デビュー作『三つ編み』で一躍有名になったフランスの女性作家、レティシア・コロンバニの新作が『彼女たちの部屋』だ。“女性会館”を舞台に、過去と現在、100年の時を超えた2人の女性の人生が響きあう。同作家の『三つ編み』や、1959年の作品ながら褪せぬ読み応えのフランソワーズ・サガン『ブラームスはお好き』もおすすめ。
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『文章読本さん江』『趣味は読書。』『名作うしろ読み』『文庫解説ワンダーランド』ほか著書多数。8月末に『中古典のすすめ』(紀伊國屋書店)を刊行予定。
『彼女たちの部屋』
レティシア・コロンバニ 齋藤可津子/訳
早川書房 ¥1,600
気がすすまないまま始めた女性会館でのボランティア。ソレーヌの前に現れたのは、未知の世界の女性たちだった。世界各地から亡命してきた人。一日中編み物をして会館の前で売る人。路上生活が長く、荷物を肌身離さず引いている人。彼女らの過去は悲惨だが、登場人物は皆魅力的。1920年代の会館創設秘話が物語に深みを与える。映画監督から転身した作家だけあり、描写は映像的であっという間に引き込まれる。
『三つ編み』
レティシア・コロンバニ 齋藤可津子/訳
早川書房 ¥1,600
インドの「不可触民」として生まれたスミタ。イタリアでかつら製造業を営むジュリア。カナダの敏腕弁護士サラ。国も階層も異なる3人を結びつけたのは「髪」だった。フランスで100万部のベストセラーになったというコロンバニのデビュー作。
『ブラームスはお好き』
フランソワーズ・サガン 朝吹登水子/訳
新潮文庫 ¥490
主人公は39歳バツイチのデザイナー、ポール。中年男のロジェと長く付き合ってきたが、ある日、25歳の青年シモンに猛アタックされる。「もう、私、オバーサンなの」という認識にムッとしつつも懐かしい、大人の恋愛を描いた1959年の作品。
話題のフランス女性作家の新作は“女性会館”が舞台
フランス文学といったら、私くらいの世代だとやっぱりサガンかボーヴォワールかしら。なんていったらもう「古い」といわれちゃうのかも!
レティシア・コロンバニ『彼女たちの部屋』は、前作『三つ編み』で一躍有名になったフランスの女性作家の新作だ。『三つ編み』は3つの国の女性をつなぐ物語だった。この作品は、2つの時代のフランス女性の物語である。
ソレーヌは40歳、独身。パリの法律事務所に勤める優秀な弁護士だったが、ある日、裁判所の7階の吹き抜けから飛び降りて、重傷を負う。燃え尽き症候群、仕事の挫折に起因する鬱(うつ)だった。
体が回復しても弁護士に戻る気はせず、かわりに始めたのが「女性会館」での「代書人」というボランティア活動だ。女性会館はさまざまな事情で住む場所をなくした女性たちの保護施設で、彼女らのために書類や手紙を代筆するのが代書人の仕事だった。週に1度のこの奉仕活動がしかし、ソレーヌの人生を変えるのである。
会館に住む女性たちの境遇は、想像を絶するものだった。
ビンタはギニアから娘を連れて逃れてきた。自分も経験した性器切除を娘にだけはさせたくなかっ
た。息子は置いてきた。〈書いてください。息子につたえてください、ごめんなさい、と〉。
シンシアは反抗的で、自由がない会館に不満をもっていた。だから館長に手紙を書けという。ソレーヌがむずかしいと答えるとシンシアはいい放った。〈なら、あんたも同じ〉〈役立たず! あんたなんか、いなくていい!〉。
さあ、どうするソレーヌ!
物語の舞台になる女性会館(パレ・ドゥ・ラ・ファム)はパリに実在する会館で、1910年に建てられたという古い建物だ。最初は低賃金労働者のための集合市営住宅だったそうだが、1925年に女性会館に生まれ変わった。
この小説のもうひとりの主役が、実はこの建物を女性会館に生まれ変わらせた女性、ブランシュである。救世軍の最高位である本営長にまで上りつめた彼女はすでに50代の後半だったが、夫を巻き込んで女性の居場所づくりに猪突猛進、突き進むのだ。
〈パリ市だけで宿無し女性は何千人もいる。みな襲撃と売春の危機にさらされている〉〈これを仕方がないと受け入れるの?〉
ついに見つけた物件は、6階建てで個室の数は743。広大なエントランスと集会所と食堂つきで屋上
からの眺めも抜群。残る問題は資金集めだ。こっちはこっちで……どうするブランシュ!
内向的なソレーヌとパワフルなブランシュ。100年の時を超えたふたりの中にあるのは同じ志である。他者を救うことは自分を救うことなのだと教えられます。