昨年、一昨年は書籍を含めたフェミニズムの実は当たり年だった。“イギリスのBBCが選ぶ世界の人々に影響を与えた「100人の女性」”に選ばれた著者がつづったエッセイや、時代を越えて今読んでも心に響くフェミニズム関連書籍をご紹介。
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『文章読本さん江』『趣味は読書。』『名作うしろ読み』『ニッポン沈没』『文庫解説ワンダーランド』『日本の同時代小説』ほか著書多数。
『♯KuToo 靴から考える本気のフェミニズム』
石川優実
現代書館 ¥1,300
著者は'87年生まれのグラビア女優。'05年に芸能界入りするも、露出の多いグラビアの仕事などで不本意な思いをすることが多かった。'17年、「#MeToo」運動に啓発されて自らが受けた性暴力を告白。以来、<本気で怒ることにした。怒っていることがはっきり分かるような伝え方を意識的にした>。巻末には2本の対談も収録され、性差別から労働問題まで多角的に考えさせる。
『愛という名の支配』
田嶋陽子
新潮文庫 ¥590
著者は’41年生まれ。テレビで毒舌を吐くフェミニストのイメージが強いが、実は気鋭の英文学者。この本では、女性はガレー船の船底に閉じ込められたドレイと同じだ、という持論を展開。言葉は過激だがストンと胸に落ちるフェミニズムの入門書。’92年刊。’19年に復刊された。
『ユルスナールの靴』
須賀敦子
河出文庫 ¥640
著者は海外文学に精通した随筆家(’29〜’98年)。マルグリット・ユルスナールという女性作家の足跡をたどりながら、自身の半生を語る。<きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ>という書きだしが印象的な’96年の名エッセー。
ひとりの女性のつぶやきから始まった、一大ムーブメント
突然ですが「#KuToo(クートゥー)」って知ってます? 「靴」と「苦痛」と「#MeToo(ミートゥー)」をかけた2019年の新ワード(新語・流行語大賞のトップ10にも選ばれた!)である。
<私はいつか女性が仕事でヒールやパンプスを履かなきゃいけないという風習をなくしたいと思ってるの。(略)なんで足怪我しながら仕事しなきゃいけないんだろう>
ひとりの女性のそんなツイートから始まったこのムーブメントは「職場でのヒール・パンプスの強制をなくしたい!」というネット上の署名活動に発展。1万8000筆が集まるとともに国際的にも大きな反響を呼び、言いだしっぺの石川優実さんは'19年、“イギリスのBBCが選ぶ世界の人々に影響を与えた「100人の女性」”のひとりにも選ばれた。
『#KuToo 靴から考える本気のフェミニズム』はその石川さんが、署名活動にいたるまでの経緯とその後をつづったエッセーだ。
キッカケは'18年から始めた葬儀のアルバイトだった。同じ現場なのに男性はぺたんこな靴、女性は「ヒールは5センチから7センチを目安に」。そのとおり5センチのパンプスで仕事をしたら初日で早くも足を傷めた。行き帰りはスニーカーに替えるも、疑問は募るばかり。なぜ同じ職場で男女の履き物に差があるのか。体に負担のかかるものをなぜ強制されるのか。理由は簡単。女性ゆえに強制される苦痛である以上、それは性差別にほかならない。〈男性より楽をしたいわけではない。男性と同じ状態にしてほしいのだ〉。
ハイヒール! これには盲点を突かれましたね。女性と靴の関係には文化的なコードが働いている。シンデレラは小さなガラスの靴が入る足の持ち主、『長くつ下のピッピ』は大きな靴の愛用者。小さな足や窮屈な靴は「女らしさ」の象徴なのよね。とはいえ現実社会でヒールがどれほど女性を縛っているかをちゃんと考えてきたかというと……ねえ。そんな無意識を「#KuToo」は直撃した。
とはいえ、くだんの投稿や署名運動は物議を醸し、石川さんのもとには異論反論のツイートが押し寄せた。いわく〈葬儀場でのお仕事は故人をお見送りする大事な仕事です。パンプスを履くのは当然です〉。いわく〈TPOの問題を、性差別やら政府批判に繋げ、女性の代表面しているのが気にくわない〉。こうした批判(というより攻撃)をひとつひとつ論破しながら彼女はいう。〈「自分の職場内でやれ」って声がすごく多かったけど、もしそうしてたらそこで終わっちゃいましたね〉。
昨年、一昨年は書籍を含めたフェミニズムの実は当たり年だった。若い世代の性差別との戦い方は、エクラ世代も触発される点多し。なんだか勇気づけられます。