人気韓国ドラマのセリフやタイトルに注目し、ドラマ鑑賞がもっと楽しくなる豆知識をご紹介。今回は、韓国の“スプーン階級論”を題材に、貧しい家に生まれた高校生と財閥御曹司の入れ替わりを描くファンタジー作品『ゴールデンスプーン』をピックアップ。
『ゴールデンスプーン』
『ゴールデンスプーン』ディズニープラス スターで全話独占配信中/© 2026 Disney and its related entities
韓国のWEB漫画『金のさじ』を原作としたファンタジードラマ。主演を務めるのは、男性グループ・BTOBのメンバーで、『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(2016)で注目を集め、『サンガプ屋台』(2020)『鬼宮』(2025)など俳優としても高い評価を集めるユク・ソンジェ。そのほか、ガールズグループDIAのメンバーとしてデビューし、期間限定グループI.O.Iのメンバーとしても活動したチョン・チェヨン、MOMOLAND出身のヨヌが財閥令嬢役で出演。
あらすじ
通称“金のスプーン”と呼ばれる富裕層だけが通う名門・ソウル第1高校。その中でただ1人だけ貧乏なイ・スンチョン(ユク・ソンジェ)は、ある日物売りの老婆と出会い、“誰かの家で3回食事をすれば、その人と人生を入れ替えることができる”という奇妙な金のスプーンを手に入れる。半信半疑のスンチョンだったが、クラスメイトで韓国2位の財閥・トシングループの御曹司ファン・テヨン(イ・ジョンウォン)と人生を入れ替えることに成功する。
このフレーズに注目!
「이 잘난 나라에 사는 나의 계급은 흙수저다」(この国で俺の階級は“土のさじ”だ)
『ゴールデンスプーン』ディズニープラス スターで全話独占配信中/© 2026 Disney and its related entities
韓国俳優やK-POPアーティストに関心がある方なら、「金のさじ(スプーン)」というワードを一度は聞いたことがあるでしょう。『実は金のさじだった芸能人』というエンタメニュースなどもよく目にしますが、これは韓国で“お育ち”を表す言葉。韓国に階級制度はありませんが、10年ほど前からネットを中心に韓国の格差社会を表現する造語として広がり、通称「スプーン階級論」と呼ばれています。
なぜスプーンで階級を表すのか。それは、経済的に恵まれた家庭の生まれであることを意味する英語のフレーズ「born with a silver spoon in one's mouth」がもとになっているとされています。
『ゴールデンスプーン』は、その「スプーン階級論」から着想を得た作品。ユク・ソンジェ扮する主人公スンチョンは、元漫画家で今は無職状態の父、飲食店を経営する母、美容師の卵の姉を持ち、借金4億ウォン(約4000万円)の取り立てが来る貧困家庭に育った高校生。彼は自分のことをこう表現します。
「이 잘난 나라에 사는 나의 계급은 흙수저다(この国で俺の階級は“土のさじ”だ)」
『ゴールデンスプーン』ディズニープラス スターで全話独占配信中/© 2026 Disney and its related entities
「金のさじ」が富裕層なら、スンチョンが自称する「土のさじ」は貧困層。「スプーン階級論」は、年収基準で2億ウォン(約2000万円)以上が「金」、8000万ウォン(約800万円)以上が「銀」、5500万ウォン(約550万円)以上が「銅」、それ以下は「土」とされています。
繰り返しますが、韓国に階級制度はありません。この基準も「スプーン階級論」を説明するためにネットの声をメディアがまとめたもの。その時の韓国の経済状況によっても変動するでしょう。しかし、数字が出てくると生々しさがありますね……。ちなみに、近年は「金」よりも上の層、すなわち財閥の子女などのことを「ダイヤのさじ」と表現することが増えました。
『ゴールデンスプーン』ディズニープラス スターで全話独占配信中/© 2026 Disney and its related entities
お金がないため塾に通うことができず、放課後はアルバイトを掛け持ちしながらも、常にトップクラスの成績を維持しているスンチョン。いい大学に進学し、大企業に就職すれば人生逆転できると信じて努力してきましたが、「金のさじ」を咥えて生まれてきた同級生たちからはパシリにされ、殴られてもお金がないから反撃できず、“パシリにした対価”として渡される数万ウォン(数千円)を貯金する日々に現実の厳しさを実感します。
そんな中、似た家庭環境で育ち、共に理不尽な日々を耐えてきた友人が生活苦によって一家心中してしまいます。このことがきっかけで、スンチョンの中の「金持ちになる」という野望に火が付き、人生大逆転をかけて金のスプーンを使うことを決意。そのターゲットに選んだのが、韓国2位の大財閥トシングループの御曹司ファン・テヨンでした。ドラマでは富裕層のクラスメイトのことをまとめて「金のさじ」と呼んでいますが、よりリアルな感覚で表現するなら、テヨンは前述の「ダイヤのさじ」。1人だけ別格なのです。
『ゴールデンスプーン』ディズニープラス スターで全話独占配信中/© 2026 Disney and its related entities
なんとかテヨンの家で3回食事をすることに成功し、人生を入れ替えたスンチョン。しかし、裕福さを手に入れて満たされるどころか、欲望は強くなる一方。さらには、予想外の事件にも巻き込まれながら物語は展開していきます。
印象的だったのは、人生が入れ替わっても培われた感覚は変わらないという設定。金のスプーンを使うと自分以外の人々の記憶が塗り替えられ、当然テヨンも「金のさじ」から「土のさじ」へと過去の記憶が変わるのですが、高級品と贋作を見分けたり、ピアノが弾けたりと、直感的な部分は「金のさじ」のまま。この設定が“親の経済力によって子の教育や経験に格差が生まれる”こと、それを“自分の努力で変えることは難しい”という「スプーン階級論」を象徴していて、本作が「魔法の力で人生を入れ替えて大逆転する」という単純な下剋上ドラマではないことを表しています。
『ゴールデンスプーン』ディズニープラス スターで全話独占配信中/© 2026 Disney and its related entities
日本の「親ガチャ」に近い「スプーン階級論」ですが、ドラマの題材になるほど人々の関心を集めているのは、韓国の財閥や大企業の多くが世襲制をとっていることが理由に挙げられるでしょう。最近の調査では、後継者には入社時から役職が与えられ、40代で会長に就任するケースも出てきており、オーナー一族の昇進スピードが加速しているというデータが報告されています。(出典:企業分析研究所リーダーズ・インデックス(韓国))生まれた時から人生のランクが決まってしまう。そんな不公平さを抱えているのは、ドラマの中のスンチョンだけではないのでしょう。
金のスプーンで人生大逆転したスンチョン。しかし、金のスプーンを持っているのは、スンチョンだけではなくて……。誰が誰と入れ替わっているのか、伏線が多く仕掛けられているので考察系が好きな人にもおすすめ。漫画を原作とした作品ならではのスピード感ある展開は、一度見始めたら止まらなくなること間違いなしです。
K-POPアイドル、俳優にインタビューを行うフリーランスライター。学生時代からライターとして活動、韓国在住経験もあり。
この連載では、韓国ドラマのセリフやタイトルに注目し、ドラマ鑑賞がもっと楽しくなる豆知識をご紹介。韓国語能力試験(TOPIK)の最上級である6級を取得したライター・轟友貴が、独自の視点でお届けします。