人気韓国ドラマのセリフやタイトルに注目し、ドラマ鑑賞がもっと楽しくなる豆知識をご紹介。今回はNetflixで独占配信中、チョン・ギョンホ主演のリーガルドラマ『プロボノ: アナタの正義救います!』の第8話から、心に残ったセリフを紹介します。
『プロボノ: アナタの正義救います!』
Netflixシリーズ「プロボノ: アナタの正義救います!」独占配信中
失職した出世至上主義の元判事が、一流法律事務所の日陰部署と呼ばれる公益訴訟チームで再起を目指すヒューマンリーガルドラマ。主演を務めるのは、『賢い医師生活』シリーズ、『イルタ・スキャンダル 〜恋は特訓コースで〜』など数々の話題ドラマで活躍するチョン・ギョンホ。『悪魔判事』『ハンムラビ法廷〜初恋はツンデレ判事!?〜』などを手がけ、実際に2020年まで23年にわたり判事として勤務していた作家ムン・ユソクが脚本を担当。
あらすじ
判事のカン・ダウィット(チョン・ギョンホ)は、最高裁判事候補まで上り詰めるが、収賄容疑をかけられ、多くの人望と輝かしいキャリアを一夜にして失う。ロースクール時代の後輩で超大手法律事務所の代表オ・ジョンイン(イ・ユヨン)のはからいで弁護士に転身するが、ダウィットが任されたのは、“売り上げゼロ”の公益訴訟チームのリーダーだった。
このフレーズに注目!
「법도 시대가 바뀌면 바꿔야 됩니다. 」(法も時代に合わせて変わるべきです)
Netflixシリーズ「プロボノ: アナタの正義救います!」独占配信中
日本でも話題となった通称「BTS法」を覚えていますか?
2020年、当時兵役のタイムリミットが迫っていたBTSを巡り、大衆芸術の優秀者は28歳までとされる入隊期限を30歳まで延長することができる兵役法の改正案が可決されました。韓国では、スポーツ選手やクラシック音楽家、バレエダンサーなどが国際大会で優勝やそれに準ずる成績を残した際に、兵役の延期・免除が認められてきました。しかし、大衆音楽は対象外。BTSが米ビルボードチャート1位の偉業を成し遂げ、世界的な韓国ブームに大きく貢献している一方で、特例が与えられないのは不公平ではないか、と韓国与党議員が呼びかけて見直しが始まったのです。
当時、最年長メンバー・ジンの28歳の誕生日が間近に迫っていたこともあり、「BTS法」は大きな注目を集めました。改正案可決により、ジンは2022年12月31日まで延期が可能になり、同年12月13日に延期可能な期間を少し早めに切り上げて、29歳で入隊しました。実は、メンバーたちは以前から「国から呼ばれればいつでも応じる」と、兵役に就く意向を明かしていました。それが突然改正案に巻き込まれる形となり、そうすると当然一部から「特別扱いだ」という批判も飛んでくるわけで、BTS本人の意思はお構いなしに外野がやいのやいの騒いでいる状況が気の毒でもあり、これがスターの宿命なのか、とも思ったものです。
このように、韓国では世間の注目が集まることで法改正に繋がった例が複数あります。韓国で実際に起きた聴覚障がい者学校での児童に対する性的暴行事件をもとにしたコン・ユ主演の映画『トガニ 幼き瞳の告発』が爆発的な反響を呼び、13歳未満の児童や障がい者女性への性的虐待を厳罰化した2011年の通称「トガニ法」が最も代表的な例です。
と、前置きが長くなりましたが、今回注目する「법도 시대가 바뀌면 바꿔야 됩니다. (法も時代に合わせて変わるべきです)」というフレーズも、法改正を題材としたエピソードで登場します。
Netflixシリーズ「プロボノ: アナタの正義救います!」独占配信中
ドラマについて紹介すると、主人公のダウィットは、高卒にして最高裁判事候補まで上りつめた敏腕判事。誰にも負けない実力を持つだけでなく、権力者の懐に入り、マスコミを巧み動かす世渡りにも長けた俗物的なキャラクター。そんなダウィットがある策略にはめられて、出世街道とは対照的な公益弁護士に転落(?)し、再起を目指して“クセつよ”な仲間たちと活躍するというお話です。
出世に執着する利己的なやつに見えて、実は亡き母親との約束を守り続けている健気さや、名声を取り戻すためと言いつつ弱い人たちを救う正義感の強い性格が魅力のダウィット。『賢い医師生活』のスパルタだけど思いやりのあるジュンワンなど、“憎めないこじらせキャラ”を演じさせたら絶品なチョン・ギョンホにとって、今回のダウィットは言うまでもなく“はまり役”なわけです。
有名タレントのお家騒動がモチーフ?
Netflixシリーズ「プロボノ: アナタの正義救います!」独占配信中
本記事で取り上げるのは、第8話。“国民の妹”として絶大な人気を誇る歌手エリヤ(チョン・ジソ)を暴露系YouTuberから守ったのもつかの間、被告であるYouTuberにエリヤの私生活の情報をリークした犯人が、所属事務所の代表であるエリヤの母親だったことが判明します。
エリヤはアーティストとして所属事務所との信頼関係が破綻したとして、母親を相手に契約解除訴状を起こします。再びエリヤの弁護を担当することになったダウィットたちは、契約解除の正当性を主張する根拠を探す中で、事務所の本部長であるエリヤの兄による横領や清算問題を突き止めます。しかし、ここで壁となったのが「親族相盗例」。家族間の財産犯は刑が免除されるというものです。(日本にもあります)
「親族相盗例」は「法は家庭の敷居を超えず」というローマ法に由来し、1953年に韓国に導入されました。2012年に違憲捜査が行われましたが、憲法裁判所は5対4で「合憲」と判断を下しました。
ドラマでは、毒親・オブ・毒親の母親が「すべて私の指示だ」と息子(兄)の罪を被ったことで、争点は「親族相盗例」が適応される直系血族の「母子」へと移ってしまいます。エリヤは、自分のように家族から搾取されている被害者たちの思いを背負い、自らの知名度を利用して世間の関心を集めます。そして、「親族相盗例」の見直しを求めて国会へ。刑法整備と制度改善のための国政監査の場で、“娘思いの母”を演じてきた母親の真の姿を暴くことに成功するのでした。
それでも、70年間続いてきた憲法の壁は分厚く高い。エリヤの状況に理解を示しながらも「法の安全性」を説く委員長に、ダウィットが「法も時代に合わせて変わるべきです」と言うのです。「法が過去の化石ではなく時代に息づく基準となるよう命を吹き込むことが、国会の尊い役目だと思います」と。そして、憲法裁判所は満場一致で「親族相盗例」を「違憲」とみなし、ダウィットたちの勝利で第8話は幕を閉じます。
実際に、韓国では2024年にドラマと同じ“裁判官の満場一致”で「親族相盗例」が「違憲」と判断されています。この改正案が注目を集めるきっかけとなったのが、2021年に実兄夫婦を横領疑惑で告訴した有名タレントのパク・スホンさんのケースです。パク・スホンさんの場合は、実兄に代わって父親が「私が横領した」と主張したことが報じられており、当時も「親族相盗例」を悪用しようとしたのではないかという指摘が上がったそう。
奇遇にも、第8話が放送された2025年12月28日から2日後の12月30日、「親族相盗例」の廃止が決定。放送のタイミングが重なったこともあり、パク・スホンさんの件を思い出す視聴者も多く、第8話はドラマの中でも特に大きな反響を呼びました。(その後、今年2月に最高裁がパク・スホンさんの実兄に懲役3年6カ月、実兄の嫁に懲役1年6カ月・執行猶予2年を言い渡しました)
家族間の財産問題では、通称「ク・ハラ法」を思い出す方もいるのではないでしょうか。これは、養育義務を怠った相続人の相続権を制限するという改正案で、今年1月1日から施行されました。その名の通り、KARAのメンバーで2019年に28歳で亡くなったク・ハラさんの遺産を巡る問題がきっかけとなっていて、ク・ハラさんの死後に約20年間音信不通だった母親が相続権を要求したことを防ぐため、ク・ハラさんの実兄が立法を請願したことから始まりました。
まさにダウィットの「法も時代に合わせて変わるべきです」という言葉は、人々の強い思いが法改正に繋がってきた韓国の歩みを思い出させる一言。現実とリンクしたリアリティがより深い感動を生んだのでしょう。
K-POPアイドル、俳優にインタビューを行うフリーランスライター。学生時代からライターとして活動、韓国在住経験もあり。
この連載では、韓国ドラマのセリフやタイトルに注目し、ドラマ鑑賞がもっと楽しくなる豆知識をご紹介。韓国語能力試験(TOPIK)の最上級である6級を取得したライター・轟友貴が、独自の視点でお届けします。