気高く強く美しい女王!「生きた心地がしません(笑)」
今年4月から、パルコ・プロデュース2026『メアリー・ステュアート』で宮沢りえさんが演じるのはヒロインの女王、メアリー・ステュアート。気高く、美しく、国家を動かす存在であると同時にひとりの女性として、苛烈な人生を走り抜いた実在の人物だ。
今回の撮影のため、カメラ前に立つその姿は、すでに女王そのもの。とはいえ、女王を演じるのは、宮沢さんにとっても、高いハードルらしく。
「台本をいただいた時点でもう、生きた心地がしないというか(笑)。メアリーは生まれながらの女王で、過酷な運命に翻弄されてしまう。でも、理不尽なことに対して自分の正義を貫く強さを持っているんです。何があってもひるまない。品位を保ちつつ直感のまま、突き進んでいく。この舞台は彼女の人生のうち、最期のわずかな時間を描くお芝居ですけど、本番が始まったときには、役を演じているのではなく、自分がこの役を生きているという感覚になれたらいいですね」
200年前の物語が、今この時にも通用している
物語の中心となるのは、スコットランド女王メアリー・ステュアートとイングランド女王エリザベスⅠ世の、熾烈な確執。ふたりの女王の、対照的な生き方。そのベースとなっている宗教的背景。彼女たちを取り巻く男たちの思惑。裏切りと打算、そして、謀りきれない人間の業。
世界中に大小さまざまな紛争が起こっている今、どれもこれも、今この時の私たちの世界と、リンクすることばかりだ。200年以上も前に書かれた戯曲であり、幾度も上演されてきた名作だけれど、今回は、10年前に発表されて大絶賛された新バージョンで上演される。
「話として古さを感じません。台本を初めて読んだ時から、物語の最後のシーンが私の中にすごく残っていて。大きな余韻の残る舞台になるといいなと思います。ぜひ、舞台を生で観て、味わっていただきたいです」
彼女がこの舞台にかける情熱が、静かだけれど熱いその言葉から、伝わってくる。メアリーと彼女には、どこか似ているところがあるのかもしれない。
「感じたこと、思ったことを、ストレートに言葉に出すところですね(笑)。言葉にしないと相手に伝わらないことってあると思うんです。今が良くなるための議論は、するタイプかもしれません。あ、でも、ネガティブな言葉は嫌いなので、できるだけ絹の布にくるんで相手にお伝えしようって気を付けています」
40代、50代をどう生きるかで、70代、80代の自分が決まる
それにしても。50代の今、キラッキラに輝くこの生命感。キレイとかカッコいいとか、ありきたりの形容詞を遙かに超える存在の美しさが、この人には、ある。コメディからシリアスな舞台まで、活躍の場は幅広い。女王ではなく、市井の女性を演じても、宇宙人を演じても、何を演じても宮沢さんには、人を惹きつける強烈な何かがある。演じる役に染まる俳優をカメレオン俳優と呼んで讃えるけれど、彼女はどんな役も自分に取り込んでさらに輝く、逆カメレオン。そんな自分自身を、彼女は気負うことなく、受け止めている。
「10年後の自分がどうしていたいか、そういうのを考えるの、すごく好きです。何をしているんだろう? どんなふうに年齢を重ねるのかな? って。でも軸にあるのはやっぱり、目の前にあること。今ときちんと向き合わなければ、10年後はないって思うから。だから今は、メアリーのことだけ」
人生の後半に向けて感じているのは、今という時間の大切さだ。
「40代、50代って、すごく大事な時期じゃないかって思います。50代という年代だけでいうと、まだお子さんが成人していない方もいるし、お仕事されている方もいるから、一概には言えませんけど。この仕事をしていると、まわりにすごく元気で素敵な先輩たちがいらして、その方たちとお会いしてすごく感じるのは、50代からどう生きたかで、70代、80代の自分が決まるんじゃないかってこと。50代の過ごし方で、その先の人生の質が変わっていくなって思うんです」
そのために、気を付けているのは。
「まずは、健康であること。自分の肉体の声をちゃんと聞いて、きちっとセッションすることですね。だからといって何かしているわけじゃないけど(笑)。肉体は精神につながっていると思うから。たとえば、気分転換にはおいしいビオワイン。軽やかな気持ちになれますし。あまりに好きすぎて、自分でもいつかワインを作りたいなって、本気で思うくらいです。あとはやっぱり、食べるもの。先日ちょっと撮影の合間に、面白がってジャンクなものを食べ続けていた時期があったんですけど。その後体調がイマイチ、なんとなく巡りが悪いなって。野菜を食べるというテーマを掲げて1週間過ごしたら、体がまた軽くなりました。ワインも食べるものも、できるだけナチュラルなものを選びます。農薬を使わずに野菜を作ってくださっている農家さんに、感謝です!」
役を生きる。それが私の健康のもと
たしかに、宮沢さんの言う通り、身体と心はつながっている。だからこそ、心にも栄養とエクササイズが必要だ。50代だというのに、目の前の彼女から伝わってくるのは、生き生きとした生命感。作りものではない輝きが、体の奥から発散されているみたい。
「ううう(笑)、今、舞台に向けて全集中していて、そんなにエネルギーがありあまっているつもりはないんですけど(笑)。でもまあ、ありがたいことに、求めてくれる方がいて、それに応えられる時間があるということは、自分にとってすごいエネルギーになります。
先日、今年90歳になられる方とお話しする機会があって、その方はすごくお元気で、魅力的なんです。『ポジティブであるってどういうことですか?』って聞いたら、『やりたいことがある人は、全員ポジティブなんだよ』って。やりたいことのためには、本当にいろんな試練があるし、人とぶつかることもある。だけど前に進もうとしていることが、本物のポジティブなんだって断言なさってました。そのとき、改めて気付くことができて。そういうことかもしれないなって」
進んでいく、求めるなにかがある限り、人はいつでも、ポジティブになれる。
「人って多面的ですよね。家にいる自分、友だちといる自分、子どもといる自分、いろんな自分がいる。そして私には、演じる役を生きている自分がいる。時おり、時代も状況も違うのに、役と自分がぴたっと重なって、役の台詞が自分の本音のように感じることがあります。大変なことがいっぱいある仕事だけれど、そういう不思議な瞬間があると、幸せだなって思う。私にとって、とても健康的なことなんです」
もうひとりの自分は、きっとどこかにいる。これからやりたいことは、きっと見つかる。私たちの人生は、これからだ。
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パルコ・プロデュース2026『メアリー・ステュアート』
原点は、実在のスコットランド女王メアリーとイングランド女王エリザベス1世の確執を描いた200年前の戯曲。本作はイギリスの演出家ロバート・アイクが10年前に手がけ、大絶賛された新バージョン。宮沢りえ、若村麻由美、 橋本淳、段田安則ほか。
4/8~5/1、PARCO劇場
問:サンライズプロモーション ☎0570・00・3337
※福岡、兵庫、愛知、北海道公演あり
撮影/伊藤彰紀(aosora) ヘア&メイク/菊地美香子(TRON) スタイリスト/佐々木敬子(AGENCE HIRATA) 取材・文/岡本麻佑