血糖値スパイクは昼食後の眠気や倦怠感だけでなく、夜間の「睡眠の質」やメンタルにも関わることがわかっています。今回は、やのメディカルクリニック勝どきに通院するエクラ世代のA子さんのケースを例に、睡眠障害と食後高血糖との関わり、睡眠の質をよくするための工夫について教えていただきました。
糖質の摂取過多は「睡眠の質」にも影響する!
血糖値スパイクは体が活動している日中に起こりやすいので、「昼食を食べて満腹になったら眠くなった」という経験をした人もいることでしょう。
「私自身、『昼食後に眠くなったら困るな』と思ったときには、鶏肉とサラダなど、たんぱく質と食物繊維がメインのランチを心がけ、糖質を控えめにする工夫をしているんですよ」と矢野先生。
では、睡眠中はどうでしょうか。実は、夕食を食べすぎたり、就寝前におやつを食べて糖質の摂取過多になると、私たちが知らないうちに血糖値が変動し、睡眠中に血糖値スパイクが起こるケースがあるのです。
矢野先生によれば、「夜ベッドに入っても、なかなか寝つけない」「眠りが浅く、途中で目が覚めてしまう」など、睡眠障害を訴える人たちの中には、就寝中に血糖値の乱高下を起こしているケースがみられるのだとか。
「私のクリニックでは、通院中の患者さんたちに『フリースタイルリブレ』という持続血糖測定器を2週間にわたって装着していただき、血糖値の変動を24時間に渡ってチェックしています。すると、血糖値の変動が『見える化』できるようになりました。日中に血糖値スパイクが起きているケースだけでなく、就寝中に血糖値がガクンと下がる低血糖のケース、逆に血糖値が朝まで上がりっぱなしというケースもあるんですよ。
特に『夕食を食べる時間が遅くて、食べすぎてしまう人』『21時以降に夕食を食べて、すぐに寝てしまう人』『就寝前におやつを食べる習慣がある人』は、夜間に血糖値の乱高下が起こりやすい傾向がありました」(矢野先生)
今回は、やのメディカルクリニック勝どきに通院中のエクラ世代・A子さん(50代)の事例をご紹介します。
50代の「睡眠のお悩み解決」ビフォー&アフター
<A子さんのプロファイル>
・ややポッチャリした50代。甘いものとビール、白いご飯が大好き。
・就寝前にお菓子を食べる習慣がある。
・40代から血糖値が高めで、糖尿病に移行してしまったため来院。
・「眠りが浅く、中途覚醒してしまう」というのが現在の悩み。
・「フリースタイルリブレ」に記録された1日の血糖値の変動を見ると、日中の血糖値が大きく乱高下している。
持続血糖測定器「フリースタイルリブレ」に記録されたA子さんの血糖値のビフォー&アフターのグラフ。りんごのマークは食事の時間を表しています。上のグラフは食事指導を受ける前のもの。食後血糖値がぐんと上昇して、血糖値スパイクが大きな山を描いています。一方、下のグラフは食事指導を受けてから10日後の状態。血糖値スパイクが改善され始めたのがわかります。
出典:矢野宏行先生提供
来院当初、A子さんの食後血糖値の最高値は200ml/dl以上でした。健康な人の場合、食後1~2時間後の血糖値が一時的に上昇したとしても140ml/dlまでの範囲におさまるので、A子さんの食後血糖値はかなり高めです。
そこで矢野先生は、「フリースタイルリブレ」に記録されたA子さんの1日24時間の血糖値の変動を2週間にわたってチェック。「血糖値が急上昇した山がなだらかになるように、今後は生活習慣と食事を見直していきましょう」とアドバイスしました。A子さん自身も、自分の血糖値の変動が「見える化」されたことによって、「生活習慣を改めなくては」と自覚できるようになったそうです。
それから2週間後、A子さんの血糖値スパイクの山が緩和されるにしたがって、夜間の睡眠障害もほぼ改善されていったのです。
<食事指導前 before>
夕食のドカ食いと夜食の食べすぎによって、高血糖に陥ったA子さん
矢野先生がA子さんに日ごろの食事内容を尋ねたところ、1日3回の食事時間はわりと規則的でした。しかし、1日の食事の中でも夕食を食べる量がもっとも多く、毎日晩酌でビールを飲み、白米もしっかり食べていたのです。
「さらに彼女は甘いものが大好きで、就寝前におやつを食べてから寝るという習慣がありました。それもアイスクリームやどら焼き、ケーキなど、複数のおやつを食べてしまうんです。さらに日中、腸活のために乳酸菌飲料を飲んだり、スポーツドリンクで水分補給をしていることも判明しました。これでは明らかに糖質のとりすぎです」
甘いものが大好きなA子さんは、寝る前におやつをたっぷり食べるひとときが至福の時間でした。しかし、この習慣が食後血糖値の上昇につながりました。
<食事指導後 after>
「セカンドミール効果」を利用して、夕食のドカ食いをなくす!
A子さんの食生活の改善点はいくつもありましたが、矢野先生が最初に指導したのは、夕食の食べ過ぎを防ぐために、夕方4~5時に「間食」を取り入れること。また、乳酸飲菌飲料とスポーツドリンクをやめて、水や麦茶を飲むようにしてもらいました。
「昼食から夕食までの時間が長く開いてしまうと、空腹を感じて夕食をたくさん食べてしまいがちです。すると血糖値が一気に急上昇し、インスリンがドバッと分泌されてしまうんです。
夕食を食べすぎてしまうA子さんに、矢野先生は夕方4時に「間食」を取り入れることを提案。夜6時半に食べる夕食の内容を2回に分けることによって、夕方以降の血糖値スパイクを穏やかにすることができました!例えば間食としておにぎりを食べた日には、夕食の際、糖質をオフにするのがポイントです。
そこでA子さんには、夕方4時くらいにおにぎり1個とゆで卵などを『間食』として食べてもらうことにしました。夕方に『間食』を取り入れることによって、夕食の食べすぎを防ぐことができますし、次の食事(夕食)のあとの血糖値上昇を抑える効果が期待できるんです。これは『セカンドミール効果』と呼ばれる働きです。夕方に個別包装されたミックスナッツかハイカカオチョコレート、スルメを食べるのもよいと伝えました。間食で食物繊維を含んだものや噛み応えのあるものを食べると腹持ちがよくなり、夕食のドカ食いを防ぐことができるからです。
そして就寝前の夜食については、アイスクリームとどら焼きを両方食べるのではなく、どちらか1個を夕食のすぐ後に食べてもらうことにしました」
すると、「フリースタイルリブレ」で測定したA子さんの血糖値の乱高下が約2週間で徐々に改善。血糖値が安定するにしたがって、眠りの質も改善されていったのです。
「最近、眠りの質がよくない」と感じたときは、もしかたら夜間の血糖値の変動が影響しているかもしれません。糖質の摂取過多になっていないか、食事内容と食べる時間をチェックしてみましょう。
キレやすい人は血糖値スパイクが原因かも!?
睡眠の質に関わる血糖値スパイク。そして近年、血糖値スパイクと感情のコントロールの関わりが示唆されるようになりました。急上昇した血糖値がガクンと下がって低血糖に陥ると、不安、抑うつ、焦燥感、混乱などのメンタル症状にも関連するのだそうです。
「以前目にした海外の論文に、『世の中で起こる犯罪の裏には、血糖値の乱高下による低血糖が隠されているかもしれない』と書かれていて、なるほど!と思いました。著者によれば、凶悪犯罪者を収監しているアメリカの刑務所で囚人たちの血糖値の測定検査を行ったところ、なんと彼らは血糖値スパイクを繰り返し、高血糖と低血糖の上下の幅がとても大きかったそうです。
近年、『キレやすい子ども、キレやすい大人が増えたのは、糖質のとりすぎが大きく関わっている』と言及するする専門家もいますし、『糖質のとりすぎが発達障害に影響している』という説もあります。今はまだ研究の途上で、あくまでも可能性が示唆されている段階ですが、血糖値は私たちのメンタルや性格とも無関係ではないといえそうです」