さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『忖度しません』『挑発する少女小説』『出世と恋愛』『あなたの代わりに読みました』ほか著書多数。新刊は『絶望はしてません ポスト安倍時代を読む』(筑摩書房)
綿矢りさの新境地、傑作"GL小説"『激しく煌(きら)めく短い命』【斎藤美奈子のオトナの文藝部】
京都と東京を舞台に描く、綿矢りさの傑作"GL小説"『激しく煌(きら)めく短い命』を紹介。同じく京都を舞台にした綿矢りさ『手のひらの京(みやこ)』、女性同士の恋愛を描いた、中山可穂の先駆的な短編集『花伽藍』もあわせて読みたい。
『激しく煌(きら)めく短い命』
綿矢りさ
文藝春秋 ¥2,585
中学1年生で出会い、一時は恋人同士となるも、20年近い年月を別々に過ごした久乃と綸。数々の学校行事や差別の実態、人権教育の功罪などもはさんだ青春小説風の第一部と、すさんだ大人になりかけたふたりを描く第二部とのギャップも魅力。〈本当は大人にこそ言ってほしい、若いだけなんて価値が無い、若い女子が特別なわけもない、自分たちはガキなんかに興味ない、年取ってからの方こそ楽しいって〉という一文が印象的だ。
京都と東京を舞台に描く、傑作"GL小説"が誕生
BL(ボーイズラブ)の実写化ドラマが流行だ。かつてほどではないとはいえ、恋人を家族や友人に紹介するにはまだハードルがあり、同性婚を認めない日本ではふたりの関係のゴールが見えにくい。だからこそ同性間の恋愛は純愛度が上がるのかもしれない。
綿矢りさ『激しく煌めく短い命』はBLならぬGL(ガールズラブ)小説だ。「第一部 13歳、出会い」の舞台は’90年代の京都である。
中学受験に失敗して公立の中学校に入学した「私」こと悠木久乃と、同じクラスの朱村綸(りん)は、久乃が綸に勉強を教えるようになったことから徐々に距離を縮めていく。成績は優秀だが地味で目立たない久乃と、明るい性格の人気者でファッションリーダーでもある綸。
中学生の恋愛?と思うだろうけど、友情と恋愛が未分化な思春期の女子ふたりがそれでも互いに惹かれあう。その揺れをていねいに描くことで、これは大人にも響く恋愛小説になりえている。
加えて京都という町が物語に陰影を与える。両親が中華料理店を営む綸は在日中国人2世だった。2月の春節(中国式の正月)の前夜、町の夜景が見える丘の上で、綸は〈久乃さ。私のカノジョになってくれへん?〉といってきた。〈私だけの勘違いかと思って悩んでた時期もあったけど、綸もやっぱり私のことカノジョにしたいと思ってたんや〉。
そしてふたりはめでたく恋人同士になるが、ある日、図書館の性教育の本で「レズビアン」の項目を読んだ久乃は衝撃的な一文を目にする。〈思春期には一時同性に関心が向く時期がありますがこれは一過性の同性愛ですから、自分は異常なのだろうかと心配することもいらないし、親のほうでもあまり気にする必要はありません〉。一過性って何?
2年生に進級し、クラスが変わっても仲よしだったふたりの周囲には、やがて「久乃と綸はデキている」といううわさが立つ。本当のことではあったが、久乃はそれを過剰に気にし、結局ふたりは卒業式の日に派手なケンカをやらかして、そのまま別れてしまうのだ。
時は’90年代。ルーズソックスやミサンガが流行し、同時に、援助交際やブルセラショップといった女子中高生の「商品化」もまた進んだ時代。
「第二部 32歳、再会」で描かれるのは、当時の価値観を引きずったまま大人になったふたりの姿だ。大学を出て東京の広告代理店に就職した久乃は「枕営業」も辞さないやり手の営業ウーマンとして日々を過ごし、綸はかつてのはつらつとした明るさを失い、年下の恋人との結婚を待つだけの女になり果てていた。
ピュアな第一部とは打って変わり、第二部はぐっとアダルト。ふたりの関係は本当に一過性のものにすぎなかったのか。600ページ超という大作だからこそ描きえた繊細かつ大胆な恋愛模様。綿矢りさの新境地というべきだろう。
あわせて読みたい!
『手のひらの京(みやこ)』
綿矢りさ
新潮文庫 ¥572
こちらは京都を舞台にした三姉妹の物語。31歳で婚活を始めた図書館員の長女綾香。職場での人間関係に辟易している会社員の次女羽依。そして就職先は東京にしたいとひそかに考えている大学院生の三女凜。京都の風物をたっぷり盛り込みつつ、その閉塞感にも言及した今様『細雪』。単行本は’16年刊。
『花伽藍』
中山可穂
角川文庫 ¥726
男性としか関係をもったことのない人妻との濃密な恋(「鶴」)、3年以上付き合った女性と別れた直後に出会った男性とのセックスにいたらぬ関係(「七夕」)など、女性同士の恋愛を描いた5編を収めた先駆的な短編集。一様ではないセクシュアリティと主人公の孤独がきわだつ。単行本は’02年刊。
文芸評論家・斎藤美奈子
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『忖度しません』『挑発する少女小説』『出世と恋愛』『あなたの代わりに読みました』ほか著書多数。新刊は『絶望はしてません ポスト安倍時代を読む』(筑摩書房)
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