伝統文化が息づきながら時代の変化も受け止め、訪れるたびに新たな感動がわき起こる金沢。正道を追い求める職人から気鋭の作家まで、とびきりのセンスにめぐりあえる金沢の旅スポットをご紹介。
1.べにや無何有
檜造りの露天風呂と大浴場でも湯が楽しめる。泉質は「カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉」
自然に抱かれた山代温泉で真の安らぎを静かに味わう
明るく開放的なロビーから山庭に下り、散策することも
地元や近郊の産品にひと手間かけ、自家製総菜も並ぶ充実の和朝食。好みで洋食も選べる
時の流れに身をゆだねる本当の贅沢がここに
山代温泉街を望み、かつて温泉寺の寺領で薬師山と呼ばれていたという緑あふれる丘陵地。その中腹にたたずむ宿が、『べにや無何有「むかゆう」』だ。赤松や楓などが茂る山庭に面して開かれた客室は、すべて露天風呂つきの17室。穏やかな光とすがすがしい空気に包まれ、気持ちがたちまちリセットされる。
そんな心地よさをいっそう高めてくれるのが、スパで受けられる独自のトリートメント。古来より薬師山に伝わる癒しの妙法、温泉と厳選の薬草を用いたケアが心身を穏やかにときほぐす。また、山代温泉水と天然由来成分を配合したオリジナルのアメニティは、優しい使用感と香りにホッとする。料理は加賀近郊や北陸はもちろん、各地から選りすぐる旬の食材を使用。素材の味をていねいに引き出した、洗練のメニューを堪能できる。
「からっぽな空間ほど光が満ち、何にも縛られない時が豊かさをもたらします。山代の歴史と刻々と移ろう自然があればこその、安らぎを感じていただけたら」と女将の中道幸子さん。日常からしばし離れ、ここでしか味わえない至福に心ゆくまで浸りたい。
アートやデザイン、旅、小説など、多彩な蔵書が収められた図書室。客室へ持ち帰り、ゆっくり読むこともできる
夕食は山海の幸がふんだんに。ある日の懐石コースから、おしのぎの寿司。しょうゆをひと塗りした能登鮪と、塩をつけていただく富山の白海老。安藤雅信作の長角皿が引き立てる
スパ「円庭施術院」の前には、グラフィックデザイナー・原研哉作のオブジェ"蹲(つくばい)・方寸"が。こんこんと湧く水が、滴となってめぐる。施術は薬草を調合し、気・血・水のめぐりを整える。季節限定の温トリートメントは2月末まで
☎0761・77・1340
¥36,870~(税・サ込)
mukayu.com/
2.須田菁華
3代目デザインによる"色絵風船向付"。かつて富山の薬売りが、子供におまけで配った紙風船を創作のヒントに。菁華らしい遊びと黄・緑・赤・紺青・紫を駆使した五彩の妙、手のひらにすっぽりと収まる麗姿が味わえる
名窯に脈々と受け継がれる今に寄り添う"用の美"
凛とした白を品よく彩る紺青の濃淡が、手描きならではの余韻を残す。料理の和洋を問わず使えそう。(上)染付網代文皿、(下)染付葡萄文皿
"染付色絵ぐい呑み" は、使い手の想像力をかき立てる軽妙なモチーフが。小付がわりに用いたりデザートを入れたりしても
人の手からおのずと生まれるいきいきとした表情に魅了
江戸前期に作られた磁器、古九谷発祥時の工法を守り続ける唯一の窯元。店内に並ぶのは皿や鉢、土瓶、しょうゆ差しなど多種多様。その昔、欧米で人気を博したとされる細密かつ絢爛なジャパンクタニとは趣が異なり、おおらかな筆致と柔らかな色合いが目にとまる。4代目の須田菁華さんにうかがうと、古い絵柄も参考にしながら新しいデザインのものも多く作っているという。「私どもが作るのは、日常で使う手工芸。器ばかりが立派で、気にかかるのは本意ではありません」。伝統を継承する職人として仕事は確かにこなしながら、世に生み出す姿は謙虚でありたいとも話す。
また、和食器のおもしろさは材料や調理法、盛りつけ方などが豊かな日本の食文化に応じられる形と色彩の幅広さだとも。初代に作陶の手ほどきを初めて受けたことでも知られる北大路魯山人も、“おいしいものをおいしく食べるため”の器作りに終始したという。手にとって眺め、気がつくと“どんな料理を合わせよう……”と思いがめぐる器。「気兼ねなく自然に、今の感覚で自由に使っていただきたいです」
のびのびと描かれた枝葉やふくよかな形に、思わず和む"葉文土瓶"
店の軒先には、魯山人が彫った濡額(看板)が掲げられている
「手をかけても、それをひけらかさないのが職人の仕事」と4代目の須田菁華さん。店内には山代の自然とともに息づき、"用" に徹した工芸の世界が広がる
☎0761・76・0008
9:00~17:00 不定休
3.factory zoomer / gallery
ガラス表面を削ったシックな風合いの"しのぎ" シリーズ。限定作品としてお目見えするときも。(右から)ぐいのみ・丸¥10,000、おはち・小¥18,000、抹茶碗¥30,000、めんちょこ・小 各¥15,000
金沢に来たら必ず訪ねたい辻和美さんの新しいギャラリー
定番は、柄やサイズを選んで注文を
人気ガラス作家が提案する “ちょっと特別”は逸品ぞろい
ガラス作家、辻和美さんが’16年春にオープンした注目のギャラリー。犀川沿いに立つ既存の『factory zoomer /shop』では毎日をともにする日用品を扱うのに対し、ここは時に訪れる“ハレ”をイメージしたものを提案している。光がたっぷりと射し込むスペースには辻さんが愛用し、改めて紹介したいと思う作家やブランドの作品を展示。奥にはfactory zoomerのstandardシリーズがずらりと並び、ゆっくりと感触を確かめながらオーダーできるコーナーが。また、年数回行う展覧会で発表した一点ものも販売され、一期一会の楽しみも。家族の記念日や友人を招く日などにいつもより少し趣を変えて、気分も上げてくれる。そんなスペシャルが見つかるはず。
約1カ月ごとに変わる企画展。3月10日より、木工デザイナー・三谷龍二さんの個展を開催する
『金沢21世紀美術館』近くに走る並木通りに面し、古い町家を改築した趣あるたたずまい
☎076・255・6826 11:00~18:00
㊡月曜(祝日の場合は火曜)
www.factory-zoomer.com/
4.喜八工房 金沢店
せん(木材)をごく薄く挽き、動きをつけたモーションプレート。大¥6,420、小¥3,780。(税込)"木地の山中" と称される熟練の技がいちだんと冴える。
匠の技で継承する和モダンな山中漆器
大容量で軽い、けやき麵丼鉢(黒・古朱)各¥13,600(税込)
美しい木肌の表情が浮き立ち、手にもしっくり
腕の確かな木地師、下地師、塗師、蒔絵師を擁する創業135年の『喜八工房』が直営。加賀市山中の伝統工芸、山中漆器を製造元ならではの価格で購入できる。国産天然木をろくろで精緻に挽き、本漆で仕上げた椀や鉢などのオリジナルのほか、セレクト品も扱う。
「長く使っていると、漆がツヤを増したり擦れてきたり。その味に愛着がわくもの、気軽に手にして使い込む楽しさを感じてもらえるモノ作りを心がけています」。そう話す6代目の酢谷喜輝さんは伝統を守りながら現代の生活に合うデザインや仕様に取り組み、木目の個性がナチュラルに見える独自のウレタン塗料を施したものも。木の種類と特性、切り出す縦横の違いなどとともに、唯一無二の出会いがある。
ウレタン塗装仕上げと、生漆をすり込んだタイプがそろう、ちょこカップ。(上から)ナチュラル¥2,260、琥珀塗¥2,640、黒琥珀塗¥2,870(税込)
感度の高いデザインで、使い勝手も上々
店舗を構えるのは、ひがし茶屋街。お茶屋を改修した建物が、老舗の粋と響きあう
☎076・251・1151
10:00~17:00 不定休
www.kihachi-web.com/
5.きりゅう
棚を埋めつくす圧巻の漆器は、明治期以降に冠婚葬祭で使われていた輪島塗。¥2,800~と手ごろな価格の汁椀をはじめ、平椀やお膳がそろう
昔ながらのセンスとていねいな仕事を今に伝えて
色や模様のさりげないあしらいがかわいいショットグラス。¥800~
いつもの料理が映える器とアイデアソースの宝庫
古い陶磁器や漆器、ガラス器などが所狭しと並び、多彩さにも目を奪われる店。桐生洋子さんが営む『きりゅう』で扱う器の多くは、江戸末期から昭和にかけて作られたもの。でも選ぶポイントにしているのは時代より、見た途端にいつもの料理を盛りつけるイメージがわくデザインだという。
「年代物を今どう使いこなすか、考えるのもおもしろいですよ」
蓋つきの椀の蓋を取り皿として利用する。お皿に料理を盛ると隠れてしまう見込み絵は、食べたあとの味わいに。その時々に服を着替える感覚で器も自由に楽しみ、お気に入りで食卓を飾れたら幸せな気分になれるのでは、とも。
「好きなもので暮らしを彩る喜びは、日々の原動力になると思います」
個性ある猪ちょ口こ や豆皿を漆塗りの菓子盆でまとめた、桐生さん流の器使い。豆皿¥5,800、猪口(中)¥7,000・(奥)¥1,800、菓子盆 各¥2,000。※すべて税込
「金沢の中心地から車で10分ほど。わざわざ足を運んでくれるのもうれしいです」
☎076・232・1682
12:00~18:00
営業は毎月12~20日、25~翌月3日
www.kiryuh.com/