感性を刺激してくれる街・パリで出会った「雨宮塔子さんのおしゃれの発見」

パリに長く住み、日々現地のおしゃれに刺激を受けているという雨宮塔子さん。パリで出会ったおしゃれの発見を雨宮さんの書き下ろしエッセーとともにお伝え。
雨宮塔子

雨宮塔子

Toko Amemiya●フリーアナウンサー・エッセイスト。6年間のアナウンサー生活を経てTBSを退社。フランス・パリに渡り、フランス語、西洋美術史を学ぶ。2016年から3年間『NEWS23』のキャスターを務める。その後拠点をパリに戻し、執筆活動のほか、美術番組への出演や現地の情報をメディアに発信している。YouTubeチャンネル『A l’aube byToko and Maho』も更新中。

オークションで“唯一無二”を発見する

私だけのおしゃれが見つかるオークションという場所

――文・雨宮塔子

私だけのおしゃれが見つかるオークションという場所
オークションハウス「オテル・ドルウォー」のエントランスホールで、競売にかかる商品のカタログを閲覧する雨宮さん。「個々の写真や記述はサイトからも見られるようになっているんですよ」
「オークション」と聞いて思い浮かべる光景はなんでしょう?

ここ数年では、バンクシーの絵が落札直後に彼自身の遠隔操作によって裁断された衝撃のシーンが記憶に新しいですよね。私にとって、オークションのイメージが刷り込まれたのが、エイドリアン・ライン監督の『幸福の条件』でのワンシーン。白のシックなドレスに身を包んだ主演のデミ・ムーアのさす白の和日傘が、屋外でのオークション会場に映えていたのがとても印象的で、オークションとは現実離れした雰囲気の中、富裕層だけが参加できる、ハードルの高い場所なのだと長い間思っていました。

でも、ここ、パリの「ドルウォー競売所」は、赤や青の壁紙や照明がドラマティックで、会場の雰囲気こそ重厚だけれど、参加者はいたってラフなんです。とはいえ、私も15年前に雑誌の取材で初めて敷居を跨いだ時は、競りの仕組みもよくわからず、プロのバイヤーたちの場慣れた感じに気圧されて、自分のお目当ての商品を競り落とす時は心臓がバクバクでした。ですがその時、ふつうなら自分にはまだ相応じゃないなと思うものや購入には躊躇してしまうものが、ヴィンテージの持つ、時を経た自然な風合いによって自分のスタイルに無理なく馴染んでくれることに気がつきました。また、そうしたものが時には運よく落札できてしまうという、ドルウォーの魔力に惹かれ、それ以降、プライベートでも気が向いた時に訪れるうちに、気軽に構えていられるようになりました。
そんな日々の中、偶然ママ友の一人に会場で会ったこともありました。彼女は日本でも有名なフランス人俳優の元奥さんで、フランスではセレブなのですが、クリスマス前に開催が増えるジュエリーの展示を見に来たと言っていました。彼女は私よりやや年上ですが、そういえばドルウォーの客層はけっして若くはありません。とくにバイヤーはごくたまに30代前半くらいの方はいますが、ほとんどが高齢の方で、欲しいものがあまり重ならないのです。
雨宮さん
気になる商品は必ず実物を下見するという雨宮さん。オークションの前日、そして当日の午前中まで、こうして実際に商品を手にとってじっくりと品定めすることができる

でも気をつけなくてはいけないのは、オークションスタッフが携帯やサイト上でLiveで繋いでいる参加者。そう、競る相手はその場にいる参加者だけではなく、フランス国内外を含めた姿の見えない人たちなのです。ドルウォーのオークションはだいたい開催日の前日と当日の午前中に展示会場で下見できるので、そこで商品を手に取って吟味しておけば(プロはこの下見の際、鑑定用ルーペを持参)、当日会場に足を運ばなくても落札できます。

雨宮さん
「『ヤフオク!』などで売買することに慣れているかたは、この『ドルウォー』のオークションにもとっつきやすいと思います」と雨宮さん。遠隔参加も可能だが、会場の雰囲気は格別

私としてはドルウォーは徒歩圏内であることもあって、気になるものは必ず下見します。ヴィンテージやセカンドハンドなので商品の状態を細部まで見ることはマスト。デザインや質が好みで、コストパフォーマンスがどんなに良くても、状態が良くないものは潔く諦めます。ティーンエイジャーから20代までの若い方ならある程度状態が悪くても自分の魅力に引き寄せられますが、私たち世代にはそれは厳しい。洋服やジュエリー、アクセサリーはその人を引き立たせてくれるものだと思っていますが、状態の良くないものはその人を疲れて見せてしまう気がします。その他、色具合、サイズ感も実際に手に取って確認しています。

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雨宮さんがかつて時計を競り落としたことがあるパリの競売吏「Gros & Delettrez」のオークション。おもに宝飾品や時計を得意とするメゾンだが、この日、雨宮さんの目にとまったのは、状態のよいアンティークジュエリー。カタログの表紙にもなっていた手前の金のブレスレットは€6,000〜€8,000の予想価格に対して、€14,500で落札された

これまでにブレスレットやエルメスとジャガー・ルクルトのコラボ時計などを落札してきましたが、いいモノにはタイムレスなものが多いですね。昔のものほど革質が良かったり、もう手に入らない、オンリーワンなところも、愛してやまない所です。

自分のスタイルにオリジナリティをひとさじ加えてくれる……。そんな絶妙なものに出会いたくて、ドルウォーを覗くことは私のおしゃれに欠かせないものになっています。

感性を刺激してくれる街・パリで出会った「雨宮塔子さんのおしゃれの発見」_1_6
競売は14時からスタート。この日はおよそ430のアイテムを約4時間でさばくというから、1時間に約110点の競りが行われる計算。そのスピード感が想像できるだろう

Drouot

パリ中心部に位置する「オテル・ドルウォー」は1852年からの歴史ある世界最大規模のオークションハウス。館内15室の会場では、さまざまな競売吏(きょうばいり)によって毎日複数の事前展示や競売が行われている。扱われる商品は絵画、彫刻、家具、食器、洋服、バッグ、宝飾品、時計など多岐にわたる。

9, rue Drouot 75009 Paris, France
☎+33(0)1・48・00・20・00
開館日、開館時間、競売の詳細はこちらのサイトから
https://drouot.com/

ヴィンテージならではの時を経たたたずまいが、私のスタイルに無理なくなじんでくれることに気づきました

雨宮さん

由緒ある教会や歴史的建造物にかぎらず、何げない石畳の小道にも独特の情緒があるパリ。この街そのものが歳月によって磨かれ、魅力を増した唯一無二の価値を教えてくれるよう

蚤の市での、新しい出会い

古いものを愛する街のおしゃれのアップデート術

――文・雨宮塔子

古いものを愛する街のおしゃれのアップデート術
あれはもう13年ほど前のこと。日本に帰国する度に覗くあるブティックで、その年の前年に私が購入したミリタリージャケットが目に入ってきました。このジャケットは毎年出る定番ものなのかも、と近寄って見てみると、細部が異なっています。私が購入したものは、ボタンがジャケットに馴染むカーキ色で平たいものだったのが、手に取ったそれはマットゴールドに模様が入ったアンティークボタン。それだけなのに私の持っているものよりずっと個性的で素敵に見えたのです。

思わずじっくり眺めてしまいましたが、驚いたのはお値段。フランスのアンティークボタンを使用しているためか、私が買ったものの倍以上の値がつけられていて……。その時、あまり大きな声では言えませんが、これ、自分でやってもいいのかも、と思いました。

フランス人は古いものを大切にします。とくに好きなものはメンテナンスやお直しはもちろん、時にはリメイクも取り入れて長く愛用する。リネンのシーツがテーブルクロス、さらにはナプキンになるまで使い続けるように、着倒したワンピースを娘さんのお洋服にリメイクする人も。そんなパリジャンを見ていたことも、ボタンを付け替えることをためらわせなかったのかもしれません。
パリに戻って、さっそくクリニャンクールの蚤の市へ行ってみました。実際に見ていくと、アンティークボタンと一口に言っても、年代から材質、形、色、また模様まで様々で、数限りなくあるんですよね。1900年代前半からのボタンが充実していますが、そこはアンティーク。ひとつしか在庫が無かったり、しかもそのひとつが70ユーロぐらいするものも。

ガラスボタンや糸で編み込んだボタン、小花柄の、古き良きフランスの香りのするもの……。たとえばぬいぐるみやバッグのアーティストならこうしたボタンで作品も作れるのかもしれませんが、私としてはまずは件(くだん)のミリタリージャケットのボタンを付け替えたいので、それに合いそうで素敵なもの、しかも手頃なボタンをじっくり選びました。

付け替えてみたら大正解!! 1シーズン着回したジャケットでしたが、ボタンを替えただけでまたフレッシュな気持ちで袖を通せるようになりました。

これが縁で、私はその後、手持ちのジャケットを2着、ボタンを付け替えて楽しんでいます。
パリ、サントゥーアンの蚤の市。

パリ、サントゥーアンの蚤の市。通称クリニャンクールの蚤の市は、パリの北、7ヘクタールという広大な規模の蚤の市。屋根つきのマーケットゾーンはプロゾーンを除いて全部で12あり、家具、雑貨、食器、衣類、アクセサリーなど、ありとあらゆる分野のヴィンテージを扱う店が軒を連ねている

蚤の市

Data クリニャンクールの蚤の市(Marché aux Puces de Paris Saint-Ouen)

開催日は、金曜(8時〜12時)、土・日曜(10時〜18時)、月曜(11時〜17時)

※開催日と時間はお店ごとに異なります。
https://www.pucesdeparissaintouen.com

モード界のプロの間でも定評あるボタンの品ぞろえを誇る「Daniel et Lili」

モード界のプロの間でも定評あるボタンの品ぞろえを誇る「Daniel et Lili」

ボタン
膨大なコレクションから雨宮さんがセレクトしたもの。

膨大なコレクションから雨宮さんがセレクトしたもの。上のようにシートにはりつけてある状態のボタンもまたよい雰囲気。Marché Dauphine Stand 128 土曜〜月曜の10時〜18時 Instagram@danieletlili

雨宮さんが自分でボタンを付け替えたミリタリージャケット

雨宮さんが自分でボタンを付け替えたミリタリージャケット

イギリス国旗風の模様のボタン

下の写真の店「REFLETS DE PARIS」の店頭で見つけたイギリス国旗風の模様のボタン。少なくとも100年以上前のヴィンテージアイテムだそう

「REFLETS DE PARIS」

ボタンはもちろん、洋服やアクセサリー、リネン類なども充実していて、店のたたずまいもとても魅力的なお店「REFLETS DE PARIS」(Marché Vernaison Allée 8 Stand 167 土・日曜10時〜18時、月曜10時〜17時)。店主は穏やかな笑顔のポール・ドゥランさん。さまざまな国からのお客さまが絶えない

パリの肌見せバランス

大胆な露出なのに、エレガント。パリの肌見せの極意とは

――文・雨宮塔子

肌を出すことって抵抗がありますよね。とくに私たちの世代は「二の腕を出したくない」「膝は出すべきではない」といったその人なりの服選びの基準や暗黙の了解があって、肌を出す、ましてやそれを楽しむことなんてあり得ないという空気があります。そうは見えないかもしれませんが(笑)、じつは私もそうでした。とくに職業柄、信頼性や清潔感が最も求められ、私もそれは大事にしてきたつもりですが、パリに長く暮らすうちに、それでも場によってはもっと自由にファッションを楽しんでもいいのでは?と思うようになったのです。


一昨年くらいからベアトップやチューブトップの流行で、肩や背中を出したスタイルをよく見かけるようになりました。とくにそれを30代以上の女性が上手に取り入れているのに目が留まります。ある結婚式に参列した時には、60代のマダムが“KHAITE(ケイト)”の胸の真ん中が切れ込んだ黒のベアトップの膝下ワンピースを着こなしているのに目が釘付けに。露わになった肩やデコルテの肌のハリはもちろん年相応のものでしたが、肌の露出が多いのに痛いどころかエレガントなのはなぜだろうと考えさせられました。

実際、フランス人が大事にするのはエレガンスです。周りのパリジェンヌを見ていても、華やかな会ではセクシーさも演出したいけれど、それが下品に転じないようにものすごく神経を使っています。そこが他の欧米と比較しても肌見せが圧倒的に素敵に見える所以なのではないかと。そしてその姿勢こそ、私たち日本人が参考にしやすいと思うのです。

ではどのようにすればエレガンスを保てるのか……。肌を出すなら他のセクシーさやフェミニンな要素は重ねないことに尽きます。たとえば肩やデコルテを出すなら、体のラインがはっきり出るものや、ミニ、レースや透けたヒールなどを同時に着用しない。色はシックな色を選ぶことくらいでしょうか。あとは個人的には、肌の露出が多い時こそ、姿勢や立ち居振る舞いに気をつけたいと思っています。

雨宮さん

ジャケットをはおるときちんと感もあるセットアップ。旬のギャラリーには、ベアトップくらいの攻め感は欲しい。上下ともZARAのもので「チャレンジング(肌見せだけでなく、今回のようなすそを引きずるぐらいの長め丈も)なアイテムは、コストパフォーマンスのよいブランドで買うことが多いです」

今回の撮影場所は、フランスを代表する建築家ジャン・ヌーヴェルが設計したギャラリー。高い天井から自然光が入る広々とした空間に博物館所蔵レベルの名品が展示されている。テーブルはシャルロット・ペリアンとピエール・ジャンヌレ(1952)、椅子はジャン・プルーヴェの「メトロポール」(1950)。奥のパネルもプルーヴェ作品

雨宮さん

上半身の肌見せが多いぶん、ネイルはナチュラルなベージュに。黒のアンクルストラップのサンダルで品よく仕上げて。こんな微調整がエレガンスへとつながる

雨宮さんのお気に入りのギャラリー

今回の撮影は雨宮さんのお気に入りのギャラリーで。ジャン・プルーヴェとシャルロット・ペリアンによるウォールキャビネット(1952)とピエール・ジャンヌレデザインのデスク(1957 〜58)

一見すると黒い箱のようなギャラリーの外観

一見すると黒い箱のようなギャラリーの外観。この扉の内側に、コレクター垂涎(すいぜん)の名品の数々が

バスティーユ界隈で1889年から続く「ギャルリー・パトリック・スガン」

バスティーユ界隈で1889年から続く「ギャルリー・パトリック・スガン」。20世紀のフランス人デザイナーの家具、特にジャン・プルーヴェ作品のスペシャリストとして世界的に有名

プルーヴェ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレの1950年代の作品で構成されたコーナー

プルーヴェ、シャルロット・ペリアン、ピエール・ジャンヌレの1950年代の作品で構成されたコーナー

DATA

Galerie Patrick Seguin Paris

ギャルリー・パトリック・スガン

5 Rue des Taillandiers, 75011 Paris, France

☎︎+33(0)1・47・00・32・35 9:00 〜19:00 ㊡日曜

https://www.patrickseguin.com

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