引っ越しで部屋の広さが2/3ほどになったのをきっかけに、手持ちのものを大幅に手放したというインテリアスタイリストの洲脇佑美さん。暮らしのプロならではの家具や道具を選びの視点、美しく暮らすコツをうかがった。
Profile
洲脇佑美さん
インテリア&フードスタイリスト。大学で空間デザインを学んだのち、インテリアショップに勤務。その後、アシスタントを経て、スタイリストとして独立。雑誌をはじめ、広告、書籍などで幅広く活躍する。芯のある美しく洗練されたスタイリングに定評がある。
Instagram:@suwaq
58㎡、1LDK、1人暮らし。リビングダイニング、セミオープンのキッチン、寝室、洗面・トイレ・浴室という間取り。リビングダイニングは、廊下や寝室より階段2段分天井が高い。そのぶん、より広々と伸びやかに感じられる。
軽トラック1台分のものを手放して
洲脇さんが暮らすのは都内のマンション。20年以上前に建築家によってデザインされたという、外観からもただならぬオーラを感じる瀟洒な佇まいだ。58㎡の1L D Kに4年前から暮らしている。
「その前は83㎡のマンションに暮らしていました。3年半という期限付きだったため、次を探していたのですがなかなか好みの物件が見つからず。ギリギリでやっと出会えたのがこのマンションでした」
洲脇さんの物件選びのポイントは「挑まれている?」と感じること。一瞬「ん?」と思うが、つまりはこういうこと。たいていの人にとって「このスペース、どうしたらいいの?」となりそうな家の中の余白、もしくはちょっとしたディスプレイスペースのような場所があると「挑まれてる?ならばそのスペースを生かしてみせる!」と俄然やる気スイッチが入るのだとか。スタイリストという職業ならではのポイントだろう。
LDは写真手前をリビング、窓側をダイニングに。最初は窓側にソファを置いてリビングにしていたが「長く過ごすのがダイニングテーブルなので窓辺のいい場所に、と入れ替えました」。美しく高級感のあるフローリングが目をひく
LDには南側に大きな窓があり、冬は陽射しが室内までたっぷりとさし込む。右側の壁の棚も「挑まれた」スペース。井藤昌志のシェーカーボックスなどを飾っている
ダイニングテーブルは、今はなきデンマークのアンドレアス・タック社の製品で、ハンス・J・ウェグナーによるデザインのヴィンテージ。「なんて綺麗なんだ!しかもエクステンション式で」と購入。オーク材で、最大2.4mまで伸長できる。チェアはイルマリ・タピオヴァーラによるキキ チェア。肘掛けありとなしを愛用。人間工学に基づいてデザインされ、長時間座っていても疲れないそう。ともに北欧を代表するデザイナーによるものだが、いわゆる定番ではないところに洲脇さんらしさが
家にいる時は、よくここにいるという定位置
この家に越して購入したのが、2つ並べたイケアのチェスト「アレクス」
「チェスト上にはそのときどきのお気に入りを並べています」。陶器のピッチャーやカップはインゲヤード・ローマン、ガラスジャーはピーター・アイビー、持ち手付きのシェーカーボックスは井藤昌志、アートはピーター・マッキャリーニのもの。黒をピリリと効かせた、好きなモノトーンでまとめ、ガラスなどを加えて抜け感を出している
チェストの最上段、浅い引き出しには仕事や来客時に使用するカトラリーを収納。コレクションしているアイヘンラウプの柄がオーク材のカトラリーやフランスなどのアンティークが美しく並ぶ
「スタイリストにしては自宅にものが少ないね」と言われると洲脇さん。それでも83㎡から58㎡への住み替えでは、軽トラック1台分のものを手放すことに。さらに、自らペンキを塗り、家具をコーディネートした4畳半ほどの仕事部屋の家具や小物を丸ごと知り合いに譲ったという。さぞかし断腸の思いだったのでは?
「それがわりと辛くはなくて(笑)。ないならないで・・・という感じでした。仕事で使った布や小物類をはじめ、家具はこの家に入るもの、似合うものだけを残し、あとはすべてフリマーケットなどで手放しました。仕事部屋も、コーディネートしたものを丸ごと知人が『自分の仕事部屋に』と引き継いでくれたので、うれしかったですし」とにっこり。
この家に越して購入した家具はチェストのみ。あとはすべて前の家でも使っていたものばかりだが、不思議と見え方が違うという。
レザー張りのシボネのソファは「もっとオレンジっぽい色だったのですが、いい感じに色褪せてきました」
ラタンのソファはフランスのヴィンテージ。自由が丘のブロカントで見つけた。大小のコーヒーテーブルは、神宮前にあった知る人ぞ知るショップ、キコで購入したアジア製。手前の黒いスツールは座り心地抜群のイルマリ・タピオヴァーラによるテールスツール
ソファ横に置いたのはアーツ&サイエンスで購入したイギリス製のシェーカーボックス。中にはケーブル類やスチーマーなどを収納。「ここにこれを置きたいとまず決め、その後、何を収納しようか?と考えます」
LDとキッチンとの間の壁はコの字型にくり抜かれていて、そんなところも心憎いデザイン。おそらくほぼ竣工当時のままだとか。食洗機はAEGでIHコンロが2つ付いている
天板も扉も白で統一され、天然素材で作られた愛用の美しい道具類が映える。ガラスのポットはヤエカのもの
布巾をかけた大ぶりの陶器のボウルは、フランスから大切に抱えて持ち帰った
惹かれるのは、魅力がじわっと伝わってくる家具や雑貨
インテリアのベースとなるのはずっと変わらず、白、黒、木目のベーシックカラー。家具や小物、器を買うときはあまり迷わず、ほぼ即決だという。「さすがにダイニングテーブルのような値の張る大物家具を買うときは、少し考えましたけどね」
家具やものを選ぶ基準は、佇まいの美しさ。
並ぶのは、北欧やフランスのヴィンテージから、アジアや日本のものまで、洲脇さんの「好き」というフィルターをくぐり抜けた年代も出自に違う家具やものたちだ。それぞれの佇まいの美しさを生かすためにも「間」を大切に、あまり多くは置かないとも語る。
「欲しいと思った家具と出会ったら、何かひとつ手放して入れ替えます。新しい小物が増えたら、それを中心に周辺をスタイリングしなおし、不要なものはしまいます」
キッチンとの間仕切り壁には、固定されて動かないダイニングテーブルが設置されている。「手持ちのダイニングテーブルがあるので、ここはディスプレイ台として活用することに」。風合いのある白い布をかけ、植物を飾り、お気に入りの香りのアイテムや洋書・洋雑誌などを美しく並べている
奥の白い蓋付きの容器は野田琺瑯のもの「無駄に大きな、少しスケールアウト気味のものにも惹かれます」
本や雑誌はビジュアル重視で。さりげなく重ねて置くセンスはさすが
備え付けの収納が(向かって左)。床と収納の間の余白も洲脇さんが「挑まれている」と感じた場所。かごや開化堂のとびきり大きな茶筒などを飾っている。収納の横に置いた椅子はフランスのヴィンテージ。ピーター・マッキャリーニによるアートを横に
寝室の窓下には無垢の一枚板の棚が設置され、ここもディスプレイスペースに。窓辺には光を受けて輝くガラス器を並べた。窓には木製の内窓が付き、光を遮断できる
浴室、トイレ、パウダールームがワンルームになっている。浴室は在来工法で、窓もあり明るい。壁は白いタイルで洗面台のカウンタートップは大理石
スイッチプレートが並んだ壁のちょっとした厚みも利用し、飾ることを楽しんでいる
「360°どこを見ても『好き』と思える家になりました。それが私にとっての一番の贅沢です」と洲脇さん。
そう、究極の贅沢とは広さでも豪華さでもなく、自分の「好き」なものだけに囲まれること。家じゅうを見回したときに、どこも「好き」と思えるか、どれだけ密度濃く「好き」で満たせるかだと、洲脇さんの美しい暮らしが教えてくれる。そのためには自分の手に負える広さであることも肝要。
日々そんな家で過ごしたなら、自然と幸せな気持ちが満ちてくるに違いない。