文芸評論家・斎藤美奈子さんが徹底解説! 今の時代が見える“旬の本” 五選

売れた本、話題の本を見返すと、なぜか浮き彫りになる世の中の動きとそのココロ。混迷の時代の現在とその先を、本を通して探ってみたい。文芸評論家・斎藤美奈子さんが本の世界の今を語ります。
斎藤美奈子さん
’56年、新潟県生まれ。本誌連載「オトナの文藝部」でも人気の文芸評論家。『日本の同時代小説』『文庫解説ワンダーランド』『学校が教えないほんとうの政治の話』『名作うしろ読み』など著書多数。
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1.“令和”到来で平成振り返り本
&皇室本がラッシュ!

改元で売れた本といえばまず、“令和”ゆかりの万葉集。元号の考案者といわれる中西進さんの名著『万葉の秀歌』がヒットするなど、出版界を活気づかせた。また若い世代向けのものも含め、さまざまな平成振り返り本が出たが「共通するのは“下り坂だった” という感想。東西冷戦という安定がくずれて強者に権力が集中した結果、弱者にしわ寄せがいきました。ただあと10年しないと正しい判断はできないかも」と斎藤さん。皇室本は写真集を筆頭に、天皇論、皇族論などが多彩に登場した。「同世代から見た新皇后について書いた本も。エクラ世代は今までもこれからも、雅子さまと自分を重ね合わせて見ていくのでしょうね」。

(右から)『皇室女子』香山リカ 秀和システム ¥1,400/『10代に語る平成史』後藤謙次 岩波ジュニア新書 ¥900/『万葉の秀歌』中西 進 ちくま学芸文庫 ¥1,600
2.実はみんなが憧れた
“樹木希林”という生き方

個性派女優・樹木希林さんが昨年9月に死去。彼女の言葉を集めた『一切なりゆき』が今年上半期の書籍売り上げ1位になるなど、“希林本”が売れに売れた。「何冊も本が出たのは、希林さんが雑誌でたくさんの取材を受けていたから。どの本もはっきりものをいうかたのおもしろさを感じますが、最近のおばあさま本の流行(佐藤愛子さん、下重暁子さんなど)にも乗っていたと思う。希林さんの場合は夫婦関係も独特で、“型にはまらなくてもやっていけるんだ”という痛快さがありましたね。年初に亡くなった兼高かおるさんの本も再注目されましたが、独自の生き方を貫いた女性の本はやはり読み応えがあります」(斎藤さん)。

(右から)『心底惚れた』樹木希林 中央公論新社 ¥1,200/『樹木希林 120の遺言』樹木希林 宝島社 ¥1,200/『一切なりゆき』樹木希林 文春新書 ¥800
3.“韓流”がついに
文学の世界にもやってきた!

少女時代やBTSのメンバーが感想を述べ、韓国だけでなく日本でも海外小説では異例のヒットになった『82年生まれ、キム・ジヨン』。そのほかにも韓国文学が次々に翻訳されたことについて斎藤さんは「女性ゆえの困難や差別で苦しむ主人公たちは、日本の若い人たちにとっても“まるで私”。逆にいえば、彼女たちの気持ちを言語化した書籍が国内になかったのかも」と語る。「民主化以降韓国経済は急成長しましたが、そのぶんひずみができた。そこにフェミニズムの高まりが加わって、こういう文学が生まれたのだと思う。日本でも身につまされた人が多かったということは、もっと考えられるべき問題なんですよね」。

(右から)『私は私のままで生きることにした』キム・スヒョン 吉川 南/訳 ワニブックス ¥1,300/『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ 斎藤真理子/訳 筑摩書房 ¥1,500/『娘について』キム・ヘジン 古川綾子/訳 亜紀書房 ¥1,900
4.90年ぶりの復刊も。
“働き方改革小説”が花盛り

「’10年代はブラック企業という言葉が定着して“じゃあどうすればいい?”と考えはじめた時代。働き方改革が叫ばれるようになって、ライフワークバランスを模索する小説も出てきました。それがドラマにもなった『わたし、定時で帰ります。』であり、過酷なノルマを課された営業マンを描いた『逃げ出せなかった君へ』。興味深いのは、特に後者が『女工哀史』の作者が書いた小説『奴隷』の世界と本質的に同じだということ。『奴隷』はびっくりするほどおもしろいので、ぜひ復刊版を読んでみて。“なぜ大正時代と今が似ているの?”と考えさせられます」(斎藤さん)

(上から)『わたし、定時で帰ります。』朱野帰子 新潮文庫 ¥590/『奴隷 小説・女工哀史1』細井和喜蔵 岩波文庫 ¥1,260/『逃げ出せなかった君へ』安藤祐介 KADOKAWA ¥1,600
5.コミュニケーション術も本頼み!?
“トリセツ本”が大ブレーク

「『妻のトリセツ』はギクシャクしている夫婦仲を男女の脳の違いを知って対処しようという本。15年以上前に売れた『話を聞かない男、地図が読めない女』もそうですが、こういう本って周期的に売れる印象がある」と斎藤さん。「トリセツという言葉がビジネス的で、“早急に解決したい”男性に響いたのだと思う。脳の性差に還元するのは疑問ですが、コミュニケーション不足の夫婦が多いのは事実。『モラハラ妻解決BOOK』も同じ趣向。これらは男性向けの本ですが、“そうそう!”と思いたくて読む女性も多そう。みんな頭を整理したいのかもしれません」。

(右から)『妻のトリセツ』黒川伊保子 講談社+α新書 ¥800/『心が折れそうな夫のための モラハラ妻解決BOOK』高草木陽光 左右社 ¥1,700

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