つい口ずさみたくなる懐かしいメロディばかり。『シャボン玉』『東京音頭』『てるてる坊主』……どれも明治から昭和にかけて活躍した中山晋平が作曲したものだ。その生涯を描いた映画『シンペイ』でタイトルロールを演じたのは中村橋之助さん。
音楽で人々を力づけた晋平。その生涯に体当たりしました。どの場面も嘘のないように
「長唄などの邦楽なら子供のころからなじんでいますが、西洋音楽の素養はまったくなくて、最初にピアノの前に座ったとき、ドがどこかすらわかりませんでした」と苦笑いだ。
当然のごとく脚本には晋平が曲を思いつく瞬間のドラマティックなシーンがいくつも用意されている。「そこには絶対に嘘がないようにしたいと思いました。例えば野球のドラマで、投手役の俳優さんの投げ方ひとつで“この人絶対ふだん野球やってないな”とわかると、それまでの集中がとぎれちゃうじゃないですか。なので音楽指導の先生に“先生だったらここでどんな思いつき方をしますか”と、そこはとことん相談しましたね」
なかでもくわえタバコで楽譜に向かうシーンには、脂ののった大人の男の色気がにじみゾクッとした。
「実は20代前半、タバコとか酒、車とか、なんかもうザ・男!(笑)なものにすっごく惹かれていまして。タバコも今は吸いませんがカッコいい吸い方をああでもないこうでもないといろいろ試したものです。父(中村芝翫)にも“お前フィルターまで吸うのはカッコよくねえよ”なんていわれたり。なのでこのシーンではここぞとばかりに当時の成果を発揮しました(笑)」
西條八十や野口雨情といった詩人たちとタッグを組んで生まれた晋平の音楽に触れるのも、今回がほぼ初めてだったという。
「今の音楽ってすごくキャッチーですが、この時代に流行した音楽はいわゆる切り抜き動画には使いづらいタイプ。最後まで聞いて曲の世界が完成するようになっていて、そこが逆に新鮮でした」
大震災、戦争と、日本が暗く貧しかった時代も、晋平の曲は子供から大人まで多くの人々を慰め力づけた。橋之助さんのスマホにも、自らを奮い立たせたいとき用のプレイリストがあるという。「リストのタイトルがこれまたおもしろいんですよ。『闘え!』とか、本名の『国生、なんでもいいから頑張ろう』とか(笑)。高橋優『プライド』、カラーボトル『情熱のうた』、ビートルズの『Let It Be』も入ってます。今でもときどき更新、シャッフルして聞いてます」
そのプレイリストが年明け早々にも活躍しそうだ。若手歌舞伎俳優の登竜門、新春浅草歌舞伎の新メンバーに選ばれ、橋之助さんがそのリーダー的存在に。「立場も責任もこれまで以上に重くなります。選んでいただいた以上は自信をもって向き合いたい。今はその思いでいっぱいです」
『シンペイ〜歌こそすべて』
Ⓒ「シンペイ」製作委員会2024
18歳で信州から上京し演出家・島村抱月の書生に。音楽の勉強を始め無事東京音楽学校へ入学を果たすが……。出演は中村橋之助、志田未来、渡辺大、染谷俊之、三浦貴大、林与一、緒形直人ほか。神山征二郎監督。TOHOシネマズ日比谷他にて公開中。
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