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【50代が読むべきおすすめ本】小野小町の人生模様をつづった長編小説『小説小野小町 百夜(ももよ)』など3冊
アラフィー女性に読んでほしいおすすめ本を、文芸評論家・斎藤美奈子さんがピックアップ。今回は、小野小町の人生模様をつづった長編小説『小説小野小町 百夜(ももよ)』ほか計3冊を紹介。
’24年大河ドラマの前にもう一度読み返したい!夢とときめきの「源氏物語」
“あさきゆめみし”が私たちを源氏物語の世界へ導いてくれた!
読者アンケートをもとに、名シーンや推しキャラなどからその魅力を多角的に再確認!
忘れてしまった人のために源氏物語、超あらすじ
1008年ごろまでにほぼ成立した世界最古の小説
『源氏物語』には54帖あり、宇治を主な舞台に光源氏の死後を描いた最後の10帖は「宇治十帖」といわれている。また時代背景はあいまいで、フィクションの体裁をとっている。
その昔、桐壺帝(きりつぼてい)は身分の低い桐壺更衣(きりつぼのこうい)を深く愛し、光君(ひかるきみ)が生まれるものの更衣は光君が3歳のとき死去。抜群の才があるが後ろ盾のない光君を桐壺帝は皇位継承者にせず、源の姓を与えて臣下の身分に。光君は光源氏となり、政治手腕を発揮する。その後、桐壺帝が迎えたのが桐壺の更衣に似た藤壺。光源氏は藤壺に恋心を抱き、押しきられた藤壺は光源氏の子を帝の子として出産。葛藤を抱えた光源氏はさまざまな女性と関係をもつ。しかし朧月夜との不祥事が発覚し、最愛の紫の上を都に残して光源氏は須磨流しに。復権した光源氏は栄華を誇るが、女三の宮が彼に降嫁したころから陰りが……。時は流れて光源氏の子孫の時代。薫(かおる)と匂宮(におうみや)が思いを寄せたのは山里に住む姫君たちだった。
今でも思い出す! 忘れられない 名場面
アンケートで人気だったのはやはり光源氏が登場するシーン。特に票を集めたのが頭の中将との青海波の舞で、華麗な絵にうっとりした人が多かったよう。光源氏と紫の上の出会いと別れの場面をあげる人も多かったが、一方で「光源氏が幼い紫の上を半ば強引に自分のものにしたのにはびっくり」という声もあった。光源氏の登場シーン以外では「明石の上の姫君が母君と別れるところがせつなくて泣けた」「光源氏に降嫁した女三の宮と柏木の密通シーンが衝撃的だった」などの回答が。
光源氏と頭中将(とうのちゅうじょう)の美しすぎる青海波(せいがいは)の舞シーン
光源氏のよきライバルで友である頭の中将。ふたりの関係性に萌える!(48歳・公務員)
光源氏の寵愛はここから!? 紫の上との初対面シーン
幼い紫の上に愛する藤壺の面影を見た光源氏。それほど藤壺に夢中だったのかと(50歳・会社員)
紫の上を失い絶望に打ちひしがれる光源氏のシーン
失ってわかる愛する人の存在の大きさ。光源氏の悲しみが胸に迫りました(49歳・自営業)
光源氏のやっぱりここが好き!
アンケートには光源氏の外見や色っぽさのほか「すごく年下も年上もOKという守備範囲の広さ」などさまざまな賛美の声が。
自由奔放に生きているようで悩みが深いところ。にじみ出る人間味がいい(53歳・講師)
恋愛体質だが純真な部分があり憎めない男。たとえ惑わされても納得できる(51歳・主婦)
私が源氏の恋人のひとりだったら?と妄想をかき立てられる!(52歳・自営業)
光源氏をとりまく主な女たち
桐壺の更衣
光源氏の母。後ろ盾がなく低い身分で入内(じゅだい)したが、桐壺帝の寵愛を一身に受けたため、ライバルたちから恨まれる。
弘徽殿女御(こきでんのにょうご)
桐壺帝の妃で朧月夜の姉。高貴な右大臣家出身で皇太子を産んだため権力をもち、光源氏の政敵となり立ちふさがる。
葵の上
光源氏の正妻で4歳上。頭の中将の妹。皇太子妃になるように育てられたので気位が高い。夕霧を出産後に亡くなる。
末摘花(すえつむはな)
故・常陸宮の姫。没落貴族で、わずかな使用人と荒れ果てた家で暮らしている。姫気質が抜けず、世間の常識に疎い。
藤壺の宮
先の帝の姫宮。桐壺の更衣似で桐壺帝に愛されるが光源氏を拒みきれず、光源氏の子を帝の子として出産。
紫の上
光源氏が最も愛した女性。藤壺の宮の兄の姫。10歳のとき光源氏と出会い、彼の理想の女性になるよう養育される。
夕顔
夕顔が咲く市井の家に住む女性。光源氏が16歳のとき出会うが、実は頭の中将の元恋人。物の怪に襲われて亡くなる。
六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)
夫の前皇太子を亡くした妃で光源氏の8歳上。光源氏が若いころからの恋人。知的で誇り高いが、嫉妬心も強い。
明石の上
光源氏が須磨流しの際に出会った明石の入道のひとり娘。受領階級の出身だが、教養があり上品。光源氏の娘を出産。
朧月夜
光源氏の政敵の姫。朱雀帝(すざくてい・光源氏の兄)に入内直前に光源氏との恋愛が発覚。低い身分で入内するが帝に愛される。
槿(あさがお)の君
光源氏の叔父の姫で光源氏の憧れの人。光源氏から求愛を受けたが、彼の恋愛遍歴を耳にしていたため拒み続けた。
花散里
桐壺帝の妃のひとり・麗景殿(れいけいでん)の女御の妹。光源氏を穏やかに受け入れた女性で光源氏の息子・夕霧の養育も任された。
共感できる! 人気キャラ、ベスト5!
嫉妬も許せる!? 王道のヒロイン「紫の上」
人気キャラベスト1は紫の上。「どんなときも光源氏を待ち続けたけなげさ」と「明石の上の姫を引き取り育て上げた強さ」がその二大理由。ただ「ずっと光源氏のそばにいられた半面悲しみや苦しみも多くてかわいそう」と同情する人も。
とてもまっすぐな女性。愛される理由がわかる(50歳・会社員)
素直になれない完璧な女「六条御息所」
人気ベスト2は強烈キャラの六条御息所。生霊を放って夕顔や葵の上を死に至らしめたが、「心情はわかる」という人が大多数。「女性の底知れなさや恋のマイナス面を光源氏に教えた」「純粋な恋心をもっている」など好意的な意見が目立った。
より愛したほうが負け。私もそれを実感しました(48歳・契約社員)
愛に奔放に自由に生きる「朧月夜」
「ほかの女性キャラと違って自分らしく生きたかっこいい女性」という回答が多かったのが人気ベスト3の朧月夜。「光源氏との恋愛がバレたのに入内。帝からも長く愛されたなんてうらやましい」という声も。
こんな恋のかけひきを一度はしてみたかった!(47歳・会社員)
世間に疎い異色の存在「末摘花」
意外にも人気ベスト4は不美人キャラで有名な末摘花。「髪と後ろ姿は美人というギャップがいい」「変わり者だけど自分と他人を比べない性格はうらやましい」「光源氏を待ち続け、マイペースを貫いた人」などさまざまな見方が。
美女じゃなくても源氏と出会えた、運をもった人!(49歳・看護師)
魅惑的で素直な寄り添い型「夕顔」
薄幸の女性・夕顔が人気ベスト5。「控えめではかなげ。今の時代なかなかいないタイプ」という声が多かったが、「娘が生まれたのに娘の父親が訪れなくなった夕顔。母親としてどんな思いだったのかと想像させられた」という人も。
源氏の孤独を感じ取った繊細な女性だった気がする(54歳・公務員)
華やかな衣装も堪能できる!
『あさきゆめみし 新装版』全7巻
大和和紀 講談社
1〜5巻 各¥1,320、6〜7巻 各¥1,210
’79年から’93年まで漫画誌に連載され、絶大な人気を誇った長編漫画。54帖がほぼ忠実に描かれ、古文で大学受験をする際の必読書とも。’21年に新装版で復活。英語や韓国語などにも翻訳されている。
作家・角田光代さんに聞く!大人がハマる「源氏物語」の読み方
『源氏物語』の現代語訳を進めるため、猫だけそばに置いて一日16時間作業をした時期もあったという作家の角田光代さん。そんな5年間に感じた『源氏物語』の醍醐味、そして新しさとは。
小説としての構成がしっかりしていて、今読んでも、物語のおもしろさがつまっています
作者・紫式部の意地悪なほどの観察眼がおもしろい
角田光代さんが出版社からの依頼を受けて源氏物語の全訳にとりかかったのは’15年。48歳から53歳までの5年間をそれに費やし、小説はいっさい書かなかったのだとか。
「源氏物語について知識もこだわりもなかったので、どんな訳にすればいいのか最初すごく悩みました。結論は“私が訳すのなら読みやすさ重視かな”。敬語も省き、本歌取りの古歌や宮廷行事などの詳細をすべてわからなくてもいいと考えて、一日1帖くらいのペースで一気に読める訳にと方向性を決めたんです」
54帖からなる大長編小説を順に訳しはじめた角田さん。やがて気づいたのは、話が進むうちに起きる紫式部の書き方の変化だった。
「1帖『桐壺』から21帖『乙女』までは連作短編みたいにエピソードが重なっていき、22帖『玉鬘(たまかずら)』で急に映画を見ているような書き方に。いわばエンタメになりますが、34帖と35帖の『若菜』ではエンタメと純文学が合体したような手法に変わって物語が一気に開花します。45帖『橋姫』から宇治十帖が始まりますが、源氏物語という壮大な物語をどうとらえるかにつながるように書いていると実感。訳者として考えることがたくさんありました」
主人公・光源氏がさまざまな女性とかかわりをもち、恋愛や因縁が描かれる源氏物語だが、角田さんは彼についてこんな見方をしている。
「光君は誰もがひれ伏し涙するほど美しく、世の何もかもが思いどおりになるという人。そんなまぶしすぎる存在が照らし出すのが彼とかかわる女たちで、むしろ光君はいろいろな女性像を描くための装置だと感じました。例えば六条御息所は、光君に会わなければあれほど嫉妬に苦しむことはなかった。“この人に会わなければこういう自分はいなくてすんだ”という感情は、いつの時代の人にもあると思います。また光君は幼くして母を亡くし、帝の子として生まれながら絶対に帝になれない身分だった。そういう彼の“最初から負け戦”的なところが読む人にあわれさを感じさせ、日本人の心をとらえ続けたという気もします」
単なる恋愛小説ではないんですよね。
光源氏はあくまでも女性像を描くための“装置”だと感じました
美しいが気位が高い人、容姿はイマイチだが子の養育などで光源氏の役に立った人……女性キャラの多彩さも源氏物語の魅力のひとつだが、角田さんが感じたのは彼女たちへの紫式部の冷静な視線。それがきわだっていたのが、長くて赤い鼻を見られて光源氏に幻滅される末摘花だった。
「末摘花はかつての家柄のよさにしがみついて、自分も家のこともいっさい変えようとしない。彼女が光君に面倒を見てもらい続ける姿を描いたのは、意地悪なほどの観察眼をもつ紫式部が末摘花のどこがダメかを徹底的に書きたかったからでは。“そういう女性を引き取るなんて光君は寛大でかっこいい”という意見が多いですが、私はそうは思えなくて」
一方、男性キャラに目を向けると、一読者としての角田さんに強烈な印象を残したのが光源氏と女三の宮の息子・薫(本当の父親は柏木)。
「薫のことがイヤすぎて、訳が進まなかったほど(笑)。薫は愛する人のことを考えて行動しているようで計算高く、優柔不断。彼のせいでいろんな人が不幸になったと思ったんです」
最後の最後に感じた紫式部から渡された“バトン”
単行本刊行から3年を経て文庫化することになり、最近自分の訳を読み返したという角田さん。訳していたとき、また改めて読んでおもしろかった場面やエピソードをうかがった。
「すごく好きなのは5帖の『若紫』。Aが起きたからBが起きてCにつながるという近代小説的な形式でできている。34帖と35帖の『若菜』はその集大成で、女三の宮の飼い猫が逃げたことで悲劇が始まるなど、物語のおもしろさがつまっています。ハラハラさせられるのは夕顔の娘・玉鬘がかつて母のそばにいた女房と偶然再会するところ。何度読んでも“早く気づいて!”とドキドキします」
紫式部は浮舟を通して“男に頼らず立てる女”を書きたかったのかなぁと思いました
人生経験を重ねたエクラ読者なら深く味わえること必至なのが「この壮大な物語をどうとらえるかにつながっている」という宇治十帖。そこまで訳し終えたとき、角田さんはある感慨を抱いたという。
「宇治十帖の後半に出てくる浮舟は、薫と匂宮(光源氏の孫)からおもちゃのように好きにされる女性。浮舟が彼らをどう思っているかは書かれていませんが、彼女はどちらのものにもならず男に頼らずに立とうとする姿を示唆して終わります。当時は女性が自分の生き方を選びようもなかった時代ですが、まるでラスボスのように浮舟が出てくるのは、女性の生き方をずっと考えてきた紫式部が答えを浮舟で表したかったからでは。“浮舟、薫からも匂宮からも逃げて!”と思うのは私だけではない気がしますが、もしかしたら#MeToo運動などが起きた今だからそんな読み方になるのかもしれない。ただ千年前に女性の生き方に疑問をもった紫式部から物語を通して“あなたたちはどう思う?”とバトンを渡されたようで、感動すら覚えたんです。新しい読み方もできる余白がある──それも『源氏物語』がすばらしい理由のひとつだと思っています」
完結まで5年をかけた渾身の現代語訳
『日本文学全集 源氏物語上・中・下』
角田光代/訳
河出書房新社 各¥3,850
一気に読めることを目ざした角田光代訳は「伏線と回収が見えやすい」などのよさも。「脇役にもおもしろい人、気の毒な人など興味深い人物がたくさん。ぜひ確かめてみてください」。
\角田源氏がついに文庫化!/
『源氏物語 1~8』
角田光代/訳 河出文庫
1~3巻 各¥880(全8巻刊行予定)
現代を代表する作家のひとり、角田光代さんによる現代語訳『日本文学全集 源氏物語』の文庫版。「桐壺」から「末摘花」までを収めた1巻には光源氏の恋愛と義母への許されぬ思いが描かれている。全8巻、順次発売予定。3巻は12/6発売。
その魅力もさまざまに「大人におすすめの現代語訳」
角田さんも太鼓判! 日本語も美しい
『与謝野晶子の源氏物語 上・中・下』
与謝野晶子 角川ソフィア文庫
上¥924、中¥1056、下¥968
子供のころから『源氏物語』を愛読していた与謝野晶子による訳。難解といわれた『源氏物語』が広く読まれるきっかけになった。「歌人ならではの言葉選びを感じます」と角田さん。
エクラ世代に絶大な人気
『新源氏物語 上・中・下』
田辺聖子 新潮文庫
上・中 各¥990、下¥935
読者アンケートでも、読んだことのある現代語訳で多くの人があげた“田辺源氏”。「注釈なしで読めるもの」を目ざし、漫画『あさきゆめみし』にも影響を与えたとされる。
源氏ブームの火付け役はこの人
『決定版 女人源氏物語 一~五』
瀬戸内寂聴 集英社文庫
1~2巻 各¥715(全5巻刊行予定)
華麗な王朝絵巻を女性たちの声で描き直したのが瀬戸内寂聴。平易な日本語が使われ、「ですます」調の語り口なので読みやすい。若年層にも広く読まれた現代語訳。順次発売中。
角田 光代
「実はこんな人!?」文芸評論家・斎藤美奈子さんが本から読み解く紫式部
『源氏物語』の作者として有名でも、生い立ちや人柄はあまり知られていない紫式部。最近の“紫式部本”を読んだ文芸評論家・斎藤美奈子さんが「意外とおもしろい人」と語る、天才作家の人物像は?
二大巨頭、紫式部と清少納言は本当にライバルだった!
「最近の“紫式部本”では下の4冊がおすすめ。最初に小迎さんの漫画でざっくりと式部の人生をつかみ、次に研究者の山本さんと倉本さんの本で深掘りし、加えて作家の奥山さんの本で新解釈を知るという順番がいいかも」と斎藤さん。
紫式部の人生は回顧録『紫式部日記』などの資料でおおまかにわかっているが、斎藤さんの言葉で説明するとこんな感じだ。
「母も姉も友も亡くし、学はあるが偏屈な父と質素に暮らしていた式部。27歳で父の転勤先の越前についていくが、そこにも文を送ってきた20ほど上で変わり者のドンファン・藤原宣孝と“まぁいいか”と結婚。正妻ではなかったが娘を授かり、新しい人生を始めた2年後に宣孝が死去。落ち込んでいたとき読んだ物語に夢中になり、自分でも書くようになる。それが『源氏物語』で、今でいうとアラフォー以上でデビューですね」
若い人は“ナゴン”派でも、エクラ世代はやっぱり“シキブ”派では?
こじらせ人生は、大人だからこそ共感できる!
『源氏物語』が評判になり、式部は当時の権力者・藤原道長の娘で一条天皇の中宮・彰子(しょうし)のサロンに招かれるが、そこに立ちふさがった壁が『枕草子』であり清少納言だった。
「清少納言は一条天皇が愛した中宮・定子(ていし)に仕えた人。その著書『枕草子』には定子サロンの様子がいきいきと描かれ、定子亡きあとも“明るく華やかだった”と伝説化していました。一方、式部が仕えた彰子のサロンは上品でおとなしめ。12歳で入内した彰子はなかなか懐妊せず、焦った道長がサロン活性化のために式部を招いたという見方も。おもしろいのは、サロンの雰囲気に影響したかのように納言と式部の性格が対照的なこと。いわば陽キャと陰キャですが、そこには育ちの差もあったと思います」
結婚したのは“身元引受人”が必要だったから !?
大半の人が“女は勉強しなくていい”と考えていた平安時代、ふたりの育ち方はどうだったのか。
「納言は“頭がよくて偉いぞ”と周囲にいわれ、のびのびと育った。だから『枕草子』も“思ったことをいってやれ”という感じです。一方、式部は弟より勉強ができたのに父親に“知識をひけらかすな”といわれて育ち、表に出るのが苦手でもどかしい人という印象。『源氏物語』からも彼女のこじらせぶりがうかがえます」
精神的な苦難を何度も味わって、“愛こそすべて”とは思わなかったのだと思う
明快な『枕草子』は若い人でも共感できるが、複雑な人生模様を描いた『源氏物語』はエクラ世代こそ堪能できるのでは、と斎藤さん。
「いろいろな“紫式部本”を読んで感じたのは、紫式部には物事をクールに見る目や習慣があったということ。例えば宣孝との結婚は“愛こそすべて”ではなく、身元引受人が必要という割り切りが感じられます。たぶんそれは式部が何度も精神的苦痛を味わったから。そう考えると『源氏物語』は彼女の経験や文学的素養が相まってできた、奇跡のような小説だと思います」
斎藤美奈子厳選!“紫式部本”
全体像を知るための最高の入門書!
『新編 人生はあはれなり…紫式部日記』
小迎裕美子 紫式部
赤間恵都子/監修
KADOKAWA ¥1,320
「紫式部について知りたいとき最初に読むのにぴったりの漫画。紫式部の人となりや時代背景が勘どころよく描かれています」。生活のため宮中に出仕したが性格が合わず実家に逃げ帰ったという『紫式部日記』などにある話が表情豊かに描かれ、現代人にも通じる式部の気持ちを見つけられる。
貧しい学者の娘がなぜ世界最高峰の文学作品を?
『紫式部と藤原道長』
倉本一宏
講談社現代新書 ¥1,320
「『源氏物語』は色恋だけではなく権力闘争も描かれた話。式部はそれを道長に取材させてもらい、彼から当時貴重だった紙も与えられたという見解で、その理由にも説得力があります」。大河ドラマの時代考証を担当する歴史学者が、式部と道長の交差する人生と協力関係を考察する。
式部はキャリアウーマンのハウツーを教えたかった?
『紫式部ひとり語り』
山本淳子
角川ソフィア文庫 ¥968
平安文学研究の第一人者が紫式部自身による語りという形で書いた評伝。「式部が退いたあと彰子に仕えたのが彼女の娘・賢子(けんし) 。娘にキャリアウーマンとしてのノウハウを伝えたくて職場での苦労や公的な仕事の話を『紫式部日記』に書いたという視点が新鮮。文章も今どきの感覚です」。
源氏物語の新解釈も知っておきたい
『フェミニスト 紫式部の生活と意見~現代用語で読み解く「源氏物語」~』
奥山景布子
集英社 ¥1,980
平安文学研究者出身の作家がルッキズム、婚活など今どきの言葉から『源氏物語』を読み解き、紫式部像を探った一冊。「女性学などの視点から見た源氏物語論ですが、“かつて主観的な読みといわれて相手にされなかった意見を、今こそいいたい!”という作者の強い思いが感じられます」。
斎藤美奈子
あわせて読みたい! 編集部おすすめ本
紫式部=フェミニスト説の先駆け
『紫式部のメッセージ』
駒尺喜美
朝日選書(版) ¥2,860
著者は近代日本文学や女性学の研究者。’91年刊行の本書は資料をもとに「式部は同性に愛を感じていた」「紫の上はアイデンティティを喪失していた」などと論じて話題に。
式部と権力者の秘密を大胆に想像
『小説 紫式部』
三枝和子
河出文庫 ¥792
紫式部こと香子は不本意な結婚のあと中宮・彰子に出仕。藤原道長に言い寄られるなどの経験をしながら物語作者としての道を進んでいく。香子の男たちへの複雑な心理に注目!
平安時代物語はサブカルだった!?
『神作家・紫式部のありえない日々 1~3』
D・キッサン 一迅社
1 巻¥700、2〜3巻 各¥825
シングルマザーの式部が同人誌を書いていたら宮中にスカウトされ、執筆を続けながら中宮・彰子の教育係に! 史実と想像をミックスさせて描く、キャラが魅力的なコメディ。
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