悩みの根底にあるのは、上司や同僚ではなく自分自身かも? 自分を見つめ心を整えるスキルを身につければ、職場はもっと快適に。カウンセラーとして中央官庁や地方自治体のメンタルヘルス対策に従事する舟木彩乃さんにお話を伺った。
相手の心を読みすぎない。自分の内面にフォーカスを
心理学者・公認心理師・ 精神保健福祉士 舟木彩乃さん
残業が多い、業務内容が合わないなど、仕事で発生するさまざまな悩みは、「掘り下げていくと人間関係であることがほとんどです」と舟木さん。
「人間関係をむずかしくしているのは、実は多くの場合相手の心を読もうとしすぎていることに起因します。でも他人の心などわからないし、コントロールもできない。だからこそ悩むのですが、相手に過剰適応し、疲弊してしまう人がとても多いんですね。目を向けるべきは、相手ではなく自分自身。まず自分にとって何がストレスなのか、憂うつにさせる人間関係とはどのようなものかを把握しましょう。
その憂うつさの裏には『Aさんがこんなことをするのは○○だからに違いない』など、自分自身の思い込みや価値基準が横たわっている=バイアスがかかっている可能性があることを自覚しておくといいですね。
そのうえで何がつらいのかを書き出します。例えば『Bさんの言い方に傷ついた』などネガティブな感情は、疲れや体調、ホルモンバランスが影響している場合も。
特に更年期であるエクラ世代はホルモンバランスが乱れやすい時期なので要注意です。信頼できる人に相談するのもOK。その際、Cさんにはこれ、Dさんにはこれと相談先を複数に分けるのがベターです。
相手に負荷をかけすぎないためもありますが、特定の人に全部話してしまうと、例えば部署移動や感情のすれ違いなどで相談相手に適さなくなったときのリスクも大きくなります。悩みを解決に導くのは他人ではなく自分。相手には、自己理解のための“壁打ちの壁になってもらう”程度がいいですね」
職場の人間関係に憂うつさを感じたら
•自分にとって「憂うつな人間関係」とは、を把握する
価値観や思考の「枠組み」が狭い人は不安を感じやすいので、自分がどのような考え方をもっているかを見つめ直す。例:返信が遅い人→単に忙しくて、すぐ返信ができないからかもしれないのに「責任感のない人に違いない」or「自分を軽んじている」ととらえる。
•他者の心を読みすぎているようなクセはないか確認(自問自答)
他者の心理を想像する際には、自分の価値基準やバイアスがかなり入っていることを自覚する。
•何がつらいのか書き出す(人・場面・時期や時間帯・身体反応)→ 自分の「限界ライン」を把握する→ 休息・睡眠をとり、生活リズムを整える
身体的な疲弊やホルモンバランスの乱れがネガティブな感情を生み出していることが、想像以上に多い。睡眠を確保するなど休息をしっかりとり、場合によっては医療機関を受診する。
•信頼できる人に軽く相談してみる
全部を相談するのはNG。相手にとって重くなるし、人間関係は変わっていくため。話しながら、ストレスを感じる相手の意図を“悪意前提”で解釈していないかを点検する。
それでも日々のストレスをゼロにするのはむずかしい。そこでおすすめしたいのが「首尾一貫感覚」(下図参照)を意識すること。「『首尾一貫感覚』の3つの感覚を通して悩みを見つめると、問題解決に何が必要か、どうすればいいかの見通しを立てやすくなります。その結果、心が整ってストレスが緩和されやすくもなる。首尾一貫感覚は後天的にも高められるスキル。3つの感覚を意識してストレスに対処していくことが、首尾一貫感覚を高めることにつながります」
「首尾一貫感覚」を知っているとストレスにうまく対処できる
出典:『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル)
だいたいわかった:把握可能感
自分の置かれている状況や今後の展開をある程度、把握できていると思うこと。「想定の範囲内」と思える感覚のこと。
なんとかなる:処理可能感
自分に振りかかるストレスに対処できると思える感覚。対処できる根拠は、それを解決できる資源をタイムリーに引き出せるから。
どんなことにも意味がある:有意味感
問題の解決に向けた努力や苦労のしがいも含め、やりがいや生きる意味を感じられる。人生に起こることには意味があると思えること。
3つの感覚はお互いに補完し合うようにつながっている。把握可能感が高いと「なんとかなるだろう」と処理可能感が高まり、有意味感が高まると「どうにかなる」と思える。なかでも有意味感を高めることは、抱えている悩みや課題に意味をもたせることにつながり、乗り越える原動力として生かせる。
ふなき あやの●株式会社メンタルシンクタンク副社長。カウンセラーとして中央官庁や地方自治体のメンタルヘルス対策に従事。著書に『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(インターナショナル新書)。
撮影/名和真紀子 取材・原文/遊佐信子 ※エクラ2026年4月号掲載