唯一無二のスタイルアイコン、小林麻美さんの新連載がスタート。ファッション通で知られる彼女が楽しむおしゃれの過去と現在――。年を重ねるごとに、よりシンプルになったというおしゃれフィロソフィを貴重なアーカイブとともに深掘り。私たちの“未来”を刺激する、色あせないスタイルを感じて。
連載の記念すべき初回は、彼女のスタイルそのものであり、ファッションへの愛の扉を開いたブランド「イヴ・サンローラン」とのストーリー。メゾンの美学と自身の思い出がつまった、とっておきをピックアップ。そのタイムレスな美しさに魅了される。
パンツスーツは、アルベール・エルバス時代のイヴ・サンローラン。寄贈したコレクション以外にも、小林さんはサンローランを手に入れてきた。「ムッシュ以外だとエルバスが一番サンローランらしくて好き。彼が手がけたベルベットのスーツも今でも愛用しています」
夫と初めて会ったときに着ていたトレンチコートだけはずっと手元に
日本服飾文化振興財団にイヴ・サンローランのコレクション200着を寄贈する際、手元に残したのはこのピンクのトレンチコート1枚だけ、というのが潔い。「20歳で購入した当時は似合っていなかった。モデルの仕事で研鑽を積んで、ようやく着こなせるようになったと感じたのは26歳のときでした」
「潔く」服を着ること。サンローランは美しい哲学までも教えてくれました
今回の撮影場所は、日本服飾文化振興財団 服飾文化資料館。小林さんが寄贈したイヴ・サンローランをはじめ、海外メゾンの貴重なアーカイブがずらりと並ぶ様は圧巻。「このコートドレスは、ムッシュが手がけた最後のショーでカトリーヌ・ドヌーヴが着ていたものと同じモデル。まさにサンローランを象徴するアイテム。エターナルな美しさと、メゾンのフィロソフィを体感できます」
50年、ともに人生を歩んだ私に“一番似合う”服
「このコートドレスなんて、今でも素敵に着られる。やっぱり返してもらおうかしら!?」。そういってチャーミングに笑うのは、伝説の人・小林麻美さん。
彼女が「日本服飾文化振興財団」に’70年代初頭~’80年代初頭のイヴ・サンローランのコレクション約200着を寄贈したのは’14年のこと。「想い出のつまった大切な服たちでしたが、もう着る機会もないでしょうし、文化財として役に立つのならベストだと思いました。今日、その一部を久しぶりに着ましたが、素材、縫製、すべてがすばらしく、改めて心惹かれました」。
記念すべきファースト・サンローランは19歳で手に入れたサファリジャケットだった。
「まだセンスが磨かれていなかったので、似合っていなかった。当時は雑誌も少なく、SNSもなかったから、自分なりに一生懸命考えておしゃれを楽しみました。そんななかで“シースルー”ルックやミニスカートなど、ともすると下品になりうる攻めたルックに挑戦するときは、“潔く”着ることが一番大切だと学びました」。
26歳のころ、紺色のスーツを手に入れて「イヴ・サンローラン」を着こなした手応えを得た。そして20代、30代と働いたお金は迷うことなく服に費やした。おしゃれから離れた子育てのときを経て、60代で再び自分自身のスタイルに向き合うことに。「やはり私にはサンローランが一番似合うと改めて感じました。シンプルで洗練されているものが好き。50年間、一緒に年を重ねてきましたが、その時々の自分に寄り添ってくれたように感じます。今見ても美しいし、がんばって若づくりをする必要もない。トレンドを追いすぎてもいないし、はずれすぎてもいない、そのバランスもちょうどいい」。
冒頭で着用したパンツスーツは、ムッシュ・サンローランの跡を継いだアルベール・エルバスが手がけたもの。「メンズライクなものが好きなんです。私のクロゼットの主役は、今も昔もジャケットとスーツ」。男性的なデザインが女性らしさを逆説的に引き立てるという創業者の意匠はそのままに。メゾンを貫くスタイルが、彼女のスタイルと重なる。
(後編へ続く)
’53年、東京生まれ。’72年に歌手デビューしたあと、モデル、俳優としても活躍。’84年、松任谷由実が日本語訳詞した『雨音はショパンの調べ』が大ヒット。結婚を機に引退するも、’16年に雑誌の表紙で25年ぶりにカムバック。公益財団法人 日本服飾文化振興財団の評議員を務める。
公益財団法人 日本服飾文化振興財団 服飾文化資料館
服飾に関する知識の普及と服飾文化の伝承を図る目的で、貴重なヴィンテージクロージングを多数収蔵。20世紀初頭以降の雑誌のバックナンバーや書籍、19世紀後半以降のテキスタイルブックなど、歴史的に価値ある資料を、実際に手にとって閲覧できる。ホームページから事前予約のうえ、訪れて。
●東京都渋谷区神宮前3の28の1 3F
https://jflf.or.jp/museum/
モデル/小林麻美 撮影/伊藤彰紀(aosora) ヘア/KENICHI(SENSE OF HUMOUR) メイク/村松朋広 スタイリングアシスタント/スズキレナ 取材・原文/中馬あかね 撮影協力/日本服飾文化振興財団 ※エクラ2026年5月号掲載