3.芥川賞受賞作が火つけ役、〝玄冬小説〟そういえば、今年1月に芥川賞を受賞した若竹千佐子さんの『おらおらでひとりいぐも』も、孤独だけど自由なおばあさんが主人公。この本をきっかけに、玄冬小説(青春小説とは対照的に老いを描いた小説)というジャンルが認識されるようになった。
「日本の文学であまり描かれなかったのが老い。でも長生きの時代になり、自分はもちろん親の老いに向き合う話が増えてきた。例えば落合恵子さんが介護の経験を、瀬戸内寂聴さんが90歳過ぎの心境を小説にしています」
また老いを描く場合、女性作家と男性作家では違いを感じる、と斎藤さん。
「『おらおらでひとりいぐも』の主人公は夫を亡くしてショックを受けているけれど、ゆるい抑圧状態からの解放感もある。著者の若竹さんも同様の体験をされていますが、立ち直るために書かなければならなかったことが伝わってきます。落合さんの『泣きかたをわすれていた』も、母親を見送るというつらい経験を書かずにはいられなかったことがわかる。つまり彼女たちは、老いていく人の生活や気持ちの変化を“当然”と認めて、文章化しているんです。一方男性作家は、老いを否定したい、現実を認めたくないという気持ちが強いよう。妻に先立たれた男性はガタガタになってしまうとよくいわれますが、作家にもその傾向があるのかも」
(右)未婚で「わたし」を産んだ認知症の母を、自宅で介護し見送ってから10年。72歳になった今考えるのは、自分と仕事のこれからだった。著者の人生が重なって見えてくる小説。『泣きかたをわすれていた』 落合恵子 河出書房新社 ¥1,500
(中)結婚式直前に故郷を飛び出した桃子さんが東京に来て50年。愛する夫を亡くし、息子とも娘とも疎遠になったが、胸中にあるのは悲しみだけではなかった。新鮮な老いの境地。『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子 河出書房新社 ¥1,200
(左)大病を経て退院した「私」は、若い秘書たちに支えられながら痛みや老いと直面する日日。その中で蘇る、親しかった作家たちとの思い出をつづった"最後の"長編小説。『いのち』 瀬戸内寂聴 講談社 ¥1,400