銅版画家の山本容子さんの展覧会が、京丹後市の『森の中の家 安野光雅館』で開催されている。深い森の中、光のきれいな美術館は、『プラテーロとわたし』の世界観そのもの。オープニングイベント『プラテーロとわたし』のコンサートの様子を取材した。
美術館「森の中の家 安野光雅館」
この森を歩いていたら、プラテーロに出会えるかもしれないわね!
「このミュージアム、木の壁や床に囲まれて、プラテーロが幸せそうに見えるわ(笑)」
『プロテーロとわたし』
ヒメネスの傑作詩集。テデスコが詩に捧げた音楽にもインスパイアされて山本さんが銅版画を制作。詩の世界が豊かに広がる。(理論社)
「詩と音楽と絵が三位一体となって」(山本)
ここは『和久傳ノ森』。京都・京丹後市の一画に、およそ3万本の樹木が生い茂る広大な森がある。中には美術館や食品工房、レストランなどが点在する、美しい場所だ。
その美術館『森の中の家 安野光雅館』では9月4日まで『山本容子銅版画展』が開催されている。6月某日、オープニングイベントとして『プラテーロとわたし』のコンサートが開かれた。
「ちょっと説明するとね、今から約100年前、スペインのヒメネスという詩人が若いころに都会で心を病んでしまって、故郷の村に戻るわけ。彼は毎日、ロバのプラテーロにまたがって散歩して〝今日は寒いね〟とか、自分に問いかけるようにロバに話しかけながら、少しずつ回復していく。そのときのことをつづった138篇の散文詩が『プラテーロとわたし』なんです。その後テデスコという作曲家がその中の28篇に、ギターと朗読のための曲をつけたの。
で、数年前にメゾソプラノ歌手の波多野睦美さんが詩を翻訳して朗読し、ギターの大萩康司さんが演奏して、そこに私も絵を描いて。ですから『プラテーロとわたし』は詩と音楽と絵が三位一体。見て、聞いてくださるかたはいつのまにか、ヒメネスのように自身と対話している。だから日本各地で、いろんな形式でこの展示はしていますけれど、リピーターがすごく多いんです。何度でも、自分を見つけにきてくださるのね」
京丹後市は、京都の端っこ。遠方ではあるけれど、日本各地からファンが駆けつけている。
「確かに遠いけど、それも価値だと思うんです。近くで便利なものを楽しむのもいいけれど、時間をかけて覚悟をもって移動する、その道程が旅の醍醐味でしょ? それにここは、食べ物もおいしいし(笑)」
そろそろ開演時間。石のアプローチをたどり、黒い杉板に包まれた美術館に一歩足を踏み入れると、そこには一転、光あふれる空間が広がる。
「さっきリハーサルを聴いてみたら、ここはすごく音の響きがいいんです。使っている木材が堅くて、吹き抜けのホールも大きすぎず小さすぎず、そのおかげらしいの」
観客を魅了して、コンサートは無事終了。拍手はいつまでも続いた。
作曲家テデスコが『プラテーロとわたし』につけた朗読用の音楽には、すべての言葉に音階がつけられている。波多野睦美さんの朗読は音楽のように静かに流れ、詩の一句一句がしみ込んでくる。そしてギター曲は風やせせらぎの音などの情景描写も含め、弾き手にとってはかなりの難曲。大萩康司さんの弾く音楽は、観客を一気にスペインの海沿いの村に連れていってくれた。
展覧会情報
『特別展 山本容子銅版画展 詩画集 プラテーロとわたし』
森の中の家 安野光雅館
~9/4
9:30~17:00(最終入場は16:30)
休館日:火曜(祝祭日の場合は翌日休館)
観覧料/当日一般¥1,000
Information
和久傳ノ森
京都の料亭『和久傳』が京丹後市に作った施設。9000坪の敷地内には56種30000本の樹木が勢いよく育つ。美術館『森の中の家 安野光雅館』、レストラン『工房レストラン wakuden MORI』のほかに、防塵設備の整った食品工房、農業倉庫、米蔵や果樹園、山椒や桑の畑も。長い石段を上る見晴らしの丘からは、京丹後ののどかな風景が見渡せる。
DATA
京都府京丹後市久美浜町谷764
☎0772・84・9901
※鉄道利用の場合、京都丹後鉄道久美浜駅、峰山駅から丹海バス久美浜線「谷工業団地前」下車、徒歩5分。タクシーの場合は、京都丹後鉄道久美浜駅から約15分、JR豊岡駅から約35分。
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