数年前から東京と那須を行き来しながら〈カントリーライフ〉を堪能している銅版画家・山本容子さん。豊かな自然と新鮮な空気は、新たな視点と刺激を与えてくれたという。インタビュー前後編の前編では、自然や動物とのふれあいで生まれた変化ついて語ってくれた。
那須の自然が与えてくれたもうひとつ別の視点
山本容子さんは那須の自然に触れるとすぐ、ある想いを抱いたという。
「この自然を所有することなんて、できないな、と。感覚としては、一時的にお預かりするような。このすばらしい場所を大事にして、この森をみんなで守ろう、みんなで楽しもう、そして後世につなぎたいと思ったんです。不思議ね、森には、人にそう思わせる力があるのね」
ここをセカンドハウスにして間もなく、コロナ禍に突入。東京を離れ、那須にとどまる時間が増えていった。
「こんなに長い時間、自然と向き合うのは私、初めてだったかもしれません。じーっとぼーっと、仕事もしないでベランダに座って、本を読んだり音楽を聞いたりしながら森を見ていたら、いろいろなことに気がつくわけです。毎日、日は昇り日は沈み、しょっちゅう風が吹いて、日々が過ぎていく。季節とともに緑の葉が色を変え、葉が落ちて枯れ枝ばかりになり、そこに雪が降る。やがて芽生えて新緑となり、こんもりと葉が繁る。あたりまえなんですけどね。そういうことに気がついた私は、以前の私とは確実に何かが違うの」
刻々と移りゆく自然の表情から、画家の目が感じ取ったものは。
「光です! 光が描きたくなったの。実は今、以前中断していた『鏡の国のアリス』シリーズに再び取りかかっているんですけど、できあがった画面がね、真っ黄色なんです。いろいろなものに透明感のある光が当たることで、別なものに見えてくる。今、新作を描きながら、発表するのがとても楽しみなんです」
森の中で暮らしていると、優しくなれるの。命が愛おしくなってくる
そしてもうひとつ、田舎暮らしの中で強く実感するのは、自然という命の集合体の中で、共感し共鳴している自分の命。そしていつもそばに寄り添ってくれる、愛犬ルカの命も。
「ルカは、盲導犬になるはずが足に障害があってなれなかった、元保護犬です。私が育ててあげなければいけないのだけど、そこから学ぶことがあまりにも多くて、私のほうが育てられているのかな(笑)」
育て、育てられて。命は、たくさんのことを教えてくれる。
「カントリーライフを実践していると、なぜか動物たちの命が自分とつながって見えてくるの。それは、私だけのことじゃなくてね。
この夏、エクラでも取材していただいた、京丹後の『プラテーロ』コンサートのとき、ひとりの女性がいらして。そのかたはお父さまがヒメネスの『プラテーロとわたし』が大好きで、尾道でロバを飼いはじめて、〈ロバ牧場〉まで作ってしまったんですって! 今もたくさんのかたがロバに会いに来るそうなの。
もうひとり私の友だちで、以前東京の外苑前でレストランをやっていた大塚敬子さん。以前から馬が好きで、馬と一緒に暮らすために、北海道・富良野に移住して、そこでまたレストラン『ル・ゴロワ フラノ』をやっているんです。でもその中の一頭の馬、あかりちゃんが、ちょっと前から具合が悪くて。その薬代のためにも、もう少しレストラン経営をがんばりますって。小さな命とともに歩んでいくために、私もアーティストとして何かできないかと、考えているところです。なんとか力になりたい、と思っているんですけど」
犬のルカ、牧場のロバたち、そして馬のあかりちゃん。愛すべき、無垢で小さな命たち。
「もしかしたらカントリーライフというのは、人を思いやるとか、弱いものに手をさしのべるとか、自分を愛するのと同じように他者を愛するとか、そういうエピソードの積み重なりで、できているのかしらね」
愛する対象は、動物だけでなく。
「無機質なガラス玉でもいいの。何か自分の想いをこめられる、愛情を注ぎたくなるものがあると、人生は変わるんです。もっといきいきするし、明日も生きていこう、という気持ちになる。カントリーライフって、そういう自分の奥に眠っている本質みたいなものを、ヴィヴィッドにしてくれる。そんな気がするの」
那須のアトリエ、居間の真ん中には、薪ストーブが。山の冷たい空気の中、じんわりほっこり、身も心も温めてくれる
アトリエの裏手から室内へ、ストーブ用の薪を運ぶのも、山暮らしのお楽しみ。「いつのまにか力がついて、エクササイズ替わりになっているのかも(笑)」
北海道、富良野にあるフレンチ・レストラン『ル・ゴロワ フラノ』のシェフ大塚健一さん、敬子さん夫妻の愛馬たちのお見舞いに。馬房で治療を受けているあかりちゃん(中央)と、山本さんの愛犬から名前をもらったという馬のルーカス(左)。
愛犬ルカ。東京でも那須でも、山本さんのそばで幸せに過ごしている元保護犬。温厚で従順で、ちょっとマイペース。
日常を切り取った山本さんによるスケッチ画が、2024年カレンダーのそこここに登場。お楽しみに!
2024年カレンダー「 Country Life」
これまで携わった装画の中から「カントリーライフ」をテーマに13点(表紙を含む)を厳選。本を包み込む作品それぞれは、文章からインスパイアされた山本容子さんの独特の世界。あちらこちらに、愛犬ルカのデッサンも登場する。
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1988年~ 2009年までの山本容子さんの装丁の仕事の中から、「カントリーライフ」をテーマに選んだ2024年のエクラ・カレンダー。掲載された作品のうち、12点の銅版画をエクラプレミアム通販で数量限定で販売します。暮らしに彩りを添えてくれる美しい作品をぜひお手もとに。
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