相手に話が通じず「えっ?」と何度も聞き返されることが多くなった小田。知らず知らずのうちに声が小さく、低くなり、かすれた発声になっていたことに愕然。女性は更年期で「声変わり」し、放っておけばオジ化してしまうという。発声のメカニズムに詳しく、声の治療に取り組む朴澤孝治先生にお話をうかがいました。
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50代の声がオジサン化!?
声が低くなるのは、更年期による女性ホルモンの低下が原因
小田:50歳を超えたころから声が低くなってかすれるようになり、特にコロナ禍になってから、話している相手に何度も聞き返されるようになりました。
朴澤先生:そういう方は、とても多いんですよ。声が低くなった主な原因は、加齢による声帯の変化。声は左右の声帯が閉じて振動することで出ますが、ベースとなる声の高さは声帯の長さ、幅、重さで決まります。声帯はホルモンの影響を受けやすく、更年期で女性ホルモンが減少することで声帯が変化。男の子の声変わりも男性ホルモンの影響で起こりますが、女性は更年期に声変わりが起こるのです。
小田:え〜!? 声が低くなったのって、声変わりだったんですか。どのように声帯が変化したのでしょう。
朴澤先生:声帯の厚みが増して、重くなり、多くの場合むくんだようにブヨブヨになります。そうすると、高い声が出にくくなり、低い声になるのです。また声帯がやせる方もいます。やせると声を出すとき左右の声帯がぴたりと閉じず、すき間ができてかすれ声に。
小田:だから、話している声を録音で聞くと、オジサンっぽい声になっていたんですね(笑)。
朴澤先生:実際、更年期を過ぎた女性の声の高さ(周波数)は、成人男性と似通ってきます。逆に男性は中年以降声が高くなる傾向にあります。高齢者になると甲高い声になる男性もたくさんいらっしゃいます。
小田:逆転現象ですね(笑)。
白っぽい部分が声帯。呼吸をしている時、声帯はV字に開いている。
声を出すとき、周囲の筋肉が働いて声帯は閉じ、声帯の長さを伸縮させることで声の高さをコントロール。同時に、吐く息で声帯を波打つように振動させて、声となる。
ブラインドで他人の朗読を聞き、年齢を推定すると、ほとんど誤差なく年齢を言い当てることを示した実験結果。外見を見なくても声で年齢がわかってしまうほど、声には年齢が表れる。(Shipp, TとHollien, Hの研究による)
声が低くなるのはどうして?
長引くコロナ禍で、声帯や肺を動かす筋力が衰え、声枯れに
朴澤先生:声が低くなるもうひとつの原因は、声帯を動かす筋肉の衰え。声帯は引っぱって長くすると高い声が出て、ゆるめて短くすると低くなりますが、それをコントロールする筋肉が衰えると、引っ張る力が弱くなり高い声が出づらくなるのです。
小田:コロナ禍で人とあまりしゃべらない期間が長かったことと関係がありますか?
朴澤先生:大いにあります! 腹筋や背筋、脚の筋肉と一緒で、声帯を動かす筋肉も使わなければ衰えます。特に、声帯を動かす筋肉はのどぼとけの中にあり、とても小さい。使わなければすぐに弱くなってしまいます。コロナ禍のステイホームやリモートワークで人と話す時間が減り、声が出にくくなったと当院に来られる患者さんは実際多いのです。
小田:マスク越し、パーティション越しだと相手に声が届かず、話しているとすぐに疲れてしまうのも、声帯まわりの筋肉の衰えが原因?
朴澤先生:それもありますが、声が届かないのは声量、つまり声の大きさにも問題があり、それは呼吸に関係しています。声を出すとき、成人女性で平均1秒間に240回も声帯を振動させています。そのエネルギーは吐く息。声が小さくなってしまうのは、吐く息が弱まっているからでもあるんです。
小田:吐く息が弱くなるのは、肺が衰えたのでしょうか。
朴澤先生:はい。正確にいうと、肺を動かす筋肉が衰えたと考えられます。肺は自分で勝手に膨らんだり縮んだりできません。肺の下側にある横隔膜が下がることで肋骨が広がり、肺はふくらみ、横隔膜が上がることで肺は縮みます。声を出すときは、この横隔膜の動きに加え、肋骨まわりのさまざまな筋肉が連動して働き、声量をコントロール。声が小さい人は、これらの筋肉がサボってしまっているのです。
小田:最初は声が出ても、話しているうちに弱々しくなってしまうんですよね。
朴澤先生:それは、まさに肋骨まわりの筋肉がサボっている状態。ふくらませた風船に笛の吹き口をつないだと想像してみてください。最初は「ピーッ」と大きな音が出ますが、だんだん弱くなりますよね。それは風船からの空気の出方がコントロールされていないから。肋骨まわりの筋肉がサボると、息がバーッと一気に出てしまい、声が続かなくなるのです。
小田:なるほど! カラオケで息が続かず、だんだん声が小さくなってしまうのも、肋骨まわりの筋肉が弱いせいですね。
朴澤先生:その通り。息を少しずつ出すロングブレスの調整ができなくなっているのです。肋骨まわりの筋肉は加齢でも衰えますが、声帯まわりの筋肉と同様、人とあまり話さないなど、使わないことでも衰えてしまいます。
小田:声枯れの原因、よくわかりました。声のオジ化、尻すぼみ化、今からでもなんとかなりますか?
朴澤先生:大丈夫! 簡単なトレーニングで改善しますよ。お教えしますね。
声が枯れるのは、声帯のエイジングが原因。また、声帯まわりの筋肉の衰えや、声帯を振動させる吐く息のコントロール力の低下も大いに関係あり。
スキンケアやメイク、美容医療などで外見を磨き、見た目の若見えには成功しても、声を聞いた途端、年齢がバレバレってよくありますよね。声が低く小さくなり、相手にしっかり届かないと、コミュニケーションもおっくうに。20代、30代のときのような高い声は出なくても、ちゃんと伝わるみずみずしい声でいたいし、カラオケでは音程を下げてもいいから、尻すぼみにならずに歌い切りたい! そして、声でオジサンに間違えられたくない(笑)!
声枯れ防止「発声トレーニング」
横隔膜と肋骨まわりの筋肉を鍛えるロングトーン・トレーニング
小田:先生、大人の女性の声枯れ、声のオジ化を阻止する方法ってありますか?
朴澤先生:日々のちょっとした発声トレーニングが効くんです。まずは、話しているうちに声がだんだん小さくなってしまう、震えてしまうというお悩みを解決する発声トレーニングです。
息をいっぱい吸い込み、人と話すくらいの声量と音程で「あーーー」とできるだけ長く発声してみましょう。このときのポイントは、尻すぼみにならないよう、できるだけ一定の声量で息を吐き続けること。時計の秒針を見ながら、またはスマートフォンのストップウォッチアプリなどを利用して、時間を計ってみましょう。最初は5秒くらいしか続かないかもしれません。10秒続けば合格。訓練していくうちに30秒くらいまで続くようになる人もいます。
小田:やってみると、5秒を超えると声が不安定になり、尻すぼみになってきます(笑)。だからしゃべっている途中で「えっ?」と聞き返されてしまうんですね。
朴澤先生:このトレーニングにはふたつのメリットがあります。ひとつは息をいっぱい吸い込むことで肺の下側にある横隔膜が下がり、肋骨が広がって、肺がしっかりと膨らむこと。みなさん、長引くマスク生活のせいで呼吸が浅くなり、横隔膜の動きが悪くなって、肺がふくらみにくくなっているのでとても重要です。もうひとつは、肋間筋など肋骨まわりのさまざまな筋肉がしなやかに動くようになること。
小田:肋骨まわりの筋肉がサボっていると、肺から息がバーッと出てしまい、声が続かなくなるんでしたよね。
朴澤先生:その通りです。トレーニングを続けるうちに、肋骨まわりの筋肉が吐く息の量を上手にコントロールできるようになります。
気になる大人の女性の「声枯れ」「オジ化」。日々のちょっとした発声トレーニングでみずみずしく、女性らしい声を取り戻せる!
声帯のまわりの筋肉を鍛えるプッシング・トレーニング
朴澤先生:次にやっていただきたいのは、声帯をピンと張るための筋肉を強化する発声トレーニングです。腕を使い、首まわりの筋肉を緊張させながら「あーーー」と発声することで、声帯を動かす補助筋が鍛えられます。トレーニングを続けるうちに、声を出すとき左右の声帯がピタッと閉まるようになっていき、すき間のせいでかすれていた声が、クリアに透明感が増していきます。
小田:それはいいですね! かすれるとどうしても声にエイジング感が出てしまいますもんね。声が若返りそうです!
胸の前でしっかりと手を組み、腕を水平方向に外側に引っ張る。この状態で、普通の話し声の高さで「あーーー」と発声。途切れず、震えず、声量を一定に保ちながら10秒以上出し続ける。
胸の前で手のひらを合わせ、ギューッと押し合う。この状態で、普通の話し声の高さで「あーーー」と発声。途切れず、震えず、声量を一定に保ちながら10秒以上出し続ける。
椅子に座り、座面の脇を両手でしっかり持つ。垂直方向に引っぱりあげながら、普通の話し声の高さで「あーーー」と発声。この時も途切れたり震えたりしないように、声量を一定に保ちながら10秒以上出し続ける。
1日10分の朗読は、声枯れ防止にも、脳トレにもなる
朴澤先生:ロングトーン・トレーニングも、プッシング・トレーニングも慣れてきたら、低い音程から高い音程へ「あ⤴」と上げながら行ったり、高い音程から低い音程へ「あ⤵」と下げながら行いましょう。そうすることで、声帯を引っぱったり縮めたりする動きがよくなり、出にくくなっている高いほうの音域も、徐々に広がっていきます。
小田:声帯を引っぱると高い声が出るんでしたね。この発声トレーニングによって、声の低音化=オジ化を阻止でき、女性らしい声を取り戻せそうです! こうやって発声トレーニングをしてみると、日頃ちゃんと声を出していないことに気づきますね。トレーニングのあとは、声がしっかり出るようになります。私には子供はいませんが、お子さんが独立して、日中1回も声を発していないことがあると、よく友人たちがこぼしています。
朴澤先生:今は友人との連絡、離れた家族との会話も、ラインなどのチャットですみますからね。声を出すことを意識しないと、発声の機能は衰えていく一方です。ロングトーン・トレーニング、プッシング・トレーニングに慣れてきたら、好きな本を朗読することもおすすめですよ。文字を見て、その内容を理解して、声に出す。自分の声を耳で聞いて確認する。この一連の作業が脳トレにもなるんです。
小田:これらの発声トレーニングは、どのくらい行えばいいですか?
朴澤先生:それぞれ1日1回でもいいし、3回でもいいですが、毎日続けていただきたいです。とにかく声帯が疲れない程度に、気楽に気長に続けることが大事です。朗読は1日10分くらいでOKです。
小田:頑張らなくていいんですね! それなら続けられそうです。
私の話に無関心だった夫が、耳を傾けてくれるように
朴澤先生に取材をしてから1か月。仕事の合間に、ロングトーン・トレーニングとプッシング・トレーニングを毎日最低1回ずつ続けてみました。それぞれ10秒ずつなら全部行っても1分以内に終わるので、忙しいときでも苦になりません。むしろ声を出すことですっきりして、短時間なのに気持ちもリフレッシュするというメリットも。声がスムーズに出るようになって、声量もアップ。マスクを着用していても、人から「えっ?」と聞き返されることがなくなりました。
また、予想以上によかったのが朗読。最初の内は、5分も続けるのがきつかったのですが、ロングトーン・トレーニングとプッシング・トレーニングを続けるうちに、朗読も10分続けられるように。息継ぎや息の吐き方のコツもつかめて、滑舌もよくなったように感じます。
声がよく出て、しゃべるのがラクになると、不思議なことにもっと人と話したいと思うように。聞き取りやすくなったのか、いつも私の話に関心がなさそうだった夫が、耳を傾けてくれるばかりか、質問までしてくれるように。とても驚いています。思いもよらなかった発声トレーニングの効果。これからも細く長く、続けていこうと思います。声に自信がなくなった人は、ぜひだまされたと思ってお試しください。
朴澤耳鼻咽喉科院長。東北大学医学部臨床教授。医学博士。東北大学医学部卒業。日本ホリスティック医学協会常任理事。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。米国ハーバード大学留学中の基礎研究成果、東北大学病院助教授、仙台社会保険病院院長補佐など長年にわたる臨床経験をもとに、耳鼻咽喉科一般の診療を行う。 2011年に朴澤耳鼻咽喉科を開院。
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