雨宮塔子さんによる連載「大人を刺激するパリの今」。最終回のテーマは「夢のオーベルジュ」。パリから1時間の別世界『ル・ドワイエネ』をご紹介。
ガラス張りの壁面が印象的なレストランの外観
その日の畑から届く野菜をオイル、塩、ビネガーなど必要最小限のコンディマンで凛と仕立てる「庭のひと皿」。右上は豚の背肉を塩漬けにしておよそ5カ月熟成させたもの。もちろん自家製。「単に素材を置いてあるのではなく、とても計算されている。野菜、ハーブ、花の組み合わせの無限の可能性、化学反応のようなものを感じました」(雨宮さん)
食材について熱く語るシェフのジェームスさん(右)と雨宮さん。ふたりの背景はオープンキッチン
パリから1時間の別世界でFarm to Tableの真髄を
写真で見たときからぜひ訪れたいと思っていた『ル・ドワイエネ』。パリから南へ車か列車でおよそ1時間、豊かな緑が広がるこの場所は、かつてデュ・バリー伯爵夫人やボルゲーゼ家が所有していた歴史ある領地、シャトー・ド・サンヴランの敷地の中にあります。レストランと宿泊施設は厩舎を改装したもので、’70年代には芸術家のニキ・ド・サンファルとその夫ジャン・ティンゲリーのアトリエでもあったのだとか。しかも動物園のような場所だった時代もあると聞けば、そうかもしれないと想像できる、不思議な魅力があります。
オーストラリア出身のふたりのシェフ、ショーン・バーニー・ケリーさんとジェームス・ヘンリーさんは、パリをはじめ、世界の食のシーンを熟知したかたがた。レストランは’22年オープンですが、プロジェクトはそれより数年前、畑を開墾するところから始まったといいます。日本にもFarm to Tableという概念が広がっていますが、ここでは見事にそれが実現されていて、命をいただくことへの感謝が自然にわいてくるような気がします。
さまざまな木の質感が心地よく、窓の外に農園の緑が広がるレストラン空間での雨宮さん。このシーンに選んだブラウスとジーンズはともにセリーヌ
"C'est bien plus qu'un restaurant. C'est une expérience de
vie à la campagne."
――ここはレストラン以上の場所。 田園で過ごす、
豊かな人生の体験そのものです。
建物のエントランスエリアにあるブティック。厳選された食材や庭仕事の道具が豊富。農園でとれたばかりの野菜やハーブなども並ぶことがあり、雨宮さんは春菊を即購入。「そのままサラダにして、とてもおいしくいただきました」
レストランに隣接した宿泊エリアは、客室ごとに雰囲気の異なるインテリア。それぞれに趣(おもむき)があり、まるで別荘にいるかのようなアットホーム感も魅力
パリからたった1時間とは思えないほどの豊かな田園風景が随所に
11室ある客室の中で最も大きい108号室。サロンの奥だけでなく、らせん階段で上がるメザニン(中2階)にもバスつきのベッドルームがある
中庭に面した窓。館内のあらゆるコーナーがフォトジェニック
かつて動物たちがいたり、芸術家のアトリエだったりした建物が改装されて宿泊施設に。ノルマンディ地方を思わせる木の階段も気分を盛り上げてくれる
Le Doyenné
パリの南、サンヴラン村に位置するオーベルジュ。農園を再生し、歴史ある建物をアルチザンたちによって大改築。再生型農業で育てた伝統品種の野菜を中心に、季節の恵みを最大限に生かした料理を創造している。
DATA
5 rue St Antoine 91770 Saint-Vrain
☎︎+33・6・58・80・25・18
https://ledoyennerestaurant.com/
レストランの営業は、木曜のディナー、金・土・日曜のランチとディナー。宿泊料金1室€265 〜(朝食込)
時の移ろいを愛(め)でつつ ゆったりと過ごしたい場所
今回は日帰りでしたが、次回はぜひとも1泊で訪れたいと思います。まずはカジュアルにスニーカーで農園を散策し、夕方、日が傾いてきたころにシックな洋服と靴に着替えてレストランへ。部屋でゆったり過ごすための服も準備しておきたいし……。そう考えると、旅の計画にも心がはずみます。旬のものだけをいただく場所は、季節によって表情も変わるはず。「朝食もとてもおいしいの」と、にっこり微笑むスタッフのかたの表情にも、再訪を約束させる魅力がありました。
ふたりのオーナーシェフの先見の明に惹かれて、同郷のオーストラリアをはじめ世界中からやってくる若者たち。ここは未来の才能を育む場でもある
"Prendre le temps, savourer chaque instant.
C'est le vrai luxe d'aujourd'hui."
――時間をかけて、瞬間を味わう。
それこそが、今の時代の本当の贅沢だと思います。