文芸評論家・ 斎藤美奈子さんが解説する、変わる世界と「本」の現在地。今回は、“コロナ禍”にクローズアップ。記憶があいまいになっている今こそ、読んでほしい2冊はこちら。
コロナ禍を描いた物語は多々あれど、コロナ小説はいよいよ“最終形態”に
『京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る』
古川日出男
河出書房新社 ¥2,970
『続きと始まり』
柴崎友香
集英社 ¥1,980
ほぼ収束した様相のコロナ禍だが、’24年8月時点で日本での死者数は13万人以上との報告が。
「大きな災害だったことが改めてわかりますが、一方で“あんなにいろいろなことを考えたのにすでにコロナ禍の記憶があいまい”という人も。それは私たちに歴史の流れのような感覚が生まれたからだと思いますが、“コロナ禍から時間的な距離ができたから題材にできる”と思った作家も多かったのでは。実際そういう小説が出てきています」と斎藤さん。
「『続きと始まり』は“忘れやすいからこそこの体験を記録しておきたい”という書き手の強い思いが感じられる小説。『京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る』は歴史上の人物を登場させてコロナ禍をしゃれのめしており、あっぱれという感じです。これらをおもしろく読めるのは、誰もがコロナ禍の当事者だったからでしょうね」
文芸評論家・斎藤美奈子さんが解説!変わる世界と、「本」の現在地
災害や物価の高騰など、不安要素が多かったこの一年。世の中を見渡せば「普及当初は誰でも意見を発信できると期待されたSNSですが、最近は選挙や事件の際にデマが拡散されるなどマイナス面も。“民主主義って何?”と考えさせられましたね」と斎藤さんは語る。
「芸能界だけでなく社会的にも大きな問題になったのが性暴力。ここ数年続けざまに表面化していますが、それを防ぐための本が出てきています。また最近はオンラインカジノの話をよく耳にしますが、ギャンブル関連の本には長く売れているものもあるんです」
一方、本の売り上げに目を向けると、’24年のベストセラーには今までになかった現象が。「ランキング上位の本は前年のベストセラーの続編がほとんど。子供向けの本も多く、“世の大人たちが読んでいた本”という感じがあまりしない。とはいえ、小説の世界では新感覚の日本語を使う作家が登場したり、韓国の女性作家、ハン・ガンがノーベル文学賞を受賞したりと明るい話題も。ネットでは得られない本独自の魅力に今後も注目していきたいですね」