自分とは何者なのか。そして、どう生きるか。大人ならではの「これから」を考える人に、多様な業界で活躍する女性エグゼクティブからのメッセージを届ける新連載。第1回は、フランスの国民的コスメティックブランドの日本法人を率いるリーダーが語る、50代での転換点について。
クラランス株式会社 代表取締役社長 小山順子さん
profile
’88 津田塾大学卒業後に渡欧、英国の金融機関に就職。
’94 INSEAD(欧州経営大学院)でMBA取得。P&Gスイスに勤務。
’98 帰国。カルティエ ジャパンでマーケティング&コミュニケーションディレクターに。
’05 LVMHグループ ヴーヴ・クリコジャパン代表取締役社長に就任。
’11 エスティ ローダージャパン取締役、フェラガモ・ジャパン代表取締役を歴任。
’22 クラランス代表取締役社長(現職)に。
自我を手放し、他者にエネルギーを注ぐことが喜びに
ブランドが大切にする価値を守り、体現する。常に同じ立場で助け合う。合意に達するまで話し合う……小山順子さんは、クラランスの社員が守るべき10カ条を記した小さなカードを名刺ホルダーに入れ、常に携帯している。フランスで誕生して71年。厳選した植物由来の成分を配合し地球環境に配慮した化粧品を展開するクラランスは、日本で発売を開始して以来、他の海外ブランドとは一線を画す独自のアプローチで根強いファンを獲得。まもなく上陸40周年を迎える。
「フランスに住んでいたころから製品を使い、製法に興味をもっていました。3年前に今のポジションへのお話をいただいたとき、ブランドが掲げる『思いやり』『協力』『正直で嘘のない態度』『大胆さ』『情熱』という5つの価値が自分の信念と合致していたこと、そして面接したトップマネジメントから人間的な温かさを感じたことで入社を決意したんです」
もともとは英国の金融機関で企業財務のアドバイザリーを担当していた小山さん。やがて「自分が主導権をもってビジネスを行いたい」と思うようになり、フランスの経営大学院に学んだ。
「ヨーロッパでさまざまなバックグラウンドの人たちと触れ合う中で経験したのは、ダイバーシティ。相手のことを理解する重要性を実感しました。大学院で受けたトレーニングのひとつに、目隠しをして後ろに倒れるというものがあったんです。誰かが支えてくれると思える信頼関係を周囲と築く、それが基本なのだと」
マーケティングに転向して、欧州と日本で数々のラグジュアリーブランドの舵取りを手がけてきたが、「トップになりたかったわけではなく、あったのは事業のすべてを俯瞰したいという思い」だと、小山さん。自身の仕事は、オーケストラの指揮者のようなものと表現する。
「メンバー一人ひとりに、やりがいのあるすばらしい仕事をしてもらいながら、全員をまとめてひとつの音楽をつくるように業界ナンバーワンの企業を目ざす。重要なのは売上ではなく、社会からリスペクトされる企業になることです」
顧客に接する美容部員から販売、広報などのスタッフまで、互いを尊重し多様性を認め合うムードの醸成に努めてきた背景には、小山さん自身が一個人として感じている周囲への感謝と尊敬もにじむ。
「導いてくれた上司や同僚、さらには家族や友人など多くの人のサポートの恩恵があって、私は今ここにいます。50代以降は、受け取るばかりでなくお返ししていくのが義務だと感じるようになりました。思いやりをもって相手に接し自分のもつものを提供すれば、自分自身も豊かになっていくし、さらに学べることも」
昨年60代に入り、現職が「私の最後のチャプターだと思っている」と小山さん。そう認識することで逆にパワーがわいてくるのを、日々実感しているという。
「キャリアを形成する過程においては、やはり自分が中心という意識が重要でした。でも今は自我から離れ、他者にどれだけエネルギーを注げるか……それが大人としてのあり方だと思っています」
自社の名品「フィックス メイクアップ」と「ハンド/ネイル トリートメント クリーム」、愛用の万年筆を常に手元に
オリヴィエ・クルタン・クラランスによる『Guess my age if you can』、マネジメントの参考書『Time Talent Energy』、宮大工の技の真髄がつづられた『木のいのち木のこころ〈天・地・人〉』(新潮文庫)を愛読
「製品への愛情と事業への情熱が活力源」と小山さん
motto
中国の史書『後漢書』に記された「疾風に勁草(けいそう)を知る」は、強風が吹きつけたときに丈夫な草が見分けられるという意味。「大変なときこそがんばろうと思える、好きな言葉です」。
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