糖尿病はインスリンを分泌する膵臓の機能低下が深く関わっている病気。しかし、近年、脂肪肝の人が糖尿病に移行するケースが増加傾向にあり、矢野先生は、「糖尿病の主役は肝臓」と着目しています。今回は、高血糖と脂肪肝の関係や、高血糖がエイジングに与える影響についてお聞きしました。
「太っていないのに脂肪肝」という人は糖尿病に移行しやすい?
もともと「日本人は欧米人に比べて遺伝的にも体質的にも太りにくい」とされてきました。これは昔ながらの日本食が欧米食にくらべて低脂肪なため。しかし、食が豊かになった現代では「見た目は太っていないのに、内臓脂肪がついている人」「脂肪肝の人」が増加傾向にあるのだそうです。
そもそも太っていない人が、どうして脂肪肝になってしまうのでしょうか。
「『BMIが普通体重の範囲なのに脂肪肝』という人は、果糖の摂りすぎが原因です。果糖といえば、フルーツに含まれる糖として知られていますが、実は砂糖はブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が1:1の配合です。なので、甘いものが好きな人は果糖を大量に摂取していることになるのです。近年の研究で、『果糖の摂りすぎが糖の代謝のメカニズムを狂わせている』こともわかってきました」と矢野先生。
ちなみに、ブドウ糖と果糖は摂取後の代謝経路が異なります。ブドウ糖は脳や筋肉をはじめとした全身の細胞のエネルギーとして使われますが、果糖は体のエネルギーとして利用することができません。なんと肝臓の中で中性脂肪に変換され、使い切れなかった余剰分が体内に蓄積されていきます。そのため、知らないうちに脂肪肝になっている人が増えているというわけです。健康診断の血液検査の数値から「自分に脂肪肝の傾向がある」と知る人も少なくありません。
脂肪肝と高血糖はどう関係しているの?
「血糖値の急上昇は脂肪肝とも関わっている」のをご存知でしょうか。
私たちの体内には、膵臓から分泌されるインスリン(血糖値を下げる働き)と、グルカゴン(血糖値を上げる働き)という2つのホルモンが備わっています。本来は血糖値が上昇するとインスリンの分泌量が増えて、グルカゴンの分泌が抑制される仕組みがあります。
ところが脂肪肝の人はインスリンの働きが悪くなる‟インスリン抵抗性“に陥りやすく、インスリンが血糖値を下げようと分泌しているにも関わらず、グルカゴンが過剰に分泌してしまうのです。
「そもそもインスリンには全身の臓器に糖を届け、脂肪組織にエネルギーをたくわえる働きがあります。でも、脂肪組織にも限界があり、『これ以上は糖を取り込むことができない』という段階がやってきます。それでも血糖値を下げようとインスリンが分泌されて、糖を脂肪組織に押し込もうとするのです。
‟インスリン抵抗性“と呼ばれるこの状態に陥ると、実際には体内の糖が十分に足りているにもかかわらず、グルカゴンが暴走して、肝臓の中で糖をつくる‟糖新生“のスイッチがオンになってしまいます。すると肝臓で作られた糖がどんどん血液中に流れ出て高血糖になるんです。実はこれが糖尿病発症の一因です」
糖尿病は「膵臓の病気」から「肝臓の病気」へ
体内の糖が足りているにもかかわらず、どうして肝臓の中で糖が作られる糖新生が起こってしまうのでしょうか。
矢野先生によれば、「血糖値スパイクによって、一時的に血糖値が急降下した状態」を脳が「体の危機」と勘違いしてしまうのだとか。糖尿病のリスクを減らすには、血糖値スパイクの波を緩やかにして、よけいな糖新生を起こさないようにすることが肝心というわけです。
「これまでは、糖尿病は『膵臓の病気』とされてきました。膵臓から分泌されるインスリンには血糖値を下げる働きがあり、糖尿病の症状に大きく影響するからです。しかし、今や『糖尿病は肝臓の病気』といっても過言ではないと思っています。まだ解明されていないこともありますが、血糖値を上げる働きのホルモン(グルカゴン)が暴走し、糖新生の働きが活発になることによって、糖尿病のリスクが上がることは間違いありません」と矢野先生。
また、糖新生を抜きにしても、糖尿病と肝臓は密接に関っています。なぜなら中性脂肪が肝臓に蓄積されて脂肪肝になると、血糖値を下げるインスリンが効きにくい“インスリン抵抗性”に陥ってしまうからです。将来の糖尿病を予防するためにも、脂肪肝にならないこと、よけいな糖新生を招かないように血糖値をコントロールすることが肝心です。
高血糖が続くと、シミ、シワ、白髪、歯周病の原因に!
高血糖状態が続くと、体内の余分な糖とタンパク質が結びつき、「糖化」という現象が起こります。すると、体内でAGEs(終末糖化産物)という老化物質が産生され、体の各所の老化を招きます。
「まだ医学的に断定することはできませんが、例えば頭皮にAGEsがたまると、毛根細胞に作用して白髪や薄毛の原因になる可能性があります。また、顏や体の皮膚にAGEsがたまった場合は、皮膚のコラーゲンの弾力性が低下して、シミやシワが増える心配もあるといわれているのです」
さらに、高血糖は歯周病にも影響することがわかってきました。
「歯周病があると血糖値が上がりやすくなり、逆に血糖値が高くなると歯周病になりやすいという相関関係があります。また、高血糖が続くと免疫機能が低下して、炎症を起こしやすくなるため、歯周ポケットのばい菌が繁殖しやすくなるんです。炎症が進むと歯周病が進行しますし、しかも歯周病菌に感染した部分から発生する悪玉ホルモンのサイトカインが悪さをします。実はこうした悪玉ホルモンもインスリンの働きを悪くして、‟インスリン抵抗性“につながっていきます」
お口の健康と美容のためにも、血糖値スパイクを予防したいですね。