太田差惠子さんは、親のケア全般に関するこうした思い込みからまず自分を解き放ってほしいと話す。「いつまで続くかわからない介護は絶対にひとりではできません。もちろん家族にはできることはたくさんあります。でも、できないこともたくさんある。遠隔地に住んでいる親でも、介護サービスを使えばサポートできます。ひとりっ子にしても、自分のペースを貫けるという点では、むしろきょうだいがいる人よりも気楽。海外旅行にしても、今は100歳まで生きることも可能な時代。親を看取ったあとの自分の年齢を考えてみれば、もしかしたらもう体力気力が衰えて行けないかもしれません。『本当にそうなのか、別の選択肢はないのか』と常に自問自答して、ほんの少し発想を変えてみるだけで、見えてくる世界はかなり変わります」
そのためには使える社会資源はとことん使ったほうがいい。でもうまく使うためには情報が必要という。「介護は情報戦です。親の介護が必要になったときに、介護サービスの種類やシステムを知っているか知らないかで、対処の仕方だけでなく、気持ちもずいぶん違うはずです」
介護サービスは実際に状況が深刻化してから使うものというのも思い込みのひとつ。実はその前から相談に応じてくれるサービスもある。「ある娘さんは、80代のお母さまがまだ元気だったものの、遠隔地に住んでいたため、実家を訪れた際に地域包括支援センターに足を運んでひとり暮らしの母親がいることを伝えておいたそうです。ある日、娘さんが母親に電話したところ、声に元気がない。娘を気遣って『大丈夫だから』といい張るお母さんを心配し、以前訪れた地域包括支援センターに電話して相談してみたところ、スタッフが母親の様子を見にいってくれたそうです。すると熱中症にかかっていたことが判明。幸い気づいたのが早かったので、事なきを得ました。親が元気なうちにとっておいた対策が功を奏した一例です」