アラフィー世代の作家・加納朋子さんにインタビュー。今年デビュー30周年を迎えた加納さんに、最新作『空をこえて 七星のかなた』や、作家をめざすきっかけについて話を伺った。
今年デビュー30周年。同世代作家の話題の最新作
OLが毎週同じ曜日に起きるできごとから推理を働かせたり、小学生の女子がスカートをはきたがらなくなった理由を同級生の母親が見抜いたり。エクラ世代のミステリー作家・加納朋子さんは、そんな“日常の謎”をテーマに極上のエンタメを描き続け、今年でデビュー30周年。最新作『空をこえて七星(ななせ)のかなた』の登場人物は星にゆかりのある人々だが、彼らが巻き込まれる事件の解決策に意表を突かれるだけでなく、最後にある事実が判明して心底びっくり。同時にたくさんの人たちの温かい思いが伝わってくる連作小説だ。
「『銀河鉄道の夜』や『星の王子さま』など、昔から星にまつわるお話が大好きなんです。本作は一篇一篇がカラーの違う星で、最後にそれらが集まって星座になるイメージで書きましたが、ミステリー作家なのでもちろんたくらみもまじえたかった。物語と伏線を同時にまとめていくのが本当に大変でしたね(笑)」
「神のような名探偵ではなく、読者と同じ目線で考える人を書いていきたい」
等身大の人物の、鋭くも視野の広い目で日常の謎が解き明かされ、いつも温かい余韻が残る加納さんの小説。本作では“普通の人が抱くちょっとした負の感情”が事件のきっかけになる。それは、ひときわ輝く星とその周囲にある小さな星を想像したとき、思いついたのだという。
「みんなが憧れる万能な人、いわゆるスターは、見方を変えれば凡人に自分の小ささを思い知らせる存在。そういう人が身近にいたら大変だろうなと思ったんです。“なぜあの人にはできるのに自分にはできないの?”と考え込んだり、努力しきれない自分を責めたり。ひとりでモヤモヤを募らせる人を思い浮かべたとき、想像が膨らんでいきました」
壊れるかもしれない日常の貴重さを伝えたい
「本好きだった両親の影響で小さいころから趣味は読書でした」という加納さん。特に好きだったのがミステリーで、小学校の図書館にあったルパンやホームズのシリーズはすべて読破した。中学生になると、家の本棚にあったブラウン神父シリーズなどを読むように。
「それが本格ミステリーにハマるきっかけでしたね。ブラウン神父シリーズは何度も読み返しましたが、トリックを知っていてもすばらしさが色あせないんです。ほかにもアガサ・クリスティーなど、好きな作家がどんどん増えていきました」
作家を志したのはOL時代に“日常の謎”の創始者といわれる北村薫さんの小説を読んだのがきっかけ。主人公の年齢や考え方が自分に近いことに強い感銘を受けたのだという。
「ちょうどそのころ上司に“きみは特技がないというけれど好きなことは何もないの?”と聞かれて、答えられない自分にショックを受けたんです。もちろん読書は好きでしたが、先人が書いたものを享受していただけ。そう思ったとき、北村先生にお手紙を書くつもりで自分なりに小説を書いてみようと考えました。日常のできごとを書く際によく思い出すのは、まだOLもしていたころに起きた地下鉄サリン事件のことです。当時私は、事件が起きたのと同じ路線を利用していた。“もし通勤時間がずれていたら?”と考えたとき、運命の分かれ道という言葉が頭に浮かんだんです。日常はあっけなく壊れてしまうものかもしれない、だからこそ貴重なんだと強く感じましたね」
25歳のときに初めて書き上げた「ななつのこ」で鮎川哲也賞を受賞。デビュー後は同世代の女性に寄り添った作品を書き続け、『ささら さや』『七人の敵がいる』などは映像化もされた。’10年には急性白血病という大病を患ったが、それを乗り越えた経験を『無菌病棟より愛をこめて』につづり、大きな反響を呼んだ。
「これからも元気に書いていきたいと思っていますが、この業界には次次に天才が出てくるし、不安になることも。でも将来の年金受給額を計算すると“まだまだがんばらなくちゃ!”という気持ちになるんです(笑)。今年の春に子供が就職で家を出て、ちょっと空の巣症候群みたいになっていますが、私にできることでほかのかたに喜んでいただけることはこの仕事しかない。そんな崖っぷちな気持ちが、書き続けている理由かもしれませんね」
【加納朋子さんの新刊】
『空をこえて 七星のかなた』
加納朋子 集英社 ¥1,760
南の島や田舎町の高校などを舞台に、星にゆかりのある人々と彼らが巻き込まれる事件を描いた7編を収録。読み終わったとき著者の発想に驚かされ、同時に感動も押し寄せてくる連作ミステリー。