人気韓国ドラマのセリフやタイトルに注目し、ドラマ鑑賞がもっと楽しくなる豆知識をご紹介。今回は、アイドルグループ・ZE:Aのメンバーとしてデビューし、実力派俳優としても活躍するイム・シワンの代表作『ミセン-未生-』をピックアップ。
『ミセン-未生-』
U-NEXTにて配信中/ⓒCJ E&M Corporation,all rights reserved.
韓国の“サラリーマンのバイブル”と称された人気WEB漫画を原作に、夢破れてサラリーマンの道を歩むことになった総合商社のインターンと、彼を取り巻く同期、上司との人間模様を描いたヒューマンドラマの傑作。韓国でミセンシンドロームを巻き起こし、日本では中島裕翔主演『HOPE~期待ゼロの新入社員~』としてリメイクされました。
あらすじ
チャン・グレ(イム・シワン)は、幼い頃からプロの囲碁棋士を目指していたが、父親の他界によって夢を断念。囲碁に未練を残しながら、アルバイトを掛け持ちして生活していた。それを見かねた母親の伝手で、大手商社ワン・インターナショナルにインターンとして採用されるが、高卒・社会人経験ゼロで“コネ入社”したグレは、同期や上司から冷ややかな視線を浴びせられるのだった。
このフレーズに注目!
「우린 아직 다 미생이야. 」(俺もまだ未生だ)
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ついこの間年が明けたと思ったら、もう4月がすぐそこに。昔のように進学、就職といった節目のイベントが自分事ではなくなっても、年度が変わるこの季節は、独特の高揚感に包まれます。
『ミセン-未生-』は、そんな“社会に飛び出したあの頃”を思い出させてくれる韓国のオフィスを舞台にしたドラマ。十数年前の作品になりますが、本作で描かれる働く人々のリアルは、今見ても共感の嵐です。
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幼い頃からプロ棋士の研究生に選ばれるほどの実力を持っていたグレ。しかし、病気がちだった父親に代わって家計を支えていたため、囲碁の勉強に集中することができず、プロ試験に落ち続けて年齢制限を迎えてしまいます。学校にも通っていなかったため、学歴は高卒認定試験によってどうにか「高卒」を手に入れた状態。代理運転や銭湯の掃除などのアルバイトを掛け持ちして生活していました。
26歳になっても社会人経験がゼロに等しいグレに対して、同じくインターン試験に受かった同期たちは高校・大学とみっちり勉強してきた秀才ばかり。新人でも即戦力と結果が求められる商社でコピー機すらまともに扱えないグレは、必然的に浮いてしまうのでした。
韓国語「낙하산(落下傘)」とは?
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本題に入る前に、豆知識をひとつ。会社の人たちがグレのことを「낙하산(発音:ナッカサン)」と呼んでいることに気づきましたか? 「낙하산」は「パラシュート(落下傘)」という意味の韓国語なのですが、韓国では「本人の能力ではなくコネで就職・昇進すること」という意味もあるんです。日本の「天下り」のように空から降りてくるイメージが由来となっていて、「낙하산で入って来た」「あの子は낙하산らしいよ」という風に使われます。韓国ドラマでよく登場する単語なので、注意してセリフを聴いてみてくださいね。
自分次第で変われる石
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グレが配属されたのは、なんでも屋な商社の中でも面倒な案件ばかりを押し付けられる営業3課。ひたすら囲碁と向き合ってきたため、人とのコミュニケーションが苦手なグレですが、その囲碁で培った洞察力と忍耐力を活かし、不器用だけど情に厚いオ・サンシク課長と、課長に振り回されながらもグレのことも気遣ってくれる優しい先輩キム・ドンシクのもとで働くことのイロハを学んでいきます。
こうしてグレは、トラブルに巻き込まれながらもインターンから本採用に進む試験に合格。しかし、正社員に合格する同期たちの間で、ひとりだけ2年間の契約社員としての採用でした。
不正を絶対に許さない性格のオ課長は、コネ入社のグレのことを「歓迎していない」としつつ、「試しにあがいてみろ。ここは耐えることが仕事だ」と囲碁に例えて励まします。
「버틴다는 건 어떻게든 완생으로 나간다는거니까 (耐えた人間が完生(ワンセン)になるんだ)」
「우린 아직 다 미생이야.(俺もまだ未生(ミセン)だ)」
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ドラマのタイトルにもなっている「未生(ミセン)」とは、囲碁用語で「死んでもいないし、生きてもいない石」のこと。そして、「完生(ワンセン)」とは「相手にとられることのない、完全に生きた石」のことだそう。本作において契約社員のグレはまさに「未生」。でも、自分でどう道を切り開いていくかによって、その先は変えることができるというオ課長なりの激励が感じられるセリフです。
課長とインターンの関係ですから「君はまだ未生だ」でもよかったかもしれません。でも、オ課長が「俺もまだ未生だ」と語るのがミソ。一対一で戦う囲碁の世界に対して、会社はさまざまな人が連携してプロジェクトを進めていく場所。オ課長の言葉はグレにとって「我々は仲間だ」とも聞こえたのではないでしょうか。
このほかにも『ミセン-未生-』には、「夢中であれ。常に無我夢中であれ」「成功とは自分がどう意味づけするかじゃないか?」など、仕事だけでなく人生のさまざまなシーンでハッとさせられる名セリフがたくさんあります。
心がスカッとするサイダードラマのような華やかさはないけれど、見ているうちにじわじわと活力が湧いてくる『ミセン-未生-』。新年度が始まる今、もう一度見直したい作品です。
K-POPアイドル、俳優にインタビューを行うフリーランスライター。学生時代からライターとして活動、韓国在住経験もあり。
この連載では、韓国ドラマのセリフやタイトルに注目し、ドラマ鑑賞がもっと楽しくなる豆知識をご紹介。韓国語能力試験(TOPIK)の最上級である6級を取得したライター・轟友貴が、独自の視点でお届けします。