静かなる名優、ピョン・ヨハンの果てなき魅力にハマること必至!【見ればキレイになる⁉韓流ドラマナビvol.45】

エクラの美容記事でもおなじみのライター・山崎敦子がお届けする韓流ドラマナビ。今回は、ミステリーの傑作「白雪姫には死を~BLACK OUT」に主演のピョン・ヨハンをクローズアップ!知られざる魅力と卓越した演技力に迫ります。

ミステリーを読み進めるような面白さ!「白雪姫には死を~BLACK OUT」

『白雪姫には死を~BLACK OUT』のピョン・ヨハン
「白雪姫には死を~BLACK OUT」に主演のピョン・ヨハン。©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.
 次から次へと新作が配信され、傑作もどんどん生まれてくる韓国ドラマではありますが、それでも胸に深く刻まれたまま何年たっても忘られらない、自分にとっての“名作”って、それほど多くはないと思うのですが、いかがでしょう。私の周りの韓ドラファンが、そんな希少な人生ドラマとしてかなりの確率で挙げてくる作品に「ミセン-未生-」があります。もう、観られました?

名作「ミセン-未生-」の新入社員役で俳優としての知名度が一気に上昇

 韓国の大手総合商社を舞台としたお仕事成長ドラマで、高卒という企業側的には前代未聞の経歴で契約社員として採用されたイム・シワン演じる主人公の踏まれても踏まれても立ち上がっていく切ないほどの頑張りと、大企業にありがちな“理不尽”に相対するオ課長(演じているのはイ・ソンミン)の正義と踏ん張りが、もう10年前の作品ではありますが、今なお深く心に刺さるといいましょうか、何度観ても泣けてしまうわけなのです。まだのかたは、ぜひ観てほしい傑作なのですが、この作品に主演したイム・シワンの同期の新入社員の一人として出演し、俳優としての知名度を一気に上げた人こそ、そう、今回クローズアップするピョン・ヨハンなのです。
 俳優デビューは2011年。その当時、彼はまだ大学生として(韓国芸術総合学校)演技の勉強に勤しんでいたわけですが、そんな学生時代から出演していた自主映画はなんと30本以上。その界隈では、もはやスター的存在だったそうな。とすると、かなりな演技派だったのではと推測できるわけですが、今年の目玉的作品の一つでもある「サムシクおじさん」では、名匠ソン・ガンホとほぼほぼダブル主演かと思われる役柄で出演しており、かのソン・ガンホさまが彼の演技を絶賛するなど、大物俳優たちも虜にする玄人受け抜群の手練れと私的には踏んでいるのです。
『白雪姫には死を~BLACK OUT』のピョン・ヨハン
「白雪姫には死を~BLACK OUT」に主演のピョン・ヨハン。©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.
 世間的には無名だったピョン・ヨハンの初のメジャー作品が前出の「ミセン〜」というわけで、その作品で演じたソンニョルという役柄が誰にでも親しげに接する陽気キャラだったせいか、本人もそんな性格に違いないと思っていたのですが、インタビュー番組などを見ていると、とつとつと話す物静かな口調といい、物事ひとつ一つに深く相対するような真面目な姿勢といい、なあんか印象が正反対。むしろイム・シワンが演じた主人公に近いというか、外に解放するというよりは、内に静かなる信念と情熱を秘めているタイプというか。というせいかどうかは定かではありませんが、目鼻立ちの整ったかなりなイケメンで、知性派ではあるものの、ちょっぴり華に欠ける?(あくまでも私見です)……みたいな。途中、俳優業をしばらくお休みした期間もあったりして(自分の演技に疑問を持ってしまったらしい=やっぱり真面目で真摯)、出演作がそれほど多くないというのもありますが、2021年には「太陽は動かない」という日本映画にまで出演しているにも関わらず、私の周りでは、というか日本ではまだまだそれほど盛り上がりを見せるに至っていない感じなのであります。

原作はドイツの本格ミステリーサスペンス。最新の主演作は目が離せない

 ドラマ「白雪姫には死を〜BLACK OUT」は、そんな彼の今年の主演作で、実は私的2024年下半期トップ3に入る傑作。ドイツの人気ミステリー作家ネレ・ノイハウスの小説「白雪姫には死んでもらう」が原作の本格ミステリーサスペンスで、韓国では回を追うごとに視聴率を上げていった、じわじわ浸透系の話題作なのでありますが、日本では特別にメディアに取り上げられるでもなくひっそりと配信が始まったせいか、はたまたピョン・ヨハンをはじめ演技派ばかりを集めた配役がちょっぴり渋めだったせいか、私の周囲でも韓ドラ・マニア以外、誰も知らないという現実。このままスルーしちゃうには、あまりにももったいない、ということで今回、ここに取り上げさせていただいた次第。
 とにかく、ミステリーを読み進めるような面白さは第一級。もう序盤から釘付けにされて、そのままのめり込んでいく展開といいましょうか。ことの発端は、11年前。モチョン村という小さな田舎町で2人の女子高校生が殺害されたところから始まります。殺害現場とされる納屋のような倉庫には2人が殺された証でもある血の海が残されているのですが、遺体は忽然と消えたまま。地元の警察が容疑者として逮捕したのがピョン・ヨハン演じる主人公のコ・ジョンウ。裕福な家庭に育ったジョンウは、名門大学の医学部受験に合格したばかり。地元では友人も多く人気者だったジョンウなのですが、事件当日の彼は泥酔していて殺害当時の記憶がない。つまり、殺したのかはもちろん、殺してないのかも全く覚えていないというわけです。
「白雪姫には死を~BLACK OUT」のピョン・ヨハン
ジョンウ役のピョン・ヨハン(左)と、ナギョム役のコ・ボギョル(右)。©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.
 ところが、捜査は強引に進められ、血のついたジョンウの靴が発見されるなど、遺体なき殺人事件は、あれよあれよという間に結審し、ジョンウは希望に満ちた医大生生活を送るどころか未成年の殺人犯として収監されてしまうという……。

 そして10年、囚人たちによる激しいイジメや暴力、ジョンウの一番の理解者であった父(アン・ネサン)の無念の死という過酷な試練を耐え抜き、30歳となったジョンウが出所。母(キム・ミギョン)の住むモチョン村へと帰るジョンウですが、親しかった町の大人たちは当然ながら殺人犯だったジョンウに露骨に反感を示すわけです。この町から今すぐ出ていけといわんばかりに。高校時代の仲間だった親友たちも、ジョンウの出所を無条件に歓迎するのですが、言葉の端々にはジョンウを見下すようなニュアンスが含まれていたり。刑務所の面会に度々訪れていた、今は人気女優の同級生ナギョム(コ・ボギョル)だけが唯一ジョンウを信じている様子。なのですが、なんかみんなどこか奥歯に物詰まった感があるんですよね。なあんか、変。
 そんな矢先、ジョンウの母が転落事故により、意識不明の重体に。自殺かそれとも突き落とされたのか。だとしたら、なぜ? いや、そもそもジョンウは本当に殺人犯だったのか。それとも真犯人は他にいるのか。削ぎ落ちた記憶を辿りながら、11年前の事件の真実に向かって孤軍奮闘するジョンウが痛々しく、真相の切れ端が少しずつ見つかり始めるものの、なかなかはまっていかないパズルのようにもどかしく。
 感情に踊らされることなく、信念と情熱だけを胸に秘め、黙々と喪失した記憶の中に埋もれた真実に向かっていくジョンウの姿は、ひょっとするとピョン・ヨハンそのものかもしれません。派手派手しい華を抑えたそんな人物描写が、だからこそ後半にいくほど、どんどん効いてくるというわけで。やっぱり上手いなあと改めて。
『白雪姫には死を~BLACK OUT』
ジョンウが頼りにする警察署長役のクォン・ヘヒョ。©Snow White Must Die Special Purpose Company Ltd.
 そんなピョン・ヨハンはもちろん、このドラマをさらに何倍にも面白くさせているのが、全ての演技派脇役陣の力量の素晴らしさ。ジョンウが“サムチョン”(目上の人に親しみをこめた呼称)と頼りにする警察署長(クォン・ヘヒョ)、その自閉症の息子(イ・ガソプ)、今は刑事となったジョンウの親友ヤン・ビョンム(イ・テグ)、親友たちの親父たち、殺された女子高校生のアル中の父親と保険外交員の母親、精神科医と国会議員のヨンシル夫婦などなどなどなど。その薄っぺらさとか、身勝手さとか、人間臭さとか、歪んだ愛とか、傲慢さとか、微妙な違和感を感じさせる表の顔とか、すべてひっくるめて、実はどこかにいそうな人物像を存在そのものまでリアルに紡ぎ出していく完璧なまでの演技力。ピョン・ヨハンの高校生姿にはさすがに多少の無理矢理感漂うのは否めませんが、それを差し引いても一級品の吸引力。ミステリーファンならずともどっぷり没入、間違いなしです。
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「サムシクおじさん」

「サムシクおじさん」のピョン・ヨハン
キム・サン役のピョン・ヨハン。© 2024 Disney and its related entities
 名匠ソン・ガンホ(映画「パラサイト 半地下の家族」「タクシー運転手~約束は海を越えて~」など)のドラマ初出演作品ということで、鳴り物入りで配信された今年の話題作ではありますが、なぜか私の周囲では視聴している人があまりいないのがこれまた、めちゃ残念だなあと思う作品です。確かに登場人物も多く、韓国の混乱を極めた時代の政治の舞台を背景にしているせいか、内容自体が結構複雑ではあるのですが、実はテーマ的にはかなりシンプルで私的には涙なくしては観られないというか。
 舞台となるのはクーデターによって軍部が政権を握る以前の世界最貧民国の一つといわれていた1960年前後の韓国。ソン・ガンホが演じる主人公のドゥチルは、貧困極める朝鮮戦争の間も、家族を飢えさせないために一日三食(韓国語でサムシク)を与えたという逸話をもち、そのことから“サムシクおじさん”と呼ばれるようになった人物です。お腹いっぱい食べさせてあげること、そのためには人殺しさえも厭わないドゥチルは、今では政治の裏で暗躍するフィクサーとなっているのですが、そんな韓国を三食食べられる富める国にしたいという夢を持っているわけです。
「サムシクおじさん」のピョン・ヨハン
主演のソン・ガンホ(右)とピョン・ヨハン(左)。© 2024 Disney and its related entities
 でもって、ピョン・ヨハンです。彼が演じるのはアメリカで経済学を学び、帰国後は内務省国家再建局に勤務するキム・サン。彼もまた貧しき韓国を産業国家にするという野心を抱いているのですが、現実に阻まれてなす術なしという現状。そんな中、あることから突如演説をすることになった彼は自分が抱く夢についてこう叫びます。「誰もが1日三食、腹いっぱいに食べる国を」と。自分が富むことしか頭にない政治家たちばかり見てきたドゥチルはこの演説を聞き、やっと同じ夢を持つ同志に会えたと心躍らせます。その姿は永遠の恋人を見つけた、ちょっと年のいった少年のようでもあり、さりげなくそんなニュアンスと頃合いを感じさせる演じ方の上手さはやっぱり名匠ならでは。
 ドラマは、そんな二人をさまざまな思惑はびこる政治の中に描いていくわけですが、探り合い、騙し合い、談合し合い、貶め合い、そして、邪魔な人物は抹殺するという政治の世界の凄まじさに加えて、迫りくるクーデターの気配。はたして二人は夢を果たすことができるのか、それとも海の藻屑と消えるのか。過去、現在、その後が並行しながら描かれる構成もちょっとわかりづらくはありますが、人物相関図を手元に最後まで二人の夢の行方を見守ってほしい。ドゥチルが何度か目を輝かせながら口にする「ピザを食べたことがあるか」というセリフが私には今なお忘れられないのです。
■ディズニープラス スターで全話独占配信中

「ミセン-未生-」

「ミセン」のピョン・ヨハン
主演のイム・シワン(右)とピョン・ヨハン(左)。ⓒCJ E&M Corporation,all rights reserved.
 本編でも最初に紹介した通り、熾烈な競争繰り広げられる大手総合商社で奮闘する会社員の悲哀を描くお仕事ヒューマンドラマの傑作です。プロ棋士の夢を断念し、契約社員として入社した主人公グレ(イム・シワン)の懸命な姿を追う本筋のストーリーが涙を誘うのはもちろん、彼の同期となる新入社員3人のサイドストーリーも、立ちだかる壁の前で悪戦苦闘するそれぞれのあり様が、働く身にとってみればリアルにギュンギュン胸に迫るといいましょうか。
 例えば、カン・ハヌル演じるチャン・ベッキ。文句なしの学歴と頭脳で、エリート街道まっしぐらと自信満々だった彼ですが、望んだ部署には配属されず、先輩から与えられる仕事は事務処理ばかりで、手腕を発揮できる仕事は一向にさせてもらえない。きっと、自分を嫌っているのだと思い詰め、さらにはグレが仕事で注目されると焦りは募るばかりで、転職を考えるほどの挫折感を味わうし、紅一点のアン・ヨンイ(カン・ソラ)は、語学堪能な優秀なスキルでエリート部署に配属されるも、プライド高き先輩や上司たちは“女ごときが”という偏見の塊。仕事はコピーなどの雑用ばかりなのはもちろん、プライベートな用事までいいつけられる始末で、一向に戦力として迎え入れるような気配なし。
「ミセン」のピョン・ヨハン
新入社員4人組。左からカン・ハヌル、イム・シワン、ピョン・ヨハン、カン・ソラ。ⓒCJ E&M Corporation,all rights reserved.
 そして、もう一人がピョン・ヨハン演じるハン・ソンニュル。陽気な情報通で、一見調子良さそうに見えるけど、工場経営をする父の影響で現場を大切に思うロマンと情熱も持ち合わせているのですが、そんな彼も、適当な仕事ぶりの先輩上司に仕事を押し付けられたり、手柄を横取りされたり。上司に訴えても相手にされず、悶々とする毎日。大企業に入社したプライドも夢もズタズタにされながら、それでも少しずつ成長していく若き彼ら。最初は自分のことだけで精一杯だった4人が、同じ仲間として繋がっていく姿もジーンとなるというか。
 今ほどの厳密なコンプライアンスがなかった10年前のドラマではありますが、学歴差別、女性差別、契約社員の限界、上司VS部下の構図とか、表立ってはいないけれど、実は今でも脈々と続いているさまざまな理不尽は思い当たる節も満々。踏み躙られても、何度も心折れながらも、前を向いて歩もうとする彼らに、なんだか明日への勇気をもらえるようで。そして、やっぱり泣けるのはイ・ソンミン演じるオ課長。こんな上司、マジで欲しいぞ。
■U-NEXTにて配信中
山崎敦子

山崎敦子

旅行記事に人物インタビュー、ドラマ紹介、実用記事から、着物ライターとさまざまな分野を渡り歩き、今では美容の記事を書くことも多くなったさすらいのライター。襲いかかるエイジングと闘いながら、ウキウキすること、楽しいことを追い求め続ける日々を送る。今年に入って、インスタ(@harurikuumi)も始動。ドラマシーンのイラスト&勝手な解説を挙げてます。
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