【2020夏の文芸エクラ大賞】ウィズコロナの時代を生き抜くために「読んでおきたい本」

読書の魅力を発信して本の世界を盛り上げたい、本好きのかたをもっとサポートしたいとの思いから、毎年開催している文芸エクラ大賞。今年は、新型コロナ感染症の影響ですべての人が自粛生活を経験。「久しぶりに家でじっくり本を読んだ」「読書で自分を見つめ直した」という声が多く効かれた。そこで今回は大賞・各賞の発表に加えて読書のスペシャリストたちに「今だから読んでおきたい本」を緊急リモート取材。ウィズコロナの時代を生き抜くために、あなたに響く本を見つけてほしい。

 

文芸エクラ大賞とは?

私たちはさまざまなことを本から学んだ世代。読書離れが叫ばれて久しいとはいえ、本への信頼度が高いという実感がある。エクラではそんな皆さんにふさわしい本を選んで、改めて読書の喜びと力を感じていただきたいという思いから、この賞を創設。’19年6月~’20年5月の1年間に刊行された文芸作品から、エクラ書評班が厳選する「大賞」、ほかにも注目したい「特別賞」、そして本の現場にいる女性書店員がイチ押しする「書店員賞」の3賞を選定。選考基準は、エクラ読者に切実に響き、ぜひ今読んでほしいと本音でおすすめできる本。きっと、あなたの明日のヒントになる本が見つかるはず!

 
①斎藤美奈子さんがコロナ禍の世と話題本を解説

文芸評論家・斎藤美奈子さんがコロナ禍の世と話題の本を徹底解説します。
教えてくれた人…
斎藤美奈子さん

斎藤美奈子さん

さいとう みなこ●’56年、新潟県生まれ。本誌連載「オトナの文藝部」でも人気の文芸評論家。’94年に『妊娠小説』でデビュー。『文章読本さん江』『日本の同時代小説』など著書多数。8月末に『中古典のすすめ』を刊行予定。

コロナ禍の前と後で世の中が激変した今年。本の世界もダイレクトにその影響を受けた。

「最初はほとんどの人がコロナ禍を対岸の火事のように眺めていたけれど、その後急速に誰もが当事者になった。情報が少なかったので、多くの人の知りたい気持ちがパンデミック(感染爆発)系の名作文学に向かいましたね。アルベール・カミュの『ペスト』は160万部を突破したんですよ」と斎藤さん。

 

70年以上前に書かれた『ペスト』は、病の猛威に立ち向かう医師が主人公。「“ペストは不条理の象徴で、閉鎖空間で人はどう生きたかを描いた小説”と思われていました。でも今読むと臨場感いっぱい。小説内の非日常感や不安感を“ものすごくリアル”と思いながら読めるのは今年だけでしょうね」

 
世界史に出てくる『デカメロン』も、今年読み返された本のひとつ。

「ペストが蔓延した14世紀のフィレンツェが舞台。郊外に避難した10人が、退屈しのぎにお話をしていきます。内容はいわばバカ話ですが、背景にあるのは神の権威の失墜。だって神はペストを退治してくれなかったから(笑)。でもそれが人間中心のルネッサンスにつながったのだから、感染症が歴史を変えたことがよくわかります」

パンデミック系の名作を読むなら今しかない!

自粛中話題になった感染症の歴史の本も多数読んだという斎藤さん。

「そこで感じたのは、何度も痛い目にあってきたのに人は歴史から何も学んでいなかったということ。感染症は必ず終息するものだから、情報が次の代へと伝わっていかないのでしょうか」

一方で、コロナ禍だからこそ生まれた本も。イラスト集『みんなのアマビエ』は、SNSなどに発表されたクリエイターによる妖怪アマビエ(疫病よけに効くとされる)の競作をまとめたもの。「これは緊急出版的な本ですが、今後少しずつコロナの話を書く作家も出てくるでしょう。とはいえこの災いはまだ渦中だし、誰も逃れられない。病気自体解明されていない、自己責任論ではどうにもならない、経済への影響は計り知れないなど問題山積で全貌が見えにくいから、読み応えのある小説が生まれるには数年かかる気がします」

【夏の文芸エクラ大賞】斎藤美奈子さんがコロナ禍の世と話題本を解説!

懐かしいあの本も電子化。新たな読書の楽しみが

また電子書籍化される本は、巣ごもり需要でますます増加傾向にある。「紙の本にも電子書籍にも利点はありますが、手に入りにくい本が電子化で読みやすくなるのはうれしいですよね。去年亡くなった田辺聖子さんの本もそう。彼女のハイミスもの――恋も結婚も仕事もという女性は、かつては新しかったけれど、今読むとあたりまえ。エクラ世代が読み返すと感慨深いと思います」

今となってはひと昔前のような気さえするコロナ前だが、本の世界を含め世の中では大きな盛り上がりがあった。

「『おっさんずラブ』『きのう何食べた?』などのドラマが関連本や原作本とともに大ヒットしたことです。LGBTが一般の人たちに浸透してきたのを感じましたね」と斎藤さん。

「女性同士の恋愛を描いた綿矢りささんの『生(き)のみ生(き)のままで』、カルーセル麻紀さんをモデルにした桜木紫乃さんの『緋の河』など、小説にも力作が。ただ同性パートナーシップ制度は導入されはじめましたが、トランスジェンダーとして生きることはまだきびしい。

LGBT本で“現実”を学んでみんなが生きやすい社会に!

LGBTは7人にひとりといわれていますが、それは自分の周囲にそういう人がいることを表しています。だから今大事なのは、LGBTについて少しでも勉強して、知らないうちに人を傷つけることがないようにすること。『はじめて学ぶLGBT』や『総務部長はトランスジェンダー 父として、女として』など入門書や自らの経験を語った本が増えているので、ぜひ手にとってみて。1冊読むだけでも理解が進みます!」

 

 
②エクラ書評班×第3回文芸エクラ大賞発表!

4人の選者】

文芸評論家 斎藤美奈子

本の執筆だけでなく、新聞や雑誌など多くの媒体に切れ味鋭い評を寄せ、幅広い層に支持されている。

書評ライター 山本圭子

出版社勤務を経てライターに。女性誌ほかで、新刊書評や著者インタビュー、対談などを手がける。

書評ライター 細貝さやか

本誌書評欄をはじめ、文芸誌の著者インタビューなどを執筆。特に海外文学やノンフィクションに精通。

書評担当編集 K野

これまで在籍したすべての女性誌で書評欄担当を経験。女性誌ならではの本の企画を常に模索中。

 大賞 

少女の自我の目覚めを描いた長編小説が大賞に

『遠の眠りの』

遠の眠りの

『遠の眠りの』

谷崎由依 集英社 ¥1,800

福井の貧しい農村生まれで本好きの絵子は、父親に反抗して家を飛び出し、人絹工場の女工に。街の百貨店の支配人と知り合い、専属の少女歌劇団の「お話係」になるが、そこで出会ったのが看板女優の少年だった。昭和初期の少女の自我の目覚めと時代の変化を描いた長編小説。

経済格差が大きかった昭和初期、地方にも“新しい波”を浴びた女たちがいたと感動

━━ 文芸評論家 斎藤美奈子

主人公は自我の目覚めをつぶされかけても前を向く。心から応援したくなった!

━━ 書評ライター 細貝さやか

本好きの貧しい少女がやがて歌劇団の脚本係に。リアルで夢も感じるストーリーにうっとり

━━ 書評ライター 山本圭子

メッセージをいただきました!

作家・谷崎由依さん

戦前の福井に実在した百貨店の少女歌劇。そこに着想を得た小説を、書きたいと思いました。その時代について調べるうちに、華やかさの陰の暗い部分も見えてくるようになりました。女に教育は不要だといわれた農村を出て、人絹工場の女工を経験する主人公の周囲には、もがき、闘う女たちの姿が常にあります。現代を生きぬく女性の皆さんに、ぜひ読んでいただけたらうれしいです。

 

おもしろかった本を持ち寄った選考会。その内容は?

K野 大賞選考会も3回目になりましたが、この一年を振り返るとコロナ以外にもLGBTの認知の広がり、フェミニズムの新しい流れ――#KuToo(職場でのヒール靴義務への抗議)など時代の変化を感じる話題が多かったですね。そんな中、松田青子さんの『持続可能な魂の利用』は「おじさんのダメさがわかる」とマスコミでも取り上げられ、話題に。


斎藤 おもしろかったですね。この国から女を脅かす“おじさん”が消えれば、彼らから自由になる世界をつくれるという発想が(笑)。


細貝 作者の主張がストレートすぎてラストは唐突な感じもしましたが、逆にいえば予定調和じゃない強さ、必死さを感じましたね。

斎藤 エクラ世代が共感できるのは、もちろん、社会に出る前の娘にすすめたくなるかも。「セクハラやパワハラとはこういうこと」とわかるから。

山本 あまりのうまさに驚いたのが河﨑秋子さんの『土に贖う』。北海道で栄えた産業に携わっていた人たちの泥くさい生命力が伝わってきました。


斎藤 作者の河﨑さんは元羊飼い。毛皮用のミンクを飼育する男やハッカ油をつくる女性の労働がきちんと書かれていて、「これぞ正しいプロレタリア文学」ですね。


細貝 周囲にはいなくても、世界にはまだ彼らのような人たちがたくさんいる。現代人として読んでおくべき一冊かも。


山本 私は自粛中に時代小説をよく読みましたが、朝井まかてさんの『グッドバイ』が二重マル。主人公の色恋沙汰のない人生があっぱれでした。

斎藤 彼女は根っからの商売人。そこが気持ちいいんですよね。

K野 主人公のモデルは大河ドラマにも出てきた幕末の貿易商・大浦慶。借金苦からはい上がる後半はページをめくる手が止まらなかった!

細貝 当時こんなにぐいぐい進む女性がいたと思うと元気が出ますね。

山本 谷崎由依さんの『遠の眠りの』は、昭和初期の福井を背景にしたノンフィクションのようでどこかファンタジック。主人公の絵子が仲よくなる女装の少年が魅力的で、独特の世界に一気に引き込まれました。


斎藤 その少年は、絵子が脚本係をしていた百貨店専属の少女歌劇団の看板女優。当時は地方でもモダニズム文化が花開いていたから、東京以外にも華やかな文化がいろいろあった。あまり知られていない事実が描かれていて、新鮮でしたね。


細貝 私は絵子が女工だったころの同僚・朝子に好感をもちました。『青(せう)』(明治44年に平塚らいてうが創刊した女性文芸誌)創刊から何年もたってから影響を受け、先進的な女性たちのきらきらした世界を遠くからでも懸命に見ようとしていて。

斎藤 地方の普通の女性も『青鞜』が唱えた“新しい女”の波を浴びていた。彼女たちはいわば“夜明け前を生きた人たち”で、もがきながら前を向く姿が群像ドラマとして抜群におもしろかったですね。これほどのものを書ける谷崎さんは、これからも多彩な世界を見せてくれそう。『遠の眠りの』を今回の大賞にしませんか。そのほかに加えておきたい作品は……?

細貝 翻訳ものの『暇なんかないわ大切なことを考えるのに忙しくて』をぜひ。『ゲド戦記』の作者が80歳を過ぎて始めたブログをまとめたもので、発見や感動に満ちています。

山本 「こんなおじさん、いるいる!」と思ったのが絲山秋子さんの『御社のチャラ男』。先鋭的な『持続可能な魂の利用』とセットで読むと“おじさん”をより理解できるかも(笑)。


斎藤 書店員賞では山田詠美さんなど、ベテランが健在ですね。

細貝 山田さんの『ファースト クラッシュ』は私も好きな小説。複雑な女心の描写がさすがでした。

K野 今回も新鋭、実力派、ベテランの作品が並んで多彩なラインナップになったと思います!

 

 

 特別賞 

世の中の“おじさん”たちへのストレートパンチが痛快

━━ 文芸評論家 斎藤美奈子

『持続可能な魂の利用』

『持続可能な魂の利用』

松田青子

中央公論新社 ¥1,500

同じ職場の男から陰湿な圧力を受けた敬子は、意に反して“男”が演出する少女アイドルにハマっていくが……。敬子と周囲の女性の心理を描きつつ、“おじさん”がいない国が成立するまでをつづった小説。

 

洞察力&観察力が光る!翻訳ものイチ押しの名エッセイ

━━ 書評ライター 細貝さやか

『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』

『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて』

アーシュラ・K・ル=グウィン

谷垣暁美/訳

河出書房新社 ¥2,400

「アメリカSFの女王」が人生の最後につづったブログをまとめたもの。自然や文学、芸術など幅広いジャンルにわたる内容には老いてもなおの好奇心が感じられ、彼女の小説を知らない人の心もとらえる。

 

愛すべき問題児?チャラ男部長がリアルすぎる!

━━ 書評ライター 山本圭子

『御社のチャラ男』

『御社のチャラ男』

絲山秋子

講談社 ¥1,800

地方都市の食品会社の三芳部長はひそかに「チャラ男」と呼ばれている。社内の人物の目で「チャラ男」を語ることで、日本の会社特有の体質や男女観を浮かび上がらせた、笑うに笑えない(!?)会社員小説。

 

目の前の壁を必死に乗り越えようとする主人公がかっこいい

━━ 書評担当編集 K野

『グッドバイ』

『グッドバイ』

朝井まかて

朝日新聞出版 ¥1,600

長崎の油商・お慶(けい)は世の中が黒船来航に揺れる中、外国との茶葉貿易に意欲を見せる。最も信頼される日本商人といわれ、幕末の志士とも交流をもつが、やがて思わぬ逆風が。商売に人生を捧げた女性の一代記。

 

労働を骨太に書ける実力派!今後に注目したい女性作家

━━ 文芸評論家 斎藤美奈子

『土に贖(あがな)う』

『土に贖(あがな)う』

河﨑秋子

集英社 ¥1,650

養蚕、羽毛採取、レンガ製造など、かつて北海道で行われていた労働の実態とその可能性に懸けた人々を描く。どれも過酷な仕事だが、一方では働く喜びも。人の営みの原点に思いを馳せたくなる。三島賞候補作。

 
③女性書店員×現場のイチ押し本

 書店員賞 

この世はとかく生きづらい。そう感じたらこの本を読んでみて

━━ 紀伊國屋書店梅田本店 小泉真規子さん

『どうしても生きてる』 朝井リョウ 幻冬舎 ¥1,600

『どうしても生きてる』

朝井リョウ 幻冬舎 ¥1,600

「何もかも投げ出したくなる日もあるけれど、そんな日はこの本を読めば、とりあえず生きてみようと思える」(小泉さん)。鮮烈なデビューから10年の作者が、普通の人々の鬱屈した思いを切り取り、その内側に迫った短編6編を収録。

小泉さんの「これもおすすめ!」

・『わたしの美しい庭』凪良ゆう ポプラ社

・『希望のゆくえ』寺地はるな 新潮社

 

「本屋大賞とは違う作品を」と思いながら、はずすことができませんでした

━━ ジュンク堂書店池袋本店 西山有紀さん

『流浪の月』 凪良ゆう 東京創元社 ¥1,500

『流浪の月』

凪良ゆう 東京創元社 ¥1,500

女児誘拐事件の被害者と犯人。でも更紗と文にはかけがえのない絆があった。本屋大賞受賞作。「自分の目で確かめたものしか信じない、信じてはいけないと自戒させられた。価値観を根底から覆されるほど、衝撃を感じた小説」(西山さん)。

西山さんの「これもおすすめ!」

・『ライオンのおやつ』小川 糸 ポプラ社
・『おちび』エドワード・ケアリー 古屋美登里/訳 東京創元社
 

“普通”は誰が決めるものでもないと思えました

━━ ブックファースト阪急西宮ガーデンズ店 佐藤みどりさん

『結婚の奴』 能町みね子  凡社 ¥1,500

『結婚の奴』

能町みね子 平凡社 ¥1,500

「さまざまな生き方が認められる世の中になってきたとはいえ、“ひとり暮らしに飽きたから”恋愛抜きの結婚をする作者には心底驚かされた」(佐藤さん)。人気エッセイストとゲイの男性がつくっていく、恋愛でも結婚でもない暮らしとは。

佐藤さんの「これもおすすめ!」

・『慟哭は聴こえない デフ・ヴォイス』丸山正樹 東京創元社

・『流人道中記』上・下 浅田次郎 中央公論新社

 

まるさんの感情を表現する言葉が抜群によいです

━━ 有隣堂アトレ恵比寿店 高橋由美さん

『さいはての家』 彩瀬まる 集英社 ¥1,500

『さいはての家』

彩瀬まる 集英社 ¥1,500

駆け落ちした人、雲隠れした人……彼らがたどりついた「家」について気鋭の作家が描く。「その家にはなぜだか何かから逃げてきた人たちが集まるけれど、この生活は続かないだろうなという予感がする。感情表現抜群の連作短編集」(高橋さん)。

高橋さんの「これもおすすめ!」

・『ファースト クラッシュ』山田詠美 文藝春秋

・『逆ソクラテス』伊坂幸太郎 集英社

 

物語もすばらしいのですが、詠美さんの変わらぬ鮮烈さはスゴイ!

━━ 代官山 蔦屋書店 間室道子さん

『ファースト クラッシュ』 山田詠美 文藝春秋 ¥1,500

『ファースト クラッシュ』

山田詠美 文藝春秋 ¥1,500

三姉妹がいる家庭に父親の愛人の子である少年が引き取られる。やがて彼女たちもその母親も彼のとりこになり、それぞれのやり方で愛するように。「避けようのない愛の反応。いつのまにかの立場の逆転。甘美さと残酷さに圧倒された」(間室さん)。

間室さんの「これもおすすめ!」

・『たおやかに輪をえがいて』窪 美澄 中央公論新社

・『去年の雪』江國香織 KADOKAWA

 

 
④詩人・伊藤比呂美×女性に「生命力」を与えてくれる本

伊藤比呂美さん

伊藤比呂美さん

いとう ひろみ●’55年、東京都生まれ。詩人。早稲田大学客員教授。『良いおっぱい悪いおっぱい』から始まる女性の人生に寄り添うエッセイ、古典の現代語訳など多数執筆。
不安が多いコロナ禍だからこそ知っておきたいことをテーマに、おすすめの本を詩人・伊藤比呂美さんにリモート取材! 外出自粛中の読書エピソードも聞いてみた。

女性に「生命力」を与えてくれる本

女の人生の実感を詩やエッセイに書いてきた伊藤さんが選んでくれたのは、昨年の文芸エクラ大賞受賞作『たそがれてゆく子さん』に描かれていた子育て終了、パートナーとの死別、植物への思いなどが反映されたような本たち。アメリカから帰国し、大学で教えている伊藤さんの現在もかいま見えて。

『雑草のくらし』

『雑草のくらし』

甲斐信枝

福音館書店¥2,300

多種多彩な雑草がひとつの空き地で暮らした5年間を観察した絵本。雑草だけでなくそれに寄ってくる昆虫たちの姿も詳細に描かれていて目を見張る。「植物は動物よりずっと獰どう猛もうだった……」。

『石垣りん詩集』

『石垣りん詩集』

伊藤比呂美/編

岩波文庫 ¥740

「こういう先輩のあとに自分が続いたのだなと考えた」。複雑な家庭に育ち、14歳から定年まで銀行に勤務。ひとりで家族を支え続けた女性詩人による、生活に根ざした力強い詩。教科書への収録も多い。

『中原中也全詩集』

『中原中也全詩集』

中原中也

角川ソフィア文庫 ¥1,360

「(大学は)オンライン授業だから、わかりやすいものにしようと考えて中原中也から始めることにしました。改めて読み返し、改めて揺さぶられました」。夭折した天才詩人が描く喪失と孤独。

『樹木たちの知られざる生活』

『樹木たちの知られざる生活』

ペーター・ヴォールレーベン  長谷川圭/訳 

ハヤカワ・ノンフィクション文庫 ¥700

子供を教育する、コミュニケーションを交わすなど、樹木の驚くべき能力について森林管理官がつづった、ドイツ発のネイチャーノンフィクション。「植物は人間みたいに生きていた……」。

『新訂 梁塵秘抄』

『新訂 梁塵秘抄』

佐佐木信綱/校訂

ワイド版岩波文庫 ¥1,100

「昔の人の心のひだひだが伝わってくるんです」。平安末期の歌謡集で、遊女たちが口ずさんだ流行歌「今様」を後白河法皇が編んだもの。「遊びをせんとや生まれけむ……」の歌が有名。

伊藤さんに聞いてみました!

Q.外出自粛中に読んだ本は?

『夜と霧』。コロナの前に熊本の橙書店で新版をすすめられ、手にとって読みはじめたらやめられなくなり、買って読んだ(旧版は昔に読んでいた)。それは大学の研究室に置いて学生にすすめているうちにコロナで大学が立ち入り禁止になって、そのまま研究室にある。なんだかまた読みたくなって、橙書店に行ってまた買った。そのころ、橙書店は時短営業で、窓をすべて開け放って、私が行ったときは店主ひとりで、戦時中の闇屋とはこんな感じかと思った。店主は、取り置きしてもらっていた『夜と霧』をカウンターの下から出してきた。私はコーヒーを注文した。それも闇なのである。「特別に取り寄せているいい豆をふんだんに使って」(店主の言)ていねいにいれた一杯のコーヒーは、本当にうまかった。ずっと飲んでいなかった、こんなにうまいものを。

 

コロナの間、人も会わずに暮らした。ふだんから人に会わなくてすめば会いたくないという生活をしているから、別に苦じゃなかったが、そのとき、人(の中でも信頼する友人)から手渡された闇本一冊。人のいれてくれた熱い闇コーヒー。人と交わした闇会話。コロナごもりの五臓六腑に、それらが、なみなみと、そしていきいきとしみわたったのだった。

 

伊藤さんの最新刊!

『道行きや』

『道行きや』

伊藤比呂美

新潮社 ¥1,800

介護のためのアメリカと日本の行き来も、子育ても終了。夫を看取ったあと、去年約20年ぶりに帰国した伊藤さんが、新たな日常を書きつづった一冊。

 
⑤社会学者・古市憲寿×日本社会の「ここがヘン!?」に気づく本

社会学者・古市憲寿さん

社会学者・古市憲寿さん

ふるいち のりとし●’85年、東京都生まれ。社会学者、作家。著書に『絶望の国の幸福な若者たち』『保育園義務教育化』、小説に『平成くん、さようなら』『百の夜は跳ねて』など。
おすすめの本を各スペシャリストにリモート取材!テレビ番組での切れ味鋭いコメントで知られる古市憲寿さんからは、社会学者だけに今の日本の特徴を浮き彫りにした本が。しかもエッセイ、ノンフィクション、漫画など多彩なジャンルの話題の本がずらり。手にとりやすく、興味津々のラインナップはあなたの心をくすぐりそう!

日本社会の「ここがヘン!?」に気づく本

『介護のうしろから「がん」が来た!』

『介護のうしろから「がん」が来た!』

篠田節子
集英社 ¥1,300

「介護は家族(特に女性)がするものと考えている人はまだまだ多い。チャーミングな書きぶりだが内容は深刻で、誰にとっても他人事とは思えないエッセイ」。人気作家による乳がん闘病記であり認知症の母の介護記。

『女帝 小池百合子』 石井妙子 文藝春秋 ¥1,500

『女帝 小池百合子』

石井妙子
文藝春秋 ¥1,500

女性初の都知事の半生を描いたノンフィクション。「小池さんに批判的なジャーナリストが書いた本だが、彼女が男性だった場合これほどまでのバッシングにあっただろうか。個人的な読後感は『島耕作』シリーズと似ていた」。

『サヨナラ、学校化社会』 上野千鶴子 ちくま文庫 ¥680

『サヨナラ、学校化社会』

上野千鶴子

ちくま文庫 ¥680

「国が新しい生活様式を提案したり自粛に従わない人が糾弾されたり。日本社会の仕組みは学校に似ていると看破した好著」。社会学者が学校の弊害を指摘。知恵がある人間の底力を説く。

『ミステリと言う勿れ』 1~6巻 田村由美 小学館 ¥429~454

『ミステリと言う勿れ』

1~6巻

田村由美

小学館 ¥429~454

一見ぼんやりしている男子大学生が冷静な観察眼で謎を解く漫画。「主人公の考え方がとにかくフラット。今の社会がいかに“おじさん”中心につくられてきたかをさりげなく指摘しています」。

『2020年6月30日に またここで会おう』 瀧本哲史 星海社 ¥980

『2020年6月30日にまたここで会おう』

瀧本哲史

星海社 ¥980

「一瞬だけの怒りは決して社会を変えない。必要なのは具体的な交渉と行動です。これからを生きるヒントにあふれた本」。去年夭折した投資家にして大学客員准教授の、伝説の講義が書籍に。

 

古市さんに聞いてみました!

Q.この時代の「読書」の意味って?

動画メディアが盛んな時代ですが、今でも読書の効率には負けると思うんです。2時間の動画を見ても、実際の情報量はさほど多くないばかりか、わかった気になるだけのことも多い。一方の本は、とにかくよくできた情報伝達媒体だと思います。神話や文学を伝えるために文字が使われるようになってから約3000年ですが、その間にたくさんの新しいメディアが発明されてきました。だけど本は生き残ってきたわけです。それはなにより効率性によるところが大きいと思います。

Q.外出自粛中に読んだ本は?

東京に春の雪が降った3月終わりの週末にマーセル・セローの『極北』を読み直していました。世界はどうなってしまうのかという不安に人々が包まれていたころです。「まわりのすべてが崩壊してしまったとき、人をまっすぐ立たせておいてくれるのは、決まった習慣だ」という一節があるのですが、非日常のときほど「習慣」が大事だという主人公の独白です。その意味で、この特集を読む人にとっては、読書こそが心の安定剤になるのかもしれません。ただし『極北』の主人公はその後、大変な事件に巻き込まれますが。

古市さんの最新刊!

『奈落』 古市憲寿 新潮社 ¥1,400

『奈落』
古市憲寿

新潮社 ¥1,400
人気絶頂のミュージシャン・香織がステージから転落。人生が激変するが…。家族とわかりあえず、孤独な魂を抱えた女性の人生を壮絶に描いた小説。

 

 
⑥薬学博士・池谷裕二×科学で知る「危機を乗り越える」本

不安が多いコロナ禍の今だからこそ知っておきたいことをテーマに、各スペシャリストにリモート取材! 脳研究者でもある池谷裕二さんがおすすめしてくれた本は、冷静にコロナ禍と向き合うためのヒントになりそう。「脳がやりがちなクセ」「考えるとはどういうこと?」といったヒトの基礎がわかる本、今後の社会や時間の使い方を模索したくなる本など、どれも読めば刺激的で希望をもって現実に立ち向かいたくなる!
池谷裕二さん

池谷裕二さん

いけがや ゆうじ●’70年、静岡県生まれ。東京大学薬学部教授。脳研究者。著書に『進化しすぎた脳』『モヤモヤそうだんクリニック』(ヨシタケシンスケ氏との共著)など。
『FACTFULNESS』 ハンス・ロスリングほか  上杉周作 関 美和/訳 日経BP 社 ¥1,800

FACTFULNESS』(ファクトフルネス)

ハンス・ロスリングほか

上杉周作 関 美和/訳

日経BP社 ¥1,800

世界的ベストセラー。思い込みではなく事実を見る習慣を身につけるための本。「亡き著者が今後人類を脅かすリスクとしてあげたのが感染症の世界流行。真実を見ぬく目に戦慄を覚えます」。

『暇と退屈の倫理学』

國分功一郎

太田出版 ¥1,200

「あれほど足りなかった時間なのに自粛中なぜ持て余したのか?この本でそんなストレスの源流をたどってみましょう」。哲学者が考えた人間らしい生活、喜ばしい生き方とは。

『「自閉症」の時代』 竹中 均 講談社現代新書 ¥940

『「自閉症」の時代』

竹中 均

講談社現代新書 ¥940

伊藤若冲や新海誠のブームから21世紀の自閉的傾向を解説。「コミュニケーション能力は唯一絶対の社会的尺度ではない。次は自閉スペクトラム症が開放される時代。そんな予感のする本」。

『ホモ・デウス』上・下 ユヴァル・ノア・ハラリ  柴田裕之/訳 河出書房新社 上・下 各¥1,900

『ホモ・デウス』上・下

ユヴァル・ノア・ハラリ

柴田裕之/訳

河出書房新社 上・下 各¥1,900

「労働とは、幸せとは、進化とはという根源的な問いに思いを馳せたいとき絶好の本」。イスラエル人の歴史学者が、漠然とした不安を抱きがちなテクノロジーと人類の未来について考える。

『ファスト&スロー』上・下

ダニエル・カーネマン

村井章子/訳

ハヤカワ・ノンフィクション文庫

上・下 各¥840

「人は偏見に満ちている。判断ミスも犯すからこそ脳の性質を学んで自分の実態を冷静に知ることが、今大事だと思います」。認知心理学者が人間の意思の決まり方を解説した現代の名著。

 

池谷さんに聞いてみました!

Q.この時代の「読書」の意味って?

コロナ自粛では、入力重視の生活になります。読書は入力の最たる形態です。こんなにまとめて読書に打ち込める時間は平素はなかなか得がたい貴重なものです。しかし忘れてはならないのは、脳は入力よりも、出力を重視するように設計されているという厳とした事実です。入力した情報を生かすためには、出力する必要があります。脳は、行動や発言などの出力体験を通じて、その情報をモノにします。つまり、「読む(入力)」という行為で得た知識や情報は、「実践(出力)」することで意味を得ます。フリードリヒ・ニーチェも「本をめくることばかりしている学者は、ついにはものを考える能力をまったく喪失する。本をめくらないときには考えない」といっています。こんな時期だからこそ、妙な「唯読書論」者にならないように気をつけたいところです。

Q.外出自粛中に読んだ本は?

外出自粛という未経験の異質な「時間」を過ごすようになって、「そもそも時間とは何か」について考えるようになりました。『心にとって時間とは何か』(青山拓央)、『脳と時間』(ディーン・ブオノマーノ)、『時間は存在しない』(カルロ・ロヴェッリ)をまとめて読みました。時間は自然にある「あたりまえの存在」だと思っていましたが、これが一筋縄ではいかないのです。この3冊の著者は哲学者、脳研究者、物理学者で、それぞれの視点から、まったく異なる独自な「時間像」が浮かび上がります。その推論プロセスはどれもスリリングです。ところが、3冊ともが行きつく結論が「時間は虚構だ」なのです。どうして異なる登山口から入ったのに、そして道中の風景も異なるのに、三者が同じ山頂に到着するのでしょうか。ここでは書き控えたいと思います。

池谷さんの最新刊!

『パパは 脳研究者』 池谷裕二  扶桑社新書 ¥1,000

『パパは脳研究者』

池谷裕二

扶桑社新書 ¥1,000

結婚11年目で生まれた娘の成長記録には脳研究者ならではの観察眼と愛情深いまなざしが。「ウソをつけたらサルからヒトになる」などの言葉に大納得!

 

 
⑦エッセイスト・小島慶子×「人との距離」のとり方がわかる本

不安が多いコロナ禍だからこそ知っておきたいことをテーマに、各スペシャリストにリモート取材!アラフィー世代の悩みを知る小島さんがセレクトしたのは、これまでとは違う人間関係を模索したくなる本ばかり。どれも最近出版され、コロナ禍を反映したものも2冊含まれている。世の中が変わりつつある今、必要なのは新しい見識。そんな気がしてきて意欲的に本に向かいたくなる!
小島慶子さん

小島慶子さん

こじま けいこ●’72年、オーストラリア生まれ。放送局勤務を経てエッセイスト、タレントに。著書に『解縛 母の苦しみ、女の痛み』、小説に『わたしの神様』『幸せな結婚』など。
『彼女たちの部屋』

『彼女たちの部屋』

レティシア・コロンバニ

齋藤可津子/訳

早川書房 ¥1,600

パリに実在する女性と子供の保護施設を題材に、時代を超えた女性たちの連帯を描いた長編小説。「先進国で最も男女格差が大きい日本で、これからのテーマはまさにシスターフッドだと思えました」。

『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』

『コロナ危機の社会学 感染したのはウイルスか、不安か』

西田亮介

朝日新聞出版 ¥1,500

「明晰な筆致ですが難解ではない。なるほどそうだったのか!と膝を打つことしきりです」。これまでのコロナにまつわる世の動きを時系列で整理しつつ、私たちの不安はいかにもたらされたかを分析した本。

『ぼそぼそ声のフェミニズム』

『ぼそぼそ声のフェミニズム』

栗田隆子

作品社 ¥1,800

「ひとりの勇者の叫び声より凡百の途切れることのないぼそぼそ声のほうが社会を変える。読むと勇気がわいてきます」。就活・婚活、非正規雇用などを考える“弱さ”とともにあるフェミニズム論。

『コロナの時代の僕ら』

『コロナの時代の僕ら』

パオロ・ジョルダーノ

飯田亮介/訳 早川書房 ¥1,300

最悪の事態を防げなかった自分や国、人類を振り返ったイタリアの科学者の記録。「みずみずしい言葉でつづられたエッセイは1編が短い。余白が多く目に優しい本なので、不安が強いときでも読めます」。

『愛について』

『愛について』

若松英輔

亜紀書房 ¥1,800

「いろんな愛の喜びも痛みも知ったエクラ世代に刺さる詩集。命と向き合い、大事な人は誰だろうかと真剣に考えることの多い今だからぜひ」。“いなくなった大切な人”への思いをつづった、話題の詩集。

小島さんに聞いてみました!

Q.この時代の「読書」の意味って?

避難所。ネットやテレビの情報から距離をおき、自分のペースを取り戻す場所。

Q.外出自粛中に読んだ本は?

『女帝 小池百合子』。この社会で女をやることの悲しみと痛みがつまっており、いわゆる名誉男性といわれるような女性たちが家父長制の鬼子であり犠牲者であることを実感させる本でした。この男尊女卑ジャパンをサバイブしてきた女性なら誰でも思わず自分と重ねてしまう面があると思います。

小島さんの最新刊!

『曼荼羅家族「もしかしてVERY失格!?」 完結編』

『曼荼羅家族「もしかしてVERY失格!?」 完結編』

小島慶子 

光文社 ¥1,500

一家の大黒柱として日豪を往復する著者が、世の女性たちの悩みや自身のエア離婚などについて語ったエッセイ集。作家・白岩玄さんとのロング対談も収録。

 

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