庭の石に木の葉が舞い落ちる。そんな情景に、「さりげないおもてなしの積み重ねが心地よさにつながる」と名づけられた『石葉(せきよう)』。女将の小松民枝さんがわずか3部屋の宿を始めたのが1965年。以来、湯河原を代表する旅館となり、通人、美食好きに愛され続けている。
しつらえの妙と温泉、美食。すべてが心地よい至福の宿
石葉(神奈川県)
「建物や家具、しつらえが素敵。そのセンスが行き届いた全体の心地よさが宿の魅力だと思います」と鈴木さん。
一昨年、離れの客室「観月庵」を開放感あふれる洋のしつらえを取り入れてリニューアル。広い月見台にカール・ハンセンのチェアを置き、箱根の山々が眺められるように。畳にはオリジナルの低めの椅子やベッドを備えるなど、快適さを追求しつつ、数寄屋風の雰囲気をしっかり残した。
大浴場は人数制限があり、親世代との旅でも安心。脱衣所が広々として清潔感があり、ここにも名作椅子が置かれている。大浴場も内風呂もすべて自家源泉のかけ流し。無色透明、古くから名湯の誉れ高い上質なお湯だ。
日暮れになれば、いよいよこの宿のハイライトである夕食。相模湾の幸と箱根近辺の山と里の幸。正統派の日本料理の技を駆使しながら、家庭料理のぬくもりを潜ませ、洗練の味に仕上げている。春なら、突き出しはうすい豆豆腐に、女将手作りの果実酒。シンプルに炭火で焼いた和牛に、希少な花山椒をたっぷり添える。定評のある朝食は食材の質にこだわり、炊きたてのごはんから味噌汁や卵焼き、漬け物にいたるまでていねいな作り。しみじみとした味だ。
「夕食は季節のものを、毎回量も質もバランスよくていねいに作っていらっしゃると感じます。家族の食材の好みにもこまやかに対応してくださり、親世代にはおいしいものを少しずついただけるのがありがたいですね。朝食に出る干物は塩かげんが好きで買って帰るほど」
すべての料理は客室でいただく。熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たく。作りたてにこだわり、ごはんはお釜ごと運ぶ。何げない食後のコーヒーもベストな70℃を心がける。すべてがお客さま目線のサービスは、女将直伝。長年育まれてきたおもてなしの心が空間に、料理に、サービスに宿っている。
カツオのたたきを、地酒「丹沢山」の純米吟醸と。神奈川から静岡にかけての地酒を多くそろえている。お造りはガラスに盛り、酒器は井戸徳利と染付の捻文杯で涼感を演出
突き出しは「うすい豆豆腐」。うすい豆の青々しいピュアな味わい。南蛮焼き締めの器に映える
和牛の炭火焼き。希少な花山椒をたっぷり添えて
搾りたてのフルーツジュースが供されたあとで運ばれてくる朝食。炊きたてのごはんは茨城産ミルキークイーン。大アサリとねぎの味噌汁。たらこ、わさび漬け、かまぼこ。優しい甘味の関東風厚焼き玉子。希望すれば、関西風のだし巻きにも。ひりょうずと野菜の炊き物。ほうれん草のおひたし、しらすおろし、アジの干物。素材や形の取り合わせが華やかな和の器使い
「待合」では、アートやインテリア、建築関係の蔵書をめくる楽しみも。「名栗(なぐり)の床が心地よく、しかも冬は床暖房あり。つい時間を忘れてしまいます」と鈴木さん。椅子にはアルパカのブランケットが置かれる
開放的な大浴場。入浴は15時から翌10時半まで。上階の小浴場と男女を夜中12時に入れ替えるのでいずれも楽しめる
離れの「観月庵」は本間10畳、次ノ間の寝室が6畳。本間はテーブルと椅子のしつらえで、椅子は家具作家の般若芳行による石葉オリジナル。床には竹内栖鳳描く蜂の軸が
寝室のマットレスはマニフレックス製で心地いい
小浴場の横には見晴台があり、読書を楽しむこともできる。手前はハンス・ウェグナーのロッキングチェア
DATA
☎0465・62・3808
神奈川県足柄下郡湯河原町宮上749
料金/¥61,750~(サ・入湯税込)
客室/9室(温泉風呂つき4室、温泉風呂つき離れ2室)
IN15:00 OUT12:00
施設/大浴場、小浴場(ともに露天風呂あり)
アクセス/JR湯河原駅より車で約8分
立ち寄り情報
『來宮(きのみや)神社』……JR伊東線・来宮駅そば。樹齢2100年超の大楠の御神木のまわりをまわって、健康成就を願う人が多い。