大人になって見えてきたことをより深めたり、さらなるキャリアの構築を目指したりなど、大学や大学院で学ぶアラフィー世代が、増えている。現役のアラフィー学生のルポ取材に加え、社会人からの大学・大学院であれこれ気になる疑問に専門家がお応え。
心理学科専攻 博士前期
髙橋美智子さん
’17年にリニューアルされた上智大学四谷キャンパスの北門付近にて
“美容の仕事と院の研究、両立は大変だけど充実しています!”
長年、女性誌のビューティ記事を手がけ、現在は『マキア』のエディターとして活躍する髙橋美智子さん。’17 年の春から上智大学大学院に通い、“化粧心理学”の研究に取り組んでいる「がむしゃらに働いた30代が終わり40代の半ばになったころ、今後、仕事の幅を広げていくために大学で学び直したいと考えるようになりました。以前から、メイクをすると女性たちがいきいきと元気になっていくのはなぜだろう? それを科学的に証明できたら…と考えていて、心理学的なアプローチで研究することを思いついたんです」
さっそく、首都圏の大学&大学院の心理学専攻について調べた髙橋さん。「化粧心理学の研究者は少なく、世界で発表されている論文もわずかです。だから、研究を受け入れてくださる先生が見つかるかが、最初の気がかりでした。上智大学大学院の心理学専攻は研究分野が広く、社会心理学の教授に指導をお願いできること、都心にキャンパスがあって仕事と両立しやすいこと、私の出身校でなじみがあることなどがあり、願書を出しました」
試験の課題は、心理学の基礎知識と語学、そして論文。さらに、研究計画書の提出と面接も行われる。
「心理学の基礎がほぼなかったので、入試に備えて大学院専門の予備校に通いました。4カ月で1クールの授業でしたが、最初の1クールは内容を全然理解できなくて(笑)。もう1クール同じ授業を受けて試験に臨みました」
JR四ツ谷駅からすぐの立地にキャンパスを構える上智大学。「学科は違いますが、かつて学んだ母校であることに加え、職場から近い立地も、仕事をしながら通うのに適していたんです」と髙橋さん
心理学系大学院受験のための予備校講座に2期通ったという、髙橋さん。「英語と心理学の基礎の勉強が一度では不安だったので」。課題、自習ノートなど勉強量は相当なもの
髙橋さんが入学したのは社会人枠がない昼間の大学院。20代の学生たちと競っての一発合格は見事だ。
「入試では統計問題で苦戦しましたが、今もゼミの授業で発表するレポートの統計に手こずっています。それと、論文を書くために英語で書かれたぼう大な量の資料や論文に目を通さないといけないのですが、仕事で疲れた頭で英文を見ているとどんどん眠くなってしまって(笑)。週末の2日間、一歩も外に出ないで論文を読んだり、朝5時に起きてレポートを書いたりすることも。編集部や取材&撮影スタッフの皆さんに助けてもらいながら、現場と大学を日に何度も行き来して、なんとか仕事と研究を両立させています」
それだけ大変な思いをしても「仕事とは違う充実感があり、大学院で学ぶことは楽しい」と髙橋さんはいう。
「仕事ではなかなかできない、『長い時間をかけてひとつのテーマを深めること』にやりがいを感じています。学びの場では謙虚な気持ちになれることも発見でした。経験を重ねて自分のスタイルができるとついそれに頼りがちですが、研究の世界ではまったく通用しないことがある。そのとき、いかにまっさらで素直な気持ちで学ぶことができるか。今吸収力が高まり、自分が成長していることを実感しています」
必修34単位のうち27単位を1年目で修得、修士論文を進める道すじが見えてきた。卒業後は、研究成果を化粧品業界の活性化に役立てたいと語る。
「最近、メイクのセラピー効果が注目されていて、化粧をすることで人間関係のストレスを軽減したり、認知症を予防できないか、という研究も始まっています。美容が心と体の健康にながることをエビデンスで裏づけて、化粧品業界がもっと元気になるようなお手伝いができたら。卒業後も、化粧心理をライフワークのひとつとして続けていこうと思います」
心理学科の入る6号館はモダンな建物
院生室では統計データ処理や分析、ゼミ発表の準備を行う。「今の学生さんはとてもまじめ。私は刺激を受けっぱなしです」
カフェスペースでも英語の論文に目を通す
携帯にも入れているので、移動中や仕事の空き時間にも読むことができる
ある日の化粧品の物撮影。カメラマンと打ち合わせのうえ、商品の魅力や、カットのポイント、撮影イメージなどを最終確認
化粧品の発表会は1カ月に十数回あることも。新しい情報を得ながら研究にも生かす
社会人からの大学・大学院 素朴なギモン集
Q.大学と大学院、どちらを選ぶべき?
A.知識を身につけるなら大学、A専門分野を極めるなら大学院
わかりやすくいうと「大学」は学ぶためのインプットの場、「大学院」は深めた専門知識に基づいて論文を発表するアウトプットの場です。自分が関心をもっていること、例えば歌舞伎について、歌舞伎の歴史から演劇論まで体系的に幅広く学びたい…というなら、大学がよいでしょう。大学院に入る場合、例えば自身の介護問題から社会に提言したいことがある、人事部での経験や実績を生かして人事制度について研究&発表をしたい…など、具体的なテーマをもっていることが必須になります。ただし研究したい分野の基礎知識が自分には不足していると感じたら、まず大学で基礎を学ぶのがよいでしょう。
Q.自分の学びにぴったりの大学や学科を探す方法は?
A.無料の公開講座や、シンポジウムをチェックして
大学が学外の人を対象に実施する公開講座がおすすめです。1回完結で学ぶ教養的なものから、数カ月にわたって特定のスキルを磨くものまで、テーマも学び方も期間も実にさまざま。さらに、学内で行われるシンポジウムや研究発表会などにも参加して、実際に授業を行っている先生たちの生の姿に触れてみると、「この先生のもとで学んでみたい!」という出会いのチャンスもあります。そこから、有料にはなりますが次のQで触れる『科目等履修』などを試すのもよでしょう。カルチャーセンターより大学のほうが時間当たりの授業料は安いケースも。
Q.授業は受けたいけれど、入学するほどかどうかが…。
A.『履修証明プログラム』や『科目等履修』という選択肢も
入学をしなくても、大学・大学院には授業を科目単位で受けられる『科目等履修』の制度があります。通学期間は2カ月〜半年。この制度を利用して選んだテーマが自分に合っているか判断してから、正規入学に進むのもひとつの手。また、あまり知られていませんが、特定のテーマについて体系的に学べるように組まれた『履修証明プログラム』もあります。例えば、ぶどうの栽培からワイン製造、品質管理、ソムリエまで実践的に学習できる山梨大学の「ワイン・フロンティアリーダー養成プログラム」など、地方大学には地域の産業に貢献できるユニークな講座が見つかりますよ。
Q.入学後も、仕事との両立は可能?
A.学びのルートは多様化。サテライトキャンパスも続々と
もちろん可能です。大学の場合、通信制大学を利用するのが賢明。学べる内容も多彩になり、webでの学習などサポート体制が充実、週末や夏休みなどに登校して授業を受けるスクーリングもあります。社会人を中心に募集する大学院の場合は、土日・夜間だけで修了できるような体制が整えられています。また、仕事との両立、育児や介護などの事情で修了年数が長引きそうな人は、「長期履修学生制度」を利用してゆっくり単位を修得するのも手。近年は、通学に便利な都市部の駅近くに「サテライトキャンパス」を開設する大学が増え、社会人学生が学びやすい環境は充実してきています。
Q.入試にあたってどんな準備をすればいい?
A.通信制大学は書類審査のみがほとんど。大学院は研究計画書の作成がカギ
通信制大学の入試は書類審査のみがほとんどなので、学力面での事前準備はあまり求められません。一方大学院の場合、必要な基礎知識を備えていることを前提に学生を募集します。ビジネススクールなどの実務型の研究科の場合、最も大切になるのは「志望理由書」。これまでの実務経験とそれをどう生かしていきたいかをまとめます。研究型の大学院の場合は「研究計画書」が重要。先行研究を調べるなどしっかりと準備する必要があります。さらに、小論文、専門科目や語学の筆記試験を実施しているケースもあるので、社会人向け予備校を利用するのも手。まずは資料や説明会で、求められる内容を確認しましょう。
Q.学費の目安はどのくらい?
A.通信制大学なら年20万円前後から、大学院は年間100万円前後
通信制大学の学費は取得したい資格にもよりますが、年20万円前後~と通学に比べかなり安く設定されています。大学院の場合は少人数の対面授業も多いため、初年度の納入額の相場は100万円前後。通信制なら、年間60万円くらいで受講可能なことも。学費支援を受けるなら、奨学金の前に、まず「教育訓練給付制度」の検討を。これは一定の条件を満たす雇用保険の被保険者(在職者)、または被保険者であった人(離職者)が対象で、大学、大学院、履修証明プログラムの一部が該当します。これからの仕事に役立つ分野の学習・研究であることを条件に、国から年間最大56万円の支援を受けられます。
乾喜一郎さん
ケイコとマナブムックシリーズ編集長。キャリアカウンセラーの資格をもち、『スタディサプリ通信制大学』『スタディサプリ社会人大学院』をはじめ、長く社会人学習専門誌の編集に携わる。