若い男の企みにのり、日常を逸脱していく初老期の夫婦。3月6日より開幕する新作舞台『危険なワルツ』で妻の吟子(ぎんこ)を演じる松雪泰子さんにインタビュー。
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そこはかとなく漂う不穏な空気と、会話ににじむ知的なユーモア。それらを味わううちに、周到に張りめぐらされた伏線によって不条理な世界に引き込まれていく。演劇好きに知られる岩松了作品の魅力を、松雪泰子さんはこう語る。
「台詞の言葉そのものより、その時間にいったい何が流れているのか、語り合う人物の背景に渦巻くエネルギーをどれだけキャッチできるか……観客として見るときも出演するときも、そんなことを試されているのかなと思います」
3月6日より開幕する新作『危険なワルツ』で描かれるのは、かつては悪事に手を染めながら奔放に過ごして初老期を迎えた夫婦と、その周囲の人間模様。松雪さん演じる妻・吟子(ぎんこ)は、年上の夫の衰えにいらだちながら日々を送る中、ふと現れた若い男・一寿(かずとし)へ心を傾けていく。
「夫と、まだそれほどには枯れていない妻。戯曲からは、限定された空間に複雑な澱が重なっていくような印象を受けました。年を重ねた結婚生活や夫婦の関係性がそうさせるのかとも感じましたが、その様子が哀れでもあり、滑稽(こっけい)でもあり。それにしても『吟子、いったいどうするつもりなんだろう?』と思いながら」
彼女の心を焦らせるのは、自身にも確実にしのび寄る老いの気配。等身大の女性を演じる松雪さんにとってもリアルだ。
「日々、ちょっとした場面で『前はできていたのに、できなくなっちゃった』と受け入れざるをえない現実を感じる。あまり悲哀に感じないように、とは思いますが、それはすなわち感じているということなので(笑)。抗いたい気持ちもあるけれど、年齢相応であることを認めながら、なるべく楽しむ。そうやってバランスをとろうとするのが、今の私の年代の生き方なんだろうなと」
円熟の女優と新鋭の男性のマッチアップ(勝負)──そんなコンセプトで書かれたという作品への挑戦。「意識的には、まだまだ円熟にはほど遠いですが」と断りながら、それでも、50代の今だから見えてきた到達点も感じている。
「あらゆることの道理はひととおりわかっていて、物事に対してクリアな視点はもてている。自分の軸を保ちながら、あとは責任をもって選択していく……そんな自由が手の中にあるイメージですね」
松雪さんがこれから選ぶのは、はたしてどんな自由なのだろう?
「俳優を目ざす前はデザイナーになりたいと思っていたので、何かをゼロから作ることへの興味はずっともっています。いろいろな人の力を借りながら、ということにはなりますが、例えば若い俳優のかたたちとユニットを組んで、何かを立ち上げるとか……。やってみたい戯曲もたくさんありますし、常に新しいものを生み出していけたらなと思っています」
M&Oplaysプロデュース 『危険なワルツ』
若い男の企みにのり、日常を逸脱していく夫婦。運命の歯車が動く先は……。一寿に扮する坂東龍汰は「飄々とした雰囲気が魅力」と松雪さん。谷川昭一朗、中村加弥乃、但馬智、岩松了が共演。
3/6〜22、新国立劇場 小劇場
問:M&Oplays 03・6427・9486
※大阪、富山、宮城公演あり
まつゆき やすこ●’72年、佐賀県生まれ。’91年、ドラマで俳優デビューののち、数々の映像、舞台作品に出演。最近の出演作に音楽劇『エノケン』、ドラマ『照子と瑠衣』『最後の鑑定人』『北方謙三 水滸伝』(WOWOWで放送中)など。岩松了作・演出作品には『シダの群れ・純情巡礼篇』(’12)、『そして春になった』(’20)、『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』(’23)に続いての出演。
photography:Fumiko Shibata hair&make-up:Eriko Ishida styling:Eriko Iida(CORAZON) text:Michiko Otani ※エクラ2026年4月号掲載