'14年に『モンスーン』で李箱文学賞を受賞、'17年に『ホール』でアメリカのシャーリイ・ジャクスン賞長編部門を韓国の小説家で初受賞したピョン・へヨンさん。彼女が『モンスーン』で描きたかったこと、書くうえで刺激を受けていること、自身と同じエクラ世代をどう捉えているかなどを教えてもらった。
李箱文学賞受賞作家 ピョン・ヘヨンさん
映画やドラマの勢いは“書くこと”にも力をくれる
取材の途中で作家ピョン・ヘヨンさんが切り出したのは、’14年に自身が受賞した李箱文学賞にまつわる問題だ。
「昨年の候補者たちが、受賞拒否というかたちで、主催する出版社が作家に強いる不公正な契約について問題提起したんです。これをきっかけに、作家たちは“不公正には断固として声を上げるべきだ”という認識に変わっていきましたね」
受賞作「モンスーン」は、ある夫婦に漂う不穏な空気の正体を、薄皮をはぐように描くサスペンス。
「人間の生き方や世界の“ゆがみ”の原因は正確には把握できないし、いつのまにか展開し、解決していることも。世の営みは不可解なものです。韓国文学の強みは、例えば『82年生まれ、キム・ジヨン』のように、個人の生き方を通じて社会的な問題を描くこと。『モンスーン』の中には、セウォル号事件以降に多く描かれた“子供を失った親”や、システムの中で使い捨てにされる個人について描いた作品などがあります」
世界的に評価が高まる韓国エンタメにも、大きな刺激を受ける。
「映画監督ではパク・チャヌク、ポン・ジュノ、ヨン・サンホが好き。ドラマではキム・スジン脚本の『怪物』(’21年百想芸術大賞受賞作)が印象的でした。連続殺人ものの形をとりながら、社会の弊害を突き詰めて追った作品です」
子供と親のケアや仕事の責任は重く、でも気遣ってはもらえない……、自身と同じエクラ世代を「最も孤独な時期」と語るピョンさん。
「だからこそ自分と遊ぶ方法を見つけ、かわいらしく活発な老後に備えたい。ドラマでも文学でも音楽でも、楽しみのリストをどんどん増やしていってほしいです」
『モンスーン』
姜信子/訳 白水社 ¥2,200
小さく軋む日常が浮き彫りにする、夫婦の「過去」とは。李箱文学賞受賞の表題作を含む短編集は、日常をジワジワと蝕む不気味さを描くサスペンスが満載。
『ホール』
カン・バンファ/訳 書肆侃侃房 ¥1,760
交通事故で妻を失い、全身不随に陥った男と、その介護をしながら精神に異常を来してゆく義母を描くサスペンス。
『アオイガーデン』
きむ ふな/訳 クオン ¥2,750
狭いマンホールで身を隠して暮らす子供たち(「マンホール」)など、美しくもグロテスクな世界を描く8編を収録した短編集。