最近「京都に移住した・拠点をもった」というエクラ世代が増えているよう。京都に暮らし始めたことでわかった街の魅力とは? 実際に暮らしはじめたエッセイスト・仁平 綾さんに話をうかがった。
気軽に非日常を味わえる。旅するように暮らせます
エッセイストの仁平さんが京都に越してきたのは’21年。美容師の夫と9年間暮らしたニューヨークから移住した。
「一生ニューヨーク暮らしでも?と思った時期もありましたが、先々が不安になるような医療費問題に直面したり、コロナ禍で夫が勤める美容院が一時クローズしたり。この機会にいったん日本に戻り、自然の近くで暮らしたいと思うように」
ニューヨークの前は東京に住み、都心暮らしは十分満喫。戻る先は「東京じゃなくてもいいかも」と夫と話し合い、まずはリモートで物件探しを始めた。
「京都は緑が多くて自然が近く、ほどよく都会で、ごはんもおいしい。以前から大好きな街でした。親戚ゼロ、友人2人くらいの、夫婦ともに縁もゆかりもない場所でしたが、手始めに夫の美容院用の物件を探したら、あれよあれよという間に決まりまして」
だが、家探しはまさかの大苦戦。不動産屋に「京都は全国でも一、二を争う猫可物件が少ない街」といわれて愕然。ニューヨークではまったく問題なかった愛猫がネックとなり、京町家暮らしの夢も儚(はかな)く消え、気に入った物件もことごとくNG。ニューヨークの家を引き払い、京都で1カ月のホテル暮らしをスタート後、やっとリノベずみの一軒家が見つかった。
「ほっとしたのもつかの間、初めて迎えた冬に底冷えのひどさ、外気温かと思う築古の木造一軒家の寒さに震えました」
さらに屋根裏に害獣が入り込み、それを愛猫が察知して……などのできごとが重なり、再び引っ越しを決意。街の中心部からは少し離れたが、猫可で24時間暖房完備のマンションに落ち着いた。
「築古の一軒家は、私たちにはハードルが高すぎました。今はとても快適です。マンションの目の前に山がそびえ、ベランダに白鷺が飛んできたり、近くに猿もやってくる、自然に近い暮らしです」
京都に暮らして驚いたことのひとつが、いたるところで湧き水をくめること。
「貴船神社や上賀茂神社などの寺社だけでなく和菓子屋さんの店先などにも湧き水をくめるところがあり、空のボトルを持ち歩くようになりました。『湧き水でごはんを炊くとおいしいよ』と教えていただき、試してみたら感動的なおいしさで。京都は、酒蔵、お麩屋さん、和食屋さんなど、敷地内の湧き水を使っていらっしゃるお店が多い。お豆腐屋さんにお聞きしたら『湧き水は軟水だから大豆の甘さが出ておいしくなり、温度が一定なのでお豆腐も作りやすい』のだとか。すっかり湧き水の虜(とりこ)になり、見つけるたびにくませていただいてます」
食べることも大好きで「京都は食べたいもの、行きたいお店がありすぎて、全然追いつきません。グーグルマップが行きたいお店でピンだらけ」と笑う。ふだんは自炊中心。でも京都に暮らしていると毎月誰かしら遊びにきてくれるため、そのときに行ってみたい店、お気に入りの店で外食を楽しんでいる。子供連れや大人数のときは焼き肉屋へ。京都で焼き肉?
「と思うでしょ。これがおいしいんです。京都ならではの『洗いダレ』という少し酸味のあるだしのようなタレがあり、肉ダレと脂をほどよく落としてさっぱりといただけます」
大好きな和菓子も、季節ごとに次々と出るためこちらも追いつかず。ならばとひとつのお菓子を定点観測してみる試みも。
「いろいろなお店の柏餅を10種類くらい買って食べ比べてみました。同じように水無月も。日持ちがしないため、夕飯が水無月だった日もありました」
移動は車が多く、街中なら30分ほどあれば、たいていどこへでも行けるという。
「大原に野菜を買いにいったり、嵐山の日帰り温泉に行ったり。好きな大徳寺をふらっと訪れたり、雪の日に『きれいなはず!』と金閣寺を訪れたことも。京都は邪気を払える場所が至るところにあり、パワースポットもたくさん。お散歩がてら鞍馬寺でパワーチャージすることもあります。自然が近く、神社仏閣が多いから、スッと自分を整えることができる。よどんだ気持ちをリセットできる場所も近くにいっぱいあり、鴨川もそのひとつ。川辺でぼーっとしながらハイボールを飲むだけで、気分転換になります」
時には、街中の温泉つきホテルに泊まり、ひとり旅を楽しむこともあるとか。
「行きたかったごはん屋さんで夕飯を食べ、ホテルに戻って温泉に入り、神社仏閣をめぐって。ひとり旅ごっこを楽しみ、すっきりしてまた日常に戻ります。京都の人もお店もひとり客に慣れているから、いい具合にほったらかしにしてくれる。それもとても心地いいんです。旅するように暮らせる街だなぁと思います」
「京都での物件探し」のポイント
・ペット可、特に猫可物件が少ない
猫も、猫好きも多そうなイメージがある京都だが、意外にも猫可の賃貸物件が少ない。そもそもペット可の賃貸物件が少ないよう。
・築古の一軒家はハードル高め
盆地だから、地下水が豊富だからなど諸説あるがとにかく底冷えが厳しい。断熱性が低いままの古民家や築古の一軒家は要注意。害獣が屋根裏に侵入することも。
京都に住んで、やっぱりよかった
写真/仁平さん提供
湧き水のおいしさにハマりボトルを持ち歩き
「貴船神社は、くんだ湧き水を持ち帰れるよう、ボトルも売っているんです」。水の神を祀る貴船神社では、貴船山から湧き出る御神水を飲むのはもちろん、持ち帰ることもできる。夏は冷たく、冬はぬくもりがあるとか。
写真/仁平さん提供
京都ならではのタレで食す焼き肉は絶品!
子連れや大人数の来客時には焼き肉屋に行くことが多く、『牛おおた』はお気に入り。
「京都はお肉もおいしいですよね。洗いダレを初めて見たときは、てっきりフィンガーボウルかと(笑)。さっぱりいただけます」。
写真/仁平さん提供
京都人に愛されてきたソウルフードのお総菜
これぞ“京都の味”と関東出身の仁平さんがひそかに思っているのが、フレンドフーズ下鴨店で購入できる『井上佃煮店』のお総菜。かつて錦市場にあった老舗で、現在はこちらで手作りし、販売している。
写真/仁平さん提供
季節の定番和菓子を食べ比べる楽しみ
今年“定点観測”した柏餅。京都の数あま多たある和菓子店から購入し、食べ比べたそう。ちなみに水無月の今年の“定点観測”は『末富』さんに軍配が。こんなふうに和菓子を楽しめるのも京都暮らしの醍醐味。
BOOK GUIDE
『京都はこわくない』
仁平 綾
大和書房 ¥1,650
移住して3年。いけず、一見さんお断り、食、お祭りなどなど、“よそさん”が体験する京都暮らしをつづったエッセイ。さらに京都が好きになり、住んでみたくなる一冊。
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