【50代のお悩み】実は女性以上に大変!?「夫の更年期」の症状&対処法

更年期の症状は女性だけではなく、実は男性にもあってけっこうしんどいものらしい。将来の健康にもかかわる問題だから、ともに助けあってのりきっていきたい。症状は? 対処法は?など、夫婦で知っておくと役立つQ&Aをお届けします。
教えてくれた人……
メンズヘルスクリニック東京 院長 小林一広先生

メンズヘルスクリニック東京 院長 小林一広先生

北里大学医学部卒。精神科医の立場からメンタルヘルスケアや頭髪治療、男性更年期の診察・治療などに力を注ぐ。精神保険指定医。

 

①夫の更年期Q&A

男性にもあるという更年期障害。ある日、昔の夫ならこんなことなかったのにという夫の変化に気づいて「もしかして更年期?」と、不安を覚えた経験はありませんか。読者の声で多かった夫の変化に関する代表的な症状について、メンズヘルスクリニックの医師に聞いてみました。

夫の更年期

【CASE1】

うちの夫は、毎日食後にグーグー寝ています。そんなに寝られるのか?とあきれるほどです。そんなに疲れているならベッドで寝たら?というと、ものすごい剣幕で怒ってきます。

A:「だるい」「疲れやすい」ということは、普段の生活でよくあることですし、つい仕事のストレスや忙しさのせいにしがちです。でも、いつも眠たい、疲れているとしたら、睡眠障害があるか、男性更年期障害の可能性が高いと考えられます。そのまま無理をかさねると、悪化していく場合もあり、何らかの対処は必要です。

一般に年齢を重ねてくると、寝つけない、眠りが浅い、早く目覚めてしまうなどの睡眠障害を起こしやすくなります。日中眠くて仕方がないなら睡眠時無呼吸症候群の疑いがありますし、睡眠のリズムが乱れている可能性も。生活を見直してもなお睡眠障害が解消されないなら、睡眠外来などを受診し、改善をはかるようにしてください。

また、夫の年齢が40歳以上なら、その背景に、「男性ホルモン(テストステロン)の減少」が隠れている可能性があります。テストステロンには、バイタリティを高める効果や、「一酸化窒素(NO)」を作り出す効果、ストレスを軽減する効果などがあるため、それが減ってくると、ちょっとしたことでイライラする、疲れやすい、なかなか疲れがとれないなど、男性更年期特有の症状が出やすくなります。ちなみに、テストステロンは夜作られるため、夜更かしをせず十分な睡眠をとることがとても大事です。健康チェックの一環と思って、男性更年期の専門外来を一度受診し、一度テストステロンの数値を調べてみることをお勧めします。

【CASE2】
もともと友人が少なかった夫ですが、仕事に行く以外は、一人で過ごしている様子で、気がかりです。休日は自室でほぼ引きこもりです。

夫の更年期

A:以前は、ゴルフに釣りにと趣味があって休日もアクティブだったのに、最近は、趣味さえどうでもよくなってきたみたい……。そんな様子なら、ちょっと、怪しいかもしれません。好きだったことも面倒になる、自分からやろうという意欲がわかないなどは、男性ホルモン(テストステロン)の低下による典型的な現象です。
ただ、引きこもりはうつでも見られる症状です。ご主人の症状が、うつ病なのか男性更年期障害なのかの鑑別は必要ですね。あくまでも目安ですが、違いがわかりやすいのは「食欲」です。うつ病では。多くの患者さんに見られる「食欲減退」が、男性更年期障害ではあまり出てこないという違いがあるのです。元気がないけれど、食欲はあるということだと、男性更年期障害かもしれません。気になるなら、ご主人にネットで手に入る更年期症状セルフチェックなどを勧めてみてはいかがでしょうか。

【CASE3】

トイレに行く回数が増えました。私が「今日さ~」と話しかけると、「ごめん、ちょっと先にトイレ……」と言って話の腰を折られることもしばしば。夜中も最低でも1回は必ずトイレに行きます。

夫の更年期

A:ご相談内容から、男性更年期障害と断定することは難しいのですが。おしっこの回数が増えた、夜中にトイレでたびたび起きる。こんな症状にも、男性ホルモン(テストステロン)は関係しています。テストステロンが低下すると、おしっこを濃縮するホルモンが減ってきたり、膀胱の柔軟性がなくなり尿がためづらくなったりして、頻尿が起こります。
ほかに、男性の頻尿には、前立腺肥大症(前立腺が大きくなり排尿障害が出てくる病気)や過活動膀胱(膀胱が過敏になる症状)、睡眠時無呼吸症候群(睡眠時に呼吸が止まる病気)などが関わっている可能性もあります。ちなみに、頻尿で悩んでいる人は、多くの場合ED(勃起機能の低下)でも悩んでいます。
ご主人の状態はどうでしょうか。40〜50代で、夜2回以上(60代では夜3回以上)、夜中に目が覚める場合は、泌尿器科で検査を受けることをお勧めします。

【CASE4】
あんなに暑がりだった夫なのに、とても冷え症になりました。夏でも必ず羽織ものが必要だったり、冬はパンツの下にくるぶし丈のインナーを着用して出勤するように。前は私のほうが冷え症だったのに……

夫の更年期

A:冷える原因はいろいろありますが、1つには、熱を生み出す筋肉の量が減ってくるとと冷えを感じやすくなります。男性よりも女性が冷えを感じやすいいのは、もともと筋肉量が少ないからです。男性ホルモンのテストステロンは、筋肉増強にも関係しているので、ご主人の冷え症は、年齢とともに運動量やテストステロンの量が減ってきた結果とも考えられます。
また、男性の更年期障害も女性と同じように、ホルモンバランスの乱れが原因になります。ストレス、睡眠不足、運動不足などによってテストステロンの分泌異常が生じると、自律神経の働きが乱れ、ほてり、発汗、冷えなどの症状が出てくるのです。ほかに、食べ過ぎや無理なダイエットなども冷えを招きます。入浴や運動をする、温かい食べ物をとるなどのケアを試しても良くならない場合には、何か病気が隠れている可能性も考えられます。
ご主人の冷えの原因が男性更年期障害なら、男性更年期の治療法の一つである「ホルモン補充療法」を行うことで冷えが改善する可能性は高いです。メンズヘルスクリニックや男性更年期の専門外来で、一度相談してみてください。

【CASE5】

細マッチョだった若い頃の体型ではなく、細身ながらもお腹が出てきて、後姿もすっかり中年体型に……

夫の更年期

A:30代位からお腹が出てきて、40代になるころにはすっかりメタボ体型……という男性は少なくありません。男性ホルモン(テストステロン)には筋肉の維持と成長を助ける働きがあるため、テストステロンが減るということは筋肉が減ることにつながります。筋肉量が低下すれば、基礎代謝も落ちるので、より太りやすくなります。そして、筋肉量が減ると生活活動も減る傾向にあることがわかっています。テストステロンが減少し、男性更年期障害が起こりやすくなる時期とメタボ発生の時期は、重なっています。アメリカの研究によると、テストステロンが少ない人はそうでない人に比べてメタボに3倍成りやすく、死亡リスクが30%高いという報告が出てきています。
筋肉が減って体脂肪がたまると内臓脂肪が増えてきます。内臓脂肪型肥満になると、高血圧症、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病にかかりやすくなるので、中年になったら太らないよう気をつけるにこしたことはありません。
「太りやすくなり、お腹が出てきた」というのは、男性更年期障害の1つのサインだと自覚して、ぜひ生活習慣を見直してほしいと思います。女性も女性ホルモンが低下する40代からはやせにくく、太りやすくなる傾向にあります。ご主人とジムへ通うなど、健康的なダイエットに一緒に組まれるとよいと思いますよ。

男性更年期障害(LOH症候群)の治療法

男性更年期障害は「LOH症候群」とも言われ、男性ホルモンである“テストステロン”の分泌量の低下が原因で引き起こされます。そこで、更年期症状を緩和するために取り入れられているのが「男性ホルモン補充療法」。この治療法は男性更年期を診てくれる泌尿器科やメンズヘルス外来などで受けることができますが、日本ではまだあまり知られていません。また、「ホルモン補充療法」というと、精力剤などの性的な治療法やドーピング剤のように誤解している人も少なくありません。どんな治療法なのか、誰でも受けられるのかなどについて、メンズヘルスクリニック東京 院長の小林一広医師に聞きました。

 

②夫の更年期・基礎知識編

男性の40~50代は働き盛り。一方で無理がきかなくなってくる時期でもあります。夫に「疲れた」「調子が悪い」などの口癖が増えてきたら、男性更年期障害かも。典型的な自覚症状のリストや、うつ病などとの症状の違い、受診や治療法をご紹介。

男性ホルモンは健康に生きるためのホルモン

男性の40〜50代は働き盛り。一方で無理がきかなくなってくる時期でもある。「疲れたなあ」「なんとなく調子が悪い」。夫に、そんな口癖が増えてきたら、男性更年期障害の疑いが。

「男性の場合、性ホルモンがガクンと減ることはあまりありません。それでもストレスなどがトリガーとなり、男性ホルモンが大きく減ってしまうと、心身に深刻な影響が出てきます。朝起きられなかったり、うつ病のようになったり、突然冷え症になったり。これこそが、男性にもある更年期障害、LOH症候群です」と小林一広先生。

 男性ホルモンは、性機能だけでなく、骨や筋肉の維持、肥満の抑制、動脈硬化予防、うつ症状の抑制など、全身の健康に関与していることが、近年わかってきた。

「充実した人生を送るためにも、男性は男性ホルモンを高く維持することを目ざすべき。まずは男性更年期にも治療法があることや、どうしたら男性ホルモンが増えやすく、減りやすいのかなど正しい情報を知ることが大切です。ただし、不調のすべてが更年期の症状とはかぎりません。検診など、健康チェックを欠かさないことも大切ですね」

Q.最近よく耳にしますが 、本当に男性にも更年期はあるのでしょうか?

A.はい。男性にも更年期はあり、女性の更年期障害に似た症状があるのです。

「男性も中年にさしかかると、だるい、やる気が起こらない、体がほてるなど、女性の更年期障害と似た症状が起こることがあります。そうした男性の更年期障害を、男性医学の専門医は『LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)』と呼びます。しかし、男性にも更年期があることや治療法があることは、まだあまり知られていません。周囲から『やる気がない』などと誤解されたり、原因不明の不調が重なったりして悩んでいる男性は多くいます」
夫の更年期

Q.なぜ男性の更年期は近年になって注目されるようになったのでしょうか?

A.医療の進歩により、性ホルモンのより詳細な検査が可能になってきました。

「ドーピングの検査技術が進歩して、以前はむずかしかった微量の性ホルモンの計測ができるようになったことが大きいでしょう。そして、近年の研究により、40代以降の男性が訴える精神的・身体的不調が、男性ホルモン不足を原因としたものであることが多い、ということがわかってきたのです。男性更年期、LOH症候群という言葉が、メディアで取り上げられるようになり、男性更年期の専門外来を受診する患者さんも増えてきています」

Q.女性の更年期とは何が違うのでしょうか?

A.一番大きな違いは、その時期です。女性のように"節目" がないのが男性更年期。

女性の更年期の症状は、卵巣機能の低下や停止によって、女性ホルモンの分泌量が"急降下" することから起こってくる。つまり、閉経というわかりやすい節目がある。
 一方、男性の更年期は、幅広い年代で現れるのが特徴で、明確な時期が特定されていない。男性ホルモンは、生涯にわたってゆるやかに減り続けるからだ。一般的には40代を過ぎたら要注意だが、男性ホルモンの代表格であるテストステロンは、ストレスや睡眠不足、過度な飲酒など、生活習慣による影響で減りやすいため、30代で更年期の症状が出てくる人もいれば、逆に70歳になっても30代と同様のテストステロン値を示すような人もいる。「男性更年期には、女性の閉経のようなきっかけがないため、理由もわからず不調だけが重なっていきます。加齢か疲れによる不調と思い込みやすいのです」。
夫の更年期

Q更年期と老化は同じことでしょうか?

A.男性ホルモンの減少は老化現象のひとつといえます。

「男性更年期の症状は、男性ホルモン(テストステロン)の分泌量が低下することで起こります。テストステロンの分泌量は身長と同じで個人差が大きく、もともと多い人もいれば少ない人も。しかし、多くの人は加齢とともにゆるやかに減っていくので、誰でも更年期になる可能性はあります。男性ホルモンの減少と老化が、ある程度リンクしているのは確かです」
夫の更年期

Q.夫を見ているとつらそうなのですが、 放っておいても大丈夫でしょうか?

A.男性の更年期障害はじっと待っていても改善しません。

「ご主人が心配なのですね。女性の更年期障害は、閉経後しばらくして女性ホルモンが欠乏した状態に体が慣れてくれば、落ち着いてくる人がほとんど。対して男性の更年期障害は、男性ホルモンの減少に伴う"病気"。一過性のものではないところも大きな違いです。性ホルモンの急激な変化は心身への負担が大きく、早めに手を打たないと、糖尿病やメタボ、うつ病といった病気に一気に進んでしまう可能性があります。じっと待っていてもよくなることはありません。あまり気になる場合は、受診をすすめてみてください」
夫の更年期

Q.LOH症候群は血液検査などで わかるのでしょうか?

A.はい。血液検査を含めた検査や問診を行いLOH症候群かどうかを診断します。

「男性ホルモンには、テストステロン、ジヒドロテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステロン、アンドロステンジオンがあり、多くは精巣でつくられて血液に送られます。そのため、血液検査で男性ホルモン値(メインのテストステロンの血中量)がわかり、泌尿器科や男性更年期外来で測定できます。健康診断のつもりで毎年同じ時期に測定しておくと、変化も把握しやすいでしょう。本当にLOH症候群かどうかは、問診、血液検査のほかにもさまざまな検査を行う必要があります」。気になる人は、受診の前に、ネットで公開されている男性更年期のセルフチェックもおすすめ。

 

③夫の更年期・症状編

Qうつ病と更年期に起こる精神的症状は何が違うのでしょうか?

A.男性更年期ではやる気は低下しても、食欲が落ちないので太りやすくなります。

「うつ病と男性更年期の症状は重なる部分が非常に多く、間違えやすいのは確か。男性ホルモンは、男が男らしくあり続けるためのガソリンのようなもの。それが急激に減少すれば、性欲、意欲・やる気などエネルギッシュな面がなくなってきます。

大きく違うのはまず治療法です。うつ病は脳の神経伝達がうまくいかない病気であり、神経系の薬を使います。うつ病と診断され抗うつ薬を飲んでもよくならなかった人が、実は更年期障害で、ホルモン補充療法で改善したケースも。抗うつ薬の中にはテストステロン量を下げてしまうものもあり、男性ホルモン不足が原因なら、やはりホルモン補充がよく効くのです。

また、食欲の有無も鑑別の目安に。うつ病では食欲減退、体重減少が見受けられますが、更年期障害では食欲は減退しないので、逆に太りやすくなります。ご主人が趣味のゴルフやジム通いをやめてしまい、家でゴロゴロしている、メタボ体型になってきたというようなケースでは、男性ホルモンの減少が原因かもしれません」

夫の更年期

Qどんな症状があったら、LOH症候群を疑うべきですか?

A.疲れやすい、朝立ちが減ってきたなどエイジングに伴う悩みと重なる症状が多い。

精神的な症状はうつ病と似ています。

「よくある症状としては、やる気が出ない、だるい、疲れやすい、何もかもおっくうになる、少しのことで落ち込む、イライラする、仕事でミスが増えたなど。仕事はもちろん、今まで没頭していた趣味や習い事にまで興味をなくし、あっさりやめてしまったりします。

ちょっとしたことで腹を立てるなど怒りっぽくなる人もいて、家庭や職場で孤立し、居場所をなくしてしまう人も。

 身体症状では、ほてって大量の汗が出る、不眠、頻尿になる、関節が痛いなど、女性の更年期障害と似た症状が起こります。テストステロンは筋肉の合成を促し、内臓脂肪の蓄積を抑える働きがあるため、減ってしまうと筋肉も減少し中年太りへまっしぐら。男性特有の症状としては、性欲が減退し朝立ちも減ってきます(下表参照)」

 更年期の精神症状は、うつ病と間違えられやすいので注意が必要。逆に更年期の不調かと放っておいたら、病気が隠れていたというケースも。

「うつ症状がなかなか改善しない場合は、まずかかりつけ医に相談してみてもよいでしょう。自己判断で決めつけないことも肝心です。もし、これらの症状が男性ホルモン量の低下によるものであれば、ホルモン補充療法などの治療で改善が望めます」。

LOH症候群の典型的な自覚症状

1.性欲が減退し、セックスの喜びも低下した
2.朝立ちの回数が減ってきた
3.筋力が弱くなってきたと感じる
4.太りやすくなり、おなかが出てきた
5.寝つけない、早く目が覚めるなどの睡眠障害がある
6.やる気が低下、気分が沈む日が増えた
7.すでに燃え尽きたという感覚がある

出典:『病はケから 老けない体と心の作り方』(小林一広著/幻冬舎)

 

④夫の更年期・対策編

Q.夫に受診してもらいたいとき、どこをすすめたらいいでしょうか?

A.泌尿器科または、最近増えてきているメンズヘルス外来をすすめましょう。

「通常、泌尿器科で診てもらえますが、男性は自尊心が強いので病気と決めつけられるのはいやがるもの。まずはネットで公開されているセルフチェックをすすめてみるのもいいですし、または、健康診断のつもりで、メンズヘルス外来をすすめるのも手。男性更年期障害のチェックや血管年齢検査などトータルで男性の健康を診るドックなどもあり、メンズヘルスクリニック東京でも『男性力ドック』を実施(初回¥32,400)しています
夫の更年期

Q.LOH症候群と診断されたらどのような処置がされるのですか?治療で治るものですか?

A.生活指導も行いますが、治療ではテストステロン補充療法が効果的です。

「生活指導、漢方薬、ホルモン補充療法などで治療をしていきます。ED(勃起不全)にはバイアグラなどの勃起補助薬を使いますが、血管機能改善やテストステロン値を上げる働きも期待できます。重症の場合は、ホルモン補充療法が有効。現在、日本で保険適用が認められているのは注射のみ。ただ、打って3日後ぐらいから体内血中濃度が下がっていくので、当院では注射に加えて自宅で使用できる塗り薬(自費)を処方しています。ホルモン補充療法を行うクリニックは限られるので、事前にネットなどで調べるとよいでしょう」

◎ホルモン補充療法とは?

「男性ホルモン補充療法は、テストステロンを体内に直接注入する治療法です。現在、保険の適用が認められているのは、注射によるテストステロン補充のみ。ほかに、塗り薬(クリーム)や経口薬を処方してくれる医療機関もありますが、これらは保険適用外なので自己負担となります。海外では、注射、塗り薬、貼り薬、飲み薬などもよく使われています」と小林先生。
注射は、打って3日前後で体内血中濃度がピークを迎え、なだらかに下がり続けるため10日に1度くらいの補充が望ましいとか。
「とはいえ、何度も通院していただくのは大変なので、当院では注射での補充に加え、塗り薬を処方してテストステロン値を維持するようにしています。更年期障害の治療には漢方薬なども用いられますが、やはりダイレクトに効いてくるのは、テストステロンの補充。睾丸や皮膚に塗って使う塗り薬は、毎日塗ることで、自然な分泌リズムに近づけます。痛みもありません」

◎費用は? 誰でも受けられるの?

男性更年期障害(LOH症候群)の診断・治療は、通常、カウンセリング、AMS調査法(男性更年期症状のセルフチェック)、血液検査(テストステロン値を測定)などの検査からスタート。
「LOH症候群と診断されると治療の対象となり、ホルモン補充療法は、年齢に関係なく受けることができます。男性更年期の症状が出てくるのは一般的に40代ぐらいからですが、70代、80代で治療を受けている方もいらっしゃいます。ホルモン補充療法を行っているクリニックは、事前にネットなどで調べておくとよいでしょう」
ちなみに、メンズヘルスクリニック東京では、ホルモン補充の注射が1回5000円程度、外用薬(塗り薬)が3ヵ月分で3万円ぐらいとのこと。このほか、治療ではテストステロンを作る能力を高める漢方薬を使ったり、EDで困っている場合には勃起補助薬なども使われます。

◎副作用は心配ない? 一度、ホルモン補充療法を始めたらやめられなくならない?

テストステロンには筋肉増強作用があり、ドーピング防止のための禁止薬物に指定されているのは事実。ですが、一般の人では、医師の指導のもと使用量をきちんと守れば副作用もほとんどなく、安全性の高い療法とされています。「むしろ、減ってきているテストステロンを増やすことは、心身の健康を保つ上で非常に有効な治療法です」(小林先生)。
受診した患者の中には、「男性ホルモンを補充すると、毛髪の脱毛や前立腺がんが増えるのではないか」という不安を口にする人も少なくないそうですが、どちらも心配ないとのこと。

がんとの関連については、「ホルモン補充療法で前立腺がんが発生することはありません。ですが、もともとがんがあった場合に、がんが大きくなることはあり得ます。ですから、前立腺がんがないかどうかを調べておく必要があります。ホルモン補充療法を行う前に、ヘルスチェックをきちんと行うことが大切ですね」
注意したいのは、睡眠時無呼吸症候群がある場合。テストステロンを補充すると悪化する可能性があるため、そちらの治療を優先することになるそう。いずれにしても、メンズヘルスや男性更年期障害に詳しい医療機関、信頼できる医療機関で相談することが重要です。

また、ホルモン補充療法は、一生続けなくてはいけないというわけではなく、更年期の症状が治まってきたら量を減らしたり、生活習慣の改善のみで過ごせる可能性が出てきます。やめられなくなるのでは?という心配は無用とのことです。

Q.日常生活で男性ホルモンを増やすことはできますか?

A.はい。食事や筋トレなど、ちょっとした心がけで増やせます。睡眠は特に重要。

「テストステロンは、寝ている間に合成され、朝に分泌量が高まって夕方低くなる。まるでスマホの充電のようです。睡眠不足やストレスはテストステロンの大敵。できるだけリラックスすることを考えて。入浴、睡眠、瞑想などいろいろな方法がありますが、趣味に没頭するのも大きなリラックス効果が。確実に増やしたいなら、運動で筋力をつけるとテストステロン量が増えてきます。食べ物では、にんにく、玉ねぎ、亜鉛が豊富なカキなどをタンパク質と一緒にとるとテストステロン強化に。玉ねぎをたっぷりのせたカツオのたたき、ガーリックステーキなどは、まさに男の理想食。また最近では、すいかに含まれるシトルリンが効果的との研究結果も。勃起力にかかわるNO(一酸化窒素)の産生に欠かせない成分で、特にすいかの白い部分に豊富にあることがわかっています」
夫の更年期

Q.夫婦の時間の持ち方で気をつけることは?

A.がんばれと励ますことはやめましょう。なるべく夫婦で出かけることが大切です。

「男性はテストステロンが減ってくると、ストレスを跳ね返す力が弱くなり、イライラしたり落ち込んだり、情緒不安定になることがあります。そんなときに、がんばれ!と無理に励ますのは逆効果。できるだけ聞き役に徹する、干渉するのは控えるなど、穏やかな気持ちで接してみて。女性と接することでもテストステロンが増えるので、女性からのスキンシップも効果的。たまには、ご主人と腕を組んで散歩をしてみるのもいいと思いますよ」
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