いとうせいこう、みうらじゅんの『見仏記 三十三年後の約束』を紹介。30代のときに「見仏記」で交わした「三十三年後の三月三日、三時三十三分に三十三間堂の前で会いましょう」という約束を60代で実現。シリーズ10冊目発刊を機に、シリーズの原点となる「見仏記」の第一作もあわせて読みたい。
『見仏記 三十三年後の約束』
いとうせいこう、みうらじゅん
KADOKAWA ¥3,333
’24年3月、ふたりは5年ぶりに東京駅で待ち合わせた。コロナ禍でしばらく見合わせていた旅だった――。本書の目玉は’25年の三十三間堂再訪記だが、琵琶湖畔(滋賀県)の寺を訪ねる長浜編、鎌倉や宇都宮を訪ねる関東編、岐阜・愛知・三重の各県をめぐる東海編も並録。喫茶店でまったりし
たり、仏像とは無関係の話題に脱線したり。ノリは前と同じだが、知識量が増えているのは年の功?
"仏友" のふたりが、33年越しの約束を果たす旅
古くさい、年寄りくさい、ややこしいといったそれまでの仏像のイメージを一新させた本。それが『見仏記』(’93年)だった。クリエイターのいとうせいこうとイラストレーターのみうらじゅんが全国各地の仏像を訪ねて歩くという趣向のこの本は、あまりに自由な仏像の見方も含めて反響を呼び、その後、仏像ブームを巻き起こした。
時は流れ、ふたりはその後も旅を続けて『見仏記』シリーズも9冊を数えるまでにいたったが、その10冊目の本が『見仏記 三十三年後の約束』である。
発端は『見仏記』のラスト近くに登場するエピソードだった。’92年の旅の終わり、京都駅構内の喫茶店に立ち寄ったふたりは〈三十三年後の三月三日、三時三十三分に三十三間堂の前で会いましょう〉と約束していたのである。〈そん時はまた一緒に仏像見てさ、勝手なこと言って笑おうよ。それしかないじゃん。たぶんさ、俺たちはボッロボロでも仏像はあんまり変わってないんだろうねえ〉。
当時ふたりは30代。60歳を超えた自分たちの姿など想像もできなかったが、とうとうきたのだ、その時が!
かくして’25年3月3日、33年前の約束を果たすべく、ふたりは同じ新幹線に乗る。いとうは63歳、みうらは67歳。
冗談半分でかわした昔の会話が本当に実現するのもおもしろいけど、それ以上に驚嘆すべきは30代だったふたりが60代になるまで30年も懲りずに仏像を訪ねる旅を続けてきたことだろう。普通は、飽きるとか、健康状態に支障が出るとか、関係がこじれるとかして、どこかで頓挫しそうなものである。こんなに長く続けてこられた秘訣は、ふたりの流儀は違っても〈どちらも相手に自分の流儀を強要しないこと〉だと、いとうはいう。
もうひとつは30年の間にこの旅がすっかり有名になり、望むと望まないとによらず仕事に転化したことだろう。
『見仏記』で訪問した寺は、最初は奈良の興福寺と東大寺。次が同じく奈良の法隆寺と中宮寺と法輪寺など。その次が京都の六波羅蜜寺や三十三間堂や東寺などで、めちゃめちゃ王道。しかも本に登場するのはほぼふたりだけである。
ところがこれが30年後となると、基本的なスタイルは同じでも、スケジュールを組む人や現地を案内してくれる人が登場する。博物館の仏像イベントに参加したり、関西テレビで『新TV見仏記』という番組を続けたりした結果、注目度が上がり、人脈も広がったのだ。
三十三間堂への33年目の訪問も、三十三間堂の総務部長の〈来年の三月三日は本当にいらっしゃいますか?〉という直々の問い合わせから具体的に動き出す。それやこれやで当日は舞台監督がつく大がかりなイベントに発展してしまった。見物人は公式発表で2000人!
それもまたこのふたりらしいとはいえる。当人たちの33年前の予想に反し、まったくボロボロではない旅の記録だ。
あわせて読みたい!
『見仏記』
いとうせいこう、みうらじゅん
角川文庫 ¥858
仏像をウルトラマンやロックミュージシャンにたとえるなど、独自の見方を発揮するみうらと、みうらの暴走をフォローするつもりで仏像とは無関係な話題に走るいとう。互いを仏友と呼ぶ名コンビ誕生の発端となった本。奈良や京都のメジャーな寺のほか、東北や九州の名刹にも足をのばす。
『キャラ絵で学ぶ! 仏教図鑑』
山折哲雄/監修 いとうみつる/絵
小松事務所/文 すばる舎 ¥1,870
仏教の教えの概要のほか、薬師如来、阿弥陀如来、大日如来、弥勒菩薩、観音菩薩など、仏像界のスターが続々登場。仏教界での位置づけや由来だけでなく、仏像ごとの顔や姿、持ち物についても解説。どうせ寺を訪ねるなら、仏像の意味するところやその背景も知りたいと思った人に最適。
文芸評論家・斎藤美奈子
さいとう みなこ●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『出世と恋愛』『あなたの代わりに読みました』『ラスト1行でわかる名作300選』ほか著書多数。近著に『絶望はしてません ポスト安倍時代を読む』(筑摩書房)。
photography:Maho Kurakata ※エクラ2026年4月号掲載