仕事に、自分に真剣に向き合ってきた女性実業家 川崎貴子さんにインタビュー。幾多の波を乗り越えつつ働き続けてきたからこそたどりついた、心地よい働き方とは。
「好き」にコミットすることで仕事は自分でつくり出せます
実業家/リントス株式会社代表取締役 川崎貴子さん
川崎さんの「働き方」ヒストリー
21歳 人材派遣会社パソナに営業職として入社
能力のある女性が派遣スタッフとして働かざるをえない状況を知り、働く女性を応援する仕事をしたいという思いを抱く。
25歳 働く女性のための人材コンサルティング会社ジョヤンテを設立
当時は男性市場だった人材紹介業だったが、ベンチャー企業を中心に女性に特化した人材紹介業を展開。
32歳 長女を出産
育児はほぼシッターさんにお願いして、仕事にまい進。
33歳 離婚
起業家同士の結婚だったため、仕事に支障をきたすと判断し、円満離婚。
35歳 再婚
家事は夫メイン。多様な生き方があることを示したいという思いから、夫に自分の籍に入ってもらう。
39歳 次女を出産
長女のときに育児を十分にできなかったという思いから、「女性の幸せ」について考えるように。
40歳 会社の運営を取締役に託し、社外へ
女性の幸せを追求したいという思いから、それまでの仕事をいったん離れ、さまざまな企業の社外取締役をボランティアでやるなどして知見を広げる。出版事業の一環でブログを書くことになり、恋愛コラムを担当。
42歳 著書を出版、婚活予備校「魔女のサバト」をスタート
ブログの恋愛コラムが好評で書籍化。同時期に、働く女性のための婚活予備校を始める。
44歳 乳がんに罹患
それまではやりたいことを全部やる、というスタイルだったが、優先順位を考えるように。家族との時間が一番大事ということを改めて実感。
53歳 働く女性のための結婚相談所をスタート
「魔女のサバト」で培った知見をもとに、結婚相談事業を立ち上げ。これからの時代、キャリアはアドバンテージになることを働く女性にもっと自覚してもらいたいという思いから。
女性に羽ばたいてほしい。その思いで起業を決意
転職市場が男性のものだった’90年代に、女性に特化した人材紹介業を立ち上げ、以降一貫して働く女性の成長・成功を支援しつづける川崎さん。この道を自分の仕事と決めたのは、最初の会社で、能力があるのに働き方に行き詰まっている多くの女性を目にしたからだった。
「私が短大を卒業したのは、就職氷河期に突入して2年目くらい。学生時代から営業職をやりたいと思っていて、人材派遣会社『パソナ』が唯一、女性営業を募集していた企業だったので、就職を希望しました。そこで女性の人材紹介業務を担当し、自分と同じ年くらいの女性が、次の仕事がなかなか決まらない現実を見たんですね。まじめでやる気も能力もある女性が活躍できないのが残念で、もっと女性が生き生きとキャリアを築くための仕事をしたいと思うようになりました」
パソナで経験を積んだ後、仲間とふたりで女性に特化した人材コンサルティング会社を設立。働く女性の成功、成長に少しでもかかわることはすべてやる。逆にそれ以外はやらないと明確に線引きし、さまざまな業務に取り組んだ。
「企業にコンサルに入って女性が結婚・出産しても働ける環境づくりをしたり、女性の離職を予防するための男性管理職向けセミナーを行ったり。さらには知見を広めるために会社を離れ、他社の取締役を兼任したこともありました。そんな中で働く女性の結婚についてコラムを書く機会を得て、それがきっかけで婚活予備校を主催することになり、それは10年続いています」
先行きが不透明な今の時代。こう生きたいという理念をもつことを意識して
エクラ世代が社会人になった当初より今は選択肢も増え、格段に働きやすい時代になった。だからこそ、どう働くべきか迷う人が増えているのもまた事実。
「自由はある一方で、不況はいつくるかわからず、AIの普及で将来仕事があるのかも不透明。体力や健康に陰りも出てくるエクラ世代は『この先自分にできる仕事って?』と不安を感じる人もいるかもしれません。
でも不安なのは、どう生きたいかという理念があいまいだから。『自分はこういう人間でこれがやりたい』をまずはハッキリさせてみましょう。起業家でもないのにそんなものない、と思うかもしれませんが、例えば『日本の農業を変える!』とか大きなことでなくても全然OK。
ささやかな『これが好き』『これが得意』を見つけて、それを周囲にアナウンスする。情報ってアナウンスしている人のところに集まってくるので、その中から自分が興味があるものにコミットしてみる。そこから自分ができることが見つかって、もしかしたら仕事につながるかもしれない。
それから、仕事のすべてをそこに賭ける必要もありません。今は個人でいくつも仕事をもつのはあたりまえだし、昔はなかった仕事がどんどん生まれてもいる。自分で仕事をつくり出せる時代なんです。
投資でいうリスク分散みたいに、小さな仕事をいろいろやってみる。そんな働き方も今ならできます。それはフリーランスも会社員も同じ。与えられた仕事をこなすだけではなく、自分が“小さな起業家”のつもりで『何ができるかな、何が楽しそうかな』とアンテナを常に張っておくことで、選択肢は無限に広がるはずです」
仕事の仕方や内容に加え、親の介護問題も、エクラ世代の働き方の不安要素のひとつ。
「これは感情と事実を分けて考えるといいと思います。親を見てあげたい気持ちはある、でも仕事をしながら全部を自分で引き受けるのはむずかしい。そこは切り分けて『この段階になったらどうする』というのをある程度計画的に進めていくことが、介護離職や介護疲れの予防に。その際に大事なことは、家族の中だけの『密室』で決めず、ケアマネージャーなどプロの人に入ってもらうことです」
今の仕事や立ち位置にこだわらない軽やかさが「いい働き方」に
フットワーク軽く多くの仕事に挑戦してきた川崎さん。エクラ世代が意識すべきは「軽やかさ」という。
「若いころは『何がほしいか』『何をしたいか』で仕事を考えていた人も多いかもしれません。でも男性に比べて完璧主義な傾向のある女性がそれをやると、リストにあがる項目が多くなりすぎて、本当に大事なことが見えなくなりがちなんです。
『何がいらないか』という引き算で働き方を見つめると、自分にとって望ましい働き方がスッキリ見えてくるかもしれません。そういう意味では『プレイヤーにこだわらない』というのも選択肢としてあり。
自分が前面に出るのではなく、人を育てるマネージャー側に回ってみる。私たちが若いころに受けた指導や教育には、今は通用しないものも多く、なら令和で通用するやり方とはなんなのか?それを考えること自体を楽しめるというのもまた、十分な大人であるエクラ世代だからこそできること。
こだわりや思い込みから自由になる軽やかさをもてた人こそが、この先も充実した職業人生を送っていけるのではないでしょうか」
50歳から目ざしたいのは
·「これが好き」を見つけてまわりにもアナウンス
·「何がいらないか」という視点で仕事を見直す
·人を育てることに喜びを見出すのもあり
かわさき たかこ●’72年生まれ。法人・個人向けに女性活躍を支援するコンサルティング業務などを行うかたわら、働く女性のための結婚相談所「ナチュ婚相談所」、婚活予備校「魔女のサバト」主宰、執筆活動や講演など幅広く活躍。2人の娘の母。
撮影/名和真紀子 取材・原文/遊佐信子 ※エクラ2026年4月号掲載