マイナースポーツに打ち込む、青春物語がアツい!【斎藤美奈子のオトナの文藝部】

小説界ではスポーツ小説や部活小説が好評の様子。映画化・アニメ化されたダイビングクラブの物語や、男子チアリーディング部、射撃部などマイナースポーツに打ち込む主人公たち。彼らの熱い姿に、学生時代の思い出を重ねながら読んでみては。
斎藤美奈子(さいとう みなこ)
●文芸評論家。編集者を経て’94年『妊娠小説』でデビュー。その後、新聞や雑誌での文芸評論や書評などを執筆。『文章読本さん江』『趣味は読書。』『名作うしろ読み』『ニッポン沈没』『文庫解説ワンダーランド』ほか著書多数。近著に『日本の同時代小説』(岩波新書)。
『 アスリーツ 』

『アスリーツ』

あさのあつこ

中央公論新社 ¥1,500

陸上競技に挫折した沙耶と、従兄の影響で以前から射撃に憧れていた花奈。高校でふたり同時に始めたビームライフルだったが、射撃部は存亡の危機に直面しており、沙耶の思わぬ飛躍で部内には不穏な空気が流れはじめる。野球少年の成長を描いた『バッテリー』(’96〜’05)が空前のヒットを記録したあさのあつこが放つ、広島を舞台にした本邦初の射撃部小説。

『 DIVE!! 』

『DIVE!!』

森 絵都

角川文庫 上・下巻 各¥640

中学生の知季と、中学生チャンピオンだった高校生の要一は同じダイビングクラブに所属するが、クラブは赤字続き。新しい女性コーチは「次のオリンピックに日本代表選手を出す」をクラブ存続の条件としてあげた。’00年~’02年刊。映画化、アニメ化もされた人気作品。

『 チア男子!! 』

『チア男子!!』

朝井リョウ

集英社文庫 ¥760

肩のケガで大学の柔道部をやめた晴希は、親友の一馬が作ったビラに目を奪われる。「誰かの背中を押すことが、自分の力になる」。男子チアリーディング部の発足宣言だった。7人の仲間を集め、初舞台の学園祭を目ざして彼らは走りはじめる。’10年刊。こちらも’19年に映画化された。

 

マイナースポーツを描いた、青春物語に注目を!

スポ根マンガやスポ根アニメはもう廃れたように思えるけれど、半面、10代の少年少女を主役にしたスポーツ小説ないし部活小説は増えた気がする。野球、サッカー、陸上、剣道、テニス、バレーボール……。今や小説になっていない種目はないのでは、とすら思うほど。

 

マイナーなスポーツにあえて注目するなら、筆頭はやはり森絵都の『DIVE!!』だろうか。10メートルの高さから水面に向かって時速60キロでダイブ。空中にいる時間はわずか1.4秒。その間に華麗な演技を披露する。種目はそう、飛び板飛び込みだ。

 

あるいは朝井リョウ『チア男子!!』は大学の男子チアリーディング部に取材した作品だ。チアリーダーは女子のものという固定観念に抗いつつ、誰かを応援することがスポーツになるという、新たなチャレンジを描いている。

 

さて、マイナーな点ではこれも負けていないかも。あさのあつこの『アスリーツ』はライフル射撃に打ち込む女子高生の物語だ。

 

中学までは陸上部に所属し、ハードルの選手として活躍してきた結城沙耶。しかし中2のとき、全国大会の決勝でまさかの転倒。失意のうちに陸上部をやめたあとも悪夢に悩まされている。そんな沙耶に、親友の松前花奈が同じ高校を受験しないかと誘ってきた。隣町にある、全国きっての進学校・私立大明学園高校だ。〈どうして大明、受ける気になったん〉と問う沙耶に花奈は答えた。〈大明には射撃部があるんよ〉〈なあ、沙耶、一緒に射撃やろうや〉。

 

猛勉強の末に難関を突破し、晴れて大明学園高校の射撃部に入部したふたりだったが、運動に自信がある沙耶にとっても、射撃はまったく未知の世界だった。ライフルの重さは4.5から5キロ。標的までの距離は10メートル。

 

〈頭ではわかっていたが、知識と実際の行動とは、まったくの別物だと思い知る。/五キロが、十メートルが、とてつもない重さや距離に感じられる〉。しかも走ったり投げたりするほかの競技とはちがい、銃を撃つという動作は日常生活と離れており、体を拘束する専用のジャケットは鎧のように重い。10メートルの距離から直径1ミリの的を射るには〈身体をどう動かすのかではなく、どう静止させるかが要となるのだ〉。

 

知られざる競技の奥義とともに、多様な背景をもつ選手たちが競合するのも部活小説の醍醐味。心許ない状態からスタートした沙耶が埋もれていた才能を発揮し、ビームライフル(弾ではなく光を照射する光線銃)の世界で頭角を現していく一方、当初一歩抜きん出ていた花奈は……。静のスポーツともいえる射撃だけに(?)スポ根ものとはひと味ちがう、ちょっとクールな雰囲気が魅力的だ。

 

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