味覚を極める時間は、ひとり旅にこそふさわしい。エクラ本誌でも活躍するフードライター・西村晶子さんが、食通からも注目を集めている京都府・丹後半島へ。好奇心に導かれて訪れた、知る人ぞ知る食体験をもたらす店をレポート。
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“本当においしいものを求めて” 海と山の幸の宝庫、「丹後」へ
海と山が近く、日本海、若狭湾、宮津湾に囲まれた丹後は食材の宝庫
ひとり旅の楽しみは、心底味わえるおいしいものと気遣いなく過ごせる時間。そんな思いをかなえてくれる旅先のひとつが京都府の最北端に位置する丹後半島だ。
「なぜこの場所に?」と思わせるローカルレストランの存在や、都会で修業を積んだ料理人による刺激的な食体験が話題を呼んでおり、いつか行きたいと思っていた。
この時季の丹後の名産といえば11月解禁の松葉蟹を思うが、地元の人いわく「晩秋から冬にかけては蟹にかぎらず旬の味覚がとても豊か。海も山も一年の中で最も美しくて幻想的」と。それを聞いたら、行くのは今!
宮津まで、京都や大阪からJR、京都丹後鉄道で移動すること3時間弱。初日はポルトガル出身のリカルド・コモリさんが鮨をにぎる『西入る』、翌日は車を走らせ、薪焼き料理と海を目当てにカウンターダイニング『raw(ロウ)』へ。
『西入る』
ポルトガル出身の店主の技とセンスが光る、鮨割烹
地元の「飯尾醸造」がもつ蔵を改装した鮨割烹『西入る』
東京の鮨店や日本料理店などを経て、京都で懐石料理の修業を積んだ店主のリカルド・コモリさん。独立を考えているときに奥さまの小森美穂さんと丹後を訪れ、豊かな自然風土や食材に魅了され、’22年6月に店をオープンした。
築120年の蔵の2階にあるカウンターは最大7席
蔵の2階にあるカウンターはひとりでも居心地よく、コースは先付、お椀、造りなどの日本料理8品のあと、にぎり9貫で締める流れ。
シャリは「富士酢」で知られる「飯尾醸造」が無農薬栽培するコシヒカリと同社の赤酢など3種類の酢を使用
地のものをそのまま用いるだけにとどまらず、自身の解釈を取り入れているのが魅力。ネタや鮨め
しも巧みに工夫していて、味や香りの変化が楽しく、食べ疲れず、心地よい余韻を残す。
東京「てのしま」や京都「杦SEN」などで修練を積んだリカルドさん
「ここでやる意味を深めていきたい」と地元への思いや人とのつながりを日々深めているふたり。多彩な海の幸、稲作や発酵文化へのリスペクトがひしひしと伝わってくる。
『西入る』¥20,900のおまかせメニューから
ごまの香りたつ「いちじくの白和え」
大根おろし、らっきょう、玉ねぎポン酢で味わう「鰹のたたき」
卵のかわりのカステラのルーツ「パォンデロー」
肝と青ねぎをしのばせた「ウスバハギ」
「アオリイカ」は細造りにして塩で
「アジ」はしょうがとねぎペーストをアクセントに
Data
raw
日本海の水平線を眺めながら、 薪焼きの滋味を堪能
自然の美しさにフィットする一軒家。昼のコースは¥4,200、夜のコースは¥11,000
ずっと気になっていた海沿いの高台にポツンとたたずむレストラン。宮津から車で小1時間、扉を開けた瞬間から絶景と薪窯の暖気に包まれ、期待以上の世界観に心躍る。
店主の坪倉史明さんは京都のレストランで薪焼きの魅力に開眼し、故郷の網野町でこの一軒家に出会い、’23年11月に開業。
来店時間を逆算して肉を焼き、力強い味わいを引き出す
薪火で焼くステーキをメインに、昼は地野菜のオーガニックサラダとのセット、夜は魚介も楽しめるコースを提供している。
炭になる手前の熾おき火びを巧みに操りながら焼く肉は、表面はこんがりと色づいて薫香が立ち、中はしっとり軟らか。野菜の扱いや火入れも絶妙で、スパイシーなソースも私好み。
カウンター越しに海と空の絶景を楽しめ、「冬の夕景が最高です」と坪倉さん
唯一の心残りはワインが飲めなかったこと。そして、次回は夕日のディナーを楽しみたい。
メニューの一例
サラダは隣町の「SORA農園」に出向いて収穫した野菜を使い、目の前でオリジナルの味わいに
パテや生ハム、テリーヌなどの自家製シャルキュトリの盛り合わせ ¥1,000
肉はマルシンやランプなどの赤身が多い部位を使用し、付け合わせの野菜やソースは頻繁に変わる