50代から始めたい大人の和稽古。前回に続きスタイリスト青木貴子さんの和稽古を取材。3年前から古筆を学んでいる青木さん。単にきれいなだけではなく自分らしい字を探求しているという。
「若いときより出てきた学びの欲。年齢を重ねたからこそ、やってみたい」
単にきれいなだけでなく、自分らしい字を探したい
数日後、黒いニットのセットアップというシックな装いの青木さんは、真剣な表情で筆を動かしていた。ここは古筆を研究している関口研二さんのアトリエ。古筆とは、平安から鎌倉時代にかけて書かれた和様の優れた名筆のことで、青木さんは3年前からここに通っている。
「書を学ぶときは、どんな字を書きたいかを明確にすることが大切です。私はかなをきれいに書きたいと思い、始めました。単にきれいなだけではなく自分らしい字を探したいという気持ちもありました」
青木さんがこの教室を知るきっかけになったのは、スタイリングを担当したあるモデルだった。撮影で彼女が短冊に文字をしたためているところを見て、文字の美しさに心惹かれた。
「図々しいと思いつつ、そのモデルさんにどこで習っていらっしゃるのかおうかがいして、紹介していただいたんです。彼女の字を見たときの直感は間違っていなくて、関口先生の書は本当に素敵。まさにこれこそ私が習いたかった字! 古筆を通して、短歌や俳句などにも興味が広がりはじめました」
関口さんのアトリエでは、週2日生徒を受け入れていて、好きな時間帯に行き、好きなだけ書と向き合える。
「日本の美術の中で一番優れているのが書道だと思うんです。書の世界はピュアな世界。効率が求められる現代で、手で書くという行為を通して、自分の心を掘り下げていける楽しみがあります」(関口さん)
継続できている理由はほかにもある。
「大前提としてお茶もお習字も楽しいというのが大きいです。そして、お稽古の時間はそこに集中してほかのことを何も考えないので、その時間が気持ちいいんです。40代のころにサーフィンに通っていたことがあって、サーフィンも波のことしか考えない状態が心地よかった。夢中になれることって日常ではなかなかない。マインドリセットとデトックスの効果は抜群です(笑)」
中国の陽明学の命題のひとつに「知行合一(ちこうごういつ)」というものがある。「知ると行うをひとつにすること、知識は行動を伴ってこそ初めて完成される」という意味で、青木さんは和稽古を通して、そのことを実感している。
「若いころより学びへの欲が出てきました。茶道、書道など“道”のつくものは、精神的なものと深く結びついています。道は必要なときに現れるといいますし、年齢を重ねたからこそ、道に入ってみたい境地になったと思うんです」
先生が書いた手本を見ながら書いていく。4文字からスタートし、今は5〜6文字を練習中
「今はまだ漢字で、かなにはいたっていません。家でも時間をつくって練習しています」
手本の横に文字を書いたら、先生に見てもらう。「これなんてすごくいいんじゃない?」とほめられると、笑みが浮かぶ
今年1月、青木さんも書展に初出展。「下手すぎて泣きたくなりましたけど……。書いたのは私が好きな川端茅舎(かわばたぼうしゃ)の俳句。題材を探す過程も楽しかったです」(青木さん)