エクラの人気連載、有元葉子さんの「この2皿さえあれば。」をまとめた待望の単行本がこの秋発売! おいしく素敵な料理を次々と生み出す有元さんのキッチンの“流儀”とは? 彼女の生き方にも通ずる、キーとなる9つの哲学をご紹介。
1.キッチンを“退化”させる
昔使っていた通称“朝顔”は弱火から強火まで火かげんが自在なコンロ。とてもいいので時代を逆行して新しいキッチンに導入。実は退化したキッチンのほうがおいしいものができるのです。
新しい家では七輪や朝顔が大事な「火」の道具。「野尻湖の家では暖炉を使って料理もします。薪、炭、ガス火―原始的になればなるほど、素材がおいしく焼ける。まったく味わいが違います」
2.“NO、プラスチック”
キッチンに立っているとどうしても温暖化やゴミの問題が他人(ひと)事ではなくなる。プラスチックのものをなるべく使わない、置かない。それだけでもずいぶん違うはず。暮らしが美しくなります。
ステンレスやオリーブの木のボウル、天然木のまな板を愛用。「プラスチック製品は汚れやすく、汚れたら捨てなければならない。ゴミを増やしたくないのです」
3.作るときも“目を愉しませる”
できあがった料理はもちろん、作っている途中も“目が愉しんでいる”ことが私にとって大事。調理中の状態が美しければ完成した料理は必ずおいしい。段取りや道具の力も大きいです。
グリーンのぶどうと、グリーンのサラダ野菜を組み合わせて、目にみずみずしいひと皿を作り上げる。「盛りつけ用、というのではなく、お皿の上に絵を描くように。目が愉しむように」
水を吸わせて養生した野菜は、ザルを重ねたボウルに入れて、プレートでふたをして冷蔵庫に入れておく。「この方法なら4〜5日は平気で野菜を元気に保てます」
そのときに使うものしか、外に出ていない有元さんのキッチン(都内のスタジオ)。肉を焼きつけたら、このバットにとって……と段取りされているので、調理は流れるようにスムーズ
4.一生どころか、二生も。“使えば使うほど美しくなる”道具を選ぶ
くっつかないフライパンは最初はいいけれど、使ううちに剝げたりしてゴミとして捨てることになる。一方、鉄のフライパンのような道具は使うほどに味わいが増す。美しくなる道具が好きです。
「手入れをした鉄のフライパンは、貫禄が出てかっこいい。どちらを選ぶかです。手入れは不要だけれど、早くゴミになる道具か。手はかかるけれど、使うほどに美しくなる道具か。私は後者が好きです」
5.本当によい素材を“買う”
何も考えずに店に並んでいる材料を買っているのではよい食事はできません。いいものを買おうとする努力が必要。その努力が店を動かす。作り手を励ます。自分の五感で確かめることです。
「本当においしいと感じられる食材を手に入れるのは大変」と有元さん。和食の基本となるだしを引く昆布もいりこも「自分の五感を総動員してよいものを選ぶ。その努力がおいしい暮らしの第一歩」
6.使える道具が“最強の助手”に
液体のキレがいいこと、油が飛び散らないこと……。スピーディかつ美しい“料理の流れ”をつくるためによい道具は必須です。道具は台所仕事をシステム化するツールです。
同じバットを並べて、粉、卵、パン粉とつけていけば揚げ物もスムーズで、キッチンが汚れない。「自分が使いやすい道具」を追求したキッチン道具『ラバーゼ』シリーズのプロデュースもしている
バット同様、『ラバーゼ』の揚げ鍋。油ハネが少なく、付属の揚げかごを利用して、使用済みの油も漉(こ)せる優れモノ
7.ひとりごはんこそ“マイ折敷”
家でひとりの食事どきこそ折敷(おしき)の出番。仕事中の机も、書類を寄せて折敷を置けば“きちんとごはん”の様相になる。おつゆは漆椀で。ふだんにもよい器を使うのも、暮らしをちゃんとするための入口。
「折敷は、卓上に結界をつくれるから便利。ある日のひとりごはんは、鶏とごぼうとこんにゃくのおつゆ、とうもろこしと枝豆のごはん。この2品に、常備菜を並べれば十分満ち足りた食事に」
8.“触感”って意外と大事
自分でスポンジをつくったとき。茶碗は何も感じないのだから、手に気持ちのいいスポンジをつくろう、と。毎日のことですから触感はとても大事。気持ちよければ仕事も楽しい。
「キュッと握ったときの触感を大事にして」、試作を重ねてつくった『ラバーゼ』のスポンジ。「決して安くはないけれど、これが人気なんです。しかも白が一番売れすじ。日本人の清潔好きがうかがい知れますね」
「包丁の切れ味という“触感”もとても大切。頻繁に自分で研いで、よい切れ味を保っています」。研ぐときの専用の台は、有元さんの手づくり
9.ちょっとあき時間があれば作る“常備菜”
食べることは大事。疲れていて何も作りたくない日も冷蔵庫から常備菜を出して冷凍ごはんを蒸して温めれば、体と心によいものが食べられる。私の元気の源です。
ししとうとじゃこの煮物、野菜入りの肉みそなどの「地味なおかず」を、有元さんは時間を見つけてはせっせと作る。「鶏むね肉の酒蒸しは、裂いてあえ物やサラダがすぐに作れるから便利」。いずれもそのまま食卓にも出せる、高久敏士作のふたつき白磁に
「有元さんの連載をぜひ単行本化してほしい」との多くのラブコールに応え、発売中。秋冬に食べたい52のレシピを掲載。レシピに加え、珠玉のエッセイや美しい写真がつまった一冊。¥1,800/集英社