劇団四季のプリンシパルから、帝劇のセンターへ――それは、ジャン・バルジャンの再生であり、ミュージカル俳優・飯田洋輔さんの再出発の一歩。『レ・ミゼラブル』という作品を通して知った自分の使命、そして、今、飯田さんを支えるものとは。
人間関係の構築と「温活」が課題?
まずは「こんなにも水分がなくなるんだ……」と(笑)。口の中、いつもカラッカラです。とくに冒頭は虐げられたバルジャンの心情を表現する緊迫したシーンが続くので、浅い口呼吸になっているせいもあるんでしょうね。歌うにはまったく向かない状況であることは断言できます。
そうですね。そして、芝居を一生懸命やろうとして心の方に振りすぎると、身体や喉がもたなくなってしまいます。ですから稽古場では、まず感情を全開にして、次に歌唱にフォーカスしたやり方を試してみるなど、いい意味でバランスを取れるよう心がけてきました。とくにバルジャンは、常に「本当にいいのか?」と自問自答しながら決断を重ねていく人物で、お客さまに面と向かって問いかけるシェイクスピア劇のような場面もある。そこでのバランス感覚も、難しいところです。
初も初ですし、こんな役は、たぶん他にないんじゃないでしょうか。同じくバルジャンを演じる吉原光夫さんは劇団の先輩でもあるのですが、これまでに7回バルジャンを演じたベテランである彼が「バルジャンをやれたら何でもできるよ」と言っていたので、本当にこの役は、人を選ぶんだなと……。
今でもよく選んでくれたなぁという気がしています。テクニック的に軽々と歌える歌ではないし、3人のバルジャンの中では僕がいちばん声域が低い(バリトン)ので、その時点で落とされる可能性もありましたから。ですから、期待には全力で応えたいですし、この役をやり遂げることが自分の使命だとも思っています。稽古する中で、自分自身の考え方もずいぶん変わりました。
何というか……もっと自由にしていいんだな、と。自由だからこそ、すべての責任が自分についてくる怖さはありますが、それでも自分の心に鍵をかけずに飛び込んでいきたい。怖いけれど、決して嫌な怖さではありません。たとえ失敗しても、命まで取られるわけではないですし(笑)。大変な役を仰せつかったという怖れは持ちつつも、最初なので、もう本当に思い切ってやるだけだと思っています。
舞台上ではありますが、本当に今、ここで生きているバルジャンでありたいと思っています。19世紀初期のフランス、動乱の時代に生きていた人々のひとりとして存在していて、その姿を、観に来てくださる方々がたまたま捉えている……というくらいの感覚がふさわしいのではないかと。
やはり、人間関係でしょうか。ほとんど家族のようだった劇団とは異なり、作品ごとに共演者が次々替わっていくので、都度都度、一から人間関係を構築しなければならず……今ですか? おかげさまで仲のいい人が増えてきました。皆さん業界人ですから、人付き合いの上手な方が多くて(笑)。食事をご一緒して、そのときに話したことを次の稽古に活かしたり、ということもあったりします。劇団を退団した先輩方や、同じく藝大で学んだ俳優の方々からも、たくさん励ましてくださいました。ひとりではわからないこと、できないこともたくさんありますから、助言をいただくことでまた新たな道が開いていく、そんな実感があります。
人を担いだりする場面もあるので、身体のバランスを整えるためにピラティスをやったり、舞台人の身体を熟知している先生に鍼を打ってもらったりしています。あとは最近、“温活”を。今までやったことがなかったんですが、温めて血流をよくすると圧倒的にパフォーマンスが上がるんだなということを、今さらですが知りまして。小豆のホットパックをするとか、はちみつ入りの紅茶を飲むとか……。
はい(笑)。ずっと稽古漬けだったし、公演が続く間は、いちばんの息抜きである釣りにも行けないでしょうし。だから、今はおいしいものを食べることとワインを飲むことくらい……そうやって、きっといい感じで本番を迎えられるんじゃないかと思っています。
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
ジャン・バルジャンは死んで生まれ変わるのだ――魂の再生を高らかに歌い上げるバルジャンの『独白』をはじめ、『民衆の歌』『夢やぶれて』『星よ』『オン・マイ・オウン』など、誰もが一度は耳にした名曲の数々。終盤のナンバー『彼を帰して』は、「バルジャンから神への挑戦の意味も込めて歌いたい」と飯田さん。魂からの歌声に、きっと涙するはず。
【公演日程】
2024/12/20〜2025/2/7、東京・帝国劇場
(12/16〜19 プレビュー公演)
2025年3月〜6月、大阪、福岡、長野、北海道、群馬に巡演
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