“時超え”ד青春”の秀作!「輝くウォーターメロン~僕らをつなぐ恋うた~」
最近は韓流ドラマで手一杯なため、あまり観る機会がなくなってしまった日本のドラマですが、小さい頃から大のドラマ好きだったこともあり、毎週、毎週、胸をときめかせながら心待ちにしていた名作が数々あったのはもちろんのこと。なかでも、強く心に残っているドラマの一つに大沢たかお&綾瀬はるか主演の「JIN-仁-」(TBS)があります。
現代の脳外科医師が江戸時代にタイムスリップして幕末の動乱に巻き込まれつつ繰り広げられる物語なのですが、史実をベースにしたサスペンス要素あり、医療と闘うサクセスストーリーあり、周囲の人々との人情ものあり、そして、主演の二人のほのかでかつ深い愛の物語ありと、観るたびに切なさと感動でいっぱいになること多々。
原作とは異なるラストには賛否両論もありましたが、私的にはこの結末が実はメチャ大好きで、淡々と切々と思いが綴られたあの手紙(観てない方はぜひ、どこかで観てほしい)にどれほど深く激しく号泣させられたことか。
「輝くウォーターメロン~僕らをつなぐ恋うた~」の主人公二人を演じる俳優、リョウン(左)とチェ・ヒョヌク(右)。Leminoで日本初独占配信中 © STUDIO DRAGON CORPORATION
その心揺さぶるまでの強い感動を引き出すものこそ、実は “時” のマジックなのではと思うのです。「時をかける少女」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」など、時空を超えて繰り広げられるエンタメ作品は、洋の東西を問わず、それこそ時を超えて愛され続けている名作が多いように思います。この “時を超える” が実は大きなポイントで、現実世界では抗うことの許されない、ガンと立ちはだかる “時” の壁があるからこそ、そのワクワクもハラハラもドキドキも切なさも感動も、何十倍にも増幅されるのでは?と思うのですが、いかがでしょう。
'90年代のエモいあの頃を、今をときめく若手俳優二人が名演!
韓国ドラマでも、古くは「屋根部屋のプリンス」、最近では「哲仁王后〜俺がクイーン!?〜」など、大いに笑いつつもジーンとさせられちゃったりするタイムスリップものの傑作が多いわけですが、私的には2019年の名作ドラマ「まぶしくて -私たちの輝く時間-」で大号泣。通常のタイムトラベルものとは異なりますが、その巧みに仕組まれた、時間巻き戻しのトリックにまんまと嵌められ、改めて残酷なまでに過ぎ去っていく “時” の壮大さと “願わくば時を超えたい” という人々の想いの深さを思い知らされました。ファンタジーなジャンルは数々あれど、やっぱり “時超え” ものは鉄板のロマンなのだなあと。
ウンギョル役のリョウン。© STUDIO DRAGON CORPORATION
というわけで、ここ1年間に日本で配信された作品にも、例えば、俳優イ・ソンミンが百想芸術大賞・男性最優秀演技賞を受賞した「財閥家の末息子〜Reborn Rich〜」、台湾の大ヒット作「時をかける愛」をリメイクした「いつかの君に」などなど、見始めたら止まらない傑作が多々。そんななかでも、イチ推しドラマがこの「輝くウォーターメロン〜僕らをつなぐ恋うた〜」。
現代の男子高校生が、30年近く前の両親の高校時代にタイムスリップするというお話で、鉄板ロマンの “時超え”× 私的大好物の青春物語という組み合わせは、そう聞いただけでも垂涎もの。しかも、舞台である'90年代というエモい時代の青春真っ只中を突っ走る二人の男性主人公を演じるのは、リョウン(時代劇ドラマ「コッソンビ熱愛史」でも主演)と、チェ・ヒョヌク(「二十五、二十一」「弱いヒーロー Class1」など出演作多数)という、韓国でも今まさに飛ぶ鳥落とす勢いで伸び続けている若きライジングスター。さらに、二人ともタイプの違うイケメン!とあれば、これは観ないわけにはいかないというわけでして。
CODAの主人公がタイムスリップしたのは、父親の高校時代!
物語がスタートするのは現在から。リョウン演じる主人公のハ・ウンギョルは、耳の聞こえない両親と兄のもとで育ったいわゆるCODA。CODAといえば名作米映画「Coda コーダ あいのうた」が記憶に新しいところですが、その主人公が感じていたCODAならではの葛藤を、ウンギョルもまた同様に感じているというところがこのドラマの発端です。
© STUDIO DRAGON CORPORATION
貧しい家庭ながらも温かい両親のもとで育ったウンギョルは、真面目で心優しい高校生。医大合格確実という学年トップの成績まで収めているのですが、心の内では音楽をやりたいという強い思いを抱えているわけなのですね。実は少年時代、家族を助けながら明るく暮らす一方で、同級生の嫌がらせや周囲の人の何気ない言葉に深く傷つきながら誰にも相談できない孤独を抱えていたのです。
そんなある日、街の楽器店の見知らぬおじいさんと出会ったウンギョルは、彼からギターを習い始め、孤独から解放されるかのごとく夢中でのめり込んでいきます。で、高校生になった今も、密かに路上ライブをしては、自らの気持ちを鎮めていたウンギョルなのですが、そんな彼にバンドのお誘いが。家族には内緒でバンド活動を始めるものの、ひょんなことから父(チェ・ウォニョン)に見つかってしまうのです。ウンギョルが医師になることだけが自分の誇りという父。その強固な反対に抗うことができず、音楽を諦めようと決心し、でもって、ギターを売りに、とある楽器店「ラ・ビタミュージック」を訪ねるのです。
© STUDIO DRAGON CORPORATION
その店は、店主もろとも何やら怪しげな雰囲気。不思議な感覚に包まれながらもギターを売るウンギョルですが、その店から一歩出ると、なんとそこは1995年! ということで、ウンギョルのタイムスリップ物語が始まるわけなのです。
で、面白いのは、この1995年という年代。店から出た瞬間にハ・イチャン(チェ・ヒョヌク)という男子高校生に声をかけられるウンギョルなのですが、なんとこのイチャンこそウンギョルの父。しかも、耳も聞こえていて、かつ初恋の人チェ・セギョン(ソル・イナ)に学園祭で想いを伝えるためにバンドを結成するというのです。本人はあれだけ反対していた音楽なのにです。ウンギョルをギターの名手の大学生と勘違いした父(高校生だけど)のイチャンからバンドに誘われるウンギョルですが、父の初恋の人は母ユン・チョンアと聞いていたことから、このまま父がセギョンと思いを遂げてしまったら大変なことになる!と、阻止するために動き始める……という展開。
© STUDIO DRAGON CORPORATION
はたして、ウンギョルはセギョンに変わって、母であるチョンアを父イチャンに出会わせることができるのか? 父はなぜ、耳が聞こえなくなってしまったのか? それが不慮の事故だとすれば、ウンギョルはそれを防ぐことができるのか? そして、無事、現代へと戻ってくることができるのか?
親子なのか?親友なのか?ユニークな青春ブロマンスにグッとくる
そんな “時” が仕掛けるマジックに翻弄される真面目で優しいウンギョルの奔走ぶりもハラハラ・ドキドキですが、やっぱり一番の見どころは、ウンギョルとイチャンの、親子なのか親友なのか……というユニークな青春ブロマンスっぷり。イチャンは、賭け事で借金まみれになった父親に捨てられ、祖母に育てられているという境遇。そんな複雑な生い立ちにもかかわらず真っ直ぐで明るく、時として無謀に突き進むこともあるけれど、とにかく祖母想いでメチャ優しいいい子。実は、祖母のために大学進学を密かに諦めているイチャンにとって、このバンドが最後の青春と思っており、その思いを知ったウンギョルが父の青春を影になり日向になりサポートするという構図がとても痺れるのです。
© STUDIO DRAGON CORPORATION
イチャンを演じるパク・ソジュン似のチェ・ヒョヌクは、心憎い芸コマ演技を連発、ちょっとした表情やセリフの言い回しに笑わせられたり、ジーンときたり。青春という “時” の熱さ、高揚感、切なさ。イチャンとエクラ世代は、奇しくもほぼ同世代。だから、そのエモさもきっと人一倍感じるはず。ウンギョルとイチャンの青春ブロマンスとその結末に思いっきり浸りながら、二度と戻ってはこない自分の “あの頃” に思いを馳せてみるのも一興です。ちなみにウンギョルの兄役を演じているのは、K-POPグループGolden Childのボン・ジェヒョン。こちらも眼福。
こちらも見逃せない! この1年で話題の “時超え” ドラマ傑作選!
ソン・ジュンギ×イ・ソンミンというオーラが半端ないダブル主演の組み合わせは、それだけでも観る価値ありです。舞台となるのは韓国トップクラスの財閥グループ・スニャン。ソン・ジュンギは、その財閥家の有能な秘書ユン・ヒョンウ役に扮するのですが、オーナー一族の不正や醜聞の処理などの汚れ仕事を出世のために淡々とこなしながらのしあがってきたという役どころ。ところがです。ドラマが始まったかと思うほどなく、このヒョンウは不明流出金の調査のため向かったトルコで、あっけなく銃弾に倒れてしまうという。
スニャン財閥の有能な秘書ユン・ヒョンウ役のソン・ジュンギ。© Chaebol Corp. all rights reserved
財閥家のためだけに尽くしてきた人生だったのに、自分は殺されてしまったのか。誰が自分を殺そうとしたのか。そんな思いにうなされるヒョンウが目覚めたのは、病院ではなく、あろうことか韓国激動の1980年代。しかも、目の前にはスニャン財閥の創業者チン・ヤンチョル会長(イ・ソンミン)が! なんとなんと銃弾に倒れた自分は、どうやらヤンチョルの孫(役名はチン・ドジュン)、つまりスニャン “財閥家の末息子” に時を遡って生まれ変わったらしい……。
ということで、時超え×転生ものという、こちらも大好物な組み合わせなのですが、ポイントは転生したドジュンが、銃弾に倒れたヒョンウの記憶を全て持っているということ。つまり、'80年代からの韓国の現代史も、スニャン財閥の行く末も、全て知識として持ち合わせていること。だから、先手先手のアイディアをヤンチョルに提供することができる。一代でスニャン財閥を築き上げたヤンチョルは、スニャンを守るためには子供ですら切り捨てる冷徹な人物。ドジュンはそんなヤンチョルを攻略することができるのか? そして、自分を抹殺しようとした人物を見つけ出し、復讐を遂げることができるのか?
スニャン財閥の創業者チン・ヤンチョル会長役のイ・ソンミン(中央)。© Chaebol Corp. all rights reserved
そんな時超えミステリーサスペンスを何倍にも面白くしているのは、現実とのリアルなリンク。ヤンチョル会長のモデルは、韓国一大財閥の創業者とその息子ともいわれるし、いくつかの財閥家のエピソードを絶妙にドラマに盛り込んでいるし、韓国激動の'80〜'90年代の史実に沿ってドラマが進行していくし、大統領だって実名登場だし、これを観ているだけで、今の韓国経済繁栄を支える礎までも手に取るようにお勉強できてしまえるのです。ヤンチョル役のイ・ソンミン×ソン・ジュンギの対決はもちろん、ドジュンの少年時代を演じたキム・ガンフンをはじめ、全てのキャストのリアリティあふれる迫真の演技もチェゴ(最高)。
台湾の大ヒット作を韓国流にリメイクした作品。タイムスリップ×ミステリーラブロマンスという組み合わせは、思いっきりきゅんと切なく胸しめつけられたい人におすすめです。とはいえ、こちらの “時超え” は、そのルールがかなり複雑。通常のタイムトラベルものを想定して見始めると、かなりな迷宮に迷い込んだまま出て来られなくなるやもしれないので要注意。
ということで、まだ観てない方には予習がてらにそのサクッとした流れをご紹介いたしますね。ヒロインに扮するのは演技派女優のチョン・ヨビン(ドラマ「ヴィンチェンツォ」「グリッチ -青い閃光の記憶-」)。彼女が演じる36歳のITキャリアのジュニは、1年前に最愛の恋人ヨンジュン(アン・ヒョソプ)を飛行機事故で亡くしたばかり。バリバリ仕事をこなしているように見えるジュニだけど、実はその悲しみから立ち直れないでいるという設定で、そんな彼女に送り主不明のカセットテープが送られてきたところから “時超え” の物語がスタートです。
ヒロイン役のチョン・ヨビン(左)と、ヨンジュン役のアン・ヒョソプ(右)。Netflixシリーズ「いつかの君に」独占配信中
テープに刻まれていたのは、19歳で早逝したソ・ジウォン(実在した歌手)の'90年代ヒット作「涙をあつめて」なのですが、これが時超えのキーとなる重要アイテムで、この曲を聴いていたジュニがタイムスリップすることから一気に物語が展開し、俄然面白くなっていくという(2話まではよくあるメロドラマか?という印象が強く、ここで視聴を止めてしまう人も多いので、ぜひ3話までは頑張って観てください!)。
曲を聴きながら眠りに落ち、目覚めた自分の目の前にいたのが、亡くなったはずのヨンジュン! ところが、このヨンジュンは高校生で名前もナム・シホンというらしい。え? てことは別人なのか? なのにヨンジュンとしか思えないジュニ。そのジュニもどうやら高校生になっていて、名前もミンジュというらしい。え、え、え〜。ジュニが昔にタイムスリップして、ヨンジュンの飛行機事故を防ぐという単純な私の読みをあっさりと覆すその展開。しかもスリップしたのは1998年。つまり計算するとジュニは若干11歳? ということは……?
深まる時超えの謎とともに、殺人絡みのミステリーまで盛り込まれ、もはや出て来られないメビウスの輪状態。ハラハラもドキドキもなぜ?なぜ?なぜ?も数百倍。そしてそれ以上に止まらないのが切ない胸キュン。あっぱれチョン・ヨビンの繊細な演じ分け×徹子の部屋にまで出演した日本でも知名度急上昇アン・ヒョソプの意味深い眼差し(この人こんな顔で愛する人を見つめるのね、と何度も何度も胸を射抜かれます)が圧巻。
■Netflixシリーズ「いつかの君に」独占配信中
山崎敦子
旅行記事に人物インタビュー、ドラマ紹介、実用記事から、着物ライターとさまざまな分野を渡り歩き、今では美容の記事を書くことも多くなったさすらいのライター。襲いかかるエイジングと闘いながら、ウキウキすること、楽しいことを追い求め続ける日々を送る。