この秋、舞台『A Number―数』に出演する堤真一さん。『A Number―数』は、人間のクローン作製が可能になった近未来が舞台となっている。堤さんに最初に台本を読んだときの感想や、役を演じるうえで心がけていることについて聞いた。
わからないから知ろうとするし、いつしか共感が生まれたりする。舞台の稽古は、毎回が実験です
映画やテレビドラマに代表作をもちつつ、俳優としての堤真一さんの真骨頂を味わえるのは、やはり舞台。特にキャリア初期から出演する翻訳劇での評価は高く、外国人演出家が手がける作品にもたびたび参加している。
「むずかしい作品が多かったので体力的にも精神的にもしんどい部分がありましたが、そのぶん充実した舞台がやれたんじゃないかとも思っています。海外の演出家に声をかけてもらえるのはうれしいし、またやれる機会があればと」
この秋出演する『A Number―数』も、イギリスの現代劇作家であるキャリル・チャーチルの作品。同じくイギリス出身の演出家ジョナサン・マンビィとは、実に4回目の協働になる。
「外国の作品だと、読んでいて『ここ、わかんないな』『どういう感覚なんだろう?』と感じることがやっぱり多い。でも、ジョナサンに質問すると『俺もわかんない』っていうんですよ(笑)。こういう作品にしたいからこう演じてくれということではなく、とにかくやってみて、どんな感情が生まれるかを試す。稽古は実験みたいなもの。何かを無理やり生み出す必要はない、自然に生まれてくるから大丈夫だという安心感を、いつももたせてくれますね」
『A Number―数』は人間のクローン作製が可能になった近未来が舞台。堤さんが演じるのは、クローンを含む3人の息子たちと対峙する父親である。
「最初に読んだとき、『こいつはマジなのか?』と思いました。自分の息子のクローンが複数存在する事実をどうとらえているのか、その責任の感じ方がすごく薄いような気がして……。でも、きっと稽古に入れば考え方も見え方も変わると思う。所詮、自分とは違う人間だから、どんな人物を演じるにしても最初はわからない。わからないから知ろうとするし、結果、自分と価値観の合わない人物でも、いつのまにか共感できるようになっていったりする。千穐楽の日にやっと『あ、そういうことだったのか』と気づくこともあります」
息子たちを通して目の前に突きつけられる自分の過去。胸に浮かぶのは後悔か、それとも恐怖か。
「いわゆる因果応報というのは、案外、ないような気がします。自分にしても、こうしてきたから今があるとは思ってない。つくづく。不思議ですよ。よくこの仕事で食っていけるようになったなぁと」
この夏、還暦を迎えた。自身の父が世を去った年齢となり、胸に去来するのは、死の実感だという。
「確実にくる、その感じ方が、若いときとは違っていて……。死にたいわけではないけれど、かといって怖いとも思わない。ただただ『どんなふうなんだろう?』って」
いつか演じる役を思い浮かべるような遠い目で、そうつぶやいた。
『A Number―数』 『What If If Only―もしも もしせめて』
『A Number―数』で息子3人を演じるのは、今作が初共演となる瀬戸康史さん。愛する人を失った男が未来と現在との対話を通じて喪失と悲しみに向き合う物語『What If If Only―もしも もしせめて』と同時上演。
9/10〜29、世田谷パブリックシアター
問☎03・3477・9999(Bunkamuraチケットセンター)
※大阪、福岡公演あり
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