思ったんですが、帰ってしまうときっと正面からぶつかり合って、おそらく母にとってもストレスフルな状況になってしまうんじゃないかと……。むしろ離れているほうが、要望に100パーセント応えられなくて悪いなと感じるぶんだけ母に優しくなれる気もしたので、「ごめんね、同居はできないけど、そのぶん、冷たくはしないよ」と思うようにしていました。
ジェーン・スー(以降、スー) 仕事は手放さないほうがいいですよね。私の場合は、24歳のときに両親がいっぺんに倒れて、ひとりで二人の介護は物理的に無理だということで半年間、介護休職をしたんです。その後に母は亡くなったんですが、もともと職業婦人だった母は最期まで「仕事は絶対に辞めないで」と言っていました。それに、辞めたらいつか共倒れになってしまうかもしれない。経済と人手不足の状況からすると、和田さんや私が老人になったときの社会の状況や介護システムが今よりよくなっている保障はないので、私たちに今できるのは、とにかく貯蓄と資産を増やすこと。とにかく介護離職だけは避けて、自分の生活も大事にしてほしいです。
和田 そうですね。その通りだと思います。
スー うちの父は「帰ってきて」は絶対に言わないんですが……この間、2300万円の分譲サ高住(サービス付き高齢者向け住宅)のパンフレットを送ってきて、「1000万くらいは自分で用意するから、残りを払ってくれないか」って。なんで娘に今ここで1000万以上払わせようとするんだよ!って。
和田 えーっ⁉︎
スー 前だったらきっとすごく怒ってましたけど、今はのらりくらりかわしています(笑)。だから、親の「帰ってきて」から受け取るのは、「今、すごく不安な状況なんだ」というサインだけでいい。ひとりで暮らしていくことが立ち行かないかもしれない、その自覚が出てきたんだということだけわかれば十分じゃないでしょうか。
その不安は誰のもの?イライラする前に立ち止まって
――とはいえ、戸惑うのは、見守る側も同じ。刻々と変わっていく親の状況を目の当たりにしてショックを受けたり、周囲の反応に戸惑ったり……。そんなとき、スーさんと和田さんがしたこと、心がけていたことは。
スー 今は自費でヘルパーさんをお願いしていて、非常に助かっています。病院の入院、退院も全部お任せ。うちの場合は揉めない、傷つけ合わないことが第一なので、子どもだからこうするべきとか、他人に任せる後ろめたさとかは一切ない。自分の言うことを聞いてくれるヘルパーさんに守られているほうが、父も安心なんです。
和田 ケアマネさんやヘルパーさんとも、意見が合うときもあれば、合わないときもありますからね。真面目で頑張り屋さんの方ほど「こうしたほうがいいですよ」「もうちょっと頑張ったほうが」と、多少、意見を押し付けてくることもあったりしたので。
スー 家の中はまだスマートディスプレイで十分な感じですが、この先、導入を考えるとしたら、エアコンかな。室温が何度以上になったら自動的に作動するというようなことを、必要な助けと取るかどうか……今はまだ「勝手にやるな」と抵抗されそうな気がしています。
和田 見守りというと、家の中に監視カメラを入れたがる方がけっこういるんです。でも、それはたぶん反対されるよとお伝えしています。
スー それ、見守りじゃなくて監視だから! 逆に自分がやられたら、嫌じゃないですか。私も途中から気が付きましたけど、困っている親を助けるようでいて、実は自分の不安を解消したいからだったということって、あるんですよね。
和田 そうですね。私も母が電話に出てくれなくて不安でイライラしていましたが、今思えば不安もイライラも、私自身の問題でした。そもそもここは親の家であり、親の暮らしなんだというところはしっかり踏まえて、踏み込みすぎないようにと、自分に言い聞かせて。
スー 「それはいったい誰の不安なのか?」ですよね。いくらこちらが正しくて親が間違っていたとしても、今は子ども時代と違ってこちらに権力があるわけだから、決して不機嫌になっちゃいけない。親には間違える自由があるし、究極的には、のたれ死ぬ自由だってある。親の人生はあくまで親のもので、それをいかに尊重できるかだと思います。
親も自分も元気なうちから、準備をコツコツと
――親を尊重しつつ、持続可能な見守りをできるだけ長く続けていくために、今からできることがある……見守りをこれから始めるエクラ世代に、最後に、スーさん、和田さんからのメッセージを。
スー 父とは毎月、母の命日に一緒にお墓参りをしているんですが、これがけっこういい機会になっていると思います。電車を乗り継いで決まった時間に墓地に来れるか、歩いて坂道を上がれるか……。
和田 定点観測になるわけですね。
スー ええ。やることが同じだと如実に変化がわかりますから。あと、親が元気なうちに他人を家に入れる訓練をしておくのは、強くおすすめします。うちがラッキーだったのは、実家にお金があった頃に家政婦さんが来てくれていたので、他人が家に入ることへの抵抗がなかったこと。誰にも来てほしくないって言われたら、たぶん詰んでました。
和田 それは大きいです。うちは父のときも母のときも、しばらく抵抗されましたから。
スー 水回りのお掃除をプレゼントするとか収納アドバイザーを派遣するとか、何でもいいんですよ。騙されたと思って一日付き合って!とお願いして、意外と楽になることを親が経験してくれたら、ずいぶん気持ちが変わると思います。
和田 父のときですが、私がやってよかったなと思ったのは、災害ボランティアに連れ出したこと。当時、家に閉じ篭もるようになりがちだったので、東日本大震災の発生後に「お父さん、車が運転できないと行けないところだから一緒に行って」と頼んだんです。行ってみたら現地には同世代で元気な人がいっぱいいて、その方たちと交流したことで「俺もまだまだできるじゃん」と元気を取り戻したみたいで、その後は地区のイベントなどにも積極的に参加するようになりました。
スー 私たちの母親世代は家事を担っている人が多いので普段から生活訓練ができていますが、父親である男性はそれがないうえに、社会との接点を妻に振ってきたぶん孤立しやすい。周りの役に立てているんだという自覚を持てたら、支えになるんじゃないでしょうか。
和田 耳が遠くなりかけた親御さんには、早めに補聴器を勧めてください。耳が聞こえにくいと、コミュニケーションの機会が減っていって、認知症の大きな要因になったりもするので。スマートデバイスも、親世代には難しいと決めつけないで、少しずつ試してみるといいと思います。私自身も、母のためにといろいろ導入したんですが、今は自分で便利に使っています。
スー いいですね。エクラ世代でも、どうかすると「スマホでLINEはできるけど、ほかの機能はちょっと……」という人もいたりするじゃないですか。だから、「なんだかよくわかんない」って言わないようにして、新しいものが出てきたらとにかく食らいつく!の精神で!
和田 フフフ。見守りを始めた頃は、母の様子に自分の将来を重ねて憂鬱になりがちでしたが、デバイスを使うようになってからは、「今の時点でこれだけあるんだから、20年後はきっと相当便利になっているだろう」と思い始めて。今は少しポジティブになってきました。
スー そうなるといいですね。1つとして同じ家族がないように、介護にも正解がない。父の老いにつきあってみて、そのことだけが唯一の共通点だと実感しました。だから、いろんなアイデアを真似しながら、自分の家族に合ったやり方を見つけて、カスタマイズし続けていくことなんだなと思います。
撮影/藤澤由加 取材・文/大谷道子